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第18章 美人で巨乳のエルフさんにおびえるとかそもそもマジでもったいなくね?

 翌朝。


「はむっ、ハフハフ、はふっ! 美味しい。この村のパン、と、とても、美味しいですっ。ハフッ!」


「姫様、歩き食いなどなんとはしたない。せめて食べ終わってから歩いてください」


「そうはいっても、ハフッ、アイネス! このパン、おふおふ、美味しくて、はふン!」


 バックスの村である。

 朝食を食べ終わった俺たちは、村長の家を出て、再び村人への聞き込みを開始した。


「あふん、パンなんて、まともなパンなんて、いま食べなかったら、次はいつ食べられるか。はふン!」


 朝食に出てきたパンを大量におかわりした挙句、いまなお食べ続けているルティナ姫を連れながら、村の中を練り歩く。泣けてくるようなセリフだ。これが姫様の姿だろうか。あれだけぺこぺこしていた村人たちも、姫様がこんなことをしていたら失望するんじゃなかろうか。マジでそう思う。


「姫様、エルド様、アイネス様。おはようございます」


 村人たちは、昨日とは別人のような笑顔を俺たちに向けてくる。

 一部の村人はその場に平伏しようとしたが、それは止めた。そこまでしなくていい。

 それよりも、


「勇者アリアを探しているんだが、本当に知らないのか?」


 村はずれの畑をたがやしていた、農民の男に聞いてみる。

 だが、やはり彼は首を振り、


「申し訳ねえけんど、存じ上げねえです。この村にゃ生まれたときから住んでいやすが、そんな名前のやつは一度も……」


「そうか……」


 そんなにでかい村でもないし、彼が知らないって言うならそうなんだろう。

 やはりこの世界に勇者はいないのか? 探すだけ時間の無駄なんだろうか?

 しかし、あの死の騎士団の団長ジャスティアのセリフ、


 ――勇者アリアがいない以上、人間の敗北は絶対だ。


「あれだけはやっぱり、気になるんだよな。どういうことなんだか……」


 俺は腕を組んで、首をひねる。

 考える。だが分からない。アリアのことをこれ以上、探すべきなのかどうなのか。

 そう思っていた、そのときだった。


「ひっ!」


 農民が、いきなり悲鳴をあげた。

 はてなと思って振り返ると、そこには。


「……エルフ族」


 ルティナ姫が口を開いた。

 そう、ルティナ姫が言う通り、俺たちから十数メートルの位置に、確かにエルフが立っていたのだ。


 長い金髪。

 吊り目気味の碧眼。

 緑色の衣によって包まれた、あでやかな白い素肌の肢体――肩は露出したノースリーブで、胸元のあたりはルティナ姫と互角か、それ以上の豊かさ。かと思うと引き締まったウエストに、形のいいヒップ。衣はふとももの真ん中のあたりでミニスカートのように切られており、その下からは長く白い素足が伸びて、木製の靴を履いている。


 そしてなによりも。

 エルフ族特有の、尖った耳が印象的だった。




「……………………………………………………………………………………」




 エルフは、ツンと澄ました顔のまま、こちらをじっと見つめてきている。


「エルフ、ですね」


「エルフ……。書物の挿絵で見たことはあるが、本物を見るのは初めてだ」


「………………」


 ルティナ姫とアイネス、そして農民の男性は、それぞれ険しい顔つきでエルフに視線を送っている。

 そんな彼女たちを横目に、俺は――


「おーーーーーーい!」


 と、手を振ってエルフに声をかけた。


「ごめーん、ちょっと話があるんだけど、いいかー? 俺たち、アリアってひとを探してるんだけどー!」


「な!?」「は!?」「うぃっ!?」 


 ルティナ姫たちが、それぞれ仰天する。

 俺に呼びかけられたエルフ自身も、口元だけは涼しげだが、双眸そうぼうだけは(え!?)という感じで見開いていた。


 なんだ、みんな。

 なにをそんなに驚いているんだ?

 俺はエルフにものを尋ねただけだぞ?




『……ザザザ……ああ、またやってしまいおったか……。……エルド、そなたのいた時代では人間とエルフの交流は活発化していて、混血児さえ珍しくない。だがしかし、この初代勇者アリアの時代は、まだ人間とエルフの間には交流はほぼ皆無。お互いの存在は認識していても、仲良くお話なんてまるでしていない時代なのじゃ!』




「ルティナ姫もアイネスも、なんでそんな目をしてんだよ?」


「え。だ、だって……ねえ、アイネス?」


「は、はい。……エルド。お前、まさかエルフにまで聞き込みをするなんて……」


「そ、そうですぜ、エルド様。なにせあのエルフっすよ。そりゃ顔は綺麗だが、めったにしゃべらなくて、なに考えてるのかわかんねえし、おまけにあの耳! 尖っていて、気持ち悪いったらねえよ。そんなエルフと話なんて――いててててて! え、エルド様、なにをするんですかッ!」


 俺はそのとき、思い切り目の前の農民の両耳を引っ張っていた。


「俺なら、魔法の力であんたの耳を尖らせることもできるぞ」


「な。な、な、な……」


「その後……バックスの村のみんなから『尖っていて、気持ち悪い』って言われたらどんな気持ちになる? 自分の外見を理由に距離を置かれたら、どんな気分になるんだ?」


「そ、それは……」


 そこまで言って、俺はパッと彼の両耳から手を離した。


「あんた。……ルティナ姫もアイネスも。……別にエルフからなにかされたわけじゃねえんだろ? だったらそこまでビビらなくていいだろ。少なくとも悪口を言うのはよせ。……おーい、そこのエルフさん!」


 俺はそのまま、棒立ちのままのエルフに声をかけた。


「…………」


 エルフは、きょとんとしたような、どうしたらいいのか分からない、という顔をしている。


「とりあえず、こっちに来てくれよ。なにもしねえからさ。俺は人探しをしているだけなんだ!」


「………………」


 エルフは、数秒間、じっと考えていたが、やがてゆっくりと俺たちの前に現れた。

 近くで見ると、本当に綺麗な顔をしている。花のような香りがした。うん、これは確かにエルフの匂いだ。


「いきなり悪いな。俺は魔法戦士エルド。こっちがディヨルド王国のルティナ姫と、騎士アイネス。で、こっちは……ごめん、名前なんていうんだっけ? まあいいや。このバックスの村の村人さんだ。で、あんたはなんて言うんだ?」


「…………………………」


 エルフは、まだきょとんとしていたが、やがてほんのわずかだけ口元に笑みを浮かべた。


「不思議なひとだな、キミは。人間からこんな対応を受けたのは初めてだ」


「そうなのか? ……ふうん、このへんのひとたちって、エルフとなんかあったのかな?」


「いや、このへんというより全体的に人間は――まあいい」


 エルフは、長い髪を一度かきあげてから言った。


「クロエ。母から受け継いだ名前はクロエという。――キミはエルドといったか。アリアという人間を探しているといったな?」


 クロエは、クールな容貌に少しだけ笑みを浮かべた顔で言った。


「知っている。クロエは、アリアという人間を知っているぞ」

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