第5話 冒険者登録
三日坊主です申し訳ありません。超超不定期更新になります。本当にすみません…。
翌朝、木々に囲まれる中で目を覚ました。まあ林の中で寝たから当たり前なんだけど。
「太陽の方向を見ると……なんて、わかるわけないけど。ん~、どうしようかな……。」
昨日会った男に殺されたうえ王様にもらったお金も盗まれたんだよなあ。あ~あ、この先2か月分の資金が……。とりあえず昨日買った服に着替えて王都に戻ろう。
林から微妙に遠いな、門。
「おお、昨日の坊主じゃねえか。無事だったか。」
昨日の兵士さんが声をかけてきた。
「最近強盗が出ててな。心配だったんだぞ?なんでも殺された人間もいるって話だ。」
「あ、ありがとうございます。」
件の強盗に一回殺されたとか死んでも言えない。冷や汗とか流れてないかな、僕。あ、でもお金盗まれてるからなあ……。報告しとくべき?ん~……。やめとこう!まずは何でこんなことしてるのか聞きたいし。なんか生活に困ってるわけじゃなさそうだったからなあ。
純粋な興味だけで自分を殺した相手に会うのもどうかと思うけど……。
「どうした?ボーっとして。」
「いいえ、何でもありませんよ。」
「そうか。犯人を捕まえるまで変なことはしないほうがいいぞ。」
「御忠告ありがとうございます。それでは。」
「おう、気ぃ付けろよー。」
ふぅ、あんまり知らない人と話すのは緊張するなあ。兵士さんはやっぱり慣れてるのかな。あ、お金稼ぐ方法聞くの忘れてた……。んー、まともに話せるのあの人くらいだし、戻って聞いとこう。
「すいません、兵士さん。」
「ん?どうした坊主。戻ってきて。」
「ここら辺でお金を稼ぐ方法、何かありませんか?」
「金稼ぎねぇ。それならここに行ってみろ。」
何やら1枚の紙を渡された。これは……地図だ。ある場所に赤い丸で印をつけられている。
「そこはまあ、一言で言やあ便利屋だ。日常的な依頼が毎日舞い込んでくる。俺の紹介だと言えば話くらいは聞いてくれるだろう。」
「ありがとうございます!」
「あー、でも名前言ってなかったな。俺はラジーニャ。こうやって兵士してるが、元々は平民だから苗字はねえぞ。まあ平民だからこうして門番させられてるんだが。」
平民は苗字がないのか……。
で、ラジーニャさんの言い方からすると兵士は普通平民じゃない人がなるのかな?
「早速行ってみます。」
「おう、行ってこい。」
ラジーニャさんと再度別れて印の場所に向かう。門から比較的近い位置にあったから、すぐたどり着くことができた。
けど。
「なんかすごい体格の人が出入りしてる……。あの人たちが?日常的な依頼をこなすの?うわっ!完全武装してる人とかいるよ……。」
借りた本で見た。ここ絶対冒険者ギルドとか言われてるやつだって。僕が来ていいような場所じゃないって。
むしろ日常的な依頼とかあるの?って感じだよ……。
でもまあせっかくラジーニャさんが教えてくれたんだし、怖いけど行ってみるしかないかな。
「お、お邪魔しま〜す。」
別にそんなこと言う必要はないけど、雰囲気的に小声で言ってしまった。
カウンターが目につく場所にあった。みんな同じ制服を着てるし、あそこに言えばいいかな。
カウンター内の女性に話しかけることにした。
「あの〜、すいません。」
「はい!……見たことない顔ですね?登録ですか?」
「詳細はよくわかんないですけど、門番のラジーニャさんの紹介で……。」
「門番の、ラジーニャさん、ラジーニャさん……ああ!ちょっと待っててくださいね!」
そう言うと女性は後ろに引っ込んでいった。ラジーニャさんを知ってる人でよかった。知らない可能性もあったからね。
女性が言うとおり待っていると、これまた屈強な男性が奥から現れた。ラジーニャさんよりも年上……大体4、50歳くらいかな?腕の太さとか僕の倍はあるぞ、あれ。
「ラジーニャの紹介で来たっつう奴はおまえか?」
「は、はい。」
「よし、ちょっとこっち来い。カウンターの中入ってきていいから。」
「え?わ、わかりました。」
招かれるままカウンターの中に入り、そのまま奥の部屋に通される。さっき女性が入っていった部屋だ。壁一面に棚が配置されていて、書類が入れられている。
「そこ座っていいぞ。」
「し、失礼します。」
機嫌損ねたら殴られたりするかもな……。そんなことを思いながら男性からテーブルを挟んだ向かいの椅子に座る。
「そう硬くなるな、何もしないさ。……さて、ラジーニャのやつに紹介されたって話だったな。小僧、なんでここに来た?」
「えっと、当面の生活費がなくて、偶然知り合ったラジーニャさんに相談したらここを勧められたんです。」
「なるほどな。あいつからはなんて聞いてる?」
「一言で言えば便利屋だと……。」
「はっはっは!便利屋か!言い得て妙だな!」
男性は立ち上がりながらそう言った。そのまま奥の机に向かい、何か飲み物を作り始めた。コーヒーみたいな香りがする。
「あいつも一時期ここにいたんだ。まあ便利屋っちゃ便利屋だな。」
「日常的な依頼が毎日舞い込んでくるって言ってましたけど……。」
「ああ、そういう依頼もよく来るな。だがうちの場合は物騒な依頼の方が多く来る。小僧みたいになよっとした奴にゃできなさそうな依頼だな。」
やっぱりそういう場所じゃないか!冒険者ギルドだってここ!やめとけばよかった!
「だからまあ、それぞれ部門ごとに2つに分けられてんだ。物騒な依頼をこなす奴らと、日常的な依頼をこなす奴ら。小僧は後者に来ればいい。」
「そんなことやってるんですね。」
「ああ。ほら、飲め。」
「あ、ありがとうございます。あ、おいしい。」
見た目と匂いはコーヒーそのままだけど味が全然違う。シュガーとかミルクとか入れてる様子はなかったけどとても甘い。苦みが全部甘味になったような。でも甘すぎるわけじゃない。カフェオレが近いかな。
無骨な見た目に反して繊細なことできる人なんだ。
「で、どうする?来るか?」
まあ正直に言えばめんどくさいっていう気持ちはあるけど……。働かないと食べていけないし。本当に日常的な依頼だけやっていればいいのならこれほど助かることはない。
「はい!お願いします!」
「よし、じゃあプレート出せ。」
男性が笑顔でそう言う。プレート……ステータスプレートだな。そういえば他人には僕のレベルはどう映るんだろう。
取り出して渡す。
「いいですけど……。」
「ほう、苗字持ちか。しかし貴族じゃなさそうだな。何々……。ふむ、これは……レベル0……スキルは2つ……魔力は0か……。小僧、こいつぁ前例がない。レベルが0のやつなんざ今まで見たこともねえ。それっぽいスキルもないしな。体に異常はねえか?」
あ……ご都合主義的展開でレベルが普通通りとかそんなことないんですね……。
そして僕が見えるようになった後も3つのスキルは見えない、と。
「はい、特に異常はないです。その……誰にも見えないみたいですが、レベルが下がるほどステータスが上がるスキルがあるんです。信じてもらえなくても仕方ないですけど……。」
「……。」
男性は厳しい目つきで僕を見ている。ぶっちゃけ怖い。こんな屈強な人に睨まれたらそりゃ緊張もするって!
「嘘はついてねえな。」
「え?」
「いやな?職業柄、その人物が嘘ついてるかくらいは見分けられるようになったんだ。こんな時に嘘つけるような人間じゃねえだろ?小僧は。」
いやあなたほどの人を前にして嘘つける人そうそういないと思いますけど!?と言いたいところをグッと抑える。
「嘘は……あんまりつきたくないですね。」
「だろ?よし、あんたの言うことを信じよう。が、このプレートは人に見せねえ方がいいだろう。本当にレベルが下がってくってんなら、それほど珍しい奴はいねえからな。ヒトカイの奴らが黙ってねえ。」
ヒトカイ……もしかして人買い?え?人身売買とかあるのこの世界。昨日殺されたのはまだマシな方だったのかもしれないの?現代日本人の感性的に買われたら奴隷になる……よね?
……よし!このプレートもう誰にも見せない!
……街から出れなくない?
「あの、プレートを見せないと街から出られない……ですよね?」
「あ?ああ、まあ他に身分証になるやつ持ってなきゃそうだな。」
「じゃあ……。」
「心配すんな!他に身分証を作りゃいいだけだ!入るんだろ?うちによ。」
「そ、そのつもりですけど……。作れるんですか!?」
「おう、プレートの情報を下地に簡単にな!公開情報は名前とランクと実績だけだから小僧にとっても都合がいいだろ?山のこっち側の世界共通で使われてる身分証だ!どこ行っても使える代物だぜ。」
名前とランクと実績……。うわー、ギルドってほんとにランクとかあるんだ……。今更だけど異世界に来たって感じするなあ。いやほんと友達に貸してもらった1冊分しか知識ないけど……。
「じゃあ、お願いします!」
「よし来た!表は騒がしいからな、ちょっとの間ここで待ってろ。プレートは借りていくぞ。」
「え?ここで作るとかじゃ……ないんですか?プレートを持って行かれるのは、ちょっと……。」
「ハッハッハ!警戒心が強いのはいいことだ!すまんが試させてもらったよ。うちに入る以上、そういうのがよくよく必要になってくる。」
知らないうちに試されてる!?引き止めてよかった……。この人は確かに信頼に足る人物だと思うけど、さっきの人買い云々の話を聞いて簡単に貸そうと思えるほどバカじゃない。つもりだ。
「ほら、返すよ。ちょっと待ってな。ああ、書類には触るなよ。」
「さ、触りませんよ!」
そう言って男性は部屋から出て行った。このプレート、肌身離さず持ち歩こう。昨日までは普通だったからいいけど、これから先はどんどん変な数値になっていくはずだ。見られたら困る。
しかし本当にすごい書類の山だ。もしかしてこれ全部依頼だったりするのかな?……冷静に考えてこれだけ異常が発生してればこの国と周辺大惨事か。まあ触るなって声に出すくらいだし、よほど大事な書類なんだろうな。
あ、そうだ。
「スマホに色々メモしとこう。」
いつかは充電も切れるだろうけど、それまでは情報を整理する手段として使おう。どうせ電波届かないしね。……物に残る紙に書いた方がいいのでは?
……ま、いいか。面倒だし。紙で指切りたくないし……血、見たくないし。
バッグからスマホを取り出してメモアプリを開く。
えーっと……。
異世界
・山の向こうから魔族
・ステータスの低さから城を出された
・金貨の価値は銀貨50枚分
・城下町結構広い
・街の外は危険
・死んだらレベルアップ(ダウン)
・ギルド(?)は山のこっち側共通
今のところこんな感じ?銀貨があるってことは銅貨もあるだろうし、それが銀貨何枚分かも知りたいかな。おいおいでいいけど。
……スマホ、この世界だと絶対オーバースペックだからこれも人前で出さないようにしよう。そう考えながらバッグに戻したのだった。
とまあ云々考えていたら男性が帰ってきた。
「よう、待たせたな。」
「いえ、大丈夫です。それよりそれが……?」
男性は紙とペン、それに小さい宝石のついた指輪?をいくつか持ってきた。
「ああ、これが身分証になる、冒険者の指輪だ。みんな指輪とだけ呼んでるがな。プレートと似たようなもんかと思ったか?」
「はい、何かこう、カードのようなものかと。」
「まあそう思うのも仕方ねえな。とりあえず規約読んで必要事項書きな。名前、年齢、住所だ。」
「じ、住所……ですか……。その……ないんですけど……どうすればいいですかね?」
住所書くのか!元々この世界にいないから住所ないぞ!これもうダメかも……。
「あー、たまにそんな奴いるんだよなあ。まあ何かあったとき親元に連絡いかんだけだ、あるなら書いた方がいいが、書かん奴もたまにいるし名前と年齢だけでいい。」
「わ、わかりました。」
ふう、助かった。えっと、名前……平民は苗字を持ってない=苗字を持ってるのは貴族だけって考えていいだろう。ここは名前だけだな。
名前、ショウ、年齢、17、と。
規約の内容は……命を落としても責任をもたない……。命、落とすこともあるんだ……。他にも色々あるけど、大体は当然のことだな。人に危害を加えないとか、他の登録者との諍いを禁ずるとか。
「これで大丈夫ですか?」
「ちゃんと読んだな?ほう、苗字は書かなかったか。賢明な判断だ。……よし、大丈夫だな。次だ、手を出せ。」
「え?はい。」
「……なるほど、細いな、小僧。まあその細さならこれでいいだろう。人差し指にはめてみろ。」
さっき持ってきてた指輪か。人差し指ね。……しっかりはまるな。それに外しやすい。外れやすいわけじゃないけど。
「どうだ?」
「多分、これでちょうどいいです。指輪は付けたことないですけど……。」
「じゃあそれでいいだろう。渡せ。」
「はい。」
名前を書いた紙に指輪を包み込む。そのままぐしゃぐしゃに潰して手に乗せて……。
「永劫の羅針盤、指し示すは炎、我が望むは火炎。ファイア!」
掌の上に小さな魔法陣ができる。さらにその上には炎がみえる。
つまり燃やした。
燃やした!?ていうかこれ魔法!?
「あ、あの、これは!?」
「小僧、魔法を見るのは初めてか?自分の魔力を消費して発動するもんだ。見ればわかるだろうが、これは火を出す魔法だ。魔力0の小僧には使えないだろうが、この程度の魔法は誰にでも使えるぜ。」
ああ、魔力ってやっぱりそういうものなんだ……。残念……。
ん?火が指輪に吸い込まれてる?
「まあこんなもんだろう。ほれ。熱くないから付けてみろ。」
「は、はぁ……。」
ほんとだ、熱くない。数秒前まで火に包まれていたとは思えない。どう見ても金属なのに。
これも神具なのかな?
「念じれば詳細な情報が出てくるぞ。」
「念じれば?えーっと…出ろ!」
宝石からホログラムのように情報が表示された、名前、ランク、実績の3つの項がある。
「消したいならそう思えばいい。」
「消えろ!うわ、消えた。」
「思えばいいだけだから声に出す必要はねえんだぞ?」
「あ、あはは……。」
恥ずかしい!でも、これで……!
「ようこそ!冒険者組合へ!俺たちは助け合って生きてる。仲良くやって行こうぜ!俺はマスターのドグラ!歓迎するぜ!ショウ!」
「はい!よろしくお願いします!」
……あっ「ギルド」って名前じゃないんだ。
誤字脱字等報告お願いいたします。
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