9話 マルスの妹の話
今日からマルス再開します!なんかどこまで期待に添えるか分からないけど、しばらく番外編みたいなノリをお楽しみください!
私はマリー。防具を作る裁縫施設で縫物の仕事をしている普通の町娘。
私はこの町で一番保有魔力が高いんだけど、適性がないとかで魔法は使えないの。そして、無駄に高い保有魔力の反動なのか、身体が弱くて寝込んじゃうんだよね。
結局、人に迷惑をかけることが多いし、毎日仕事をこなすのもやっとなの。
その点、私のお兄ちゃんはすごい人なの。この町の騎士団の一人として、町の人一人一人の事を気にかけて、自分で仕事増やしてまで面倒見て、遅くまで残業して。今日も久しぶりの休みだっていうのに冒険者としての仕事までしてるみたいだし。
同じ兄妹でなんでこんなに違うんだろう……。
ああ、そんなことを考えてたら、やっと今日の仕事がおわったぁ。
帰ろっ。
「ただいまー。あれ?」
私が家に帰ると、知らない女の子が座っていた。ふわふわの金髪の女の子がそこにいた。
「あ、妹さんですか?はじめまして。ユイといいます。」
「は、はぁ。お兄ちゃん、この子とどういう関係?」
「マリー、お帰り。ユイちゃんは、よく冒険者として一緒に狩りにいったりしてるんだ。」
「へえ。こんなかわいい子が冒険者なんだ。」
「うん。氷魔法とかバンバン使ってすごいんだよ。」
「へー。魔法使いかぁー。いいなぁ、私も魔法使いたいなぁ。」
「そ、それほどでも……。」
そう言って、ほおを赤らめるユイさん。かわいい。でも、こんなかわいい子と二人っきりでいるなんて、お兄ちゃん……。やるじゃん。
「でもユイさんだっけ、初めて見る顏だよね。どの辺に住んでるの?」
「え、えっと……。」
「ああ、ユイちゃんは来訪者なんだよ。」
「え!」
来訪者って、あれ?最近異世界から突如としてやってきたという、恐ろしい速度で成長していく謎の冒険者達……。
自分には関係のない存在。そう思ってた。
「初めて見た……。」
「えっと、確かにこの辺にはまだあまり他の来訪者は来てないですもんね。」
「来訪者って、どうしてこの世界に迷い込んだの?」
「え、えっと……。迷い込んだっていうか、もともといる世界と受有に行き来できるようになったから、来てみたっていう感じかな。」
「へ、へぇ。その『もともといる世界』ってどんな世界なの?私も行ってみたい!」
「ごめん、来訪者じゃない人が行くのは、少なくとも今の技術じゃ無理だと思う……。それに、それをされると、私の秘密がばれちゃう……。」
「秘密?」
「うん。私、ちょっと人に言えない秘密があって……。」
「ふーん。」
この時は、私はまだ来訪者という存在を、あまり信用していなかったの。だって、秘密があるっていうし、なんか謎めいてるんだもん。
そんなある日、私は体調を崩しちゃったの。でも、いつもの体調不良だと思って、油断してた。職場は早退させてもらったし、家で寝てればきっとすぐに治ると思ってた。
治らなかった。
熱い。熱い。体が燃えるように熱い。
暑い。暑い。真夏みたいに暑い。今冬なのに。
もう死にそう……。そう思っていると、お兄ちゃんが帰ってきた。
あれ、今日はユイさんと会う日なんじゃ……。
あ、私が早退したって知って帰ってきたのか。
「マリー!大丈夫か!」
「もう無理……。私、だめ……。」
「あきらめるなマリー!何か欲しいものはあるか!」
「水、水が欲しい……。」
「分かった!」
そう言うと、お兄ちゃんはどこかに行ってしまった。……そして、すぐに帰ってきた。
「ちょっとジャンに水汲んできてもらうように頼んだから。直ぐに水を持って来てくれるぞ。何かあったら何でも俺に言えよ。」
ジャンさんはうちのお隣さんで、料亭兼宿屋を営んでる店の跡取りさんだ。私にもよく優しくしてくれた、親戚みたいなお兄ちゃんという感じの人なの。またジャンさんに迷惑かけちゃったな。
お兄ちゃんはすぐに水を持って来てくれるって言ってたけど、ここから一番近い水を汲める場所は魔力水の滝。5分くらいはかかる。しばらく待ってないと……。
10分くらいたったと思うんだけど、まだジャンさんは戻ってこない。
「マリー、もうちょっとだぞ。頑張れ。」
「うん、ヒー、ヒー、ヒー。暑い……。氷、で、も、あれ、ば、い、い、の、に……。」
「すまんな、マリー。こんな時に氷魔法の使い手でもいればな。」
「マリーちゃん、遅くなった!」
ジャンさんが帰ってきた。そして、その隣には、なぜかユイさんがいた。
「あり、がとう……。水……。」
水を飲むと、少し落ち着いた気がする。でも、まだ暑い。何か冷たいものが欲しい……。
すると、ユイさんが、近くにやってきて、なにやら唱え始めた。
「氷雪の聖霊よ、灼熱に苦しむものの熱を奪いたまえ。アイスヒール。」
ユイさんは、きっと私に治癒魔法をかけてくれたんだと思う。大分楽になった気がする。
「治癒魔法……。初めて見た……。」
「本当は氷魔法と治癒魔法の複合魔法なんだけどね。効いたみたいでよかった。」
どうやら、ユイさんは、魔力水の滝でお兄ちゃんを待ってるところ、水を汲みに来たジャンさんに会って、事情を聴いてやってきたらしい。
でも治癒魔法使えるなんて、本当にすごい人なんだ……。
その後、お医者様が診断にやってきて、魔力熱だと診断された。魔力が暴走することで起こる病気で、高魔力保持者で、かつ魔法をあまり使っていない人に多い病気だという。
根本治療には、氷霊草という薬草が必要なんだけど、非常に危険な霊山にしか生えていないため、非常に高価なんだとか。これはもうだめだ。氷霊草なんて私達みたいな一般庶民に手に入るものじゃない。
「分かった。俺がとってくる。」
「無理だよお兄ちゃん。あそこは危険すぎる。」
霊山はここからそう遠くない。とはいえ、お兄ちゃんがいくら強くても、あそこは危険だ。
「大丈夫。大丈夫だから、待ってて。マリーちゃん。」
そう声をかけたのは、ユイさんだった。
確かに、魔法使いのユイさんがいれば大丈夫……なのかなぁ?
結局、お兄ちゃんはユイさんと氷霊草を取りに行ってしまった。
お兄ちゃん、無事で、帰ってきて……。私なんかのために、命を落としたりしないで……。
結局、お兄ちゃんは無事に帰ってきた。氷霊草を手に。それによって、私の命は救われた。
「ほんと、ユイがいなかったら死んでたよ、俺。」
お兄ちゃんとユイさんのおかげで、私は命拾いしたらしい。
「お兄ちゃん、そしてユイさん、本当にありがとう。」
「いえいえ。」
「いやー、マリーが無事でよかった!」
そう言って笑う二人は、お似合いに見えた。
それからというものの、度々、家で、または酒場で、または公園で、あるいは魔力水の滝のところで、ユイさんと一緒にいるお兄ちゃんを見かけたの。
ある時、ユイさんは、顔を真っ赤にしながら何かを言っていた。
面白そうだから、ちょっと盗み聞きしてみよっと。
「もっとマルスと一緒にいたい。 マルス、あの、その、す、好きです!私なんかがマルスに見合う自信はやっぱりないけど、でも、付き合ってください!好きです!」
ユイさんは、お兄ちゃんに告白していた。
お兄ちゃんはまあまあモテる。でも、10年前くらい、好きだった娘に振られてから、だれかと付き合ったりはしてなかったはず……。
お兄ちゃん、今回も断るのかな?
「えっと、こんな俺でよければ、こちらこそよろしくお願いします。」
あ、OKした。やっぱりかわいい子だと反応も違うのかな。
まあ、ユイさん、本当に綺麗だしかわいいもん。何なの髪もサラサラだし、小さめの顏にくりんくりんした目。女の私も惚れそうだよ。
そういえば、来訪者には美人が多いって聞いたことがあるなぁ。みんなあんなに美人なのかな?いいなぁ。
「ユイは本当にかわいいし凄いんだよ。」
お兄ちゃんは、口を開けばユイさんの事を話すようになっていった。
お兄ちゃんにも、いい人が見つかったみたいで、よかった。
お兄ちゃんをよろしくね、ユイさん。




