第12章 武器や防具はちゃんと装備しないと意味がないよ
王宮を出て、3分と歩かないうちに俺たちは、ディヨルド王宮の城下町に移動した。
石造りの壁でぐるりと囲まれているその町は、大陸の中心だけあって、さすがに発展している。
煉瓦作り2階建ての建物が立ち並んでいて、大きな酒場や食堂、屋台などが町のあちこちに存在し、武器屋防具屋道具屋の類も揃っている。間違いなく大陸で一番と思われるこの町は、しかし俺の時代だともっと発展しているんだから大したもんだ。
「いい天気だな、ショッピングには持って来いだぜ」
町の人たちや商人たちが、忙しく行きかう城下町のメインストリートを歩きながら、俺は天を見上げつつ言った。
雲一つない晴天が、視界いっぱいに広がっている。吹き抜ける風も心地よい。
「ノンキなことを言うな、エルド。お前、いまの状況が分かってるのか?」
素晴らしい天気だってのに、アイネスは眉間にしわを寄せ、生真面目顔だ。
「ルティナ姫がいるんだぞ、ルティナ姫が。――幸い、町の者には気づかれていないようだが、もしよからぬ輩が姫に近づいたらと思うと私は……!」
「大丈夫よ、アイネス。城下町に行くことを考えて、装備はちゃんと、以前エルド様に買っていただいたものになっているし」
そう言ったルティナ姫は、その言葉通り、皮のドレスにマントにブーツ、それに手袋を装着している。以前、俺が山奥の村で買ってあげたものだ。それに癒やしの杖を持っているが、とにかくパッと見たところ、旅人のようにしか見えない。
「仮に強盗が来ても、わたしだって簡単な攻撃魔法くらい使えるわ。ちょっとやそっとの敵ならやっつけるから」
「そうそう。ディヨルドの城下町は治安も保たれているっていうし、大丈夫だよ」
「しかし姫様、それにエルドも。我々は魔王と戦う身分。いつ敵が来るか分からない。常に心は警戒態勢で――」
「そんなに肩に力を入れっぱなしじゃ、敵と戦うまでにブッ倒れるぞ」
「む。し、しかしだな。私は気高きディヨルドの騎士として――」
「町の中にいるときぐらい、眉間のシワ取れって。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
「か、可愛い!? ……あ、はい……そ、それなら……シワ取ります……肩の力抜きます……はふ……」
『……チョロ騎士め……』
宝玉がまた雑音を出した。リプリカ様がなんか言ったな。
たまには話しかけろって言われたけど、群衆の中で石に向けて話しかける勇気は俺にはない。ごめんリプリカ様。今夜、ひとりになったら話しかけるッス。
「とりあえず、買い求めるべきはエルド様の武器ですよね?」
ルティナ姫が言った。
「わたしはエルド様に買っていただいた服と癒やしの杖で充分ですし、アイネスも、もう装備が整っておりますし」
「アイネス? アイネスの武器はこんぼうだろ? もうちょっといい武器を買おうぜ」
「フッ、ところがどっこい」
アイネスはドヤ顔を作った。
セリフ回しが顔に似合わずかっこ悪い。
「かつてエルドに折られたレイピアが今朝、修復完了したのだ」
「おおっ! ま、マジか!」
「いつまでもこんぼうアイネスだと思ってもらっては困る。見るがいい、修復され、よりパワーアップしたレイピアを!」
そう言ってアイネスが掲げたレイピアは、鞘にこそ収まっているが、確かに繋げられ打ち直され修復されたもののようだ。くそ、いいなあ。
その上アイネスは、初対面のときから鉄の胸当てを装備している。いい防具つけてんなと思ったがこれも家宝らしい。
「ということは……いまの俺たちの装備はこうか」
俺はメモ紙をポケットから取り出して、サラサラと筆ペンで現状をまとめた。
エルド:『ものほしざお』『旅人用の服』
ルティナ:『癒やしの杖』『皮のドレス』『ロングブーツ』『旅人用マント』『エッチなしたぎ』
アイネス:『はがねのレイピア・改』『鉄の胸当て』
「ダッセ、俺だけダッセ! 武器とかもう超ダッセ!」
「ちょおおおおおい、エルド様!? 下着まで装備に加えないでくださいまし!? は、は、恥ずかしいんですが!? いくらエルド様から買っていただいたものでもこれは――」
「買っていただいた!? ひ、姫様それはどういうことです!? し、下着を買ってもらうなど、なんて破廉恥な! 状況を詳しく教えてくださいませ――」
「いやっ! しゃべらないわ! これはわたしとエルド様ふたりだけの大事な思い出……。でもメモからは削除してくださいませ! わたしの下着のことはエルド様の心の中だけに深く刻み込んでおいて――」
ぎゃあぎゃあと、俺の背後でルティナ姫とアイネスが叫びまわっているが、俺はそれどころじゃなくメモ帳をじっと見つめていた。ううむ、ものほしざおはやっぱりカッコ悪すぎる……。攻撃力も低いし……。
「よし、武器屋だな。まず武器を買いそろえよう」
ルティナ姫とアイネスのバカ騒ぎを背中で聞きながら、俺はそう決意していた。
「ありがとうございましたーっ」
背中に声が降り注ぐ。
「……はあ」
俺は思わずため息をついた。
「いまの店もハズレでしたか?」
「ああ、だめだ。いい武器が見つからなかった」
武器屋巡りを始めて、3時間。
俺たち3人は町中の武器屋におもむいたのだが、なかなか手ごろな武器が見つからない。
あったとしても、それは値段が高くて、とても手が届かないものばかりだった。
はがねの剣の新品が、6000バルクもするなんてなあ。
竜殺しの剣は12000バルク。白銀の槍は11500バルク。バスタードソードに至っては20000バルクもする。
「銅の剣とかで我慢するしかねえのかな。あれなら170バルクだったし……」
「……あの、そもそもエルド様ならば、素手やこんぼうでも充分ご活躍できるのでは?」
「いや……まあ、このへんのモンスターならどうやらそのようだけど、でも遠くに行ったら絶対、強いモンスターとか出てくるだろうし。そうなったら強い武器が必要さ」
「そう、でしょうか?」
「そうだよ。俺なんか全然大したことねえんだから」
なにせ勇者パーティーの2軍だった男だぞ、俺は。
『まだ気が付いておらんのか、そなた。……ゆうべ会ったときに伝えてやればよかったのう』
宝玉がまたなにか言ってる。
今夜ね。今夜人がいなくなってからお願いしますね。
「エルド。ここはどうだ?」
そのときアイネスが言った。
ある店の看板を指さしている。
そこには――『中古武具、揃っています』との文字。中古品店か。
「うーん、せっかくだし新品で買いたかったんだけどな」
「掘り出し物があるかもしれないぞ。入るだけ入ってみたらどうだ」
「ま、入るだけなら、タダだもんな」
というわけで木製のドアを開けて、店内に入った。
すると、そこには――




