第2輪:思わぬ所に咲く''高嶺の花''
……高嶺綺咲。この名門校に通う三年生。
校内で一番完璧な生徒であり、苗字の通り''高嶺の花''と敬われる美少女だ。
入試を含めたテスト全てで不動の一位を誇り、体育でもエース並みの活躍という能力。
仕草一つ一つが凛とした佇まいで、他の女子なんて霞むほどに美しい容貌。
それでいて謙虚で真面目で、誰に対してでも優しく接するというできた性格。
文武両道、容姿端麗、品行方正。
この三拍子のレベルが一番高いのは、学内でも高嶺先輩という噂さ。
そんな先輩は日々尊敬と憧憬、そして羨望の眼差しで見られ、俺としては一番手の届かない人物なんだけど……
<ペラッ>
「………」
……まっさかそんな先輩が、この学校では入るだけで恥と言われる【サブカル研究部】の部室にいるなんてね。
入口からだと死角の位置にいたから見えなかったけど、その姿を見た瞬間、俺は驚きのあまり思わず放心してしまった。
「──失礼します」
しかし直ぐに平静を取り戻した俺は、ニコリと微笑んでそう言った。
何やら小説を読んでいた先輩は、俺の声に体を跳ねさせて──可愛い──顔を上げる。
「ッ!?」
そこで、俺と先輩は目が合った。
……ふむ。遠目からでしか見たことは無かったけど、噂通りの美しい容貌だな。
目と目が逢う、瞬間に好ーきだーと……は気づかなかったけど、思わず視線が吸い込まれそうにはなった。
さらさらとしたハーフアップの黒髪は可憐で、微かな風で靡いている様子は美しい。
乳白色の透けるような肌はどこにもシミひとつあらず、とても滑らかだ。
整った鼻梁を中心に、キレ目気味に並ぶ長い睫毛で覆われた大きな青紫色の瞳、色素が薄くぷっくりとした瑞々しい唇……
そのパーツ全てが、V線の顎と柔らそうな頬を持った顔に絶妙に配置されている。
……とまあ、この俺が柄にもなくポエム風に説明してしまうほどの美しさだ。
個人的には、その唇と頬を今すぐにでも好き勝手に貪r((殴
で、そんな高嶺先輩だけど、これまたわかりやすーく俺を見て目を見開いていらっしゃる。
うーんデジャヴだ。俺を案内してくれた可愛い先輩でも、同じ反応を見た気がする。
「──はいこれ。書いたら職員室に一緒に出しに行くからね」
と、噂をすればなんとやら。可愛い先輩が、入口付近にあった書類を手渡してきた。
……で、それを見た高嶺先輩は、より大きくその目を見開かせる。
うーんやっぱりデジャヴだ。再度『目、痛くないのかな?』とツッコめばいい?
まあ、でももう一つ聞き捨てならない事柄を可愛い先輩から聞いたから、失礼だけど一旦置いとかせてもらおうかな。
「新一年生でもないし、一人で大丈夫っすよ?それに、俺と『一緒に』ってどういう意味か分かってますよね?」
今回は触れてないけど、中津清隆は''落ちこぼれ''と高嶺先輩とは逆の意味で有名だ。
さっき初対面の先輩が俺の名前を知ってたってことは、それは分かっているだろうに。
しかし先輩は、あっけらかんとした様子で口を開いた。
「別にいいよ、中津くん程ではないけど私も後ろ指を差される存在だからね」
「……あー、なるほど。じゃあ、もう無理には止めないっす」
そういえば、先輩は去年学校のパンフレットで''サブ研''部長として載せられていたことを思い出した。
業腹ではあるけど''サブ研''自体馬鹿にされる部活。その部長となれば、まあお察しだよ。
で、たしかパンフレットで先輩は……篠宮鈴音、って書いてたかな。
よし、地味に高嶺先輩と区別しずらかったけど、これで区別できるな!(歓喜)
一人勝手にそんな事を考えてると、篠宮先輩は苦笑しつつ「素直でよろしい」と頷いた。
お姉さんキャラ……?その小さいかr((殴
「──ちょ、ちょっとまって。え、''サブ研''に入るの?その子が?」
と、そこで初めて高嶺先輩が口を開いた。
信じられないような顔で、篠宮先輩を見ながら俺を指さしてきている。
こらこら、人に指さしちゃ行けませんっ!(お姉さんキャラ)
「そうみたいだよ?デメリットを提示したけど、それでも〜って」
ちょいちょい篠宮先輩、『それでも〜』が可愛すぎますって。なお、お姉さんとは全く逆の意味だけど。
てか、なんで俺心の中で篠宮先輩を弄りまくってるんだろう(しらん)
「そ、そう……」
「よろしくお願いします、高嶺先輩」
篠宮先輩から聞いても困惑たままの高嶺先輩に、俺は微笑みを作って頭を下げる。
……しかし、高嶺先輩はそんな俺をすごい威圧で睨んできた。
「私と仲良く機会とでも思ってるんでしょうけど、あなたと仲良くする気はないわ。ま、よろしくね」
「………」
あっれれ?
まだ挨拶しただけなんだけど、なんだか凄い勘違いをされている気がする。
……俺、別に高嶺先輩が居たところで仲良くするつもりは全く無いんだけどなあ。
まあ、訂正する意味ないしこの悪評と同じく放置するけどさ。
……にしても、噂だと先輩は誰にでも優しい性格だって聞いてるんだけど……
まだちょっとしか見てないけど、今だとそれは少し信じられないような話だ。
「あはは……じゃ、中津くん。早く入部届に書いてね」
「了解っす」
そんなことを考えていたら苦笑した篠宮先輩に促されたため、俺はシャーペンを取り出したのだった。
……まさか''高嶺の花''との関係が深くなっていくとは、欠片も思わずに。
□❁✿✾ ✾✿❁︎□
音速で入部届に情報を記入し、俺は篠宮先輩と一緒に職員室へ向かうことにした。
なお、高嶺先輩は部室に残っている。ま、一緒に職員室行く理由なんてないしね。
「中津くん定期考査は毎回最下位とは聞いてるけど、字はすっごい綺麗なんだね〜」
放課後になって結構経っているからか、思ったより人気のない道中。
俺が記入ミスをしてないか改めて入部届を確認していと、先輩が覗き込んできた。
ちょ、ちょ、近い近い。肩元に来られると茶髪から良い匂いがすごくしてくる(混乱)
「元ですが大手企業の御曹司だったんで、ガキの頃はいっぱい練習させられたんすよ」
昂奮しているのを悟られないようにしつつ、俺は平然とした態度で答えた。
てか、どうでもいいけど字の綺麗さと学力って普通比例するもんなの?
すると篠宮先輩は「へえ〜」と関心げに感嘆の声を漏らす。表情豊かで、可愛いです(グッ)
「そんなに厳しかったんだ」
……その感想を聞いてある事が閃いた俺は、ニヒルな表情を浮かべた。
さっきは会ったばかりだから交わされたけど、今はもう部長と部員の関係直前だし?いけるっしょ。
「厳しいってより、おっさん達に教えられるのが過酷でしたね〜。先輩みたいな可愛らしい人が教えてくれるなら喜びましたけど」
「へえ。そういえば聞かないけど、中津くんの実家だった大手企業ってなんなの?」
「スルーしないで!?」
まさかのさっきより酷い反応に、俺は思わずそう叫んだ。
え、なに。篠宮先輩スルースキル高すぎません?
……とりあえず、仕切り直しに俺は「こほん」と置いて、素直に質問に答えることにした。
「それは言えないっすね〜」
まあ、その質問はこれに尽きるんだけど。
すみません先輩、それはちょっくらNGな質問なんすよ……
「どうして?」
「……単純にもう名乗るなって言われてるからっすよ。もう決別したんです」
ってあっぶね、初めてされた質問だから嘘が咄嗟に思いつかなかった。
少し焦ったけど、よくもまあ俺はこんな真っ当な理由を思いつくもんだ。
──ってあれ?なんか急に先輩黙り込んだような……
気になって先輩の方を見ると、篠宮先輩が哀れみの目で俺を見ている……
「辛い過去があったんだね……」
「ってやめて!そんな目で俺を見ないで!」
涙を流しそうな篠宮先輩のその言葉に、俺は思わずそう叫んだのだった。
……というわけで。
不肖中津清隆、無事(?)【サブカル研究部】に入部します!
次回投稿予定は未定です。