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05話 水中の空気

 僕は助けてと声が聞こえた方向に父さんと駆け出した。

 海辺の方だ。

 堤防の上に登ってみると、少女を乗せた一隻の子船が沖へ出ていくのが見える。

 恐らく船に乗っているタイミングで、船を止める繋留用のボラードと縄が外れたんだろう。

 僕は急いで船着き場まで走り、父さんに船の手配だけ頼んだ。


 そして急いで持ってきていた銛だけ持って海へと飛び込んだ。

 父さんは待てと叫んでいたが無視した。

 急がないといけない気がしたから。


 泳いで船に近づくとすでに船の周辺に黒い影があるのに気付いた。

 恐らく人魚だろう。

 船の底に穴をあけて船を沈める気だ。そこで僕は大声で叫んだ。


 「おい、クソ人魚。こっちに来い」


 そう言いながら銛を投げる。

 流石は僕。

 見事あたった。

 近づくと人魚の頭に銛が刺さっていた。

 というか普通の人魚を始めてみた。

 ガルアの言っていた通り薄緑の皮膚をした醜い顔だった。

 爪は鋭く尖り、指の間には水掻きがあって、下半身は魚のヒレがある。

 そんな初めての人魚退治に喜びを感じつつ僕は少女の乗っている船に登ろうとした。


 しかしその瞬間僕の体は水面へと吸い込まれていく。

 下を向くと違う人魚がにやけた顔で僕の足を掴んでいた。


 「おい、離せ!」


 そういってそいつの腕に持っていた銛を突き刺すもまだ離す気配がない。

 それどころかもう一匹現れて両足を持たれて海に引きづり込まれた。

 恐らく窒息させるつもりだろう。

 海の深くへとこの体は運ばれていく。

 必死に抵抗するが、人魚はただ足を掴んで潜り続ける。

       

 海を甘く見ていたと感じ始めた。

 なんて言ってるかはわからないが、少女の叫ぶような声が遠くで聞こえている。

 息を止めるのも限界に近づき、とうとう口を開き大量の海水が口の中に入ってきた。

 また十年前のように溺れるのかと、当時の感覚を脳内で蘇らせる。

 しかしある事に気付いた。


 ――息が出来る。


 何故かは分からないが息が出来るんだ。

 それに気づいた僕は、持っていた銛を今度こそ確実に人魚の頭に突き刺す。

 もう一匹の人魚は驚いて手を放すが、すぐに銛を引き抜き、反射的に人魚の腕を掴んで胸に一刺しする。

 その後僕はほかに人魚がいないことを確認してすぐに水面へと戻った。



 水面に顔を出すと父さんが木の漁船を操縦して小舟から少女を助けていた。

 ほっとした僕は船へと上がり父さんに礼を言う。


 「ありがとう父さん」


 すると父さんは怒り出した。


 「ありがとうじゃない。馬鹿かお前は。生身で海に飛び込むやつがいるか!! 人魚の脅威については昔から何度も話してきただろう。実際に海に引きづり込まれていたじゃないか」


 そう言って僕を心配してくれた。


 「ごめん父さん、心配かけて」


 それを聞いた父さんは我に返って口を開く。


 「言い過ぎた。それよりも今回は結果的にお前が人魚の気を引かなければこの少女は助かっていなかったかもしれない。でもソルカ、もう海に生身で潜るのはやめてくれ。人魚の怖さも知っただろう」


 生身で潜ったら息が出来たことについて話さないといけないことを思い出した。


 「そのことなんだけどさ、なんか息できるんだよね。僕、水中で」


 父さんは目を丸くした。


 「え?どういうことだ。ソルカお前水中で息できるのか?」

 「そうみたいなんだよな」


 僕たちは船着き場に向かいつつ、僕は父さんに海の中での出来事を話した。

 話を聞いた父さんは訳が分からないような顔をしつつもとりあえず納得してくれた。


 「なるほど、わかった。とりあえずお前は水中で息が出来ると。それで水中戦に持ち込むことが出来たわけだ。海の中で視界はよくみえるのか?」


 質問に答える


 「少し濁ってるけどそこまで気にならないくらいには見えるよ。目も痛くならないし」

 「そうか」


 僕は自分のことは後で考えるとして、とりあえず助けた少女に気をかけることにした。


 「君、名前は?」


 少女は怯えながら名前を言う。


 「リア。リア・イーミストです」


 そう名乗った。


 「そうか、僕はソルカ。こっちは僕の父さんでディルアて言うんだ。」


 軽く自己紹介してイーミストという名について尋ねた。

 話を聞くと僕たちが探していた領主の娘とのこと。

 なぜ海に流されていたのか聞いてみる。


 「堤防で絵を描いていたら強い風がふいたの。それで紙が船の所まで飛ばされてしまって、それを追いかけて船に乗ったら船を止めておく縄を人魚に千切られたの。それで海に……」


 なるほどそういうことか。

 今回の事件から考えるに人魚は縄を意図的に切るほど利口ということがわかった。

 船の縄ももっと丈夫にしないといけないな。

 今日の出来事で人魚に対する理解がだいぶ深まり、そんなことを考えているうちに船着き場に着いた。

 三人は船から降りて、堤防に上がる。

 そしたらある人がこちらに駆けてきた。リアが名前を呼ぶ。


 「お父さん!」


 どうやらリアの父親らしい。

 するとリアの父親が話しかけてきた。


 「こんにちは。私は娘の帰りが遅くて心配になったので様子を見に来たのですが…… あなた方は娘とどんな関係で?」


 それを聞いたリアが今さっきの出来事を話す。


 「この人たちは人魚に襲われていた私を助けてくれたのよ。ソルカさんなんて泳ぎながら銛で人魚と戦ってくれたの」


 うなずきながら領主が話す。


 「なるほど、そういうことでしたか。詳しい話をもっと聞きたいですし、見たところ旅人のようですが…… 良かったら今日は私の屋敷に泊まっていきませんか? お礼もしたいので」


 そう言われ僕たちは鱗の件もあり、屋敷に案内されることにした。

 運が良い。

 生身で飛び込んだ甲斐があったってもんだ。




 この島では目立つ大きさの建物が見えてきた。

 どうやらあそこが屋敷らしい。僕は二階建ての建物を初めて見た。

 屋敷の中に案内され、リビングに通されソファに座る。

 紅茶を出してもらって一息ついたところで改めて話をする。


 「改めまして、私はリアの父親であり、ここカスタネッタで領主をしているネスト・イーミストと申します。気軽にネストと呼んでください。この度は娘を助けてくださりありがとうございます。よろしければお二人のお名前を教えてもらえませんか」


 父さんは名前を名乗る


 「私は、ディルア・ロイシュテン。こっちは息子のソルカです」


 そんな自己紹介から始まり、今回の事件を一通り説明した。

 ネストさんは何かお礼をしたいと言ってくれたから話を切り出しやすい雰囲気になったところで父さんは口を開く。


 「ネストさん、私たち、鱗を探してるんです」


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