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俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女ができました。  作者: 雪卵
間章1 その頃の周囲の人たち
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アイアンゴーレムの最期3

 主達の冒険を見守っていきたいと思った。




 ただ、我を召喚する召喚石は使い捨てであることもあり、頻繁には冒険に同行できなかったのであるが。




 それからしばらくしたある日、闘技大会が行われた。主達パーティーのメンバーも出場する。上位32人には、景品として女神の加護が与えられるのだそうだ。




闘技大会は個人戦で、一日目の予選ラウンドで上位128人が決定した。




「来訪者は強き者が多いと聞いてはいたが、まさに規格外の強さだな。グルーシャーク村のジャックは我をもってして苦戦するほどの剛の者だが、キリヒトとかいう来訪者に手も足も出ていなかった」




「キリヒトはプレイヤーの中でも最強とも言われている人なのー。対人戦で負けたことがないらしいのー。だからキリヒトさんに負けたからといって弱いとは言えないですのー」




「そうか。やはりあの者は来訪者の中でも群を抜いて強いのか」




「そうですのー。でも、あの人の無敗伝説は愛奈が終わらせるですのー!」




 その翌日、決勝ステージが行われた。ユウは3回戦でキリヒトに当たってしまいあっけなく敗退した。ケイタは健闘したが、BEST16で姿を消した。




「ユウとケイタの仇は愛奈がとるですのー!」




「いけー、愛奈!ウチの分までぶちかましたれ!」




 「双剣」のキリヒトと「鉄壁」の愛奈による準決勝は手に汗握るものであった。観戦していた我も心が震えたぞ。




 少しずつ防ぎきれないダメージが蓄積していた愛奈が、左手で直接剣を受け止めたことで戦況が動く。左手から多量の血を出しながらも、キリヒトの左手の剣を奪い取る。




「なっ!」




 まさかの事態にキリヒトが動揺した隙に、愛奈が攻勢に出た。




「逃がさないですの!」




 キリヒトも片方残った剣で愛奈の盾斧による攻撃を懸命に防ぐが、徐々に攻撃を食らい始める。一方、愛奈は出血でHPがぐんぐん減っていく。どちらのHPが尽きるのが早いか。片時も目が離せない戦いが続いた。




 愛奈の一撃で試合が決まるか。そう思った時、愛奈の盾斧が弾けた。




 今までのキリヒトの激しい攻撃で傷んでいた盾斧は、もう限界だったのだ。




 盾斧を失った愛奈には、もうキリヒトの攻撃を受け止めきる力は残っていなかった。




「勝者、キリヒト!」




 愛奈は3位決定戦用に急ごしらえで安物の盾斧を用意したが、3位決定戦という高度な戦いには通用しなかった。結局、愛奈は4位に終わった。




 しかし、ユイのパーティーメンバーは愛奈4位、ケイタがBEST16入り、ユウもBEST32入りと健闘した。3人は女神の加護を得ることができた。




 その頃、我が主、ユイは何をしていたのか。




「がんばってー!愛奈、そこだぁ!いっちゃえ!」




 主は、ひたすらメンバーの応援に回っていた。




 主は予選落ちして、2日目の決勝トーナメントに進むことができなかったのだ。




 もちろん、女神の加護を得ることができなかった。




 女神の加護がないと調査することのできない迷宮などが多く存在した。




 また、女神の加護には成長補正もついている。女神の加護を持っていない主は、他のメンバーにレベルで後れを取り始めた。




 いつしか、足手まといとなっていった主は、パーティーを抜けることになった。




「ユイ……。すまんな。これからも一緒にやっていきたかったよ、俺は」




「しょうがないよ。気にしないで、みんな」




「これからも、ここ(パーティーハウス)に時々遊びに来るんやで!」




「待ってるですのー!」




「みんな……。ありがとう……」




 こうして、主は、メンバーに見送られていった。








「アイアンゴーレムはこれからも東地域を守っていてよ」




「我は構わないが。ここのパーティーハウスからは離れることになったのだろう?」




「うん。でも、このパーティーこそが私の原点だから。またいつか、私はここに戻ってくるよ」




 主はそう言って、心細そうに笑った。




「我に力に慣れることが有れば、いつでも言うのだぞ。我は主にまだ何も返せていない。主の力に、支えになりたいんだ」




「うん。必要なときはいつでも喚ぶから」








 そう笑うユイの心の中には、埋められない穴があるように見えた。








 パーティーを抜けてからもしばらくの間は、ユイは東地域のパーティーハウスに遊びに来た。




 ある時から自然な笑顔を見せるようになっていった。








「大事な人が、できたんだ。もう私には居場所がある。私は、その人のためにできることをしたいんだ」








 ユイの心の穴を埋めたのは、マルスとかいうどこぞの騎士だという。




「我が最後にイリス様を救えたのは、我が主のおかげだ。感謝してもしきれぬというのに……。」




 我のもとには、連日のように来訪者の挑戦者がやってきて、我と決闘を行った。


 パーティーの仲間といっしょに夜を明かした。


 我は強くなった。我は仲間ができた。我は新たな居場所を手に入れた。




 我は、生まれてよかったと思えるだけの幸せを手に入れた。


 全て、我が主がくれたものだ。ユイがくれたものだ。


 なのに、我は、我が主の力になれていない。いつかこの恩を返せる日は来るのだろうか。


 その日は、突然にやってきた。




  主に報いるべきその日は、突然にやってきた。

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