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第12話 洗脳魔法の正体

お久しぶりです、見て頂きありがとうございます。

突貫なので見れたものじゃないかもですが。

 「あれ、ここ……アタシは……」

 「あ、起きた?体は大丈夫?」


 癒衣さんが目を覚ましたらしい。

 大体1時間くらい眠っていたように思う。あれからどうやら落ち着いたようで、最初は荒かった呼吸もすぐに正常なものに戻っていた。

 ラノベに限らず、膨大な情報を頭に流し込まれたとき気絶するのはよくある描写だ。僕が平気だったのはきっと、スキルのおかげだったのだろう。

 目が覚めたようでひとまずは安心だ。


 「うん、大丈夫。ユスティーツァさんを目の前にして少し会話したところまでは覚えてるんだけど……」


 殺気を当てられた後のことを覚えていないのだろう。

 仕方のないことだと思う。

 殺されたときに食らってなければ僕もどうなっていたかわからない。あくまで一度食らっていたからこそ殺気だと分かったんだし。


 「魔法は使える?リトリーさんは洗脳魔法って言ってたけど」

 「魔法……?あ、ああ、そんなこと言ってたね」


 そう言うと(おもむろ)に手を前に突き出す。そのまま手を握っては開く動作を繰り返し始めた。


 「それは?」

 「ユスティーツァさんによると、魔法を使ったことがない人はしばらく、使う前にこうした方が良いんだって。魔力の通りがよくなるとか……なんとか」


 運動する前にジョギングで体を温めるようなものかな?


 「アタシの場合(回復者)は手から魔法を使うことが多いだろうからって、この動きを。全身に魔法を行き渡らせる必要がある人は全身動かした方がいいみたい」


 となると勇は魔法を使う前に全身運動が必要になっていることだろう。体を動かすのは好きなやつだし、苦には思ってないことが簡単に想像できる。


 「あ、でも誰にかけるの?」

 「あ」


 しまった、それは考えてなかった。

 誰かにかけて大事になってはいけないし、かと言って自分たちにかけてしまっては効能がよくわからない。


 「……一旦その動きやめて、リトリーさんにもらった情報を辿ってみようか」

 「そうしよ、アタシも別に翔くん洗脳したいとは思わないし」


 それから僕たちはノートに、「洗脳魔法」とやらの情報を書き出していった。……登校中の召喚だったからノートもペンも十分にある。ボールペンですらオーバーテクノロジーすぎてこういう時にしか使えない。

 癒衣さんが眠っている間にやってしまっても良かったが、万が一体調を崩すことを考え、何もせずに見守っていた。


 「リトリーさんは洗脳魔法って言ってたけど……」

 「うん、これはそんなものじゃなさそう」


 2人で机に向き合って情報を精査した結果、僕たちは両方とも、これを「洗脳魔法」とは言えなくなってしまった。


 「単純に言えば「対象を幻覚の中に閉じ込める」効果がある魔法……か」

 「洗脳よりタチ悪いね、これ」


 詠唱はいつも通り「永劫の羅針盤」から始まるのは変わらない。しかし、指し示すものは「闇」、望む形は「檻」ときた。さらにそこから長々と詠唱が続く。リトリーさんから情報が押し付けられていなければ、きっと覚えるのにも相当な時間がかかったであろう長さだ。


 「しかもこれ、期間とかが存在しない」

 「うん、わかるよ、アタシにもその情報は入ってる。つまり……」

 「「死ぬまで」」


 そう、リトリーさんに教えてもらった魔法は「対象を死ぬまで幻覚の中に閉じ込める魔法」だった。魔法っぽく言い換えるとすれば「夢幻牢獄」、とかそんな感じになりそうな。


 「あ、それいいな、「夢幻牢獄」ってどう、この魔法の名前。あ、むげんって……夢幻(ゆめまぼろし)ね」

 「勝手につけていいものなのかなあ。ていうかセンス独特だね、翔くん」

 「そうかな?ノートの端に十二星座のマークとか描かない?」

 「アタシは描かないなあ」


 癒衣さんの顔がやや引き攣っているように見える。引かれたかなこれは。やはりこういうのは子供っぽいのだろうか。男の子ならみんな一回はしてるんじゃないかと思うけど。

 中二病っぽいと自覚はしている。死ぬまで治ることはないだろう。


 「いや、そんなこと考えてる場合じゃないんだ。ないんだけど……」

 「これはね……現実逃避しても仕方ないよ」


 そう、あまりに魔法の効果がショッキングだったことで、少し現実逃避してしまっている。

 僕たちはほんの1週間前までは日本に住むただの学生だったのだ。それをわかっているのかわかっていないのかあの人(リトリーさん)は……。


 「わかってるんだろうな、そんなこと」

 「ん?どうかした?」

 「いや、なんでもないよ」


 これをあの太った貴族にかけろって?人1人を殺せと言っているようなものじゃないか。

 オマケに僕自身は魔法が使えないからかけるのは癒衣さんということになる。

 確かに癒衣さんは当事者なのだから、本人が片を付けるのは理にはかなっている。

 ただ、それだけだ。


 「癒衣さんはこの魔法、使いたいと思う?」

 「絶対嫌、死んでも使いたくない。たとえあのオッサン相手だとしても、こんなに簡単に人を……こ、ころ……とにかく、使いたくない」


 癒衣さんもこの魔法がどんなものか、しっかり受け止めて理解している。その結果がつまりどういうことなのかも含めて、ちゃんと。


 「こうなると埒が明かないね、呼ぼうか」

 「え?呼べるの?」

 「どうせ聞いてると思う。ですよね?リトリーさん」


 虚空に向かって話しかける。


 「出ていっても大丈夫かイ?」

 「もう大丈夫だと思います、お願いします」


 視線の先に現れる。この人相手にはプライバシーも何もあったもんじゃない。


 「いやいヤ、先程は失礼したネ。君たちの世界では殺し殺されってのとはほとんど無縁なこト、帰ってから思い出したヨ」

 「思い出していただいただけでもありがたいですよ」

 「ユスティーツァさんのことしばらく許しませんから」


 癒衣さんの顔は笑顔だった、それはもう笑顔だった。見開いた目にハイライトが入っていないことを除けばそれはそれは素晴らしい笑顔だ。いや怖い。


 「これは手厳しイ」


 いつも通り肩をすくめる仕草をする。あまり思いたくはないが似合っていて様になっている。

 いや、そのために呼んだわけじゃない。リトリーさんに聞くべきことがあって呼んだんだ。


 「ところでリトリーさん、この魔法、どういうことですか?僕たちに人間1人の人生を終わらせろってことですか?」


 わざと皮肉気味に、嫌味ったらしく言ってみる。


 「そういうことダ」

 「マジかよ無敵かこの人」


 皮肉も嫌味も通じない、それどころか人1人の人生を終わらせろとカウンターが飛んで来た。


 「できるわけないでしょう、僕たちが、そんなこと」

 「そうです!倫理的にも、感情的にもできません!やるならユスティーツァさんがやればいいでしょう!?」


 癒衣さん、少し過敏になってるな。気持ちはわかるけどここは宥めたほうがいいだろう。


 「癒衣さん、落ち着いて、もうしばらく横になっていてもいいから」


 こういう時はしっかり目を見て、手を握って、優しく諭すように伝えるのがコツだ。

 ……自分の容姿が第三者曰く「カワイイ」から許されるのはわかってますよ、はい……。


 「翔くん……ありがとう、落ち着きました。……手、離してもらえる?」

 「うん、落ち着いたならよかった」

 「オレは何を見せられてるのかネ?イチャつき?」

 「「イチャついてないしあんたのせいだ」」


 癒衣さんも落ち着いたことだし、仕切り直していこう。


 「それで、なんで僕らなんですか?癒衣さんの言うとおり、ユスティーツァさんがやってもいいでしょう?」

 「オレにはしがらみが多くてネ。貴族に手を出したら後が怖いのサ。《魔術王》としての権限に関する方に……ネ」

 「本来なら権力のために、とか言うべきところなんでしょうけど、あなたのことです、権力には微塵も興味ないんでしょうね」

 「御名答♪」


 《魔術王》であること、王城で召し抱えられていることに関して、権限がなければできない何かがある、と考えてよさそうだ。そして多分それさえなければ、この人はそれくらい簡単に「やる」んだろうな


 「じゃあ逆にアタシたちの理由は?」

 「まず1ツ、今ならまだ無罪放免になるかラ。2ツ、自然な流れで実行できるかラ。3ツ、あの豚が悪人だかラ、だヨ」

 「貴族に手を出して無罪放免って……もしそうなら国の治安が疑われますよ?」

 「いやいヤ、王が貴族たちについて君たちに説明していない今だからやれることなのサ。1回目ならオレが掛け合って王になんとかさせられル」


 言っていることは支離滅裂だが言わんとすることは理解できる。「知らなかったで済ませられる」ということだ。僕たちの頭では拒否反応を起こすことだが、まあ概ねそういうことだろう。


 「それから嫁ぎに行った際に起きた事故として自然に行えル」

 「こんな複雑な魔法を自然に……ですか?それは流石に言い訳として通らないと思いますが」

 「魔法自体はオレが教えたものってことで通していいサ、護身用に教えてもらったってネ。責任がオレじゃなきゃそれでいイ」


 それは通るのか……?こんなに長ったらしい詠唱しておいて?

 魔法の難しさは詠唱の長さで決まると言っても過言じゃない、とはどこで聞いたんだったか。長ければ長いほど必要な魔力量も増えていき、規模が大きくなる傾向にあるという。それに詠唱の間無防備になることも考えるとさすがに自然な流れで行えるとは……言えそうにない。


 「そしてこれが重要でネ、あの豚は国で違法な奴隷を所持しているどころか自分の領地の税で至福を肥やしてる悪人なんだヨ」

 「そのことを王に報告すればいいのでは?」

 「証拠を巧妙に隠していてネ。いくつかの証拠は燃やしてしまってるみたいだシ。ア、今のは内緒ネ。オレしか知らないかラ」


 この人が《魔術王》だとは今更疑っていないし、そのことを考えるとあの貴族が悪人であることは嘘ではないのだろう。

 むしろ制裁を加えるために証拠を集めている、というのが今の状況なのではないだろうか。

 そこに「例の貴族に嫁ぎに行く、例の貴族を嫌悪している人間」がいれば使いたくもなるか。

 ……いや、しかしやはり不自然だ。第一、この人なら証拠集めも簡単にできるはず。

 まさか。


 「……話を聞いた上で、やっぱりアタシはやりたくありません」

 (癒衣さん、待っ……)

 「ふム、それはなぜだイ?」


 !?呼吸はできるのに声が出せない!遮られた?リトリーさん、やったなこの人……!

 口をパクパクさせても何の音も発されない僕に、癒衣さんは気付かない。


 「アタシは……たとえあの人が悪人だとしても、それを裁く権利はアタシにはないと思います。王に、正当に裁いてもらいましょう」

 「よろしイ、その言葉を待っていタ」

 「え?」


 嵌められた……!

 ドア・イン・ザ・フェイス、だったか、先に大きい要求をして断らせた後、本命の要求を通す手法!

 説明を聞いても妙に腑に落ちなかったのはこのせいか!

 リトリーさんにとってあの貴族を「夢幻牢獄」に閉じ込めることは最初から目標としていない。目標は最初から僕たちに王へ情報を届ける役目を押し付けることだったんだ!


 「はあ、騙しましたね、リトリーさん」

 「人聞きが悪いなア」


 まあ今回はこの人の悪どさが露呈しただけで、僕たちに罪を犯せと言っているわけじゃないから許してもいいだろう。

 しかし……。


 「ユスティーツァさん、しばらく、本当に、許しませんからね」


 もうそれどんな顔ですか癒衣さん……。


 「まあまア。さテ、これが豚についての情報ダ。匿名にはしてあるガ、王にはオレだとわかる仕掛けがあル」

 「そこまでするのに自分ではできないんですね……」

 「《魔術王》辞めたいとは思ってるけド、剥奪されたいとは思ってないからネ」


 この人が《魔術王》の権限を使って何をしているか、わかる日は来るのだろうか。


 「衛兵には話を通しておくかラ、2人で来るといイ。《愚か者》は護衛の冒険者って立ち位置なら怪しまれないだろウ。そんなに立派な武器も持ってることだシ?」

 「冒険者としてのランクは限りなく低いですけどね……」

 「ユスティーツァさんはまた勝手に決めて……。でもわかりました、王にこれを渡すくらいなら受けましょう」

 「そう言ってもらえると助かるネ」


 こうして1週間前に追放された王城に行くことが決定した。……なんで?

誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。

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