01話 幼少期の悲劇
人々は海洋生物の脅威によって小高い島の上に集落を形成して生活をしていた。
「シアナ、行ってくるよ。夕方には帰ると思う。今日はジップラインで島を渡るよ」
「そう、気を付けてね。今日の夜はパスタにしようと思うわ」
そう言って父、ディルアはいつも通り玄関で支度をし、母、シアナはそれを見送る。
父はガラスの加工職人で島を渡り歩いてガラス製品を売りに行くことをしている。
「パスタか、それはまた豪華だな。楽しみにしているよ。それじゃ」
そういってディルアは玄関を出た。
ディルアが仕事に出かけると同時にシアナも家の家事を始める。
そこに八歳の子供のソルカが起きてきた。
おはようとあいさつをし、ソルカに朝食を出したところで話をする。
「ソルカ。ガルアさんの所から今期のスイカを作るための藁を貰ってきて欲しいんだけど行ってきてくれる? その後は好きに遊びに行っていいし、ガルアさんには言ってあるからさ」
「わかった。行ってくる」
ソルカは二つ返事で承諾し、知り合いのガルアの家に藁を貰うため家を出た。
ガルアの家に向かう道中、ふと一瞬ソルカは海に目を向けた。
そこには海に向かう大勢の人影があった。そんな風景を横目にしながらガルアの家を訪ねる。
「ガルアさん!いる?」
大きな声で叫ぶようにソルカは呼んだ。
すると畑の方からガルアが返事をしながら向かってきた。
「おお、ソルカか、おはよう。何しに来たんだ? ああそうだ、シアナが藁とか言ってたな。そうだろ?」
そう言ってガルアは忘れていたことを思い出したように自問自答した。それに対して「うん」とだけ答えた。
「朝から手伝いとは偉いなソルカ。ちと待ってろ」
そういってガルアは藁の準備を始めた。
ソルカは待っている間にさっき見た人影について聞くことにした。
「ねえガルアさん、今日って海で何かやるの? 海に行く人たちを見たんだ」
そう聞くとガルアは思い出したかのように答えた。
「そういや今日は半年に一回の漁の日だったな。人魚が出て危ねえからどうしても食料が足りなくなったときにやるんだよ。魚とるのも命がけだよまったく」
産まれて一度も人魚を見たことがないソルカは思い切って質問した。
「そうなんだ。人魚って何?そんなに危険なの?」
ガルアは真剣に答えた
「上半身が人間、下半身が魚の化け物だよ。人間って言っても醜い顔してて、波打ち際にいる人間を海に引きづり込んで食べるんだ。頭もそこそこ良いから爪で船の底に穴開けて船を転覆させたりするしな。だから会わないに越したことはねえよ」
「そんなに怖いの?」
「ああ、怖いな。今までに何人も食われてる」
「そうなんだ」
ソルカはガルアの滅多に見せない真剣な顔に少し怖くなりつつも人魚に興味を持った。
そんな真剣な話をしながらガルアは藁の準備をし終えた。
「それよりほら、藁だよ、持っていきな」
そう言われソルカは藁を受け取った。
「ありがとうガルアさん。お母さんも待ってるしそろそろ行くね」
「おう、気いつけてな」
こうしてソルカは帰路に着いた。
「お母さんただいま。藁もらってきたよ」
ソルカは元気よく扉を開けて帰宅した。
「おかえり、ありがとね。ガルアさんにもお礼言った?」
「うん、言ったよ」
帰りの報告をして一区切りついた頃、ソルカは漁のことが気になってシアナに切り出した。
「お母さん、今日って漁の日なの?今まで海に近づいたらダメって言ってたけど、どんな風に魚を捕るのか見てみたいよ」
突然のソルカの発言に驚いたシアナだったが、冷静になって口を開いた。
「危ないから駄目よ。漁は命がけなの。いきなり人魚が襲っくるんだから。今までそれで何人も人が亡くなっているのよ」
「わかったよ」
シアナの必死な説得にソルカはしょんぼりした顔で頷いて答えた。
「我慢してくれてありがとう、ソルカ。庭でメルグと遊んできなさい」
「うん、遊んでくる」
こうしてソルカは諦めて最近家に住み着いた翼竜の子供、メルグと庭で遊ぶことにした。
メルグと遊んでしばらくすると何かを感じたようにメルグが海へと飛び始めた。
それを見てソルカは必死に後を追う。
「待って、メルグ。そっちはダメだよ。お母さんに怒られる。帰ってきて!」
ソルカがメルグを追いかけて数秒後にシアナがソルカのいないことに気付く。
「ソルカがいない!」
すぐに外に出て辺りを見回すと遠くの方に海へと走っていくソルカが見えた。
シアナは必死に追いかける。
「待って!ソルカ!!」
メルグを追いかけてきたソルカは柵を超えて崖へとたどり着いた。
「待ってよ、メルグ、そっちに何かあるの? 戻ってきて」
崖付近で立ち往生しているとシアナが追いつく。
「ソルカ海はダメって言ったでしょう。ほら早く帰るからこっちに来なさい」
ソルカは焦って口を開く。
「でもメルグが飛んできちゃったんだ。どうやって捕まえよう」
「それでも一旦こっちに来なさい。崖は危ないわ」
そういってソルカは崖からシアナの元へ戻った。
それと同時にメルグは海の上をひたすら旋回し始めた。
「ごめんなさい。お母さん怒ってる?」
ソルカは恐る恐る顔をシアナに向けた。
「怒ってないわ。無事なだけで十分よ。メルグは少し様子をみましょう。なんだか少し落ち着きがないわ。お父さんが帰ってきたら相談してみましょ」
「そうする」
ソルカは不安そうに返事をした。
「帰るわよ」
シアナに手を引かれたその瞬間、そこへ20メートルほどの大きな津波がいきなり押し寄せた。
そこから人魚が顔を出す。
危ないと思ったシアナはソルカを陸の方へ突き飛ばすが、波が大きすぎて二人共波に飲まれてしまった。
ゴクン……そして大量に大量に飲み込んだ海水が喉に伝わる感覚を最後にソルカは意識を無くした。