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俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女ができました。  作者: 雪卵
第3章 NPCという存在の現実
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21話 完璧な美少女

世界を救うかどうか、についてはもうあきらめたというか、やれることをやればいいって吹っ切れたユイ。

しかし、悩みごとはもう一つあって……。

 俺はマルス。俺は、今自己嫌悪に陥っている。彼女のユイちゃんが何かにものすごく悩んでいて辛そうなのに、何もしてやることができないでいるからだ。

 俺がユイちゃんに救われてばっかりで、俺はユイちゃんに何もしてやれない。そんな不器用な自分を愛してくれているのは分かってるけど、おそらく悩みの原因は俺と付き合っていることにあるんだと思う。俺が、なんとかしなきゃ。

 そう思っていると、普段より晴れ晴れとした様子のユイちゃんがやってきた。

「ユイちゃん今日は元気そうじゃん。」

「そう?」

「ああ、毎日ユイちゃんを見てる俺にはわかるさ。」

「ふふ、マルスったら。まあ、いいことがあったのかはわからないけど、実はね……。」


「え、でもリズちゃんは女の子だろう?」

「そーだね。まあ、女の子が好きな女の子もいるんだよ。」

 苦笑いしながらユイちゃんは答える。

「へぇ。初めて知ったよ。そうか、リズちゃんがライバルか……。」

「だから、ちゃんと断ってきたんだって。」

「ああ、知ってるさ。でも、人を好きな気持ちって、ふられてもそう簡単に諦められるようなものじゃないって言うしさ。」

「それはそうだけどね。もしマルスにふられていても、私はあきらめてなかったと思う。」

「ふふ、ありがとうな。俺なんかを選んでくれて。」

「だから、『俺なんか』って言うの禁止ってこの前言ったよね?」

「そうだった、ごめんごめん。」

「もー!」


「いやー、元気そうで安心したよ。」

「うん、私、吹っ切れたんだ。」

「吹っ切れた?」

「うん。自分にできないことを抱え込んで、勝手に落ち込んで、周りの人に心配かけてちゃダメだって。できることからやればいいんだって、そう思えたの。」

「ああ。ユイちゃんがこの世界の存続なんて抱え込む必要ないんだから。まあ、俺からすると、このままだとこの世界がなくなるって方が信じられないんだけど。」

「うん。もしかしたら、ずっとこの世界が続くかもしれない。それを信じてみようと思う。」

「ああ。」

 

「でさ、吹っ切れたついでに、言いたいことがあるんだけど。」

「何だ?」

「実は、実は、私……。」


 この言葉の続きを、この日聞くことはできなかった。



 それから、ユイちゃんは以前よりは元気になった。この世界についてとか、大きすぎる悩みを手放したからだろう。だけど、まだ何か悩みを抱えているらしい。

 毎日俺に何かを言おうとしては、引っ込めるのだ。

 大きすぎる悩みを手放したはずなんだから、もっと小さな悩みがあるはずだ。考えろ。ユイちゃんの悩みを。

 今度こそ、俺が力になれずに、なにが彼氏だ。



「んがーーーーーー!」

 ログアウト直後。口惜しさともどかしさでヘッドギアを叩きつけた。

 今日も、言えなかった。私は、「ユイちゃん」は、実は男だってこと。

交流会が失敗したあの日、泣きながら決意したんだ。もうマルスに隠し事はしないって。でも、いまだに、私が男だってことは言えていないんだ。


 マルスに、嫌われるのが怖い。


 いや、男だってカミングアウトしても、マルスが私を嫌わないのは分かってる。

 分かってるけど、それでも、言おうとするたびに、引いてしまうマルスの姿が頭をよぎる。

 もしかしたら、「向こうの世界では男」というのがどういう意味か理解されないかもしれない。混乱を招くだけかもしれない。でも、それなら別にまだいいんだけど……ああ、何考えてるかよくわかんなくなってきた。

 とにかく、マルスに「私は男だ」ということができずにいるんだ。


 そうこうしているうちに、日々が過ぎていく。

 今日も学校に向かう。自分の制服が肌をこするたび、否が応でも私は男なんだと思いだされる。学校につくと、見知った顔、横井啓太がいた。ゲーム内の「ケイタ」のアバターとほぼ同じ顔をしているのが、妙に安心感を与えてくれた。

「なあ、ケイタ。」

「なんだ、結野。」

「男女ってなんなんだろうな。」

「何を突然言い出すんだ?」

「ああ、すまん。実は……。」


「そうか、マルスさんにカミングアウトか……。やめといたほうがいいんじゃないか?」

「そう思う?」

「ああ。正直、あの世界は現実世界ほどLGBTに理解はない。普通にショックを受ける可能性は十分あるし、『裏切られた』とか言い出す可能性もあると思う。」

「でも、マルスはちゃんと俺を愛してくれてるし……。」

「でもな、ラブラブなカップルほど、壊れるときはあっさり壊れるもんなんだよ。実は俺の姉がそうだったんだけどな、家で『ずーっと一緒にいるんだ!』って言ってのろけてて、数か月後には別れてんの。お互いの理想が高すぎるんだろうな。」

「それは……怖いね。」

「ああ。実は僕は、お前らの恋愛、危なっかしいと思ってたんだ。ラブラブすぎるから。お互いがお互いを邪険にするぐらいの距離感が実は一番長続きするんだが、今更ラブラブするのをやめろとも言えないしなぁ。」

「まあ……。やめられないね。」

「だったら、お互いの高すぎる理想を保つしかない。お前はもう、完璧な美少女でいるしかないんだよ……。」

「そうか、そうだね……。」


 やっぱり、マルスのために、完璧な美少女であらねば……。

 そのためには、現実でも性転換した方がいいかな。それと……。

 そろそろ私も、「女」にしてもらわないとな。


かなり迷走を重ねましたが、とりあえず完結までもっていくことができそうで良かったです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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