アイアンゴーレムの最期4
「召喚、アイアンガーディアンゴーレム!」
主の声とともに、我は戦場に現れた。眼前には、多数の魔物の群れ。そして、それを率いるのは、ヘビーグラウンドドラゴン。およそ我の敵う相手ではない。
我の視野に、必死の形相でパーティーの仲間に助けを求める主の声が聞こえた。
そして主から、強い思念を感じ取った。
「マルスは私が守る。マルスが逃げ切れるだけの時間を、私が稼ぐ。だからどうか、マルス、生きて」
我が主に生きる希望を与えてくれた騎士マルス。その人格はユイからよく聞いている。マルスはここで役目を終えていい人間ではない。
命を落としていいのは、東地域を守る役目を終え、一介の魔法使いの使い魔に落ち、その主ユイにすら満足に尽くすことができなかった、我だ。
我は、死に場所を見つけたようだ。
「我は死ぬのはあまり好きではない。一分一秒でも長く生きながらえて見せる。一分一秒でも長く攻撃を止めてみせる」
我は土魔法で壁を作った。ヘビーグラウンドドラゴンを数刻足止めすることに成功する。
ヘビーグラウンドドラゴンは我に牙を向ける。
「かかってこい、ヘビーグラウンドドラゴン。一撃でも多くしのぎ切って見せるわ!」
我の装甲はどんどん削れていく。我の攻撃は、ヘビーグラウンドドラゴンの攻撃を遅らせる程度の効果しかなかった。
数刻の牙と拳のぶつかり合いの末、ヘビーグラウンドドラゴンは、我を避けて主の方に進もうとした。
我は身を挺して時間を稼いだ。
我の左手は、ヘビーグラウンドドラゴンに弾き飛ばされた。
我は残った右手を振り回してヘビーグラウンドドラゴンを足止めしようとしたが、ついにヘビーグラウンドドラゴンは我の防御を突破した。
その時、パーティーメンバーがユイのもとに現れた。
新たに加入した炎魔法使いのPuma(闘技大会BEST8入り)。ハンマー使いのユウ(BEST32入り)。卓越した補助魔術師のケイタ(BEST16入り)。そして闘技大会4位、鉄壁の愛奈。
彼らなら、一時の間ヘビーグラウンドドラゴンとその取り巻きの相手を任せることができる。
我はボロボロ身体に鞭を打って、眼前の敵を見据える。中ボス格の魔物が続々とこちらに向かってきている。
我の相手はこ奴らだ。
中ボス格の剣が、鞭が、槍が、弓が、銃が、炎が、雷が、我の身を貫く。
我の身には穴が開いてしまっているが、近くの岩をはめ込んで穴をふさぐ。
我はこの中ボス格どもの攻撃を通さないためにこの場所にいる。
この身は不倒。主の前で、決して膝はおらない。
「この身は我が主、ユイの盾である!最後に主への忠誠、果たさせていただこう!」
我の意識がもうろうとしてきている。いけない。主が戦っている。主が主の何より大切な物のために、戦っているのだ。我がここで、意識を、失う、訳、に、は、いか、な、い、の……だ……。
我の身体が崩れていくのが分かる。必死に朽ちかけの右手を振るい、中ボス格の魔術師、ハイオーガメイジを屠る。その時、右半身が砕け散った。
ああ、我はここまでだ。
我の長い命の大半は、東地域の守護者として過ごした。イリス様をお守りできなかったと悔い続けてきた永き日々。しかし、人生の最後に主とであい、イリス様をお救いする事ができた。そして、新たにできた大切な仲間と、素晴らしき日々を過ごすことができた。
その中で強くなった我の実力を存分に振るい、最後に主のために命を散らすことができる。本望である。
天国に行けば、イリス様に会えるのか……。会えるといいな……。
我は自爆スキルを発動させると、我の散らばった身体全てを爆発させ、多くの魔物を屠った。
我の意識は、身体とともに、霧散した。
俺はユイ。マルスを救うために絶望的な戦いを挑んでいる。
必死でコールドブリザードを放つさなか、爆散するアイアンガーディアンゴーレムが目に入った。
彼は感情を持つ魔物だった。気高き、そして主思いの魔物だった。
私のわがままのために、彼の命は砕け散ったんだ。
彼と過ごした日々が脳裏によぎる。俺は、最初はゲームの中の話だとたかをくくっていた。でも、彼が俺を心配する気持ちが本物なのは、痛いほど伝わってきた。
涙があふれてきた。俺の、俺なんかのために、気高き東地域の王が、散ってよいのか。
その時、彼の言葉が俺の脳裏によぎった。
「我は主にまだ何も返せていない。主の力に、支えになりたいんだ」
その時、俺は、私は、理解した。彼は俺と、私と、同じなんだ。大切な人の力になりたいという思いに突き動かされて、動いていたんだと。
だから俺は、私は、私の大切な人、マルスのために、戦う。
狙い澄ましたツララランスが、こちらに向かってきた中ボス格の急所に刺さる。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
マルスと再会した日、俺はマルスとともに、アイアンガーディアンゴーレムの土葬を行っていた。
「俺のせいで、大事な使い魔の命を失わせてしまったのか……」
「いいのマルス。後悔しちゃダメ。マルスに救われた人たちに、失礼だよ。マルスが救った人たちは、生きるべき人たちだったんだよ。だから、これでよかったんだよ」
「そうだな……」
「私は、彼が私に尽くしてくれた分まで、マルスに尽くすよ。それが、彼の想いに答えることだと思うから」
「ユイ……。俺も、ユイの想いに、少しでも応えていきたい。それが、彼の想いに答えることだと思うから」
アイアンガーディアンゴーレムの顏部分は、4つに割れていたが、誇らしげに、笑っていた。




