表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風魔忍者に転生して親孝行する。  作者: 風猫(ふーにゃん)
第四章 戦国打倒梟雄編
38/40

第38話 よもやま話『あの人は今』

永禄12(1569)年4月上旬 摂津国堺湊

足利義輝



 石山要塞の南にある鉄馬車の駅までは、歩いて1刻、その駅から堺湊の駅までは鉄馬車で半刻。なんじゃのじゃ、不便この上ないではないか。

 石山要塞の近くに駅舎があると、戦場になるから避けたと聞いたが、戦など一回こっきりで終ってしもうた。

 そうなれば、京の都に行くにも堺湊に行くにも不便じゃ。儂を石山に閉じ込める小太郎の巧みとしか思えぬ。

 とは言うものの堺湊に遊びに来ておる。

 堺の町はもはや京の都にも負けぬくらいに広がりを見せ、人で溢れている。

 そこかしこに、一杯飲み屋や女郎がいる店もある。


「司令っ、どちらをご覧ですかっ。あまり、不埒なものは見ぬようにしてください。」


 儂の護衛かんしは、3人の女補助兵が張り付いている。たぶん、姿を見せぬ風魔の者もいるはずだ。それにしても原八の奴め、護衛に女を付けるとは、考えおったわ。

 これでは、男の遊びができぬではないか。武士の情けを知らん奴だ。

 しかし、この女補助兵達、できるな。

え〜と、南蛮語で侍女をなんと申したかな。

 そうじゃ、冥土メイドじゃ、冥土っ。

 こ奴ら、茶を汲むだけかと思うていたが、剣豪将軍と言われた、儂の視線を読むとは、相当の腕利き揃いだ。


【陰の声 司令殿、そんな見とれてニタァと鼻の下を伸ばせば、誰にも分かります。】



「動くなっ、動けば手首が無くなるっ。」


 見れば、いつの間にか近づいた遊び人風の男が冥土達二人に刀を突きつけられておる。

 むっ、男の右手は儂の懐に伸びているな。こいつスリか。


「ひぇ〜、ご勘弁を、もう二度としません。ほんとでございますよ〜。」


『シュッ、シュッ。』


 すばやく、冥土の一人が手を払ったと見えたら、男の額にバツ印の傷が着いていた。

 結構深い傷だ。血がたらたら垂れている。

そうか、簡単には消えぬ傷を付けたか。

 我が冥土恐るべし。


「これはこれは義輝様、ようこそおいでくださいました。なんぞまた、お求めでございますか。」


「うむ、また息子とな、母上と内儀になんぞ土産をな。それとこの冥土達にも褒美にな、なんぞ良き物はあるか。」


「司令、それならば熱帯魚と鑑賞魚の硝子の生簀がほしいです。司令室に置けば退屈しません。」


「おっ、そのようなものがあるのか。」


「へぇ、生簀の海水を温めなあきまへんが、燭台の火で温めることができます。

 いろんな綺麗な魚がおりまっせ。」


「よし、お前達に任せる。司令室に置くのだ。」


「「「わぁー、司令太っ腹っ。」」」


 むっ、運動不足で腹が出たか。そんなはずはないが。もう少し鍛えるか。



「義輝様、来月には鉄馬車が伊豆の下田まで開通しますぞ。」


「おお、そうよ。儂の家族らが京の都へ出て来ると申した文が来ておったわ。」


「ならば、ようやく単身暮らしも終わりますなぁ、義輝様、良かったですなぁ。」


「いやっ、儂は石山に詰めねばならぬから。そうはならぬ。近くなるだけだ。」


「司令、なにをおっしゃているのです。京の都からならば、毎日通うことができます。

 目と鼻の先での単身暮らしなど、奥方様がお許しになるはずないじゃありませんか。」


「 · · · へっ?」




✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



永禄12(1569)年7月上旬 伊豆諸島三宅島

正親町天皇



 この島へ来て、もうじき丸3年が経つ。

 幼かった子らも成長した。何より良かったのは、娘達を寺へやらずに、こうして一緒に日々を過ごせたことじゃ。

 皇女の降家は皇室の一大行事であり、大金がかかる。だから、朝廷が貧しい昨今は娘は尼寺に行かせるしかなかったのじゃ。

 だが小太郎は、皇女の降家を大金など掛ける行事にするから、悪いのだという。

 貴族横暴の昔に、見栄のために始めた行事に金を掛けるなら、降家のつど公家を数家潰して、金を作ればよろしいと言いおったわ。

 そうよな、前例踏襲の朝廷では立ち行かぬのじゃ。儂の代で大改革せねばな。


 永高女王は20才、皇位継承者の誠仁親王(陽光天皇)は18才、春齢女王14才、永尊女王11 才になる。

 上の娘の永高は、行き遅れになりかかっとるが心配はしておらぬ。小太郎に娶らせるからなぁ。あ奴を息子にしてしまえば、誠仁の代も安泰じゃっ。まあ、全国を平定するまでの辛抱じゃわい。


 今日は、年に何度もない大潮の日で、昼過ぎには海岸が沖まで露出する。去年の夏の大潮の日は、初めての潮干狩りじゃったから、大騒ぎになった。そして今年は、皆ずいぶん前から楽しみにしとったのじゃ。

 邸宅の前の砂浜の左へ行くと、岩場が広がっている。転べば怪我をするから気をつけねばならぬ。


「父上っ、早く、早くっ。もう貝が逃げてしまいますっ。」


 貝が逃げるのか? 足もあるまいに。


「父上〜、見て、見てっ。こんな大きなつぶ貝、永尊が取ったのよ〜。」


「永尊女王様、それはつぶ貝ではありませぬなぁ、さざえ貝と申します。」


「え〜、つぶじゃないの〜。」


「つぶ貝よりも高級な貝でございますよ。」


「えっ、やったあ。もっと探すわっ。」


 やれやれ、天真爛漫に育ったのは良いが、永尊は窮屈な宮廷暮らしを知らぬ。嫁ぎ先に苦労しそうじゃ。小太郎に弟でもおれば良かったのになぁ。

 まてよ、小太郎の弟? おるではないか、土佐一条の当主。年も似合いじゃ、ははっ。


「母上、そんな所で留まっては。もっと沖の方まで参りましょう。その方が大物がありまする。」


「誠仁、見てごらんなさい。大きな蟹がいるのよ、捕まえたいの。」


「えっ、母上。ほんとですか。あっ、ほんとにでかいやっ。捕まえましょうっ。」


「あらっ、妾の袖に絡まったわっ。あれぇ、誠仁っ、助けて、助けてっ、蟹がっ蟹が。」


「母上っ、捕まえたではないですか。すごいですねっ。」


「この蟹は愚かなのです。妾の袖に勝手に引っかかって来たのです。罰として、今晩美味しく食べてあげるのですわ。ほほほほっ。」


「むむっ、永尊にも母上にも負けては次代の天皇の威信に関わる。俺も採らねばっ。」



「永高姉上っ、この水たまりにおっきなお魚がいるわっ。ねぇ、どうしたらいいのっ。」


「春齢、網よ、この網で捕まえるわ。きゃっ転んじゃったわ。ずぶ濡れよ。」


「姉上、動かないでっ。えいっ、捕まえたっ。きゃはっ、捕まえたわっ。」


「すごいわっ春齢。あなた素手で捕まえたのねっ。それにしても大物ね、今晩二人で食べましょう。」


「おおっ、姫様方。大きな鯖ですなぁ、磯の鯖は脂がのって旨いですぞ。」


「春齢が素手で捕まえたのよっ。すごいでしょう。」


「えっ、違うわっ。姉上のお尻の下で、動けなくなっていたのを掴んだだけよっ。」


「えっ、あたしのお尻?」


「姉上は、未来の旦那様もお尻に敷くのね。きゃははっ。」


「春齢ったら。皆には春齢が捕まえたって、言うのよ。私のお尻なんて言わないでよ。」



 その日の夕餉の食卓は、いつにも増して、賑やかで豪華でした。天皇ご一家がさざえ貝たらば蟹、大物の鯖を捕まえた武勇伝?とかお付きの者達も大活躍したようで、一同、皆日焼けした満足顔でした。

 春齢姫様が爆弾発言をされ、永高姫様が一人真っ赤になっておられましたが、今日も一日平穏にお過ごしなされました。(侍女記)




✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



永禄12(1569)年7月上旬 京都二条風間館

風間咲耶



 いよいよ、京の都は夏真っ盛りなのよね。

 京の夏は蒸し暑くて、黙っていても浴衣がじとじとして来るのよね。


「お方様っ、お方様っ、お見えになられましたよっ。とても愛らしいお方ですっ。」


 まあ、私より先に見たからって、そんなこと伝えないで頂戴っ。私がこの目で小太郎が美しいと言った娘御を見るのだから。


「初めまして、佳奈でございます。あのぅ、小太郎様のお母上様でございますか。」


「そうよ、咲耶と言うの。堅苦しく呼ばないでっ、母と呼んでねっ。」


「えっ、えっ、てもっ。」


 あらあら、絶句してるわぁ。それにしても小太郎のおめがねに叶っただけはあるわね。

 うふふっ、確かに目元が私に似ているわ。小太郎ったら、私に似ているから美しいって言ったのかしら。うふふふふふっ。


 小太郎が黒島で出会った娘御。美しい娘だったよって、言ったのにはびっくりしたわ。

 小太郎の口から、そんなことを聞くのは、初めてだったから。

 いろいろ聞くと、両親はいなくて祖父との二人暮らしだとか。そして去年、そのお爺さんが老衰でなくなって一人暮らしになったと聞いて、これはすぐに引き取らなきゃと思ったわ。だって、誰かの嫁になってしまったら小太郎が可哀そうだもの。

 年は18、小太郎にぴったりだわっ。


「佳奈ちゃん、お爺様が亡くなられて、一人暮らしと伺ったわ。年頃の娘が一人暮らしでは危ないわ。だから今日から私の娘になりなさい。いいでしょっ。」


「ええっ、ええっ、えええ〜っ。」



 お爺ちゃんが亡くなって、毎日、ぼんやりしていたら、小太郎様のお母様から、香典の品を頂いた。小さな立派な仏壇だった。

 そして、もうじき京の都のお祭りがあるから、見にいらっしゃいと文があった。

 いつもいろいろと頂いているし、お会いしてお礼を言おうと思い、定期船で堺湊へやって来た。

 交替で帰る拠点の兵士さん達が、お方様の命だと言って、まるで姫様のように扱われたわ。

 初めての本土、堺湊に着いて驚いたわ。

人で人で溢れてるのっ。幼い頃に薩摩の城下に行ったことがあったけれど、こんな人がぶつかりそうになるなんて、なかったわっ。

 兵士さん達に囲まれながら、鉄馬車の駅に着いて、生まれて初めて鉄馬車というものに乗ったの。

 それでね、鉄馬車の中で駅弁という昼餉をいただいたのだけど、綺麗にいろんなおかずが並んでる。美味しくて夢中で食べたわっ。


 で、あっと言う間に都に着いて、すっごいお城に驚いていると、小太郎様のお母様が、すぐに出て来られて『今日から私の娘よ。』だって言われたの。

 まるで夢の中にいるみたい。それにね、私に8才の妹ができたの。未来ちゃん。

 ずっと、お姉ちゃん、お姉ちゃんて、傍を離れないわ。

 うふふっ、小太郎様が兄になるのね。なんて呼ぼうかしら。

 兄上、兄様、おにいさま。むむっ、ありふれているわね。未来ちゃんは『にいにい』、って、呼んでいるんですって。

 『あなたぁ』なんてね。きゃぁ〜っ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ