第1輪:''落ちこぼれ''な元貴族
超不定期投稿の新作です!
なお、先に言っておきますと主人公は結構テンション高めです。
やあやあ諸君!今日も元気に''日常''という楽園の中で過ごせているかい?
''日常''とは素晴らしいものだ。安定した毎日、時々見せてくれるハプニング……
それを一緒くたに体験できる俺たち人間は、なんて贅沢な生き物なのだろう?
「あ、''落ちこぼれ''だ。あいつ、最下位のくせに進級してるのかよ」
「''元貴族''の恥さらしが、今日もへらへらと呑気に過ごしてやがる……」
それが例え、廊下に出た途端に皆から侮蔑に軽蔑、そして嘲笑の目で見られる俺の''日常''でさえも、ね?
というわけで、冒頭から意味不明な持論を述べた俺の名は中津清隆!
この名門校に通う高校新二年生で、皆から''落ちこぼれ''と指をさされる男だ。
──え?その''落ちこぼれ''という二つ名はどういう意味か……だって?
まあ、タイトルにもなっている程だしこれから説明しようじゃないか。
──え?特に気にならない?お前が勝手に解釈しているだけだろう?
……まあまあ、そんなこと言わずせっかくだし聞いてってくれよ!(切実)
で!俺がその悪意全開の二つ名で呼ばれている理由は、まず俺の''成績''にある。
俺たちの高校では、定期考査が五回行われるスケジュールなんだけどね?
それがなんと、一年の定期考査は五回とも不動の''最下位''だったんだ!
入試試験を含めたら不動ではなくなるんだけど、まずこれがその一つ。
まあ、最下位と言っても未だに赤点は取ったことないから、退学はチラついていない。
逆に、皆は赤点なぞありえんという点数を取っていて余裕だということさ。安心安心♪
で、『まず』と最初に置いた通り、まだこの二つ名の由来はあったりするんだよな〜。
……というか、成績が連続最下位ってだけで''落ちこぼれ''なんて言われるわけないし。
その二つ目の由来というのが、この俺の過去にあたる。
さっき勝手に言われたけど、俺が''元貴族''という特殊過ぎる肩書きがあることだ。
俺は過去、大手企業の御曹司だったんだけど、あまりの無能さに実家を追い出されたのさ。
代わりがいるから、親父と母さんが離婚する時、平民の母さんへ押し付けた感じだ。
……いや、母さんは母さんで平民と言えるほど普通の生まれではないんだけどね?
ま、そんな最大級の黒歴史を持つ生徒は無論俺だけで、それも加味して''落ちこぼれ''だ。
……あーあと、このパッとしない見た目もあってそれが遠慮なく肥大化されていくんだと思う。
ちなみにだけど、実家を追い出された事実を知られた経緯はまだわからない。
……ま、どこが実家か知られてなかっただけで俺としては構わないし、放置でいいけどね。
……以上、これがあの二つ名とこの悪評を浴びている所以というわけさ。
──うん?……いーや、俺はこれに反抗する気はさらさら無いよ。
事実だし、それに人間というのは''自分以下''というものを探し求める生き物だ。
それを他でもない俺が担えているという点は、俺としては逆に誇らしいね。
そんなことを呑気に考えながら、俺は目的地へ歩を進める。
「あいつ、一体いつ退学するんだろうな……」
「あの子が居るせいでこの学校の名に泥を塗ってるわけだから、早くして欲しいわよね〜」
……勿論、悪意ある視線や嘲笑うような声を周囲から受けながら……ね?
□❁✿✾ ✾✿❁︎□
<コンコンッ>
視線から抜けだしてきた俺が訪れたのは、校舎の端にひっそりと構えたとある一室。
影の薄い場所ではあるけど、中に人は居るはずなので俺は扉を叩いた。
中から「はーい」という鈴の転がるような声がする。ほらね?やっぱりいる。
少し待つと足音が小さくも中から聞こえていて、扉が横に滑る。
そして前に立ちはだかったのは……茶髪のショートボブが特徴の、小柄で可愛らしい女子生徒。後輩かな?
──ああいや、ブレザーについてる校章見ると思いっきり先輩だわ。失礼しました。
そんな可愛らしい先輩は、扉を開けて俺を見上げるなりわかりやすく目を見開いた。
「あなたは……!?」
「こんにちは、入部希望っす」
驚いたような声をスルーし、満面の笑みを浮かべて用件を述べる俺。
……そう、俺がこんなひっそりとした場所に用がある理由は、入部するためである。
それを聞いた先輩は既に見開かれた目を更に大きく見開かせる。目、痛くないのかな?。
「……あなた、二年生の中津清隆くんよね?」
「お、知っていたんすか。あなたのような可愛らしい先輩に知られてるなんて、光栄です」
様子を伺うように慎重に語りかけてきた先輩に、俺はおどけたようにそう返す。
そもそも、この学校で俺を知らない人なんて逆にいないとはわかってるけどね。
そんな俺のナンパ地味たお世辞に、先輩は大きな瞳に警戒の色を浮かべさせた。
……そら突然こんなろくでもないやつにあんなこと言われたらその反応するのが当然だけど、ちょっと凹むよ?
「……すんません。でも、入部希望をしに訪れたのは本当です。ご検討願えません?」
苦笑する俺に、先輩は警戒の色を少し緩める──なんかほっとした。
だけど、プラスな印象の表情はまだ浮かべてくれない。
「……ここって、評判が悪いことで有名なはずなんだけど、知ってる?」
悲しそうに苦笑する先輩。その表情はとても儚げで、なにかを諦めているような……
……っとと。どうやら、俺みたいなやつにも話を聞く耳をもっていただけたらしい。
「……知ってますよ」
で、俺はその質問に頷いた。
自分でも、その表情は今でも怒りそうに歪んでいるのがわかる。
……今、俺が入部希望しているのは、【サブカル研究部】というものだ。
一般的ではないアニメやゲーム、声優などの''サブカルチャー''を楽しみ、研究するというが活動内容である。
しかし、この名門校では【サブカル研究部】というのは馬鹿にされている。
プライドの高いこの学校の生徒は、世間からバカにされやすい''サブカル''に関わりたくもないし、世間と一緒に馬鹿にするんだ。
そして、その馬鹿にする理由というのは、少なからず''偏見''が混じっている。
俺としてはそれはなんとも解せなくて、そして怒りたくなるものだった。
……しかし、俺一人が喚いたところでそれはどうしようも出来ないんだよな。
そんなどうしようも出来ないことは置いといて、本題に戻ろうか。
俺が知っていることに対してあの表情で肯定すると、先輩は一瞬気圧されつつも怪訝な表情を浮べる。
「……あなたの評判を一層悪くしちゃうと思うんだけど、本当に入るの?」
「……ええ、入りたいです」
''落ちこぼれ''である俺を心配してくれているのか、伺うようにそう尋ねてくる先輩。
ちょっと優しすぎない?惚れちゃいそう。
……でも、それが寧ろ入る理由になってるって知ったら、この先輩はどんな反応をするんだろう。
──おっと、ふざけていたらつい余計なことを口走ってしまった。
''どうでもいいこと''を考えながらも真剣な顔で頷くと、先輩に本気だと伝わったのか、少ししたら頷き返された。
「……分かった。でも、一つ条件があるの」
「あ、はい。なんです?」
突然真剣な表情で人差し指を立てる先輩に今度は俺が気圧されつつも、首を傾げて続きを促す。
「サブ研に入ったのを公言するのは構わないけど、それ以外勝手にサブ研の詳細を他言しないで欲しいの」
「……はあ」
……どういうことなんだ?
入部するのに条件があるのも不思議なことなのに、その内容がもはや意味がわからないなあ……
だから詳細について尋ねようと思ったけど……この威圧、真っ先に「いいから」と返されそうだ。
それを察知した俺は諦めて「分かりました」と、素直に頷いた。
そんな俺をみて先輩も満足そうに頷く。
こんな俺にその笑顔て、絶対に惚れさせに来てるよね?(絶対に違う)
「じゃあ、入部届を渡すから入って」
と、手をにゃんにゃんと降って招きながら部室に入っていく先輩。
俺も、先輩に続いて部室に入り、中の様子を──
「………!?」
……とそこで、思わぬ人物を視界に入れた俺は目を見開く。
この部室は普通の教室と対して変わらない広さで、人数の少ないであろう''サブ研''にはまあ広いとは思うんだけど……
──まさかそこに、高嶺の花で有名な高嶺綺咲先輩がいるとは、欠片も予想できなかった。