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第10章 再会、ロリババア――じゃなくてお姉様

 王宮内にある、王様の寝室である。


「げほ、げほっ、げほげほげほっ!! お、おお……ルティナ……よく、帰ったの……」


 王様は、その身をベッドの上に横たえたまま、蒼白い顔をこちらに向ける。

 何度も、咳き込んでいる。かなり苦しそうだ。危なかった。もうちょっと帰還が遅れていたら、ヤバかったかもしれないな。


「お父様! ルティナはただいま戻りました。いま、癒やしの杖でやまいを治してさしあげますっ!」


 ルティナ姫は、手に持っていた癒やしの杖の先端を王様に向けた。

 しかし、杖はうんともすんとも言わず、なんの反応も見せない。


「ど、どういうことでしょう。杖が……癒やしの杖が使えない……?」


「まさか、壊れているのか? 長い間、墓の中に入れられていて……」


 ルティナ姫とアイネスは、揃って焦り顔を見せる。

 そこへ俺は一歩、前に出て、


「なにやってんだ。それじゃ『魔法の道具マジックアイテム』は使えないだろ」


「『魔法の道具マジックアイテム』……?」


「魔法の力が込められた道具のことだよ。この癒やしの杖もたぶん、その類だ。道具を手に持ったり装備した状態で、そのアイテムにふさわしい祈りを心から込めなきゃ、そりゃ使えないさ」


 例えば、『炎のほのおのつるぎ』という武器がある。

 火炎系魔法の力が込められた魔法の道具マジックアイテムだが、これは利き手に持った状態で、


(求めるは火炎、求めるは焔――)


 と、心から炎を出すことを求めることで、剣の先端から火の玉が発射される、という道具だ。

 癒やしの杖も、きっとそうだろう。いまのルティナ姫みたいに、ただ杖の先端を向ければいいってもんじゃない。


「治す、治す。癒やす、癒やす……って、心の底から念じないとダメだ」


「わ、分かりました。……父上、治ってください。父上、どうかお元気になってください。……どうか……!」


 ルティナ姫は声に出しながら、両目をつぶり、ひたすら念じているようだ。

 すると、5秒も経たないうちに、癒やしの杖の先端の魔石が赤く輝き始めた。

 そして王様の顔色が、みるみるうちに良くなっていく。


「う、む。……おお、身体が……軽い……! ノドが……あれほど痛かったノドが、すごいぞ! 声が楽に出る! おおお、ルティナ……!!」


「父上! 病が治ったのですね! 父上っ……!! よかった!!」


 ルティナ姫と王様は、ひしと抱き合った。


「やっと、やっと思うさま父上を抱きしめられます!」


「わしもじゃ。……ルティナ、心配をかけてすまなんだ。……ああ、それにしても、そちもよく無事でいてくれた!」


「はい! 今日という日が夢のようです!」


 魔王軍にさらわれたルティナ姫と、病に冒された王様。

 共に苦労をした父子は、いまやっと心から、なんの心配もなく親子の交流ができたってわけだ。……よかったな。


「見事だな、エルド。姫様を助け、王家の墓ではローザ・ディヨルド様を倒し……」


 俺の隣にいたアイネスが言った。


「そしていままた、魔法のアイテムの使い方まで姫様に教えて……なにからなにまでお前の手柄だ。まったく素晴らしい」


「いや、別に大したことはしてねえよ。てか、魔法の道具の使い方なんて子供でも分かるだろ」


「分かるはずがない。少なくとも私は知らなかった。姫様もだ! ……まったくなんて男なんだ、お前は……謙遜も度を過ぎると嫌味だぞ?」


 別に謙遜してるわけじゃなくて、普通なんだが。

 時代が違うせいかな。俺のいた時代じゃ普通、というか誰でもできることが、やっぱりこの時代じゃ当たり前じゃないんかね。


『ザザザ……魔法の道具はむろん、この時代にもあるが……。庶民でも使えるようになるほど一般的になっていったのは、三代目勇者の時代からじゃ。初代勇者の時代では魔法の道具の使い方、知っている人間も限られておろう! ……ああ、しかしこの声、そなたにはまるで伝わっておらんのだろうな。ああ、もどかしいっ……!! ザザザ……!!』


 宝玉が、また雑音を出している。

 リプリカ様がなにか言っているんだろうが、さっぱり分からん。なんとか会話できねえかな。


「魔法戦士エルドよ、感謝するぞ」


「あ、はいはい」


 ルティナ姫との抱擁を終えた王様は、彼女といっしょにこちらへと向き直った。

 アイネスが、その場に膝を突く。俺も慌てて、彼女に倣ったが、


「よいよい、エルドはよい。そちはもう、我が国において最大の恩人。そのようにかしこまらずともよい」


「あ、そうスか。なら」


 俺はすっくと立ちあがった。

 根が庶民なもんで、どうも格式ばった作法や喋り方は苦手だ。

 いま思えば、ルティナ姫にも初対面のときから敬語とか使うべきだったんだろうけど……。俺、そういうのうまくできねえんだ。


「アイネスも立つがよい。肩の力を抜け。そちもよく働いてくれたしのう」


「は。――いえ、私はこのままで……陛下に対して畏れ多い……」


「ふうむ、そちは相変わらず生真面目なことよ。……まあいい。それよりも、エルド。重ねて言うが、そちには心より感謝する。我が国は今後、そちに対してできることならばなんでもしよう」


「そりゃどうも、ありがとうございまっす」


「まずは褒美でもやらねばのう。そうじゃ、アイネス。ものほしざおが20本くらいまだ余っていたであろう。あれをエルドに――」


「あ、いや、それはいいッス」


 ガチで断った。

 さお20本なんて持ち歩くのも面倒だ。


 てか、あとで城下町にでも行って武器を買おう。

 金は、はがねの剣を売ったのでなんとかなるし。

 つーか、余剰武器がものほしざおしかないって、このお城、大丈夫かね。また敵が攻めてきたらルティナ姫、あっさりとさらわれちゃうぞ。


「なにか礼をしたいのだがのう。エルドよ、なにかのぞみのものはないか?」


 恩人へのお礼に、ものほしざおしか出せない国になにをのぞめってんだよ。

 さおを使うための物干し台でも希望しようか――と、内心ジト目になっていたそのときだ。

 俺は、ふと思った。


「そういえば王様。……ルティナ姫とアイネスにも。ひとつ、聞きたいことがあるんスけどね」


「なんじゃ、言うてみい」


「3人は、勇者アリア――って名前に、心当たりはないかなって」


「ゆうしゃ……」


「アリ……」


「ア?」


 王様、ルティナ姫、アイネスはそれぞれ視線を交錯させた上で――

 それぞれ、大きくかぶりを振った。


「知らんのう」


「知りません」


「知らないな」


「……そうスか」


 初代勇者アリア。

 本来、この時代の魔王を倒すべき勇者。

 ルティナ姫を助けるのも、俺じゃなくてそいつがやるべき仕事だった。


 だが、リプリカ様いわく、この世界にはアリアはいないという。……そんなことって、ありえるのか? 




 その夜、俺は王宮の中にある一室にいた。

 ベッドの上で横になっている。王様から、今夜は泊まっていけ、と言われたからだ。

 夕食を終え、湯あみをしたあと、用意された真新しい布の服にそでを通すとサッパリしてとても気持ちよかった。


 その上で、考える。

 勇者アリア。……王様たちは知らないという。

 城の中にいた兵士たちにも聞き込みをしてみたが、誰もアリアのことは知らなかった。


「どういうことだろうな……」


 独りごちる。

 改めて考えたんだが、なんだって勇者の存在が影も形もねえんだ。

 このまま初代勇者が現れなかったら、俺がいた時代、すなわち未来にも、子孫である11代目勇者のアークが生まれないことになるぜ?


 あいつが生まれないなんて未来、か。

 ……やっぱりちょっと、イヤだな。


「……勇者アークか」


 あいつと初めて、ディヨルド王宮にやってきた日を思い出す。

 いま、俺がいるディヨルド王宮とは何千年も時間を隔てているから、当然、内装はまるで違うんだけど。

 でも、造りは未来といっしょだ。この王宮は何千年もこの場所に存在し、修繕や改築を重ねた上で、11代目勇者の時代まで続くことになる。


 ――これからいよいよ旅立ちだな。よろしく頼むよ、相棒!


 未来のディヨルド王宮に、初めてあいつとやってきた日。

 あいつ、すっげえいい笑顔で俺に向かってそう言ったんだ。

 相棒って言葉がなんだかくすぐったかったけど、でも俺は嬉しかった。


 幼馴染のこいつの友情には、なんとしても報いたい。

 俺みたいな、庶民出身の魔法戦士を相棒と呼んでくれたアークと、ずっと一緒に戦いたい。そう思ったんだ。

 それから俺はパーティーから外され、ずっと酒場の椅子を温めるような『二軍』キャラになっちゃったし、アークとは何か月もまともに口を利かないようになっちまったけど。――それでも、


「忘れたことはなかったよ。あの日のお前の言葉、あの瞬間の嬉しさ。勇者と旅ができるんだって興奮を」


 また、独りごちる。

 ひとりの夜は、いけない。

 どうも気持ちがセンチになってきやがる。


「散歩でもいくか……」


 自室を出て、人気のない夜の王宮を練り歩く。

 静かだ。大理石が敷き詰められた、広い廊下だが、人がまるでいない。

 壁に取り付けられたロウソクの灯がぼんやりと、あてもない俺の行く先を照らしてくれる。


「この奥には、なにがあったっけか?」


 廊下の奥には――

 ええと、未来のディヨルド王宮なら地下室への階段があったよな。

 で、地下室には魔法の力を高める魔法陣が床に描かれていた。その中心で祈りを捧げれば神のお告げが聞けるんだ。

 冒険の次の目的地はどこか。どこにいけばいいのか、神様が教えてくれるんだったな。


「あの魔法陣は初代勇者の時代からある、とか言われてたな。ん、ってことはいまそこに行っても魔法陣はあるのか?」


 行ってみよう。

 俺は廊下を進み、やがて地下への階段を見つける。

 間違いない。覚えがある。この階段をこうして進めば――


 あった。

 ディヨルド王宮の地下室。

 聖なる魔法陣が、床に描かれている。

 幾何学模様きかがくもようの絵柄と古代文字を組み合わせた、なにやら不思議な円形の絵柄だ。


「この魔法陣の中心部分に立って、神様に祈りを捧げれば、お告げが聞けるはずだ」


 俺はなんだかドキドキしながら、魔法陣の中心に立った。

 目をつぶり、祈りを捧げる。


 神様、神様。

 この世界には、なんで初代勇者がいないんスか。

 教えてください、神様……。




 ――ピカッ!




「おお!?」


 突如、魔法陣が光った。

 地下室中がまばゆい光芒に包まれる。

 マジかっ。俺の祈りが神様に通じた? お告げがもらえるのか!? 神様――




『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!』


「……は?」


 なんだか陽気な。

 しかし聞き覚えのある声がどこからか響いて。


『やっとそなたと直に話ができそうじゃ! この機会、待ちわびたぞ、エルド!』


 光がおさまったとき、俺の目の前に立っていた女の子。

 銀髪ロングにちっこい背丈、そのくせ、やけにでっかい胸を揺らしたそのロリバb


『ああん!?』


 もとい美少女は、間違いなく、未来の俺の仲間であり魔女である――


「り、リプリカ様……!?」


 そう、彼女がそこに立っていたのである。

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