第8話 こんな展開
今日は、これからもこんなペースで書いて行ければと思います。
これが綺麗なのはよくわかった。しかしそれだけではよくない。これがどういう刀なのか、よく見なければならない。
「バレル、これ、どういう刀かわかる?」
『んなこと言われてもなあ。専門分野じゃねえから刃文とかもよくわからんし。道具ねえから銘の確認も手入れもできねえし。ほっとけば?』
「いやそんなわけには……」
これは困った。まさかバレルにもよくわからないとは。ていうかそうだよ道具ないじゃん!よく白いふわふわでポンポンしてるの見たことあるけどできないじゃん!
その時。
(拙者に手入れなど不要、常に完璧也)
聞きなれない声が聞こえてきた。当然頭の中に。予想はつくけど様式美として一応聞いておこうかな。
「……バレル、今何か言った?」
『現実逃避すんなそいつだそいつ』
ですよねえ。どう考えてもこの刀から聞こえたよね。何?喋る拳銃の次は喋る刀?
キャパシティいっぱいいっぱいなんだけど。
バレルと会話してる現時点で傍から見たら変態なんだって。
というか刀がミーでパーフェクトって何さ。
『戻ってこーい。魂抜けてんぞー』
「いたって冷静です、はい……」
バレルに諭されて声を出すものの、その言葉とは裏腹に僕は冷静ではいられなかった。
(失礼した、拙者は)
「会話しにくいから日本語でお願いします。」
(そうか……。このような世界だ、良いと思ったが)
悪いけどそのままだとお笑い芸人とかアニメキャラとか思い出して背中がむずむずする。なんか恥ずかしいから仕方ない。
そしてそう、「日本語」で分かる通り、この刀は日本語(?)で話している。決してこちらの言葉ではないし、聞いたことがない言語でもない。そこからわかることとしては、この刀は僕たちと同じ世界から来たということだ。
(では改めて。拙者は刀工・雪叢が一振り、号を天神切雪叢と申す物。見ての通り現在は白木拵の打刀也)
「天神切?すごい名前だね」
(天神と言っても本当に神を切ったわけではない。悪天候に苦しむ村の負担を少しでも軽くするため、空を切っただけのこと)
空を!?それはさすがに物理的に不可能なのでは……?
いや、一応本人が言っているのだし信じるべきだろうか……。
『ああ、あの衝撃はテメエだったか。』
「バレル知ってるの!?」
『凄かったんだぜえ?ただの人間がただの刀で天空を切ったってよ。皆も……おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ。』
ああ、いつもの虚言か。
バレルは時々、いや、よくこうして嘘をつく。言葉の最後に「聞かなかったことにしてくれ」とあればそれは十中八九嘘だ。
「はあ……。知らないなら驚かせるようなこと言わないでよ!」
『カカカッ!悪い悪い!』
からからと笑うバレル。いつも真面目でいてくれれば心労も少なくて済むんだけど。
そんなことしないだろうなあ。
そんな僕たちを尻目に天神切の自己紹介はまだ続く。
(初めはただの刀であったが、先の功績により祠に奉納され、数百年の刻を経てこうして意思を宿すようになったのだ。そのころから手入れの必要もなくなった。それからさらに数百年が経ち、人々は拙者を忘れたのであろう。いつからだったか、祠の中で放置されていた)
人を救い、人に崇められ、人に忘れられた。それがこの天神切雪叢という刀の生だった。
それは……どれだけ悲しい事なのだろう。
ただ朽ちることもできず、人に使われることもない。そのような刀に一体何の意味があるのだろう。
(それ故であろうな。拙者がここに来たのは。恩に着る。またこうして人に使われることができるとは、夢にも思わなかった。)
「僕は刀なんか使ったことないので、天神切さんが望むような使用者にはなれないと思います。それでも良ければ、僕に天神切さんを使わせてください」
僕は心から正直にそう言って、机に置かれた天神切さんに頭を下げる。
(構わぬさ。草刈りにでも何でも使うといい。何もしないより気が晴れて良い)
僕はいつか、天神切さんが納得するような使用者になれるだろうか。
いや、僕自身がそれを望んでいる。他でもない、僕自身が。
必ず、天神切さんを使いこなせる立派な「剣士」になってみせる。
『それはいいが我が主、お前どうやって白木拵の打刀を使うんだ?それ保管用の鞘だぞ。』
「あ」
日本男児の憧れとして、刀に関する知識はそれなりにある。というかちょろっと調べたことがある。
白木拵とは保管用の一時的な鞘であり、湿度調節や錆の防止のために使われている。手入れ不要と言っていることからそれらに関しては問題ないだろうが、耐久性や実用性に関しては話が別だろう。
「どうしよっか……」
(心配無用、鞘ありきの刀である。拙者が「刀」として認識している以上、劣化することはない。であればとっくに腐っている。ああ、白木拵ということで接着されただけのものだが、もう割れることはないから安心してほしい)
それもそうだ。少なからず劣化するのなら、鞘は木製なのだから腐食によりボロボロになるに決まっている。それがないということは耐久性は問題ないのだろう。
では実用性の方はどうだろう?白木拵で刀を扱うメリットは「かっこいい」ということくらいで、扱いは難しい。鍔がないから競り合うのは命とりだし、グリップ力も低い。
「こればっかりは慣れかな」
(扱いか?まあそうなる。白木拵で刀を振る者などただの阿呆だ。しかし……)
天神切さんはそこで一泊置いてこう言い放った。
(それが恰好いいのであろうが!)
そしてそれを聞いた僕はこう思った。
この刀は男のロマンと憧れをよくわかってる最高の刀だ!と。
「頑張ります!天神切さん!」
(楽しみにしているぞ!)
『え?何これ茶番?』
バレルは一人ポカンとしているが知ったことではない。僕は僕がやりたいことをする。それでいいのだ。
その日はもうテンション爆上がりで寝付けなかった。ようやく眠りについたのは外が明るくなり始めたころだったと思う。
☆・☆・☆
月は沈み、朝陽が空を照らし始めるころ。
ふう、やあっと寝やがった。こいつのテンションどうなってんだ。
相変わらずかわいらしい寝顔晒してやがる。お前、本当に男かよ?
しかし……まさかあの刀に会うことができるたあな。これからも面白いことが起きそうだぜ。
楽しませてくれよ、我が主。
「あの子を……翔を頼む……儂はもう長くない……」
ふと、十数年前の声が聞こえた気がした。
窓を見る。そこに誰もいないと知りながら。
『ケッ!ったりめーだ、ジジイ。任せとけよ』
古式拳銃ゆえに自分自身じゃ翔を守れない。それでもせめて、せめて成長を見届ける。
それがジジイと交わした約束だ。
『だから翔、あんまり心配させんなよ』
主人は寝たばかり。起きるまではまだ時間がある。
今日は何があるだろうなあ。
☆・☆・☆
目が覚めるととっくに日は登り切っており、これから傾き始めると言った時間帯だった。
つまり昼。
……どうやら、いや、確実に。朝方に寝たのが響いたらしい。
「ちょっと失敗」
あらかじめ買っておいた水を頭にかぶり、ボーっとした頭を覚ます。
安く買った寝間着から着替え、リュックを背負って宿の外に出る。
バレルはリュックの中に、天神切さんは制服のベルト留めに強引にねじ込んだ。当然刃が上に来るように。
時間はもう昼と言っていい時間だけれど、今から組合に依頼を受けに行っても遅くはない。
宿から組合に行く途中に、ご飯に丁度いい露店があったため、銅貨5枚でサンドイッチのようなものを買う。
「うん、美味しい」
中身はハム、レタス、卵、トマトと豊富だ。でもこれをハーモニーが~とか言える語彙力はない。ちなみにハムもレタスも卵もトマトも「ようなもの」だ。実際になんなのかは知らない。
組合に着いたらすぐに掲示板を見に行く。
今日は……薬草採取でいいや。
「ルディさん、お願いします。」
「ショウさんは今日も可愛いですね。薬草採取ですね、行ってらっしゃいませ」
ルディさんは毎日微笑みながらそんなことを言う。
「いくら僕が女の子みたいだからって、毎日毎日からかわないでください!」
自分の容姿が男っぽくないことは自覚がある。でももって生まれたものだ、ケチをつけるつもりはない。ただ、あまりに言われっぱなしなのもどうかと思うので、僕も毎日ちゃんと言い返している。
「赤くなって、やっぱり可愛いですよ?」
「~~~!!!」
恥ずかしくなって逃げるように組合を出た。ルディさんのような美しいお姉さんにそんなこと言われたら、まんざらではない自分がいるのも確かなのだ。
いつも通りに薬草……鈴蘭もどきが自生している場所へやってきた。
「今日の本数は10本……」
手慣れたもので、1週間前よりも手際が良くなったのを感じる。
『鈴蘭もどきも大量だなあ。全部とっても明日にゃ生えてきそうだぜ』
「いつ来ても同じような光景だよね」
(ふむ、なかなかに神秘的な光景である。ここに生えているものはすべて薬草なのか?)
「そうだよ。詳しくは後で説明するけど、HPを回復する薬になるんだって」
(なんと面妖な……)
天神切さんは昨日買った刀だし、ここに来るの初めてだもんね。わからないのが当然だ。
そうこうしているうちに10本集め終わった。
「これでよし。帰ろうか。」
『単調だよなあ。ランク上げれば?』
(ランクとは、なんだ?)
「上がればもっと難しい依頼に挑戦できるんだって。でも僕はまだしばらくこうしてのんびりやっていくよ」
帰る準備を進めていたその時だった。
「うわあああああああああああ!!!!!」
林の奥深くから甲高い叫び声が聞こえてきたのは。
「っ!今のは!?」
『行くつもりじゃねえだろうな!翔!』
「当然!」
リュックをその場に投げ捨て、バレルを右手に持ち、声が聞こえた方向に全力疾走する。
『ああ、もう止まらねえな』
(止まらない?なぜだ?拙者たちが止めることもできるのではないか?)
『いやー無理無理。こうなったらもう止まらねえよ。』
しばらく走り続けていると、だんだん音が聞こえてきた。
金属同士がぶつかり合うような音だ。もし戦闘があっているのだとすれば、片方は先程の声の主だろう。
またしばらく走る。
「見えてきた!」
そこはこれまでと変わりのない風景。木が乱立しているだけの場所。
異質なのは、多数の化け物の群れと、それに立ち向かう鎧をつけた人間だった。
「くっ!この!」
全身鎧なので顔は見えないが、その声から女性だということがわかる。女性は大量に射掛けられる弓を、片手に持った剣一本ですべて撃ち落としている。
囲まれているというよりは、一人で前線を維持しているようなイメージを受ける。
頭の中で地図を広げる。
ここは西門を出てすぐの林だ。城下町の外壁からほど近い場所からさらに外側に走ってきた。
この化け物は林の外からやってきたのだろう。
見た目は小さいが、筋肉の塊のような印象を受ける。まるで限界まで小さくなった鬼だ。きっと全身鎧でも貫通する威力なのだろう。
女性はそれを押しとどめている……?
女性の動きがどんどん鈍っていく。でも僕にできることは何もない。助けられるだけの力がない。
「ぐ、あっ!しまった!」
ふらふらしていた女性が足元の石につまずいてよろめく。
その隙を無駄にするような化け物じゃない、一斉に矢を射掛ける。
ここで動かないのは、さすがに無理だな。
化け物と女性の間に乱入する。背を化け物の方に向け、手を広げる。
「な、え!?」
しかしそれは当然、矢の雨に襲われることを意味する。
直後、背中に迸る鋭い痛み。
「き、君!何をやって……!」
「今のうちに逃げてください!」
「し、しかし……」
「大丈夫です。僕は、死にませんから。」
「必ず、助けに戻る!」
僕の目には、僕が来た方へかけていく女性の姿が見えた。
一瞬だけ気を失ったが、痛みはとうに消えていた。
また一度死んだのだろうか。……どうでもいい。
時間さえ稼げればいい。
『無理すんなよ』
(翔殿!一体何を!)
バレルはぶっきらぼうに、天神切さんは焦りながら、僕に声をかける。
「バレル、天神切さん、迷惑かけてごめんね」
背中の矢は気にするな。僕は死なないんだから。僕が諦めない限り、息絶えることはないのだから。
「来い、化け物。僕を殺してみろ!」
「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」
自然と口角が上がる。
笑ってる?何で?
ああ、そうか。多少なりとも僕は。
こんな展開を、望んでいたのか。
面白かったら評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
誤字脱字等ありましたらそちらの方もよろしくお願いします。
相変わらず何時に投稿すれば丁度良いのかわかっていません。