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芋虫(キャタピラー)転生! ~死にたくないので隠れ通した結果~

作者: 安井上雄

 酔い潰れて自宅で寝ていたはずの俺が意識を取り戻したとき、そこは巨大な壺の中だった。最も、そこが壺と分かったのはずいぶん後になってからだ。

 俺の周りには俺と同じくらい巨大な芋虫がたくさんいる。正直気持ち悪い。


 上方にはぽっかりと丸く空が見え、今いるところは高い壁で囲まれているのが分かる。

 不意にその丸い穴に巨大な人の顔が現れた。妙齢の美女である。


「お聞きなさい、子供たち。

 私はおまえたちの母たるマザーパピヨン。

 当代の魔王を務めています。

 おまえたちはこれから最後の一匹になるまで殺し合い、最後に残ったものが私の後継者となるのです。

 おまえたちには死んだ兄弟の魔力と能力を生き残ったものが吸収するという魔法をかけています。

 吸収できるのは死んだ兄弟の最も近くにいる兄弟……、すなわちその兄弟を殺したものだけです。

 自分の能力は、知りたいと思えばステータス画面となって視界の中に表示されます。

 さあ、子供たちよ。殺し合いなさい。

 そして最強の名を継ぐにふさわしい力を手に入れるのです」


 そう言うと美女の顔は上空の丸い穴から見えなくなった。


 美女の言葉が本当なら、どうやら今の俺は周りにいる芋虫と同じ姿をしているらしい。

 今、はやりの異世界転生というやつだろうか……

 俺はいったいいつ死んだのだろう。

 やはり、酔い潰れてそのまま……


 しかし、それにしても芋虫はないだろう。

 異世界転生と言えば貴族とか勇者とか、悪くてもスライムとか……

 何の取り柄もない芋虫では今世の余命も短そうだ。


 いやまて……

 さっきマザーパピヨンは言っていたよな……

 俺たちには一つスキルがあると……

 そして、死んだ兄弟のスキルを吸収できると……

 もしかして、いいスキルがあれば、他の芋虫を殺して最強になれるのでは……


 そう思って俺は自分のステータスを見ようと意識する。

 考えた瞬間、視界に文字が見えた。


 名前:--

 種族:芋虫キャタピラー

 体力:10

 魔力:05

 素早さ:02

 知力:15

 種族スキル:能力吸収(他者の魂を吸収し能力を加算する。魔王の呪いによって現在兄弟限定中。兄弟がいなくなったら他の生命体の魂も吸収できる)

 固有スキル:擬態


 詰んだ……

 正直、そう思った。

 種族スキルはここに存在する芋虫共通のスキルだろう。

 そして、固有スキルが、さっきマザーパピヨンの言っていた一人に一つ与えられた能力だ。

 正直、戦闘系の能力を期待していた。

 魔法とか、魔法とか、魔法とか……

 せめて真空波とか、飛炎斬とか遠距離攻撃系のスキルは生き残るのに必須だろう……

 いや、芋虫では剣が持てないからやはり魔法が有利だ。

 俺は、これから、擬態という全く戦闘に向かないスキルで生き残れるのか?

 自分の能力をフルに活用した芋虫同士の殺し合いに強制参加させられるのだろうに……


 そう思っているうちに、俺から遠くにいる芋虫が糸を吐いて隣の芋虫を絡め取る。

 するとその隣の芋虫が火炎をはいて糸で身動きが取れなくなっていた芋虫と糸を吐いていた芋虫をまとめて焼き殺す。


『おお、魔法だ』と感動したのもつかの間、俺の数匹隣の芋虫が突然凍り付いて絶命した。 どうやら氷系の魔法で攻撃されたようだ。

 だめだ、このままだと確実にやられる。


 俺はなんとか身をよじり、壺の壁まで這い寄り、壁にとりついて擬態を発動した。

 できるだけ壁の高いところに上り、壁と一体となって身を隠す。

 擬態の効果は抜群で、俺の体は壺の内壁と同じ模様になっており、ちょっとやそっとでは分からないくらい見事に隠れている。


 高いところから見ていると、芋虫兄弟たちの様子がよく分かる。

 やはり、魔法系のスキルを持っているものが優勢のようで、最初に火を吐いた芋虫は、兄弟から奪った糸を吐く力も併用して次々と他の芋虫を殺戮している。

 そして、他の芋虫を殺した個体は徐々にその体を大きくしている。

 100匹や200匹ではきかない程多かった芋虫も、どんどんとその数を減らし、やがて大きめの芋虫と巨大な芋虫の2匹だけとなった。正確には俺を入れて3匹だ。


 巨大な芋虫は最初に火を吐いた芋虫、大きめの芋虫はどうやら風の魔法を使う個体らしい。

 いよいよ決着がつくのだろう。

 2匹が同時に相手を攻撃する。

 巨大な芋虫は元から持っていた火の魔法と、直前に奪った氷の魔法を同時発動する。

 一方、大きめの芋虫は風魔法の竜巻に土魔法の石つぶてを混ぜて発動する。

 体の大きさから、魔力量では巨大な芋虫が勝っていたが、いかんせん、魔法の組み合わせが悪かった。

 相反する炎と氷は互いの威力を打ち消し合い、たいしたダメージをもたらさなかった。

 一方の竜巻は、鋭い角を持つ小石の力も借りて、相手の体を切り刻む。


 決着はついた。

 風魔法を使った芋虫が一際巨大化し、壺いっぱいの巨大芋虫となる。


「よくやりました。我が愛し子よ」

 決着がついたことをどこかから見ていたのだろう。

 マザーパピヨンが現れる。


「これで俺が、あなたの後継者だ」

 巨大な芋虫が突然しゃべる。

 どうやら、進化して会話の力を得たようだ。


「そうですね、本当によくやりました愛し子よ。

 これで私はまた強くなれます」

 マザーパピヨンはそう言うと、片手で巨大芋虫をつまみ上げ、大口を開ける。

「なっ、何をするのだ」

 慌てる芋虫をよそに、マザーパピヨンはあっという間に芋虫を一口で頬張る。

「ぐぎゃぁーーー」

 グチャ……、ゴクリ……

 芋虫の悲鳴と咀嚼しているらしき音が響いた後、辺りは静かになった。  


「あら、今回は外れかしら……

 あまり力が上がらないわね……」


 マザーパピヨンは呟くとその場を離れたようだ。


 一方俺は……

 突然多くの力が流入してきて、体が膨らむ。

 びっくりして壺の内壁にとりついていた手を離してしまし、壺の底に落ちたが、気がつくと壺の空間が狭く感じる程、巨大化していた。


「これは……」

 今まで兄弟たちの戦いを、壺の内壁上部から俯瞰してきた経験から、今の俺は生き残った芋虫が巨大化したのと同じ状況になっていることを察する。


 思い当たるのは、マザーパピヨンが俺たちに与えた能力……

「そうか、死んだ兄弟の一番近くにいたものがその能力を受け継ぐ……

 マザーパピヨンによって咀嚼された芋虫の、一番近くにいた兄弟が俺と言うことか……」


 そこに思い至った俺は、今の俺がマザーパピヨンに見つかれば、先ほど食われた兄弟と同じ運命になることを察する。


 逃げなければ食われる。


 俺は足の遅い芋虫であることを恨みながら壺から這い出した。


 自らに宿った、規格外のスキルの数々に気がつくのは、擬態を駆使してマザーパピヨンの居城から逃げ出した後のこととなるのだが、このときの俺はそのことを知らない。

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