第7話 ナガレモノ
一か月ぶりです。
不定期で申し訳ありません……。
今回からセリフの最後の句点を消してみます。
初めて依頼を達成した日から1週間、僕はコツコツと依頼をこなし続けている。今はとりあえず1日に1つずつ、薬草採取と街の清掃くらいのものだけれど。
時にはちょっと遠い他の区まで1日かけて行く時もあったけど、今ではそれも「日常」の1つだ
ちなみに1日ほぼ歩き続けてもレベルが上がる……もとい下がる様子はない。死ぬ以外に強くなれる方法は何になるのだろう。やっぱり戦うとかかな?
「おじさん、焼き串1本ください」
「あいよ、銅貨2枚ね」
露店で売られている焼き串……焼き鳥のようなものを受け取る。何の肉を使ってるのかはわからない。店らしい店はそんなに多くなく、むしろ常に祭りが行われているかのように露店が並んでいる。
今は本拠地にしている西区の大通りにいる。
北、南、東にも行ってみたけどここが一番活気にあふれていて、活動しやすい。ちなみに東西南北全てに組合の建物はあった。
「うん、やっぱりこれはおじさんのが一番おいしいですね」
「そうかい?そう言ってくれると嬉しいねえ。んじゃ、おまけだ。もう一本持って行きな!」
「いいんですか!?」
「他の奴らには内緒だぞう?」
そう言いながら2本目をくれた。当然これが目当てで言ったわけではない。僕は美味しいものを美味しいと言っただけだ。けれど、嬉しいものは嬉しい。
「ありがとうございます!」
「これからもご贔屓にな~!」
ちゃんと感謝の気持ちを伝えて離れる。
西区は本当にやさしい人が多いな。最初にこの服を買った女性も優しかったし、ラジーニャさんもドグラさんも優しい人だった。
1週間もたつと色々なことがわかってくるもので、この世界……この国?地域?の貨幣制度は金1=銀50、銀1=銅50なんだそうだ。金1枚は銅に換算すると2500ということだ。前も思ったけど振れ幅どうにかならなかったのかな。日本円に換算すれば銅1枚で100円くらいかな。つまり最初にもらった分は本当に遊んで暮らせるくらいあったってことだ。金1枚25万円じゃないか……。そんな大金渡されても使いどころがわからない。
そして技術水準。これは悪くないけどそう良くもないって感じかな。町を一瞥すると木造建築かレンガ造りの家が立ち並んでいる。ガラスはあるけど不純物が混ざっているのかきれいな透明ではない。それに金属を使って作られたものをあまり見たことがない。まあ日本でも金属は骨組み位しか使わないか?そのくらいだから「悪くない」。
問題は水だ。これはドグラさんに言い含められただけで体験したわけじゃないけど、王都に点在する井戸水をそのまま飲んだら病気にかかるらしい。熱してから飲めば可能性は低くなると言っていた。ろ過装置はないということだろう。水を買っていたら支出はバカにならないけど、僕は魔法が使えないからいつも買っている。こればかりは仕方ない。だから「そう良くもない」。
それから、他に召喚された人の噂もこの辺りまで流れてくる。みんな優秀で、特に《勇者》は相当強いのだとか。剣道やってたのが生きてるのかもしれない。あ、でも何かを殺すのには向いてないか。あくまで剣「道」であって剣「術」じゃないもんな。
当然勇者だけじゃなく、他の人たちもみんなめきめきと強くなっているらしい。
だけど、「召喚されたらしい」という言葉はまだ1度も聞いてない。《勇者》たちが強くなっている、というくらいだ。情報統制が敷かれてる……?
『……い!我が主、おい!聞こえてるか!?通り過ぎてんぞ!』
「え?あ、あぁっ!ありがとうバレル」
僕は今日も依頼を達成し、組合に戻るところだった。ちょっと考え事をしていただけですぐこれだ。
『まったく……。相変わらずだなお前は。考え事もほどほどにしろ。しばらく何もない串噛んでんぞ』
「え?あ、ほんとだ」
手には無残にもボロボロになった串が残っている。気づかない間に肉はすべて食べてしまっていたらしい。漠然と美味しいという記憶はあるものの、どのような味だったか正直覚えてない。
「すいません、おじさん……」
『なんもねえところに謝っても意味ねえよ』
バレルが呆れた様子でそう言ってきた。心なしかため息まで聞こえる気がする。
ボーっとしていても仕方ないので、組合に依頼達成の報告に行く。今日の依頼は西区のある路地裏の掃除だった。結構受けていた人はいたようだったが、気づけば自分一人になっていた。この手の依頼は時間指定は特になく、自分が終わったと思った時に終われる。とはいえ1時間は掃除するのが暗黙の了解になっている。
「ルディさーん!いますかー!」
受付に行って声をかける。ルディさんは最初に依頼を受けた時に対応してくれたお姉さんだ。顔見知りと呼べる程度には仲良くさせてもらっている。
「ああ、お帰りなさい。お疲れ様です」
「じゃあ、お願いします」
ルディさんに指輪のスクリーンを見せる。
「……はい、確認できました。ちょっと待っててくださいね~」
そう言って奥に消えていく。一週間繰り返したからいつものことだ。
ちなみに報酬の額もスクリーンに映し出されている。
「今日は3時間もやってたんですね、お疲れ様です。こちら、報酬の銅貨30枚です」
体感では2時間くらいしかやっていなかったが、まじめにやっていれば時間が過ぎるのもあっという間だ。ちなみに不真面目にやっていれば同じ三時間でも報酬が違う。そこまで対策されているとは、この指輪はほんとにすごい。
「ありがとうございます。さすがに疲れたので今日はこれくらいにして宿に戻ります」
「はい、冒険者にとって体は資本ですからね。特になりたてのショウさんは無茶しない方がいいでしょう。体を休めて、また明日、頑張ってください!」
組合を出て西門側に少し歩くと今泊っている宿がある。いや、そこ以外にも何軒かある。組合が近いためだろう。ちなみに僕が今泊っている宿は一泊銅貨10枚だ。
よく忘れそうになるがここは王都だ。そのためいろんなところから人がやってくる。その人たちに対して宿は結構たくさんあるのだ。
「とはいったもののまだ全然暗くないし、ちょっと散策しようか」
『まあ勝手にしろよ。いまお前を縛るものは何もねえんだし』
露店の場所は毎日変わる。熾烈……ではないがちょっとした場所争いがあっているためだ。まあ場所争いと言っても自分の家から近いかどうか、くらいしか判断基準はなさそうだが。
というわけで宿周辺の露店を見て回る。
そこで露店にしては面白いものを見つけた。
「武器の露店?珍しいな」
『武器だと?この俺という存在がありながら他の武器を使うというのか!?』
「いや君銃としての機構軒並み潰されてるでしょうが」
『ハッハッハ!それもそうだ!』
ちょっとだけ気になったため置いてある武器を見てみる。
大体の物が銀貨5枚、つまり大体2万5千円を超えている。見たところ戦闘で使える真剣のため、その高さにもうなずける。
置いている武器はほぼすべてが両刃の剣だった。それぞれ造形は全く異なるが、それでも剣と言える代物だった。一部には鞭とかも混ざってるけど。
そんな剣の中に、一つだけ異彩を放っている武器があった。
「あの、これ、触ってもいいですか?」
「お、兄ちゃん、そんなもんが気になるのかい?構わないが……どうだ、今なら安くするぜ?」
許可が出たため持ち上げる。ずしりと重い。たくさんの剣の中に1つだけ混じっていたもの。それは刀だった。しかも男心をくすぐる白木拵えだ。鞘を抜くと陽の光に照らされて煌々と輝く銀色の刀身。カッコイイ!
でもなんでこれが異世界に?この世界にも元々刀が存在していた?
「これは……何ですか?」
「それはナガレモノっつってな。いつの間にかそこらへんに打ち捨てられてるものだ。武器としては細くて薄くて反ってて使いにくそうだろ?物珍しさで入荷したはいいが誰も買っちゃくれねえ。銀貨1枚でいいから買ってくれねえかい?」
ここ一週間、日に銅貨30枚ほど稼いで20枚使ってあとは溜める生活だ。単純計算で銅貨70枚は残っている。しかし……。
「ここはあれから出そう」
あれとはそう、初日に買った財布に入れていたちょっとした金貨だ。なぜか盗賊さん(仮称)はこの財布を盗っていかなかった。
万が一何かがあった時のためにと、虎の子の1万円札みたいな感じで隠し持っていたのだ。
「おじさん、それ、買うからちょっと取り置いててください」
「ああ、買ってくれるならいくらでもいい」
よし、言質は取った。
急いで組合に行き、金貨を銀貨50枚に換金してもらう。ルディさんはちょっと怪訝そうに見たけど、勇者として召喚されたけど弱くて金持たされて追い出されたとか言ったことないから仕方ない。
「それがあるのならしばらく依頼を受ける必要はないんじゃないですか?」
「そ、それはそうですけど別になくて困るものでもないですし……」
「ふふっ、冗談です。銀貨50枚、どうぞ」
「なんかすみません。事情は今度話すので」
そんなやりとりをしてまた露店に戻る。
「すいません、銀貨1枚ですね。これでいいですか?」
「ああ、助かるよ。物珍しさで変なもん入荷するんじゃねえな」
「じゃあ、失礼します」
「おう、毎度あり~」
さて、じゃあ宿に戻ろうかな。
と、見た目は冷静に取り繕っているが内心ルンルン気分だ。
仕方がない、男の子の憧れを入手してしまったのだ。これで浮ついた気分にならない方がおかしい。
「宿に戻ったらさっそく精査しよう」
『まさかこの世界で刀を見るたあな。しかし我が主、使えるのか?刀なんぞ』
「使えるよ、扱えないだけで」
『こいつ、一丁前に屁理屈を言いやがって……』
しかし刀を入手したのはいいがどうやって携帯するか……。腰に差したいところだけどベルトないしな。というかそろそろ新しい服が欲しい。一応毎夜洗ってほしているが、初日に買った服と学生服のズボンしかもっていない。学生服の上は槍で刺されてとても着れたものじゃない。
とかいろいろ考えていたら宿に着いた。また通り過ぎかけた。
いつも通り銅貨を10枚カウンターに置く。
「今日もお願いします」
「あいよ、いつもと同じとこでいいかい?」
「大丈夫です」
いつもの部屋……階段を上がって2階に行ったすぐ近くの部屋に入る。人一人でちょうどいい大きさの部屋だ。畳とか帖とかそういう単位はよくわからない。扉とは反対側に窓が一つ、窓側の壁に沿うように簡素な作りの机があり、机に向かえるような椅子もある。扉から向かって右側にベッドがある。奥の隅にはカーテン付きの水場もある。水はあらかじめ買っておく必要があるけれど。結構いい部屋だ。
入るや否や刀の精査を始める。自分でもテンションが上がっているのがわかる。
『おい』
「ああ、ごめんごめん」
リュックに入れられたまま放置され不機嫌になったバレルを机の上に置く。
椅子に座り、刀を抜く。
「すっごく綺麗だね」
『いつ打たれたものかはわからんが、現役で使えそうだな』
ちょっと怖いが、刃に人差し指を押し付ける。
ちくっとした痛みとともに、赤い液体が滴っていく。
しかしそれも一瞬のことで、傷はすぐに塞がってしまった。
「うん、真剣だ」
『いきなりやるのは見ててビビるからやめろ』
「え?ああ、ごめんね」
正直な話、この体質になって一週間、もう慣れてしまった。ちょっとした怪我でも治ってしまう。「不滅の肉体」は何も大きい怪我にのみ発動するわけではないらしい。ありがたい。
ともあれ、僕はこの世界に来て初めてまともな武器を手に入れたわけだ。
「万が一があるからナイフの一本でも持っていたかったんだけど、まさか刀があるとは思わなかったよ」
『ま、お前がいいならそれでいいんじゃねえの?』
これからもギルドの依頼を頑張ってこなしていくとしよう。
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