1: 初雪
初雪が窓の外を白く染めてゆく。
こたつの温かさと、室内の静けさにまどろんでいると、
トントントン…
階段を駆け上がる軽快な音が聞こえて、あたしは時計に目をやった。
あ、そうか。時間だ。
よほどぼーっとしていたのか、ケータイの着信にも気づかなかったようだ。
「ちょっと、サイ!!舞子の話聞いたー?!」
部屋に踏み込むなり、両頬と鼻の頭を真っ赤に染めたエリが叫んだ。
「舞子が、…何だって?」
8畳ほどの狭い部屋を占領するこたつの中から、そのやかましい親友を見上げる。
「結婚よ!!」
「結婚?あの舞子が?」
「そぉ!!3つ年上の彼氏と!あの、例のIT関係やってる彼ね!」
興奮気味のエリゎ乱暴にコートとマフラーをフローリングの床に脱ぎすてると、こたつにもぐりこんだ。
「あれですか?最近流行りの、できちゃった婚?」
「ううん、そういうわけじゃないみたい。4月に籍入れて、9月に結婚式するって…交際期間3年でのゴールインだよ。」
「へぇ、あの舞子がね、ちょっと意外だね」
「でしょ!もう、びっくりしちゃったよ、あたし!」
そう言って、エリゎこたつの上のみかんに手をのばす。あたしも真似して、手をのばす。
最近ほんとに、このての話が多くていやになる。
やれできちゃっただの、やれ結婚だの、はたまた離婚だの…
あたしはまだ、そのどれにも属したくない。
だってまだ、21なんだから。自由に生きたいお年頃?でしょ。
もちろん結婚に憧れはある。
結婚は25くらいで、子供は30までには産みたい。
経済力のある優しくてカッコイイ旦那さまと、可愛い子供たち(2人くらい、出来れば男女で)に囲まれて、専業主婦やりつつ趣味に精を出す。
参観日には子供が自慢に思うような若くて綺麗なママを演じて、家に帰れば家事もちゃんとこなす、完璧な女。
あくまで理想だけど。
今のところ、ほんとに理想で終わりそう。だって、あたしの彼氏はフリーターだ。
昼は配送の仕事、夜はキャバクラのボーイ。
5つ年上なんだけど、ぶっちゃけ収入はあたしと大差ない。
出会ったきっかけから付き合うまでの経緯に至っては、とてもじゃないけど褒められたもんじゃない。
甘酸っぱいみかんを頬張りつつ、あたしはそっと瞼を閉じた。