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02話 海の呼び声

ソルカが目を覚ますと天井とディルアの顔があった。

砂浜に打ち上げられていた所を村の人に発見され、家のベッドまで運ばれていたのだ。


「ソルカ、目が覚めたか。無事でよかった」

そう言ってディルアはソルカの手を両手で強く握った。


ソルカはまだ夢を見ているかのようにぼんやりとした眼で口を開いた。

「お父さん、僕、人魚を見たんだ。皆が言っている程怖くなかったよ。綺麗だった」


その言葉を聞きディルアは少し黙り込むが、「そうか」とだけ言い、話をシアナの事に変えた。


「ソルカ、お母さんはどうした。ソルカが波に呑まれたときに一緒にいたのか?」


全てを思い出したソルカは慌てて口を開く。

「お母さん!お母さんはいないの!! メルグを追いかけて崖に来てて波に呑まれたんだ」


その言葉を聞きディルアは肩を落とした。

シアナは波に呑まれて一日経つが未だ見つかっていない。

ソルカは後に、シアナだけでなく漁に出ていた人、崖沿いを歩いていた人などが波に呑まれて見つかっていないことを知る。

その数延べ40人。総勢二百人ほどしかいないこの島では多すぎる犠牲者だった。




津波が来てからちょうど十年がたったある日のこと。

ソルカは鍛冶職人の職へと就いていた。

「今日もいい天気だ。いい仕事日和ってやつだな、今日もたくさん働くとするか」


そう独り言を言いながら玄関の扉を開けて朝日を浴びるソルカ。

そこに馴染みある顔がこちらに向かってくるのが見えた。

ガルアである。


「よお、ソルカ! おはよう」

「おお、ガルア、おはようさん、どうしたんだ?こんな朝早くから珍しい」


早朝のガルアの外出に不思議に思っているとガルアの一言で思い出す。


「どうしたって、今日はあの日だろ」

そういってガルアはソルカの庭にあるシアナの墓へと向かい花を手向けて、手を合わせ始めた。


「ああ、そうか、悪いな朝早くから。母さんも喜ぶよ」

こうして墓参りに来たガルアはソルカの昔を思い浮かべながら話し出す。


「しっかしソルカ。あの日から思い返すとお前は変わったな。昔はあんなにいい子の坊ちゃんしてたのに、だいぶ荒っぽくなったもんだ」

「そうか?」


あまり意識していないようにソルカは返事をした。その様子を見てガルアは思った。


「まあ、男手一つで育てられりゃこんなもんか?」

「なんだよ、悪りいかよ」

「いや、デカくなったって言ったんだ」


その言葉を聞いてソルカは少し微笑みながら感謝を口にする。

「ありがとよ。金槌もって仕事してんだからこのくらい気性が荒い方がいいだろ?亡くなった母さんの為にもしっかりしねえとなって毎年この日になると思うよ」


ガルアは頷きながら共感をした。

「まあ、助かった命だからな。そのくらいの心持ちでちょうどいいんじゃねえか?」

「そうだな、違えねえ」


そんな話をしていると、慌ててこちらに向かってくる人の姿が見えた。

漁師見習いで少し気の弱いラフィだ。


「おいソルカ、大変だ。今さっき皆で昔を想いながら海を眺めてたんだ、そしたら見たんだよ!シアナさんの姿を。」


それを聞いてソルカは目を細めながら指をさして言った。

「はあ、いくら今日が命日だからってそんな嘘はよくねえと思うぞ」


そう言われたラフィは慌てて言い返す。

「嘘じゃないよ、ほら、シアナさんがいた場所にこれが落ちてたんだ。一応君に渡しとくよ」

そう言ってソルカはあるものを渡される。

「これって鱗か? だいぶでかくて綺麗な色してるけど」


渡されたのは綺麗な瑠璃色をした鱗だった。

それを見たガルアが口を開く


「これは形からして人魚の鱗だな。硬くて分厚いが珍しく綺麗な色をしている」


ソルカはこれを渡された意味を考える

「じゃあなんだ、母さんは人魚にでもなったって言いたいのか?」


ラフィが答える

「ああ、友達数人で見たんだ。間違いない。しかも数日前にも見たんだ。でもどうせ見間違いだと思って、君にも悪いし黙ってたんだ。でも二度目は流石におかしいだろ?言い方は悪いが家族でもない奴が十年越しにシアナさんの幻覚を一斉に見だすなんて」


ソルカは疑いながらも悩み始める

「そうかもしれねえけど、どうしろってんだよ」


ラフィは鱗について話始めた。


「その鱗はシアナさんを見た初日に拾ったんだけど、今さっき驚くことがあったんだ。光ったんだよ、その鱗。初めは道端で光始めたから何かと思ったけど、そこから海を見たらシアナさんが波打ち際の岩の上に座ってたんだ。だから探せるんじゃないかな、シアナさん。これからは君も海をよく見るようにしてみたらどうかな。」


それを聞いたソルカは頭を掻きながら半信半疑で答えた。

「鱗が光るもんかねー。まあとりあえず気にしてみるよ」


そしていい時間ということに気付きソルカは話を切り上げることにした。

「じゃあ僕ぁ今から仕事するんで失礼するよ。今日はいい鉄が打てそうな気がするんだ」


こうして三人はそれぞれの一日を始める。

そしてソルカはあることを心に決めた。

母親を探し出すことを。

昔のように三人で暮らすことを夢見て。


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