第3輪:よろしくお願いします!
『既存の部員に中津くんを紹介したいんだけど、このあと時間ある?』
それから職員室に入部届を出して、正式に''サブ研''部員へとなった俺。
すると、帰りの道中で篠宮鈴音先輩にそんなことを尋ねられた。
訊いた話、どうやら篠宮先輩と高嶺綺咲先輩以外は他の部活と兼部しているらしい。
どうりで二人しかいなかったわけだ。この学校、四人以上じゃないと部として認められないし。
……まあ、帰ってもHI・MA!だった俺は、一秒も経たずに元気よく頷いたんですよ。
さてさて、これから世話になるであろう人達は一体どんな人なんだろうな〜♪と、俺は呑気に考えていました。
だ・け・ど──
「新部員の二年の中津清隆です。これからよろしくお願いします」
「………」(近づかないで欲しいと思ってそうな警戒の目)
「………」(「なんでこいつが?」と言いたげな軽蔑の目)
「………」(近寄りたくない事を物語らせている嫌厭の目)
俺は今、そこまで嬉しくない''ハーレム''な状況に陥っています。
誰か助けて……(泣)
□❁✿✾ ✾✿❁︎□
「えーっと……みんな、中津くんと仲良くしてあげてね?」
無駄に一旦区切りました。どうも、''落ちこぼれ''と呼ばれている男です。
高嶺先輩を含めた既存部員であろう方々の反応を見て、篠宮先輩は苦笑気味にそう言った。
いや〜、高嶺先輩味方してくれるってマジ天使だわ。ほんとに惚れちゃいそう。
……でも先輩、それはちょっと無茶ぶりなんじゃないですかい?
だってほら──
「──え、マジ?''落ちこぼれ''がこの部活に?自ら?なにそれウケるんだけどww」
「な、なんでよ……!?''元貴族''なんかと関わりたくなかったのに……」
''サブ研部''部長直々のその発言で、御二方はこの反応ですぜ?
にしても、中々に酷い反応ですなあ。
まあ、まずはこの二人を紹介しよう。
前者のさっき軽蔑の目で見てきていたギャル口調な人は遠藤先輩。
バスケ部と兼部していて、そこそこ名を馳せている黒髪ツインテールの女性。
今はこんな口調だけど普段は常識的な陽キャで、人望は普通に厚かったりするらしい。
で、後者のさっき嫌厭の目で見てきた中々に過激なことを言う人は桐生先輩。
テニス部と兼部していて、こちらもまたそこそこ名を馳せる茶髪ロングヘアの女性だ。
といっても、それはダブルスで賞を取っているからで、詳しい人柄はわからない。
とまあ、あんま関わることなさそうだから苗字だけだけど、こんな人達だ。
あ、最初の警戒の目で見てきていた人は高嶺先輩だよ。
諸君からは第一印象が悪く感じたと思うけど、俺がそれほど悪評だということさ。
俺としてはそこまで気にしてないし、どうか御二方を嫌わないでやって欲しい。
「ご、ごめんね中津くん……えっと、その、大丈夫……?」
まあさすがに御二方の言動が言動だからか、篠宮先輩が心配そうに訪ねてきた。
今日一日で思ってたんだけど、篠宮先輩ガチで俺を惚れさせに来てない?
……いや、絶対違うだろうけど。それほどに優しい人なだけだろうけど。
と、意味不明な自問自答をしつつも、俺はこれまたあっけらかんとした様子で答える。
「慣れてますんで大丈夫っす。事実だからといって特に反抗してない俺が悪いのもあるし」
「そ、そう……うん?」
それを聞いた先輩は、何か疑問に思ったのかこてん、と首を傾げた。
はい可愛い。これはもはや世界遺産に登録できるほどの逸品なのではなかろうか?
……さーせん。
「よく考えれば、なんで中津くんはその二つ名や悪評に何もしないの?」
……ふむ、ご最もな疑問だね。
普通、ああいう悪評がこんなに広がれれば反論やなんかをするのが人間だ。
それとも、それが出来ないほど心が弱いなら、不登校や自主退学をするのはず。
……だけど、俺はそのどちらもしていないし、しようとも考えていないのだ。
その俺の心を、篠宮先輩は俺の態度や軽い言動で察したんだろうね。
可愛くありながらもなんという観察力……俺はこんなハイスペック美少女にアプローチされてるのか……
──あ、篠宮先輩のいい所はいっぱいあるけど、今のところ告白する気は無いよ。
立場的にも、俺の生き方的にもね。
はいはい急に素に戻る中津清隆、本題に戻らせていただきます。
「別に何か支障があるわけでもないしね。卒業出来ればそれでいいと思ってます」
「え、ここ卒業するつもりなの?」
俺が素直に応えると、遠藤先輩が驚いた様子でそう尋ねてきた。
それ『卒業できるの?』って意味かな?そう捉えて答えさせていただくけど……
「はい。学年最下位つっても赤点は取ったことないんで、このままなら卒業はできます」
「へえ〜赤点は取ってないんだ。そこんとこは偉いねえ〜」
「いや、赤点じゃなくても点数低かったら偉くはないんじゃないの……」
何故か煽るように言ってくる遠藤先輩。そこにすかさず桐生先輩がツッコむ!!
……まあ、学年最下位なら普通赤点を取ってるもんだと想像するだろうからなあ。
「というか、ここで一つ疑問に思ったことあるんすけど、いいすか?」
あんま俺の事を掘り下げられるのも嫌だし、俺は話を逸らす。
すると、篠宮先輩が「うん?」とこれまた可愛らしく首を傾げた。
「先輩方が''サブ研''に入った理由ってなんです?兼部であっても、あれでしょ?」
……ご存知の通り''サブ研''は校内で馬鹿にされる部活。普通なら、入ろうとは思わない。
なのに、兼部であってもこの先輩方が入ってる理由は結構疑問だ。
特に気になるのは篠宮先輩以外の三人。学校で名を馳せる人達が、なぜ?
なお、それもよりにもよって俺以外女子なのかは、気にしないことにする。
「──私の居場所を確保するためよ」
それを大した時間を要さずに答えたのは、まさかの高嶺先輩だった。
ずっと遠目から警戒の目で見ていたけど、確かにその唇から先程の言葉はでた。
「私、学校でも家でも自分の評価を気にしているの。完璧な子、未来有望な跡取りとして、安定した将来が約束されるように」
俺は目を見開くも、それに構わず高嶺先輩は続ける。
淡々とした様子で説明していた先輩だけど、その表情は段々と陰りを見せていた。
「だけど、それで受けるプレッシャーが息苦しくて……だから、みんなに頼んでこの部を作った。そこを、私の唯一の居場所として」
……気づけば、急に発言しだした高嶺先輩に、他の三人も驚いている様子だった。
これを見る限り、どうやら誤魔化そうとしていたのかな?
……まあ、とりあえず理由は理解出来た。
なんともまあ共感できる理由なのだろう。と、心から思ったよ。
──おっと、失礼。失言した。
……すると先輩は、何かを我慢するように俯いて身体をプルプルと震えだした。
そして、ばっと顔をあげて俺を射殺すかのように睨んでくる。
「だから、くれぐれもここを壊さないこと。私がこの部にいること、絶対に他言するんじゃないわよ」
………。
『勝手にサブ研の詳細を他言しないでほしいの』
部室に入る直前、篠宮先輩が提示してきた条件の意味ってこれのことか。
……素晴らしい友情関係だな。高嶺先輩のために、ここまでできる三人の先輩たち。
それ、俺としては少しだけ羨ましい。
「……わかりました。そういう理由があるなら、他言しませんよ」
高嶺先輩の想い、先輩方の友情を噛み締めた俺は、そう大きく頷いた。
ロクでもない俺ではあるけど、その気持ちを踏みにじるほど野蛮な人間でもないからな。
「……それならいいのよ」
と、一人長々と話さすぎて恥ずかしくなったのか、頬をわずかに赤く染めてそっぽを向いた先輩。
ちょ、その反応可愛すぎますって!
<キーン コーン カーン コーン>
「──っとと、もう下校時間っすね」
「え?あ、うん。そうだね」
下校時間を示すチャイムが鳴り響き、俺がそう言うと固まっていた篠宮先輩はっとして頷く。
そんな反応も可愛らしいなあ。
……さてさて、今日から【サブカル研究部】に入った俺。
実は、入ったとしても幽霊部員になろうしてたんだけど……通い続けていれば、何かいいことがあると直感が言っている!
さてさて、明日から楽しみだな〜。
そんなことを考えながら、俺はビシッと姿勢を正してからニカッと笑う。
「じゃあ改めて、明日からもよろしくお願いします!!」