04話 父の人間性
僕は初めてのジップラインだ。風が気持ちいい。
海もよく見えていつもよりも綺麗に感じる。
そんなことを思いながら僕はジップラインを渡り終えた。
隣の島に移ったところで僕は父さんに話しかけられた。
「情報収集するときのいい場所を知っているか?」
そんなことを言われても僕は自分の島から出るのは今日が初めてだ。
何があるかなんて知るわけがない。だから僕は正直に言う。
「知るかよ。島出るの今日が初めてなんだぞ」
それを聞いた父さんは小馬鹿にするように笑い出しやがった。
「そんな事も知らないのか。ププッ」
明らかに初っ端からふざけたその態度に少しイラっときた。
でもいちいち言い合いをしても無駄な時間を過ごすだけと感じるから、父さんの挑発には乗らずに冷静に聞き返す。
「そんな子芝居はいいんで早く教えてもらえます?」
冷たい眼差しを向けられた父さんは少し寂しそうに呟いた。
「ちょっとした父さんのお茶目ジャナイカ。これから長くなるかもしれないんだから今まで以上に親しみを大事にした方がいいと父思ふ」
どうやら父さんの中でこの旅を通して僕ともっと親しくなりたいらしい。
思い返すと今まで家を空けることが多い仕事だったから毎日一緒にいるということはあまりなかった。
これを機に少しは関係性を見直した方がいいのだろうか。
そんな疑問を持ち始めたところで問題に戻る。
「で結局、情報収集はどこでやればいいんだ?」
「酒場だよ。酒を提供している店だ。いろんな職のやつが集まるからある程度の情報は手に入る。フレンドリーな奴が多いし、酒が入れば皆兄弟みたいなノリだ。俺がシアナらしき人魚を見れたのも酒場にいたやつの情報のおかげだしな。」
僕はその話を聞いて酒場の有用性に驚いた。
それと同時に母さんの情報があることへの期待が高まった。
「それじゃあ、酒場に行くか。案内してくれよ」
そう切り出すと父さんがある事を聞いてきた。
「お前歳いくつだっけ?」
「は? 18だけど?」
次の瞬間こんだけ話を引っ張っといて父さんはふざけたことを言い出した。
「酒場は二十歳からなんだ。入ればだいたい無理やり飲まされる… すまんな!俺一人で言ってくる!お前はこの島を観光して楽しんでろ。初めての島だろ。」
そう言って父さんは一人酒場に向かった。
取り残された僕はさっそく知らない島で迷子状態。
「ふざけやがって。どっち行けばいいんだよ……」
そう呟いて僕は島の中心に向かった。
この島は農業の盛んな「カスタネッタ」という島らしい。
父さんから話は聞いていたが初めて来た。村の景色も田畑が多く、自分の住んでいる加工職人の島「セラム」よりものどかに感じる。
家の作りはそこまで変わらないが風車や水車があるのが新鮮だ。
そんな事を思いながら僕はいつの間にか島中を歩き回ってカスタネッタを満喫していた。
しばらくすると酒場を見つける。
今思えば作物が豊富だからこそ、麦を原料に使う酒と酒場がこの島には当たり前にあるのかもしれない。
そう思いながら近づくとうるさいほどの笑い声とフルートとバグパイプの音が漏れ出しているのが聞こえてきた。
「だいぶ賑やかだな。それより父さん酔いつぶれてないだろうな」
そんな心配をしながら外から酒場を覗き込むと、父さんが酒場の客と笑いながら話をしているのが目に映った。
家では見ることのなかった父さんの姿がそこにはあった。
今までは冷静で物静かな印象だったけど、知らない一面を見ることが出来た。
僕はそう思いながら父さんに対する接し方を改める必要性があると感じる。
「父さん……ちょっと家では気取ってたのかな? 本当はもっと笑う人なんじゃね?」
じっと眺めているとやがて父さんと目が合う。
父さんは何かを思い出したように焦ってお金を払いこっちに向かってきた。
もしかしたら僕、忘れられてたのかもしれない。
とにかくそんなことは水に流して情報について聞いてみる。
「父さん、母さんの情報何かわかったか?こんだけ長い時間いたんだから何かしらあってくれないと時間の無駄感すごいんだけど」
本当はこんな短い時間で情報がすぐ手に入るほど甘くはないとわかっていたが、父さんが息子を忘れて飲んだくれているのがどこか気に食わないため、少し嫌味を含めた言い方をした。
それを聞いた父さんは順序よく話し始めた。
「ああ、一応鱗についての情報は得たよ。順に話していこう。まず俺は酒場のマスターに話しかけたんだが、あいにくシアナらしき人魚は見てはいなかった。でも綺麗な人魚の鱗が市場で出回っていたということを教えてくれたよ。でもその後売れてしまったかはわからないとのことだったんだが、たまたま隣に座っていた奴が鱗の買い手を知っててなー。教えてくれたんだよ!いやー酒が入れば皆兄弟!! いい文化だな」
まさかの情報を手に入れていた。
こんな飲んだくれが。それを聞いて僕は肝心なことを訪ねる。
「で、誰が買ったの? それを教えてよ」
父さんは改めて続きを話す。
「この島で領主をしているイーミストさんって人が買っていったらしい。綺麗な色をしている鱗は珍しいからな。すぐに売れてしまうのも分かる。なんて言っても俺の妻、シアナの鱗だからな」
酒が入っているせいか少し父さんの話し方がウザく聞こえる。
そう思った。
それはそれとして、イーミストって人が持っているとなると、その人に一度会ってもらう必要が出来た。
出来れば譲ってもらわないといけない。
そう思い父さんに話かける。
「それじゃ今からはそのイーミストって人の家を訪ねるのか?」
「そうなるな、出来れば譲ってもらう」
今後の方針が決まった。
それにしても朝から昼間までの短い時間で情報を手に入れてくるとは思ってもみなかった。
期待はしていたが、せめて三日はかかるものだと。酒場すごいな。それと、もしかしたら割といろんな所で母さんは姿を見せているのかもしれない。
僕はそんな風に感じた。とにかくイーミストって人の家に向かおう。
そう思って足を踏み出したその時、少女の叫び声が聞こえてきた。
誰か助けてって。