7話 ユイちゃん達の決死の戦い(後)
今回は悩みました。どうするのがいいか…。
30分遅れてすみません。
「ユウ!」
ユウが倒れてしまった、やばい!俺だけじゃこっち側は支えきれない。一か八か。
「常闇に集いし物、我の血を代償に我の願いに答えよ、闇より呼び寄せし悪魔よ、一時形を成せ!」
俺は闇魔法LV10スキル、悪魔召喚術を使った。俺の闇魔法熟練度では使えない術なのだが、デスペナ相当のペナルティーを受け入れることで使うことができる。ちなみに、これを使ったうえで死んだ場合、デスペナとは合算だ。
「ユイ、避けて!」
「へ?」
俺の背後から、中ボス格が斧で殴ってきた。俺のHPが6割以上吹っ飛ぶ。
俺は必死に中ボス格の追撃をよけながら、中ボス格にツララランスを打ち込む。こういう近接戦では、クールタイムの短いツララランスが有効なのだ。
しかし、ここで絶望的なことが起こる。先ほど召喚した悪魔が、あっさり倒されたのだ。
「うそだろう?」
向かってくる群れに向かって、せめてもの抵抗で雷魔法LV7スキル、ワイドライトニングを放つが、その隙を突かれ、中ボス格に一撃入れられる。
俺のHPが0になっていくのを感じる。
不意に愛奈の方に視線を向けると、愛奈のHPが0になってはじまりのまちへ転送されていくのが見えた。
ああ、もうこの戦場は持たない。4分しか足止めしてないのに。いやだめだ。これではマルスを逃がせられない。
HPが0になる前に俺は、スキル「緊急無詠唱」を使って、3つのスキルを発動させた。
「ダークアンリミテッドブラッドレスキュー」「ダークヘヴンヘルトルネード」「サモンファイナルアンデッドゾンビ」
3つ全てが闇魔法LV10スキルで、デスペナルティーと同等の代償を負う。さらに、「緊急無詠唱」自体が、デスペナルティーと同等の代償を払って使うものだ。
その代り、愛奈は蘇生されたし、さしあたって俺に襲い掛かってきてた雑魚と中ボスは薙ぎ払ったし、しばらく戦況を支えられる程度の強力な使い魔、ファイナルアンデットゾンビを召喚できた。これでもうしばらくは持つだろう。
このゲームのデスペナルティーは結構重い。しかも、3つ以上重なると加速度的に重くなる。
『デスペナルティーであなたのレベルはLV42まで下がります。また、全習得スキルの熟練度は0となり、闇魔法と回復魔法は使用不可能になります。また、168時間の間ステータス半減およびパーティープレイ不可能およびカルマ値-200のバットステータスを負います。』
うっわ、デスペナが重いのは想定内だったけど、レベル-20、熟練度リセットかぁ重いなぁ……。ってカルマ値-200!?それ俺のカルマ値マイナスになるよ?なんでレッドプレイヤー(犯罪者プレイヤー)落ちなんだよ!町に入ることもできないし、NPC警官に追われ続けるじゃん!ひどくない!?
まあ、それだけ闇魔法LV10の連続使用が「反則」っていうことなのだろう。アカウントBANされないだけましと思おうか。
その日は疲れ切ってしまって、ログアウトすると倒れこむように布団に飛び込んだ。
翌日、学校から帰ると、急いでログインした。
早くマルスに会いに行きたい。しかし、俺は1週間(168時間)の間、レッドプレイヤーになっている。とりあえず、ケイタ達に頼んでマルスの安否だけでも確認してもらおう。そう思ったが、フレンドチャットを見ると、彼らは「圏外」と表示されていた。
このゲームで「オフライン」ではなく「圏外」という表示は、彼らが洞窟などのメッセージ不可エリアにいることを示している。そういえば、1週間洞窟泊まり込みイベントが今日からスタートだったっけ……。
これは困った。俺には知り合いのプレイヤーは彼らしかいない。
掲示板等で「マルスを探してください」という依頼を出すことも考えたが、今の俺はレッドプレイヤーだ。レッドプレイヤーの依頼なんてだれも受けてはくれない。
結局、俺は、一週間の間、マルスの安否を知ることができないでいた。
仕方なく俺は、フィールドで狩りに明け暮れていた。下がってしまったLVと戦闘系スキルを少しでも上げるためだ。本当は料理スキルも鍛えたいが、町の外で鍛えられるようなスキルではない。
翌日。俺は最悪な心持で高校に向かった。今の俺はマルスに恋い焦がれる少女、「ユイ」ではなく、ただの男子高校生、「結野 晴人」だ。教室の窓ガラスに自分の姿が映るたび、自分は男だということを再確認して、辛くなる。
「おっす結野。なんか今日も元気ないな。」
と話しかけてくるのは、クラスメイトで親友の横井啓太。ゲーム内で「ケイタ」としてプレーしている少年だ。
「ああ。マルスが生きてるかが分からないんだ。生きてる心地がしないよ。」
「あれ、今日はマルスに会いに行ってないのか?」
「ああ、今のユイはレッドプレイヤー化しているから。しかも、ステータス半減とかいろいろペナルティー受けてるから、そもそもあの町までたどり着けなくて……。」
「まじか……。そんなことになってたのか……。」
「ああ、マルス、生きててくれ……。マルス、マルス……。」
「デスペナでレッドプレイヤー化してるんだろ?あれって永続じゃないよな?」
「うん。一週間で解除される。あと5日半だ。」
「じゃあ一週間待てばいいんだな。大丈夫、俺たちは結構長い間足止めした。きっとマルスさんも生きてるさ。きっと。
掲示板見る限り、犠牲者とかはほとんど出てないみたいだし。」
「うん、それはほんと救いだよね。マルス個人についての情報がないのが困ったところだけど。
ああ、マルス、会いたいよ……。」
ある日の夜、俺は、天上山という経験値効率のいい狩場に来ていた。そして、ここは眺めがいい。
天を仰ぐと、かつてマルスといっしょに見上げたのと同じ夜空が広がっていた。
満天の星空に、山頂特有の七色の霧がかかって幻想的な風景になるのだ。
「ずっと、ユイといっしょに、この星空をみたかったんだよ。
来訪者プレイヤーの故郷にはもっときれいな所もいっぱいあるっていう話だけど、俺らにとってここは、最高の場所だからな。」
マルスの声がよみがえる。
わたしも好きだよ、この夜空。
そうだ、マルスは「来訪者の間で言われる『100万ドルの夜景』っていうのも見てみたいな。」って言ってた。
でも、マルスが「100万ドルの夜景」を見ることは無いだろう。ゲームから出てこれないから。
こうして、永遠にも思えた一週間は過ぎていった。
ついに、今日、マルスのいる町にたどり着いた。
マルス、マルス、マルス。生きててください、お願いします。やっとマルスの彼女になれたんだ。これからマルスと幸せに暮らすんだ。マルス、生きていて……。
魔力水の滝にたどり着いた俺は、私は、酔って顔を赤くした青年をみつけた。いや、酔ってるけど、あれは、マルスだ。
「マルス!」