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俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女ができました。  作者: 雪卵
間章1 その頃の周囲の人たち
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アイアンゴーレムの最期2

  それから半年たった今、我に挑まんとする来訪者の冒険者が増えておる。しかも、かなり実力のある冒険者も多い。そろそろ我も限界なのかもしれぬな。お、どうやら新しい冒険者が現れたようだ。相手をせねばならんな。


 我は非常に苦戦していることを認めざるを得んな。我の攻撃はことごとく目の前の愛奈とかいう盾戦士の少女に阻まれている。我の眷属の魔術はケイタとかいう術師の障壁魔法に遮られ、あるいは冒険者どもに避けられ、効いている様子がない。眷属はハンマー使いの全体攻撃で確実に数を減らしていき、我自身は氷魔法で着実に削られている。このまま我は東門をあけわたすのか。いや、それだけはならん。


 我は我の屈強な身体が砕け散るほど強烈な殴打を盾戦士の少女に繰り出した。我の破片が盾戦士の少女に降り注ぐ。我の最終奥義だ。しかし、盾戦士の少女は片手で回復薬を飲みながら片手で我の殴打を防ぐ離れ業でこれを防ぐ。




我の奥義を一人で受け切るなど彼女がはじめてだ。しかし、今までの彼女の動きからしてそれは想定内だった。


 我の狙いは、最終奥義で盾戦士の少女を釘づけにして、その隙に氷魔法使いを倒すことである。




我は物理防御はかなり高い。我への有効打を持っているのは、氷魔法使いの少女一人だと判断した。


「氷魔法使い、覚悟せい!縮地拳!」


「ユイ!避けるですの!」


 ユイと呼ばれた氷魔法使いの少女は我の拳を避けるが、風圧で大きなダメージを受けている。体勢も崩している。もう一発殴れば仕留められる。そう思った時、ユイとやらの目に殺気が宿ったのが見えた。




「ほう、面白い。ここから何とかできるならして見せろ。」




 我の拳がユイとやらをとらえようとした時、我の足元にツララランスが放たれた。この戦いで何度も見た攻撃であった。そこで、我は今まで通りに避けようとする。


 しかし、その瞬間彼女はダブルキャストでスモールウィンドも発動させておった。


 普通ならこの程度の攻撃屁でもない。しかし、そのスモールウィンドは、ツララランスの攻撃先を狂わせ、我の踏み出そうとした足場に直撃した。


 我が体勢を崩した一瞬のすきに、ツララランスを足場にして、彼女は我の急所に回り込んだ。


 我がユイとやらを振り下ろそうとする隙に、彼女は魔力を我のコアに流し込んだ。

 コアとは、私の根幹をなす部分である。ここを掌握されてしまっては我は逆らうことはできないのである。

 我はユイとやらの使い魔となった。


 ユイらは来訪者と聞いていた。来訪者は我らのような守護者を軽視する傾向があると聞いていたので、ユイのようなものの手に落ちるのは口惜しかった。




 しかし、我の主となるユイは、我を軽視などしなかった。我に語りかけ、意思を尊重し、引き続き東地域の警備にあたらせた。




 「東地域にパーティーハウスを構えるから、その守護をお願いしたいの。まあ来訪者は他のプレイヤーの使い魔に攻撃などしてこないだろうから、主に魔物から守ってもらうことになるね」


「ありがたき幸せ。我は、イリス様が守ろうとした東地域を、今度こそ守り続けたいのである」


「うん、しっかりよろしくね」


「しかし、わが主よ。折角我を使い魔にしたのだろう。自分の戦いに我を連れて行こうとは思わなかったのか?」


「そうねー。考えはしたよ。でも、アイアンゴーレムのここから離れたくないという思いが伝わってきたから」


「そうか。ありがとう。しかし、本当に必要なときは我を呼ぶのだぞ。召喚されれば、いつでも駆けつけることができる」


「わかった」


「そうだ、戦うのを見るのは好き?」


「ああ、強き者が戦うのを見るのも楽しきことだな」


「私達、来月に闘技大会に出るんだ。良かったら見に来てよ」


「ああ。ぜひ見に行かせてもらおう。……待てよ、我の巨体は観客席に入るのか?」


「そこらへんは私が大会運営者に掛け合っておくから」


 その数日後、ユイは我にとんでもないことを知らせてきた。


「この前、クエストで、『浄化の水晶』っていうアイテムを見つけたんだけど……。これって……」


それは、我がイリス様を失ってから、ずっと探していたアイテムである。それさえあれば、イリス様を浄化して苦しみからお救いすることができるからである。しかし、それは伝説級アイテムで、我が100年以上探しても見つからなかった。


 それを、ユイらは見つけたというのか。


 我らは、悪霊となったイリス様のもとに向かい、「浄化の水晶」を使用しようとした。しかし、例の強大な悪霊に阻まれた。


「ウィヒヒ、浄化などさせんわい」


「これは我の敵だ、手出し無用!我に復讐させてくれ!」


「うん、分かった。アイアンゴーレム、頑張って!」


「頑張るですのー!」




 魔法も覚え、眷属を操れるようになった我は、悪霊相手に健闘した。しかし、決め技を放とうとしたところで、隙を突かれて、強烈な一撃をもらってしまう。




 意識が遠のいていくのが分かる。


 現実は残酷である。我では悪霊にかなわない。実力差を、はっきりと分かってしまった。


 我はここまでなのか。イリス様をお救い出来ぬまま死んでいくのか……。


 それだけは断じてならん!


「すまない!前言を翻してしまい不甲斐ないが、助太刀を頼む!」


「わかった!エクスヒール!」


 即座にエクスヒールを飛ばしてくれたのは、ヒーラーのケイタとやらだった。準備していてくれたのだろう。


 そう、我は一人ではない。仲間がいるのである。


「アイアンゴーレム、いったん下がるですの!防御は一旦愛奈に任せるですの!」


「コールドブリザード!」


 パーティーメンバーは、それぞれの力を発揮してくれた。そして、最後に悪霊にとどめを刺したのは、我が主、ユイであった。


「終わったの……」


「終わったですのー!」


「皆、協力本当にありがとう。おかげで、我は復讐を成し遂げることができた」


「そうだね。でも大事なのはこれからだよ、アイアンゴーレム。イリス様を浄化させるんでしょ」


「ああ」




 そして、我は、イリス様を浄化した。


「あ……。アイアン……。遅いよ……」


「申し訳ありません、イリス様……」


「でも、来てくれた。本当にありがとう、アイアン……」


「イリス様……」


「アイアン、折角助けに来てくれたけど、私、もう限界なの……。もうとっくに本来の寿命も来てるし……」


「すまない……」


 今にも消えそうなイリス様を連れて、我らは東地域を案内して差し上げた。


「アイアン……。ここを守り続けてくれてありがとうね。


 あの、冒険者の皆さん。ここを守り続けてもらえますか?」


「わかったよ―。ここはきれいな村や。住みたい人も多いはずやよ」


「イリス様、安心していいですよ!」


「知り合いの強い来訪者たちにもここに住まないか誘ってみるですのー!ここに住みながら、ここを守ってくれると思うですの!」


 イリス様は、徐々に透明になって、最後には消えていった。最期まで優しい笑顔を浮かべられている。


 イリス様を苦しみからお救いし、美しく保ったこの村をお見せすることができた。

 それは、主達パーティーのおかげであった。

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