6話 ユイちゃん達の決死の戦い(前)
今回は戦闘回です。
ひょんなことからTwitterで知り合った方から素敵な感想をいただきました!
本当に嬉しいです。
ちょっと続編の執筆を開始しようかなとか思いましたし、コメントに触発されて今回もストックに書き溜めていたものに加筆を加えたりしました。
本当は一話で戦闘を終わらせるつもりだったのですが、戦闘の後に追加エピソードを挟みたくなったので執筆する時間を稼ぐために前後編に分けました。
目の前には容赦のない数の魔獣が押し寄せてくる。
でも、マルスは町のみんなを助けるためにここに残るといっている。
だめだ、それは。NPCは一度死んだら生き返らない。でも、マルスに町のみんなを見捨てるなんてできないだろう。これからずっとマルスと過ごしていくには、復活できるプレイヤーの私が足止めのために残るしかない。
「じゃあ、私が残る。」
「ユイ!?」
「マルスは転移して町のみんなを逃がして。私が足止めする。」
「だめだ、ここは俺が」
「だってマルス死んじゃうよ?マルスここで死ぬ気じゃん!だめだよそんなの。
「で、でも、俺は……」
「いいからとっとと行けぇぇぇぇぇ!」
その時、俺は、初めて、感情をむき出しにした。
女の子らしい言葉づかいも、この瞬間だけは捨て去った。
「町のみんなを守るんだろ、騎士様として!騎士でこの町の住人のマルスにしかその役は務まらない!ここは私に任せて、行けぇぇぇぇぇ!」
じゃないと、俺の本気が伝わらないと思ったから。
マルスの体を光がつつみ始めた。マルスはこれから町に転移する。これでマルスの命は救われる。そう思いたい。でも、マルスは町の人を逃がそうと、懸命に駆けずり回って、本人は逃げ遅れるかもしれない。うん、マルスなら町の人を逃がそうとするに決まっている。
だから、これだけは言っておかないといけない。
「マルス、ちゃんと、生きてね。」
そう言って、俺は、私は、微笑んだ。上手く笑えているかな?私。
「町の人を逃がしたい気持ちも分かるけど、ちゃんとマルスも逃げるんだよ。約束だよっ!」
そうは言っても、マルスが無事に逃げ切れるかは分からない。そう思うと、体が動いていた。
マルスに、別れのキスをした。
「ふぁっ?」
私、大胆だったかな。マルスにはどう映ったのかな。マルスの口から、聞きたいな。
マルスを、マルスの町を、マルスの守りたいもの全てを、私が守るんだ。そう決意した私は、俺は、目の前の魔獣たちを見据えて、次にとるべき手段を考えた。
次の瞬間、マルスは無事に転移した。でも、マルスは、町の住人を逃がし終えるまでは、自分も決して逃げないだろう。つまり、その間、時間を稼ぐ必要がある。
「召喚、アイアンガーディアンゴーレム!」
使い捨ての召喚石を消費してアイアンガーディアンゴーレムを呼び出した。超貴重品だけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
俺は近づいてくる敵の群れに氷魔法LV6スキル「コールドブリザード」を放ち足止めすると、全体チャットに現在地点とレイドボス出現の情報をアップする。そして、フレンドチャットでケイタに救援を頼む。このゲームではフレンド同士は一度限り「絆の糸」というアイテムで相手のいる場所へ転移することができる。それをケイタに使ってもらって、ケイタにここに直接来てもらうことにしたのだ。
ケイタだけでなく、かつてのパーティーメンバーみんなで来てくれた。
タンクの愛奈、ハンマー使いのユウ、それにヒーラーのケイタ。懐かしい面子だ。俺の知らない新メンバーの少年も一人いるが、巻き込んでしまってほんとうにごめんね!
「うわっ、なにこれ絶対勝てないやつじゃん。」
「ごめん、負け覚悟で足止めしてくれない?デスペナの分は私が全財産はたいてでも補てんするから。」
「全財産って。いいよそこまでしなくても。俺らもギルド都合で追い出しちゃったことに負い目は感じてたから。その代り、これでその分の借りはチャラな!」
「足止めすればいいですのー。愛奈に任せなさいですのー!」
「おお、さすが「鉄壁」の愛奈だ!」
「雑魚散らしはウチにまかせといてやー。」
「さあ、やるですのー!」
「みんな……。ありがとう……。」
ボスのヘビーグラウンドドラゴンの物理攻撃は、愛奈がなんとか食い止めてくれていた。本来いくら盾役の愛奈といえどもそう何発も耐えられない攻撃なのだが、相手の攻撃に合わせてクリティカルのタイミングで盾をぶつけることでダメージを無効化するという離れ業で耐えてくれていた。ほんとすごい。盾でここまでクリティカルできるなんて、レイピアでも使わせた時にはどうなるのやら。
でもヘビーグラウンドドラゴンの攻撃は物理だけじゃない。ブレス攻撃もある。それにはヒーラーのケイタが聖魔法LV8の障壁スキル「ゴッドライトミスト」で防いでくれた。
数が多い雑魚敵は俺のコールドブリザードで減速したところをユウが切り込んでいって、ハンマーLV7スキル「ハードトルネード++」で蹴散らしてくれた。
「地獄の業火!」
俺達がいる反対方向からも雑魚敵が襲い掛かってくるが、そっちは俺の後釜で入ったらしい少年、Pumaが炎魔法LV9スキル「地獄の業火」で焼き払ってくれた。
そうやって5人でしばらくの間は食い止めることができたが、倒しても倒しても敵が減らない。それどころか、ボスほどじゃないけど範囲攻撃の「ハードトルネード++」程度じゃびくともしない「中ボス格」が何体も現れ始めた。
「なんだよこれ。中ボス格だけで10体はいんじゃねえか?」
「こんなんボスいなくても勝てる気しねえよ。1体でもタイマンで勝てる相手じゃねえのに。」
愛奈が範囲防御スキルで粘ってくれているが、ダメージの蓄積がそろそろやばい。しかも、中ボス格複数の攻撃を防ぎながらボスの攻撃に対して盾をクリティカルで当て続けるとか無理に決まってる。愛奈が崩れるのは時間の問題。フォローに行かなきゃ……。
そう思っている矢先、炎魔法のPumaから悲鳴が上がった。炎耐性のある火鼠が2体、そいつの側から突進してきたらしい。やばい!
「アイスランス!」「アイスランス!」
発動が早いアイスランスのダブルキャストで火鼠を葬った。
「ユイさん、サンキュです!」
Pumaは無事だったらしい。でもこれではユウへの支援が間に合わない。ユウはかなりダメージを受けている。
「ヒール!」
俺に使える回復魔法はLV2のヒールがせいぜいだ。その程度では、足らなかったらしい。ユウのHPが0となり、はじまりのまちまで転送された。
「ユウ!」
俺の声は、魔獣たちの雄叫びによって消し去られた。
16:12に主にマルスと分かれる寸前のシーンを書き足しました。
このシーンを書き忘れるとは作者大失態。
感想で「MMOのリアリティがある」と言っていただけたのですが、ここから先どれだけリアリティがあるか怪しいです。ごめんなさい……。
評価を入れてくれた方、本当にありがとうございます!
最新話の下の方によく見ると「ポイント評価」というところがあるので!もしよかったら!(あんまりこういうことを書くのは乞食みたいであれなのですが、面白いと言ってくださる方がいると作品がもっと広まってほしいという欲が…。)
読まれるに値する作品にブラッシュアップしていかねば……。