砂掛けとけば見付からないと安心したら駄目だよ(三十と一夜の短篇第58回)
教授の到着を待つ教室で、学生たちは三々五々、スマートフォンの操作やノートの整理、お喋りで時間を潰していた。
「昨日のニュースでさ、遺跡発掘が進んで新発見か、とか放送してたよな?」
「ん~、それ何処? それよりもほら、人工衛星が小惑星帯の小惑星のノーウェアーに着陸したニュースの方に興味あるなあ。これから探索機が詳しい映像を送るそうだし、小惑星の砂を持ち帰るミッションがある」
それぞれ考古学と天文物理学の専攻の学生ではないのだが、知的好奇心は自由だ。
「イズイ文明の遺跡から古代文明が優れた科学を持っていたらしい壁画だかレリーフだかが見つかったってニュースは、俺は興奮したんだがなあ」
「なあんだ、トンデモ扱いされる代物なのか。その、靴に石でも入ったみたいな、下着がほつれてて糸くずが体にまつわりついているみたいな感覚の名前の文明」
「世界にはスケベニンゲンやエロマンガって地名が存在しているんだから、君のふるさとのお国言葉みたいな地名も存在するさ」
変な所で物知りだ、ともう一方が感心していると教授が到着して、会話は終わった。
講義が終わって、学生は眠気を追い出そうと背伸びをした。
「コーヒーでも飲もう」
とロビーへと出て、空いている場所に座った。頭に入ってこない内容を聞かせられる苦行から覚醒するにはコーヒーと楽しい会話とばかり、先程の中断した会話を復活させた。
「イズイ文明の壁画には宇宙船を思わせる絵があって、それによるとイズイに宇宙船が来て、船から荷を降ろすか、積むかしている。文字と思しき部分もあって、それの解読を待たれると言ってて、おおすげーってなったんだ」
もう片方が苦笑いをした。
「イズイにゃ船くらい古代からあったんだろう? 普通の船の航路が空を飛んでいるように見えただけじゃないのか?」
「矢追は夢がないなあ。歴史を紐解くには想像力が必要なんだ」
「川口、想像するのと希望するのは違うんじゃないか? それに小惑星に太陽系成立の痕跡を求めて探索機を飛ばすのだって想像力の賜物だよ」
矢追君と川口君は結論の出せない話でしばし盛り上がった。
その後、探索機のノーウェアーから送られた映像と、イズイ文明の壁画に描かれた絵と文字で、世界中が盛り上がるとは、矢追君も川口君も全く想像できなかった。
ノーウェアーの地表で廃棄された船のような物体が映ったのだ。しかもその物体の形はイズイ文明の壁画にある船に形体がそっくり。色も、物体にある記号のようなものまで一致していた。
すわ、これは宇宙にまで行ける科学力をイズイ文明は持っていた!
いや、これはノーウェアーに高度な文明を持つ生命体が存在し、地球に来たのではないか!
人々は探査機が持ち帰るノーウェアーのカケラを待ち望み、イズイ文明の文字の解読を急いだ。
しかし、ひとたび解明が行われると、人々の熱狂は一気に冷めた。
ノーウェアーが持ち帰ったのは、所謂「生ゴミ」が宇宙空間でフリーズドライされたような物質だった。また、イズイ文字を読み解いて判明したのは、人口増加によってゴミも増加し、始末に困ったので、どこかに遠くに捨ててしまおう、月の眺めが悪くならないよう、地上に影響が出ないよう、できるだけ遠く星に飛ばそうといった内容だった。
古代文明の頃からのゴミのポイ捨ての変わらない事実に、人類は臭い物に蓋と言わんばかりに、これらの発見をなかったことにした。
子どもの頃、木曜スペシャルは熱心に観ていたけれど、水曜スペシャルは地方の放送局の関係で観られませんでした。