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二重契約者5

 目を覚まし最初に見た光景は、美和の満面な笑顔であった……。


 思わずっと言った感じに、旭の拳は美和の頬にめり込んでいた。


「あっ ……何してるん?」


「いや、旭ちゃん酷くあらへん!?」


「酷いんは、ねーちゃんの行動と頭やと思うけど?」


「更に容赦ない旭ちゃんのお言葉!?」


 嘆く姉の美和を横に退かして、布団から起き上がった。


「気を失ってて色々頭がごちゃごちゃしてるんやけど、それでけっきょ……」


 く、っと言葉が続かず、自身の服装に目が行く。


 長袖のシャツにジーパン、別にこれと言って変とは言えない格好ではあるのだが。


「ねーちゃん? ……もしかして着替えさせた?」


 キョトンとした表情の美和。


「ん? 着替えさせたけど? 後、汗かいて気持ち悪いやろうと思て、体も綺麗に拭いたからスッキリしてるやろ?」


 良い仕事をしたっと言いたげな笑顔。その笑顔に疲れた表情で深いため息を吐く旭。


「あのな、ねーちゃん。確かにねーちゃんは大人で僕は子供や。でもな、もう中学二年生やで? それを弟やからって姉が体拭いて、着替えさすなんてデリカシーが無さすぎるやろ。そう思わへん?」


 ぶーたれた表情で旭の言葉を聞く美和は、


「全然思わへん! これでも旭の意見を取り入れて、男の子の服装にしたんやで。ほんまやったら、そろそろブラが必要かなーって買っておいた下着と、金髪碧眼の妹の旭に似合う、ヒラヒラのお洋服を用意してたのに、男の子の、男の子の格好で我慢したお姉ちゃんの気持ちが旭に分かる!?」


 オヨヨっと口で言いながら、早口でまくしたてる。


「分かるかー!! 後勝手に妹にするなっ!」


「まーまー、それは置いといて」


「置けるかー!!」


「えっ!? ブラ欲しい!?」


「断固要らんわ!!」


 一瞬喜んだ表情になるが、旭の最後の言葉でまたしょげる。


「もっ、もうええわっ! それよりもさっきの事っ!」


 旭は先程の出来事、その詳細を美和に問う。


「全てねーちゃんが仕組んだ事なんは分かるわ。で、結局あの人等は何者(なにもん)で、ねーちゃんは何がしたかったん? 僕を、フェアリーホルダーにする為だけでは無いよね? それだけやったら他にもやりようはあるやろし」


「え? いやいや、大事な妹にフェアリーホルダーに成ってもらう為だけやで? 他には何も無いけど?」


 さも当然でしょ、と言わんばかりの表情である。


「はあ!? その為だけにあの人等使って、家壊したりしたん!? バカじゃねーの!? あと妹じゃねーしっ!!」


「バカじゃないよ? お姉ちゃんなんだよ?」


 ぶりっ子全開、上目遣いで旭を見る。そんな美和の態度に旭は掴みかかり、躱され、いつの間にか旭が下、美和が上のマウントポジションな状態に。


「お姉ちゃんに逆らうなんざ、一生早いのです!」


「意味わからんわっ! ……くそ、悔しいけど勝たれへん」


「罰として、ちゅーの刑に処す! むちゅー」


 必死に顔を背け、唇は死守したのだが、旭の顔全体に美和の唇のあとが付いていた。


 そのスキンシップに満足したのか、満面な笑顔。一方、旭は疲れた顔をしていた。


「それで、あの二人の事やったっけ?」


「あーうん、そう」


「あの二人は同僚。私の部下だよー」


 その言葉に納得し、憐れみの表情になる旭。


「そうなんや、ねーちゃんの部下なんや。可哀想に……」


「その言葉、なんか失礼しちゃうなー」


 頬を膨らませて、口でぷんぷんと言う姉を無視。


「そう言えば僕、ねーちゃんの職業知らんねんけど、何なん?」


「ぷーんぷん!」


「はい、めんどいめんどい」


 更に受け流す旭。


「いつも無茶をしてるけど、今回のねーちゃんの暴走はいつもより酷かった様な気がする。正直警察が来て、大事(おおごと)になっててもおかしくなかった。でも実際は警察も治安部隊も来てへん……。こんな無茶が通る職業って何? ねーちゃんなんか危ない事してへん?」


 どこか心配そうな表情になる旭。そんな旭の頭に美和は手を置いた。


「確かに無茶して、上司にも、おじいちゃんにも凄く怒られたけど。……旭が思ってる様な危ない事は何も無いから大丈夫」


 そりゃあ怒られるだろうと思いながらも、少しほっとした顔になり「そっか」っと旭は頷いた。


「で、私の今の職業は教師」


「ねーちゃんが教師?」


「と、フェアリー治安部隊の隊長であります」


 何故か敬礼をする美和。


「はっ? 教師だけやなくて治安部隊も? それって両立出来るん?」


「出来る! 治安部隊は副業やからね!」


「いや、意味わからへんしっ! まー、ねーちゃんが両立出来るって言うんやったらええけど。そっか、治安部隊の部下やから逆らえんかったんや。ねーちゃんの上司の人も大変やろな……可哀想に」


「これでもお姉ちゃんは有能なのですよ!?」


 指を美和に突きつけ、頭を横に振る旭。


「ユーノー? You No」


「ひっ、酷い! けど、旭ちゃんに酷く言われる事が、段々と気持ち良うなってきた、お姉ちゃん……」


 その様な事を言いながら、口元を(ゆる)ませる姉を見て「……オーゥノーゥ」っと頭を抱える。


 そんな二人の光景を、いつの間にか姿を現していたスサノヲ、ジャンヌは黙って見ていた。


『仲良き事は良い事かな。であるな』


『うんうん、そうだねー』


 気付いていなかった旭は肩をビクッとさせる。


「いや、ビビるからいきなり声出さんといて。ほんま心臓に悪いから」


挿絵(By みてみん)


『ん? それは失敬した。次からは気を付けよう』


『はいはーい』


 機嫌が悪い訳では無いのだろうが、仏頂面のスサノヲに、能天気に笑うジャンヌが旭の周りを飛び回る。そんなフェアリー二体と旭を見る美和。


「それにしても、フェアリーは居ると思てたけど、まさか二体も居るとは思わんかったなー」


「そんな珍しいもんなん?」


「珍しいとか言うレベルや無いよ。実例も何も無くて、旭が初めての実例って事になるんよ」


「ふーん」


 さして興味が無さそうに相槌(あいづち)をうつ。


「いやいや、ふーんって旭、凄い事なんよ。そもそも肉体が耐えられない、なんて言われて確認されていなかった初の二重契約者が旭っ! 世界の大ニュースですよ!?」


 にじり寄り、顔を近付ける美和に困惑する旭。


「あっ、そ、そうなんや」


「んもう! 抱きしめてあげようかしらっ!」


「何でそうなんねん!」


 隙あらばセクハラをする美和にツッコミをする旭。


「僕が珍しい状態なんは、よう分かったわ。それよりフェアリーホルダーと成った僕のこれからどうすれば良いか教えて欲しいんやけど」


 まだうねうねと旭にセクハラをどうかますかを真剣に考えている美和は、我を取り戻した。


「んんっ! それでは説明をさせていただきます」


 何故か仰々しく語り始める。


 一つ、フェアリーホルダーと成った者は、要塞都市東京にて、フェアリーホルダー専門の学校に通わなければならない。


 二つ、フェアリーホルダーと成った者は、その力を無闇に使ってはならない。


 三つ、フェアリーホルダーと成った者は、天乃風・美和に絶対服従をしなくてはならない。


「おいっ! 最後の絶対違うやろっ!」


「天乃風・旭にのみ、あたえられる絶対的な(おきて)です!」


「嘘こけっ!! 真面目に話しいな、話が進まんやろ!」


 美和はケタケタと笑い、話を続ける。


「まー後は、東京に着いてから話すとして、いつ行くかやけど」


「うん」


「今日」


「はあ?」


「やから今日、東京に向かいます」


 唖然と美和の顔を見る。訳が分からないと訴える様に見つめる。


「は、はあ!? きょうって今日? えっ、今から?」


「うん、今から」


 そんな旭をニコニコと見つめる姉の美和。


「いやいや、色々準備せなあかんやろ? 学校に連絡して転校の手続きとか色々っ」


「そう言うのはもう学校側に連絡済やし、手続きも休み前に終わらせたから、後はほんとに向かうだけなんよ」


 旭は何も言えず固まっていた。


「友達とかも居らへんみたいやし、知らせんでええやろ?」


「ぐっは」


 苦しそうに胸に手を当てる。


「でも、旭のファンクラブには知らせといた方がええ?」


「僕の黒歴史やからやめて!」


 片方の手を美和に向け、訴えかける。


 それまで、どこかおちゃらけた表情であった美和は、表情を改め真剣な顔になる。旭はその表情の変化に疑問を抱くが、


「旭にとって、今の学校に良い思い出も何も無いやろ? ……旭の転校は前々から進めてたから、何も気にせんで大丈夫やから……な?」


 美和の言いたい事を理解したのだろうか、ばっと一瞬美和を見つめ、顔を下に向けて黙った。だが、小さな声で呟く旭。


「……あっ、うん。ごめん、ありがとう」


 そこでぱっと美和は表情を明るくさせ、


「何を暗くなって謝ってるん? ええからええから、お姉ちゃんに任せとき」


 笑顔で旭の頭を撫でていた。


「それより早う飯食いに下に行こ、下でみんな待ってるんやから」


 旭は「うん」っと顔を上げて、美和と一緒に一階へと下りていった。

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