第4話 理由 〜勇side〜
今回は勇視点で物語が進みます。
「ふわぁ〜……。朝……。そうだ、異世界に来たんだっけ。」
目が覚めると知らない天井だった。
俺、八代勇は昨日、登校中に異世界に召喚された。なんでも聖山の向こう側から魔族が攻めてきたらしい。それを退けるのが俺たちの仕事なんだとか……。
正直まだ信じきれてないけど……。見せられた映像が嘘かどうかもわからない以上、疑心暗鬼になってでも従った方がいい。だって、右も左も分からない場所で一人放り出されるよりマシだろうから。
そう思いながら寝る前に兵士に言われた通り、クローゼットから着替えを取り出していた。
テーブルと対になっている椅子に着替えをかけた時、テーブルの上に何かがあるのを見つけた。
「手紙……?」
『勇へ
ステータスが低すぎるため、王様の提案で平穏に暮らすために城を出ます。一応追放という体
になるけど、王様は僕の身を案じてくれたよ。色々と頑張って。また明日って約束、守れなくて
ごめんね。でもきっとまたいつか会えると思うから。それじゃあね。あ、このことは秘密ね。
翔より』
これは……どういうことだ?翔が追放?ステータスが低くて?
確かに翔のステータスは他の人に比べて相当低かった。でも追放するまでじゃ……。いや、「追放という体」か……。
これは王に話を聞く必要がありそうだ。
コンコン、と扉を叩く音がした。
誰だ?
「勇者様、王がお呼びです。」
多分だが、どうやら王もそのつもりらしい。
☆・☆・☆
「……どのようなおつもりですか。」
俺は翔の手紙を持って王に返答を求める。
「君には本当のことを話せと、ショウに言われてね。彼のステータスが低すぎるのはわかっているだろう?」
「それはまあ、わかります。」
「だから彼を危険から遠ざけるために、城から出るように伝えたんだ。表向きには異世界から来た救世主としての器にないために追放、ということでね。」
「元から遠ざけるために、では駄目だったのですか?」
それでも別に問題ないと思う。
確かに翔のステータスは低かったが、ここで保護するわけにはいかなかったのだろうか?俺としても友人が近くにいないのはソワソワして落ち着かない。
「いや、この世界にはステータスが低いものは恥ずべき者、という風潮がある。ただの風潮ゆえ、城下町ではそこまで気にする者はそう多くないが、城には貴族が来ることが多い。あれらにバレると彼がどうなるかわからないのだ。あまり気にして欲しくないのでな、彼自身には伝えてはいないが。」
「城で保護していればいずれバレる……と?」
「そういうことだ。」
その話を聞いて納得した。まあもしそうなったところで翔のことだ、自分でどうにかしそうな気はするが。
あいつはあれで滅茶苦茶面倒くさい性格をしている。何しろ諦めるという言葉を知らない。あいつはよく俺のことをすごいすごいと言ってくるが、俺からしてみればあいつの方がすごい。
小学生の頃、運動会で短距離走に選ばれてた。相手には足が速いやつがいた。みんな無理だと言った。あいつもそれは理解してた。それでもあいつは決まって言うのだ。
『どうなるかわからないから。』
ただただひたすらに、空き時間には走ってた。でも結局努力が報われることはなくて、最後に相手を抜いて1位になるとかそんなドラマはなかった。
あいつは悔しそうに泣いてたけど、頑張ってるあいつの姿に刺激されたのか、クラス単位では勝つことができたのだ。
翔がいるクラスは運動会に絶対勝てる、とかいうジンクスもあったっけか。
それ以外でも、翔がいるクラスは〜というジンクスはたくさんあった。成績が上がるとかみんな合格するとか。
だから俺はあいつを尊敬してるんだ。
「それならば納得です。」
「他の者にも、彼のステータスが低いことを他言しないよう伝えておいてくれ。」
「わかりました。」
「言いたいことはそれだけだ。……勇者を広間へお連れしろ!」
その一言で扉が開かれ、兵士に導かれるまま部屋の外に出た。広間……飯か?
☆・☆・☆
予想通りに飯だった。他の人たちはもう席についている。
「遅かったですね。」
「ああ、拳さん。おはようございます。王様に呼ばれたもので。」
「そういうことでしたか。別にみんな揃ってから、というわけではないようですが、食事はまだ来てませんよ。」
「そうなんですか?よかったです。」
「ところでもう一人は?ここに来る前に話しかけてきた時、もう一人いたでしょう。」
拳さんは首を傾げている。そうだ、そのことについて言わなければならないが……。今言えば噂が広がってしまう可能性があるか。
「そのことについてはまた後ほど。皆さんに言っておかなければなりませんので。」
俺は拳さんだけでなく、他の4人に対しても聞こえるような声で言う。
「えっと、それはその……まだ来てない人のことですか?」
「あー、そういえばもう一人いたねー→」
「ああ、あの可愛い子!」
「お兄ちゃん、あの人多分男子だよ。」
内藤さん、荒木さん、健治さん、癒衣さんの順だ。人が少なくてよかった。覚えられなかったら本人になんで言われるか。
「とりあえず、翔は来ません。今言うことじゃないんで、後から誰かの部屋に集合していいですか?」
「じゃあ私の部屋!広いから!私の部屋にしよう!⤴︎」
すごい勢いで立ち上がって手を上げて立候補した。荒木さんのテンションの高低差すごいな……。さっきまでテーブルに倒れ込んでたのに。
「あいなぁ……。八代さん、すみません……。あいながでしゃばって……。」
「大丈夫ですよ。荒木さん、いつもこんな感じなんですか?」
「そうなんですよ……。おかげでいつも大変で大変で……。」
これだけで内藤さんの苦労が見えてくるようだ。このテンションに付き合わされる人の気持ちはわからないが、昨日もはしゃぐ荒木さんを内藤さんが抑えようとしていたし、二人の関係性は常にこんな感じなんだろう。
「じゃあ食事が終わったら荒木さんの部屋に集合ということでいいですか?」
「やったぜ!イケメンが私の部屋に来る〜⤴︎!」
「あいながすみません……。集合は問題ないです。」
「わかりました、荒木さんの部屋ですね。……ちっ!イケメンが!」
「お兄ちゃん!そんなこと言わない!お兄ちゃんも素材はいい方なんだから自分でしゃんとする!もう!……お兄ちゃんと一緒に向かいますね。」
「あはは、皆さん不安なことがないようで。もちろん私も行きますよ。」
よし、みんなの同意は得られた。言うことを頭の中でまとめとかないとな。
そう考え始めたところで飯が来た。
見たこともない食材を使った見たこともない料理が並ぶ。とは言え栄養が同じであれば肉はタンパク質、植物系はビタミンが摂れるのではないだろうか。それから、米の文化はないらしい。そもそもイネ科の植物があるかどうかもわからないが。
翔にも食べさせたかったものだ。
「ん!このお肉美味しいですよ!お兄ちゃんもほら!」
「これは、確かに、美味しいな。味付けがいい。俺好みだ。」
「私にとってはちょっと濃いかもです。サラダが薄いからちょうどいいくらいですかね。」
「これだからしゅーかは……⤵︎。いい?肉を野菜で巻いて食べれば最強なのよ!⤴︎」
「でもやっぱりご飯が食べたくなりますね、この味付けだと。」
「そうですよね。」
テーブルマナーはよくわからない。それはみんなも同じなのだろう。出てくる食事を思い思いに食べて、それなりに雑談をして朝食は終わった。まあ食べ終わった後のみんなの感想は
「美味しかったけどご飯が欲しい。」
だったわけだが。
☆・☆・☆
「さて、お集まり頂きありがとうございます。さっきも言いましたが、話したいことというのは俺の親友、翔のことです。」
食事が終わったため、約束通り荒木さんの部屋に全員集合していた。王に言われたことをみんなに伝えておかなければならない。
「話しかけてくれた時にいたもう一人の人ですね。」
「可愛い子!」
「だから男子だってば。」
「八代さんと並んだら絵になる人……ふへへ。」
「しゅーかー、素が出てるよー→」
みんなの翔に対する第一印象は大体「可愛らしい男子」らしい。本人が聞いたら怒るんだろうな。ていうか内藤さん、俺が思ったような人じゃないのかな?一瞬背筋が冷えたような……。
ともかく。
「翔は追放されました。性格的に、救世主の器にないとして。」
「はぁ!?それは横暴すぎない!?一方的に呼んでおいて追放とかどういうことよ!」
癒衣さん……。言葉は荒いけど根は優しい人なんだろうなあ。よく知りもしない人のために怒れるのは、いい人である証拠だ。
「癒衣さん、確かにごもっともですが、落ち着いてください。裏の理由があります。」
「裏の?」
「はい。ざっくりと説明しますが、翔のステータスがとても低いのはご存知ですね?」
「確かにあの子ステータスめちゃくちゃ低かったねー⤵︎」
「どうやらこの世界ではステータスが低ければ低いほど蔑まれる風潮があるらしいんです。で、普通に暮らしてる人はいいけど貴族たちにバレたらどうなるかわからない、と。だから、穏やかに暮らしてもらうために追放という体をとったらしいです。」
「なら仕方ないのかなー→」
「確かにあのステータスで戦わせるのもね……。」
「可愛い子には旅をさせよって言うからそれの実践か!」
「お兄ちゃん話聞いてた?」
「残念ですね……。」
翔が城から出て行った理由は話せた。みんな思い思いに感想を言い合っている。
あとはステータスの件についてか。
「それから、翔のステータスが低いのは誰にも言わないようにお願いします。」
「バレたら本末転倒ってことでしょうか?」
「しゅーか、多分それどころじゃないと思うよ→」
「どうなるかはわからないそうですが……。翔にとっていい目には合わないんじゃないかと思います。」
「ステータスが低いと蔑まれる風潮、貴族……確かに面倒なことに巻き込まれそうな気はします。わかりました、この件は他言無用ということですね。」
「そういうことです。」
拳さんは察しが良くてとても助かる。どうなるかの説明は俺にはできないから、誰か1人にでも察してもらうことが必要だ。
「ではそのように。他の皆さんもよろしいですか?」
「可愛い子は守らないと!」
「だから……ああもう!お兄ちゃんは無視してくれていいですから!私は大丈夫です!」
「私も大丈夫ー→。しゅーかは?→」
「私も、誰にも言いません。」
よかった。みんな同意してくれた。万が一これで翔のステータスがバレたら、誰かがうっかり漏らしたか王が意図的に流したかのどちらかになるだろう。城の壁や扉は厚く、盗み聞きできる環境ではないからだ。
絆のスキルで生死を判別するが、あいつは生きている。平和に暮らしてくれるといいんだが……。
翔は死なないため絆の生死判定に引っかかりません。
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