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二重契約者7

 それから十数分くらいで寮に到着し、車がその目の前に止まった。


 結構大きなホテルの様な感じの寮であった。旭と姉の美和は車を降りて前の運転席のところに行き、片桐と桐谷に礼を言う。


「片桐さん桐谷さん、ありがとうございました」


「二人共ありがとう。車ごめんやけどよろしく」


「了解です。では隊長お疲れ様でした……。旭君、また九陽学園でね」


「お疲れ様っす。隊長に旭君、ではまたね」


「はい。ではまた」


 車はそのまま走りだし、見えなくなる。旭と美和は寮に足を向けて歩き出した。


「ここが今日から旭が住む寮や。結構良()えやろ」


「うん。()えけど大きい寮やな。てか寮とか住んだ事無いから分からへんねんけど、飯とかって出るん?」


「出るよ。朝七時から九時と、夜は六時から九時やったかな」


「ふーん」


 美和はそのまま寮に入って行き、その後を付いて行く旭。


 すると目の前に旭と同い年くらいの水色の髪、金色の目を持つ少女がこちらを見ていた。髪と目はフェアリーによるものの様だった。


「先生、おかえりなさい。帰ってこられたんですね。それで……、そちらの女の子は誰なんですか?」


恵愛(あやめ)ちゃんただいま~。この子は私の妹の旭。よろしく頼むねー」


 姉のいきなりの妹発言にたいして文句を言う。


「いやいや、ねーちゃんいつも言ってるやん! それマジでやめてって! 僕とそこの子、初対面やねんで! え~っと、恵愛さん? あの、初めまして、僕はこの人の弟です」


 その言葉に美和は何故か、あちゃーっといった顔になり、恵愛はキョトンとしていた。恵愛のその表情に何か変な事言っただろうかと、旭は首を傾げる。すると恵愛はすぐに真剣な表情になり、旭に目を向けた。


「あの、申し訳ないのですが、本当に弟さん……? それで、この寮になんの目的で?」


 軽く睨む様に言う恵愛の態度に旭はイラッとしたが、初対面の人なので我慢しようとする。


「弟やけど、何か文句あるん? 目的って、ただ僕は九陽学園に通う事になるから、この寮に住むつもりやけど、何なんよ?」


 が、我慢しきれずにトゲのある言葉と態度になってしまった。すると恵愛がポツリと言う。


「此処に住む……? 君、言っとくけど此処は女子寮なんだけど」


「はっ? えっ? 女子寮?」


 目を丸くする旭。そしてすぐさま姉を睨みつけるが、姉はサッと目をそらした。


「なー、ねーちゃん。此処は僕が住む事になる場所やーって、言ってたやんな。そこの恵愛って子が此処は女子寮って言ってるんやけど、これどういう事?」


 こめかみ辺りを掻きながら、美和はここをどう切り抜けようかと考え始める。そこで恵愛がちょっと待ってっと、旭に話しかけた。


「先生が君をここに連れてきた事や、君が先生の弟って事は理解しました。それで、旭君だったよね? 私は何も知らないのに偉そうに言ってしまって、しかも態度も悪かったし、そこは本当にごめんなさい。でも寮監(りょうかん)である先生が、自分の弟だからといって、理由も無く女子寮に住まわせ様とするとは私には思えませんし、思いたくない。美和先生は私が尊敬する女性の1人ですし……あの、だから先生にはなにか理由があるんですよね? 先生、それをどうか教えていただけませんでしょうか?」


 旭が姉の美和に話を向けた瞬間、恵愛の態度が変わったので何だか釈然としないが、そこは何も言わず、恵愛の真意を問うた言葉を聞き、姉はどの様な返事を返すか待つ事にした。


 その二人の視線に軽くため息を吐き、まだ迷った様な顔ではあったが、語り始める。


「出来れば恵愛ちゃんや寮の子達には隠したかったけど無理があるか……。この事は旭も知られたくない事だと思うから言わずに済めばって思ってたけど」


 旭に顔を向け、申し訳なさそうな顔で謝る美和。それを聞いた旭は姉が何を言おうとしているかを気付く。その話を直ぐに止めようとするが、そこでふと思ってしまう。ここで止めたとして、自分は男子寮に行く事が出来るのか? 住む事が出来るのか? 怖くは無いのか? と、頭の中で考えたが、旭は行きたくないと、そこに留まり住む事など出来ないと、何よりも怖いと思ってしまったのだ。


 何かを言おうとした手は止まり、元の位置に戻って、結局何も言わず、唇を噛みしめ下を向いた。


 それを横目で見ていた美和は、視線を恵愛に戻し話を続ける。


「旭に内緒で前の学校について調べたら、色々な事が分かってね。旭が学校でどう過ごし、何をしていたのか本当に色々……」


 姉の美和は苦しそうに一言一言、言葉を選びながら、ゆっくりと語り始める。


「旭は学校ではいつも1人で居る事が多く、体育の時間にはトイレで着替えてたり、プールではいつも見学だたり、そんな事をクラスの子等から話を聞いて。そこで私は何で人を避けているのか気になり、色々と調べていると旭のファンクラブなんてものがあるって事を知ってね。旭は学校ではすごい人気ものだったみたい。髪は金色で青い目をしていて、凄く目立つし、ほら、旭ってなんだか女の子みたいな顔で可愛いでしょ?」


 内緒で調べていたと言う言葉には少し驚きはしていたが、それ以外は押し黙る旭。そして聞き続ける恵愛。


「旭は女子に間違われる事や、女子として扱われるのを凄く(きら)ってて、これは私も本当は悪いとは思ってるんだけどね。でも学校の生徒達は旭をどうにも男子だと思えず、特に男子は旭をまるで壊れ物を扱うように接して、着替えの際も離れて着替え、旭を見ない様にしていたらしいの。そのクラスの対応や接し方に旭は嫌気がさしてしまって、それで皆を遠ざけ壁を作ったんだと私はその時はそう思った。けど違ったみたい」


 旭は嫌な事を思い出したのか顔を顰しかめる。


 「旭が皆に壁を作る前の話しみたいなんだけど。旭をちゃんと同じ男子として接してくれる友達ができ、その友達になった男の子とよく話したり遊びにも行ったりする様になってたみたい。でもその子は旭の事を好きになってしまったらしく、旭に告白をし、旭はその告白を断り拒絶した。その男の子の告白が大分ショックだったんだと思う。それから旭はその男の子とは話さない様になり遠ざけたんだけど。ここで終わってたら本当によかった、けどその男の子は旭を呼び出し、仲間を連れて旭を襲おうとして、でも何とか旭はその男の子達から逃げ出す事ができた……。でも、逃げる際にその子達を殴った事を、その男の子達は自分達にいい様に事実をねじ曲げ、先生達に訴えた。そこから親を巻き込んでの話し合いにまで発展していったんだけど、その子達が旭を襲おうとした事が分かり、その話はその子達が強制わいせつ未遂をしたって事で話しは終わった。でもそれから旭は学校の生徒達に対して壁を作る様になったと、クラスの子達から聞いたの」


 驚きと哀れみを感じて何も言えないでいる恵愛。下を向き続ける旭。そして姉の美和は恵愛の右手を両手で掴み、懇願(こんがん)する。


「私はそんな事があった旭を男子寮に住まわせるなんて出来ない。だからお願い、此処で旭が住む事を許してほしい。恵愛ちゃんから、どうか皆をうまく説得してもらいたいの。お願い……」


 美和は恵愛に頭を下げた。困惑し悩む恵愛であったが美和の言葉に頷いく。


「分かりました。旭君の事は皆に納得してもらえる様に頑張ってみますから、だから顔を上げてください」


 恵愛の言葉に安心し微笑む美和は、もう1度深く恵愛に頭を下げ、ありがとうっと呟いた。


 旭はあの時の怒りや悲しみ、そしてその時の同級生である男達の表情や自分を見る目などを思い出し、どうしようもい嫌悪感に襲われた。自分が男子寮に住む事を想像しただけで気持ち悪くなる。姉の美和は旭の為に女子寮を選んだ。それを旭は理解する。


「旭、勝手に住む場所決めたり嫌な事を思い出させたりしてごめんね。でもお姉ちゃんは、あの事を知って、旭を男子寮に住まわすなんて事、今は考えられない……。だから女子寮に住む事を納得してほしい」


 自身の事を男だと言う旭。なので女子寮に住むって事が嫌ではあった。しかし旭は今、男子寮に行く事を怖く感じていたので、その姉の言葉にありがたいとは思う。自分は男だけど今は、まあいいかと考えるのをやめる。でも色々と恥ずかしくて、顔が赤く染まり、姉の顔がちゃんと見る事が出来ない。その為、旭はそっぽを向いたままだった。


「てか、何なん? その喋り方。もしかして先生の時は関西弁封印してんの?」


「あーっと、これね? ちょっと関西弁だと気を抜いてしまうかもしれないから、生徒が居る時はこの喋り方をしてるんよ」


 ふーんと、そっぽ向いていた顔を姉に向けた。


「分かったわ。此処で住んでも大丈夫って言うんやったら此処でええわ」


 そっかと喜び笑う姉。だが恵愛はそこで、うーんっと何かを考えだした。


「先生、旭君の部屋はどうするんです? ここでは二人で一つの部屋を使っていますよね?」


「それは大丈夫、部屋は確保できてるから! それと申し訳ないけど、その部屋、旭専用って事で話ついてるから、その、ごめんねー」


 美和は手を合わせ謝る。


「えっ! でも、それでは周りからの文句を止める事が、難しいですよ?」


「そこは私の名前出して。先生が勝手に決めたって本当の事言えばいいから」


 えっ、でもっと言っていたが途中で、


「分かりました……そう言っときます」


 恵愛は諦め、旭と美和におやすみなさいっと挨拶をして部屋に帰って行った。


 それから姉の美和は、旭に部屋を案内する。


「部屋は一番上の五階が空いてるんよ。此処にはエレベーターあるからしんどくあらへんよ」


「ほんま、ねーちゃんは色々と強引やなー。あの恵愛って子めっちゃ困ってたやん。まっ、でも僕がこれ言ったらあかんわな」


 旭は呆れながらも、姉には感謝していた。


 そしてエレベーターに乗り五階に着いてから部屋の場所と鍵を姉に貰う。そこで何かを思い出したのか、美和は自分のバックの中に入れていた物を旭の右手首に付けた。


「ん……? 何これ? 時計?」


「要塞都市に入る前に付けとかなあかんかってんけど忘れてたわ。これはフェアリーの力を抑える為の物で、リミッターって言う物なんよ」


「忘れてたって……。問題は無かったからええけど」


「そのリミッターは旧式のもんやから抑える力も弱いねんけど、旭専用のリミッターが出来るまでそれ外したらあかんで。防水で濡れても大丈夫やから、風呂入る時も寝る時も付けててな」


 と言うなり、おやすみーっと自分の部屋に帰って行く美和。その姉の後ろ姿に小さく、ありがとうっと呟き、そして旭は自分の部屋に入って行った。

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