第6話 依頼の達成とある秘密
お久しぶりです、飛縁魔です。
前話から2ヶ月ほど経ちました。申し訳ありません。
本当に不定期更新になります。
でも常に書きたいシーンは考えてます。そこに行き着くまでが長いだけで……。
これからも応援よろしくお願いします。
「さて、そんじゃあ大まかな説明だ。まずランク。これは大きく3つに分かれてる。上から高ランク、中ランク、低ランク。その中でさらに甲、乙、丙、丁の4クラスに分かれてる。一番低いのが低ランク丁クラスで、一番高いのが高ランク甲クラスってことだな。全員最初は低-丁からスタートだ。ここまでで質問あるか?」
「質問……あ、ランクについてじゃないですけど、身分証にしては結構簡単だと思うんですけど、大丈夫なんですか?」
冒険者組合の登録を済ませ、晴れて冒険者となった。そのため、ちょっとした事前説明を受けることになり、今に至る。
そういえば冒険者ってなんなんだろう。冒険者が日常的な依頼をこなすのか?冒険とは……いや、考えないほうがよさそうかな。
「あー、まあそうだな。冒険者にゃ15超えてりゃ誰でもなれる。極論、プレートだけあれば作れるからな。厳正な審査とかそんなものはないし、身分証として簡単に作れるのは確かにその通りだ。
だがな?冒険者になる奴は大体金を稼ぎに来てる奴らだ。さっきの規約にも書いてるが、冒険者として相応しくねえ行動をとった輩には報酬を払えねえから、必然的にできた人間になる。だからこそ身分証として扱えるってこったな。」
「そうか、考えてみればそうですね。」
「まあ低ランクの上位にいる奴らがたまにやらかして剥奪されたりしてるんだがな。大人しくしてりゃそんなことねえから安心しろ。」
なるほどな……金が欲しければちゃんとしろ、ちゃんとできるなら身分証として扱っていいってことか。一応理にかなってはいる、のかな。
いや、でも……。
「万が一虚偽の報告があった場合はどうなるんですか?」
「そう、それが今度は実績の項目に繋がってくる。この指輪はどういう原理か知らねえが、特定の紙を吸い込む性質を持ってる。この中に依頼書を入れることで、その依頼が受理されるんだ。で、達成した段階で実績が更新される。それを確認して報酬を払うわけだ。
でな?これまたなぜかは知らんが、どうやって達成したかまで事細かに書かれてるんだ。だから、不正があってもすぐにバレるわけだ。
ちなみに調べれば行動までわかるから裏で変な行動してるかどうかもすぐわかる。
意味わかんねえよな神具ってやつは。」
やっぱりプレートと同じ神具……。あれ?そういえばプレートも指輪も大量に必要な物だけど……複製とかはできないはずだよね?どうやってるんだろう……。
いや!難しいことは考えないに限るね!実際それで困ってるわけでもなし、どこかで無限に取れるんだよきっと!
「ランクと実績については以上だ。あ、と、は〜……うむ、あとは依頼の受け方だな。建物に入って向かって右に掲示板がある。その中から自分が受けられるランクのものを選んで、依頼書をカウンターに持っていけばいい。
特定の数達成したら、上のクラスに上がるための依頼を職員が割り振れるようになる。ランク、クラスが上がればその分難しい依頼を受けられる。当然報酬も増えるから、積極的に上げにいっていいと思うぞ。
まあ日常部門だと難しいっつっても生死に関わるものは基本的にない。その点は心配いらねえな。」
「自分より低いランクの依頼も受けられるんですか?」
「2クラス下の依頼までなら受けられる。低-甲なら低-丙までってな具合にな。新人の邪魔はしねえ方がいいからできれば同じクラスのやつがこっちとしては嬉しいんだがな。」
生死に関わらないならガンガンクラスを上げに行った方が稼げそうだな。不死とは言っても痛みはあるし、出来るだけ血は見たくないし……。日常部門じゃない方がなんていうのかは知らないけど、そっちには行かないだろう。
「2つの部門にはランクに互換性とかはあるんですか?」
「部門に分けてるっつっても詳しく言えば日常的な依頼だけ別の掲示板に貼り出してるだけだ。大体が低ランクに集中してる。やろうと思えば低ランクの討伐依頼もやれるぞ。」
互換性はある、というか日常的な依頼はランクが低いのか。
つまり低ランクに簡単な討伐依頼と日常依頼、中ランク以上に死の危険があるような難しい依頼がある、と。
部門に分けてるって言ってたけど、実際は言葉の綾みたいなものなのかな。
「あ、報酬の受け渡しタイミングはいつですか?」
「カウンターに報告に来た時だ。薬草採取やら討伐やらの依頼は現物との引き換えになる。薬草採取はともかく討伐は小僧にゃ関係ねえだろうがな。」
「討伐って何を持ってくればいいんですか?僕はやらないと思いますけど。」
「それは依頼書に書いてある。討伐依頼は大抵が「増えすぎて困っている」か「素材が欲しい」のどっちかだ。前者は最悪何も持ってこなくていいが、後者は素材を持ってこねえと達成したことにならないぞ。」
「素材の買取とかはどうなってるんですか?」
「素材が欲しいやつの依頼の場合は報酬の中に含まれてる。適正値で買ってるか精査してるから買い叩かれるようなことはないから安心しろ。増えすぎた動物の討伐なら売れそうな素材をうちのカウンターに持ってくればいい。」
なるほどね。
ここのシステムはある程度分かった。これ以上質問することはないだろう。
これでお金の問題は解決したと言っていいかな。
早速今日から何かした方がいいだろう。お金がないから食べるものがない。
「もういいのか?」
「え?」
「黙りこくっちまって。もう質問はねえのか?」
「あ、はい!色々教えて頂き、ありがとうございました!」
「ルールに基づき、死傷者をできるだけ出さねえようにするのが俺の仕事だ。質問があるならすぐに聞いてくれた方がありがたい。ショウ、その点でお前は優秀だ。これからも疑問に思うことがあればすぐに聞くといい。」
「ドグラさん……!わかりました!これから、よろしくお願いします!」
「おう、こちらこそよろしくな!」
事務所を出てホームに戻る。
掲示板を確認に……いや、ちょっと休憩しよう。ドグラさん、いい人なんだけど圧が強くて緊張しちゃうな。
ちょうど良さそうな席が空いていたため、他に座りたい人がいないか確認して座る。
「ふぅ……。」
こっちの世界に来て2日目だけど、まさかこんなことに、殺されて生き返ってお金に困ることになるとは毛程も思っていなかった。
「全く、人生何があるかわからないね、バレル。」
『お?もう喋っていいのかい?我が主。てかそもそも殺されたのはお前の不注意じゃあねえかよ。』
制服のブレザーが着られなくなったために今は鞄の中に仕舞われているそれに話しかける。
それは無機物であるにもかかわらず意識を持ち、こうして僕と話すことができる。この声は僕以外には聞こえない。
「それはそうだけど……。それにその呼び方はやめてって前から言ってるのに。」
『なーに言ってんだよ。我が主は我が主さ。ところでこっから出してくれよ。窮屈ったらありゃしねえ。』
「今は他に仕舞う場所がないから我慢して。」
僕は呆れた声で説得を試みた。
彼とはもう10年以上の付き合いだ。それこそ勇とどっちが長いかわからないくらい。だからこそこうして気兼ねなく会話することができている。
傍から見たら一人で喋っている変態なのだけれど。
『じゃあ依頼受けて出ようぜ。外の空気が吸いたい。』
「呼吸器ないくせに。」
『言ったなコノヤロー。』
この通り、我が主と言いながら敬うつもりは全くない。これが彼というモノなのだ。
彼に催促されたのもあり、休憩もそこそこに席を立って掲示板を見に行く。何かちょうどいいものは……っと。
「薬草採取、低-丁ランク、HP回復に使用するための薬草を10本……。最初はこういうのをやればいいのかな?」
『そうだろうぜ。だがお前薬草わかるのかよ?』
彼に言われてハッとした。僕はこの世界の薬草がわからない。というかそもそも元の世界でも傷によく効く植物とか全くわからない。
「とりあえず受付で聞いてみるよ。」
『それでダメなら?』
「別の依頼を探す。」
『OK、上出来だ。さすが我が主。』
ドグラさんに言われた通りに、依頼書をカウンターに持って行く。
「す、すみませーん。」
「はい、なんでしょうか?」
一番近くにいた受付のお姉さんが対応してくれた。
薬草のこと、わかるといいけど……。
「依頼を受けるのが初めてで、薬草のこととか何もわからないんですけど、この依頼受けても大丈夫ですか?」
「初めての方なんですね。そういう人はよくいらっしゃるので、安心して大丈夫ですよ。」
僕みたいな冒険者に似つかわしくない人間でも優しく接してくれた。この人はいい人だな。経験上よくわかる。
お姉さんは地図と本を持ってきて見せてくれた。
「これがここ、王都フリーレンの地図になります。ここの組合があるのが西区の大通りに面した、この辺りです。」
王都フリーレン……。そう言えばこの街の名前も知らなかったのか僕は。王様は王都としか言ってなかったし。
地図を見る限り、王都は円形になっており、中央に城がある。ここが僕たちが召喚された場所だろう。
そして城を交点として東西南北を結ぶ大通りがあり、その先にはそれぞれ東門、西門、南門、北門とある。
この組合は西側の大通りにあったらしい。
この距離であれば僕が昨日から今朝にかけて通った門は西門になるのだろう。
「最も近い場所ですと、西門を出て左前方に林がございます。そこが薬草の群生地の一つですね。」
林。僕が殺された林。あそこか……。正直あんまり行きたくない。でも遠くまで行く必要もないし、そこしかないだろう。
「で、この依頼はHPを回復するための薬草の採取ですので……この本のこのページのものがそれに当たります。」
お姉さんが開いて見せた本には何種類かの植物が描かれていた。これらが全て薬草になるのだろう。
「この中であの林に生えているものはこれですね。」
そう言って向かって左ページの右下の植物を指し示す。この植物、元いた世界でも見たことあるような気がするんだけど……。思い出せないや。
「この本、借りて行くわけにはいきませんか?」
「申し訳ありませんがそれはさすがに……。紙とペン、インクをお貸ししますので、絵を描いて行くのはいかがでしょう?」
「いいんですか!?」
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
紙、ペン、インクを受け取った僕は絵をじっくり見ながら描き写した。インクを使うタイプのペンは初めてなので、そこそこ時間がかかったのはナイショだ。
「これ、ありがとうございました!」
「大丈夫ですよ。では依頼を受理します。指輪をお出しください。」
依頼書が指輪の中に吸い込まれる。
神具ってホント意味わからないな……。
「行ってらっしゃいませ、お怪我がありませんよう、ご注意くださいませ。」
「は、はい。行ってきます。」
最後のは形式的なものかもな。
それはともかく、さあ行こう!
建物を出て西門を目指す。道はもう覚えた。というか大通りをまっすぐ進むだけだから覚えたも何もないんだけど。
今何時かよくわからないから、人通りの多さはよくわからない。もっと賑やかになったりするのだろうか。
やがて西門が見えてきた。
今朝と同じくラジーニャさんが門番をやっている。
「ラジーニャさん!」
「おお、今朝の坊主か。どうだった?」
そんなことを聞かれたため、何も言わずに右手の人差し指を見せる。
「ちゃんと登録できたみたいだな。今から薬草採取か?」
「わかるんですか?」
「そりゃ長いこと世話になってたしなぁ。登録して一番最初にやる依頼は薬草採取が基本なのは暗黙の了解みたいなもんだ。」
ラジーニャさんは懐かしむように組合がある方向を見ていた。この人は冒険者から、どんな経緯で門番になったのだろう。
「それじゃ、行ってこい!」
「はい!行ってきます!」
街の外に出て林に行く。
とりあえず昨日僕が寝た場所に来てみた。異変は特にない。昨日殺されたにも関わらず、だ。
『昨日のとこか?』
「うん。」
『さっさと出せ。』
バレルに急かされて鞄から取り出す。
1丁の拳銃。それがバレルの本体だ。
拳銃と言っても古式拳銃だ。いつのものか、誰が使っていたものか、どこで使われていたものか、全くわからない。僕が5歳になった頃、曽祖父ちゃんにもらったものだ。
普段は制服の右の内ポケットに、一応登録証と一緒に持ち歩いている。
当然弾丸を打ち出す機能は潰されている。
今ではただの喋る骨董品だ。
『ふ〜!ああ、いい空気だぜぇ。』
「バレル、なんで、血が飛び散ってないんだろう。」
『肉体の再生時に全てが巻き戻るように修復されるからだ。飛び散った血は全部あんたの体に戻ってきてるよ。』
「見てたの?」
『当然。』
不滅の肉体……その本質は修復という名の巻き戻しらしい。
今朝も左胸を見てみたが、傷痕は存在しなかった。それならばまあ、理由は理解できた。
『依頼こなしに来たんだろうが。さっさと10本見つけて帰るぞ。』
「そうだね。」
あたりを見回すと、それなりに見つけることができた。
さらにその場からもう少し足を伸ばすと、群生地らしく大量に生えていた。
「わ〜……。10本どころの話じゃないね。」
『あの冒険者連中、マナーなってるじゃねえか。取り尽くされてねえ。やろうと思えばできるはずなのにだ。』
「まあまあ、これだけあるんだし、環境とか見栄えとか考えてまばらに10本取って行こう?」
『そうしとけ。取りすぎたらアウトだろうしな。』
そうして現代日本でも見たことのあるような薬草を10本、摘み終えて組合に戻ることにした。
「バレル、この植物、見たことない?」
『あ?鈴蘭だ鈴蘭。使用用途はまるっきり逆だがな。お前が知ってるやつは毒の塊だよ。』
「ああ、鈴蘭か!やっぱりバレルは物知りだねぇ。」
『うるせぇ、帰るぞ。』
「わかってるわかってる。」
バレルに許可を取って、鞄に入れて組合に帰った。
依頼を受理してくれたお姉さんに持って行き、指輪のホログラムから見える依頼内容と薬草を確認してもらう。
「はい、おめでとうございます。これで依頼達成です。報酬は銅貨が10枚ですね。どうぞ。」
「ありがとうございます!」
こうして僕の初依頼は成功を収めて終わったのであった。
ところで銅貨10枚って何ができるの?
誤字脱字等、報告お願いいたします。
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