スペシャルラウンド~ホワイトデスマッチ~
現在……1月17日から遡ること約11ヵ月、3月14日。
あるヘタr……男の物語。
「みっ、美代!」
高校からの帰り道、ヘタr……男は好きな人の家の前で勇気を出す。
「ん? どうした、修。」
だが、見るからにヘタレなD……Kは、目の前で自分の名前を呼ぶ美しい同級生に目を奪われ、酸欠な金魚の様に口をパクパク。
それを見た美しい同級生……美代は、見るからにのっぽなヘタr……修に対して嬉しいが困る事を平然と言った。
「何か用があるなら、うちに来るか? 誰もいないが茶くらいは出せる。」
美代の発言は二人が幼馴染だと知らない人間が聞いたら、明らかに誤解を招くだろう。
幸い、生まれた時から家が近くて、ご近所さんも知り合いばかり。
修が美代にお熱なのは、ほぼ全員が気付いている。
気づいていないのは美代くらいだ。
「いっいいい行くぅっ!」
修の声は裏返り、美代の笑いを誘う。
普段はあまり笑わない彼女の笑顔は、同級生も誰もかも知らない……修だけが知っている物になった。
そう思うとなんだか悪い様な嬉しい様な、微妙な気持ちになるのだが、金属で出来た飾り程度の門を開けた後、手招きをする美少女を見たらそんな考えはどうでも良くなる。
どこか遠い場所に修の思考は飛んで行き、残ったのは体を熱くする幸福な緊張感。
「あ、リビングと私の部屋……どっちがいい?」
「……で!? それからどうなった!!?」
「……へへへ。」
3月14日、夜。
宿題で分からない所があった修の親友、悠希から電話が来た時に男子トークは始まった。
女子トークとは別の、聞かれてはいけない話題がたまーに飛び出す。
「その反応……もしや、ホワイトデーで!?」
「……ああ、美代にだけ特別に用意していた……。」
電話越しに修の緊張が伝わり、悠希の体も強張る。
それもそうだ、だって、巷ではイケメンだと騒がれる悠希でさえもやり遂げていない事を成し遂げた親友がいるのだから。
「……皆に配ったクッキーとは違う……シブーストを渡せたんだ!!」
このヘタレ、好きな女子の家に(リビングだが)行っておきながら、幼馴染という立場だからとお菓子を渡すだけで帰って来たらしい。
これには、親友だろうがなんだろうが、悠希も呆れ顔……
「おおっ、シブーストが何だか知らないけどやったな!!」
……なんて事もなかった。
実を言うと、悠希もとある女子に小学生の時から片思いをし続け、なんの進展もないまま高校一年生になってしまったヘタレ仲間。
もう、はっきりと連呼してしまった方がいいだろう。
この二人、ヘタレなのだ!!
その頃、美代はどうしていたかと言うと。
「……シブースト、美味しいな。」
シブーストを頬張りながら、シブーストが入っていた箱に添えられていたホワイトデーのカードを見て、静かに微笑んでいた。
【今年もよろしく!!】
と、まるで新年の挨拶と受け取れるメッセージカードには、下書きで消したらしい『好』の文字が微かに見える。
美代は、それに気づいていながら、自分から口に出す事はなかったのである。