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二重契約者4

 旭が意識を取り戻す。すると、オレンジ色に輝く光は消え、目の前には凶悪な(つら)の鉄の化物、その凶悪な顔にビクッと体が震えた。


 そして何故か相撲の様な形で組み合っていた。


(顔近! 怖っ!?)


 その鉄の化物、片桐(かたぎり)はニヤリと笑う。


「うん、それじゃあすまないが、全力で行かせてもらおうか、旭君!」


 その言葉と声で、相手が先程の坊主サングラスだと気付き、瞬時に後ろに下がり、距離をとって構える旭。


(顔怖くて、ちとびびったけど、見た目と強さは関係ない。ビビらず、こいつを叩きのめすっ!)


 構えもせず、微動だにしない片桐に向かって走り、硬そうな肉体を無手にて打ち込んでいく。


 フェアリーホルダーとなったおかげなのか、身体能力が段違いに上がっている。しかし旭の打撃は片桐には効いていない。それどころか動かす事さえも出来ないでいた。


(見た目通り硬すぎ!)


 殴る蹴るの猛攻を繰り返す旭なのだが、全然ダメージをあたえていない。どちらかと言えば旭の方が片桐の硬さにより、手足にダメージを受け、苦悶の表情になっていた。


 その攻撃を黙って見ていた片桐だったが、姿勢を低くし、強烈なタックルを旭にぶつけた。


「がっ!!」


 桐谷(きりたに)が張ったフィールドの端まで飛ばされ、そのまま透明な壁に激突し、苦しそうに咳き込む。


「フェアリーホルダーになったからといって、力も武器も使わず俺に勝てるとでも思っているのか? 自分もフェアリーホルダーになったのだから簡単に勝てるとでも思っているのか? そう思っているのなら、舐めるのも大概にしろっ」


「ははっ、犯罪者にそんな事言われるとは思わんかったわ。……別に舐めてるわけやあらへんよ。ちと、今の体の調子を確認してただけ」


 起き上がり、大きく息を吸い吐き出した。


「ジャンヌ、スサノヲ!」


『はーい!』


『うむっ!』


 旭の声と共にフェアリー二体が姿を現したと思うと、スサノヲは右手に、ジャンヌは左手に吸い込まれて行く。すると髪色が明るい茶色い髪に変化し、右の瞳だけが赤く染まった。


 右腕には肘までを守る日本風の篭手(こて)が装備され、左腕には西洋風の篭手、ガントレットが装着されていた。そして両の手には日本刀と思しき剣と、西洋の剣を両手に持ち、構えをとった。


「なっ!?」


 動かず、ただ旭を見つめていた片桐は、何かに驚き、声がもれる。


 片桐が何に驚いているのかを疑問に思う旭だったが、目の前の敵に集中し直し、構え、走り出した。


 我に返った片桐は、旭の剣撃を鉄の両腕で受け流していく。


 先程までとは比べ物にならない程の、スピードと力ある攻撃を旭は繰り出し、片桐を壁の方まで追いやっていく。


「そこっ! もらったっ!!」


 金属と金属のぶつかり合い。激しく音が響き渡り、旭の一撃が片桐の横腹に直撃。


「ぐうっ!」


 唸る片桐だが、横腹には傷一つ付いていない。すぐ様、更なる剣撃を放とうとするが、その前に上から片桐の鉄の腕が振り下ろされる。


 それを何とか両手の剣で受け止めたが、その衝撃に膝を着いてしまい、一瞬動きが止まってしまう。


 その場から直ぐに離れようと動くが、遅い。片桐の蹴りが旭の腹に打ち込まれた。


「ぐっ!」


「もう一発っ!!」


 浮いた体にラリアット。


「うぐっ!!」


 道場の床に頭から叩き付けられ、脳震盪(のうしんとう)をおこし、上手く起き上がれない。その大きな隙を相手は当然に逃さず、鉄の拳の連打が旭を襲う。


「ぐ、がっ! いぃ! あっ!」


(やばっ、このままじゃあ意識飛ぶ!)


 片桐の猛攻は続く。このままでは後数発で気を失う。やばいやばいと頭をフル回転させていると、ふと記憶共有で得た記憶を思い出し、旭は目を見開く。


「がああああああああっ!!!」


 苦し紛れに放たれる横一線の剣撃。しかしその剣から炎が飛び出した。


 咄嗟に炎を防ぐ為に、両腕で顔をガード。後ろに飛び、距離を取ろうとするが後ろは壁であった。


「ぬぅ!?」


「これならどうや!!」


 両の剣に火を(まと)わせ、連撃に次ぐ連撃。


「ぐっ! ぐうぅが! がぁぁ!!」


 苦しそうにガードを続ける片桐。だが決定打にはならず、旭は後ろに飛び退き、構え直す。


「うぐっ!?」


 何故後ろに引いたのか疑問に感じ、旭の様子を伺う。そこには銀色に輝く両剣で、突撃しようと構える旭。片桐を睨んみ捉える姿があった。


 何か分からないが、ゾクリと嫌な予感を感じた片桐は旭に向け走り出し、両手を前に向け、強烈な水を発射する。


 高圧洗浄機から放たれた様な勢いある水が旭に当たる瞬間、旭はその水を日本刀で縦に斬った。すると水蒸気が発生し、周りは白く包まれていく。


 水蒸気のせいで視界が悪くなり、片桐は足を止め、気配を悟られないようにしながら警戒し伺っていると、ごとりっと何かが落ちる音が下から聞こえ、見てみると、そこには片桐の鉄の腕が転がっていた。すぐ様自身の体を確認すると右腕が無くなっていた。


 離れていたはずなのに何故、どうやって。今までは傷一つ付けられていなかったのにと、焦りが募る。


(あの子の能力か? いや、今は考えるより再生を)


 右腕を掴み、切られた面と面を繋ぎ集中する。徐々に切り目が無くなっていく。


 フェアリーホルダーは治癒能力も通常の人間とは異なり、腕が切られたぐらいならば再生は可能。しかし首を切られれば当たり前に絶命はまぬがれない。


 鉄をも切る程の力が旭にあるとしたら、片桐にとって防ぎようがなく、回避しか選択肢は無い。


 再生に集中しながらも、周りに意識を向け続けるが一向に姿を見せず、水蒸気に包まれた視界が晴れてくる。その晴れた先には、水蒸気が発生する直前の姿のままであった。ただ両の剣は銀色から変わり、赤くなっていた。火で焼かれ続けた鉄の様に。


(何かしらの飛び道具で俺の腕は切られたのだろうか? 正直相性が悪そうだ。……しかしっ!)


 再生を終え、右手に神経を集中し、力を蓄え、一撃に賭けて旭に向かっていく。


「らあぁぁ!!」


「っ!!」


 剣と拳が勢いよくぶつかった。だが先程の様には切れず、力で片桐は押していく。


「鉄の凝縮? そんなんも出来んねんな」


 そう言って笑い、その拳をいなした。


「アンタに力では勝てそうもあらへんからな。その拳は無視。そんじゃあそろそろ終わらせてもらうで? うちのねーちゃんの事が心配やからな!!」


 そしてハサミの様に剣を交差させ、銀色の光に包まれ赤く熱せられた両剣で挟み斬る。


「ぐがっ!!」


 片桐の上半身、下半身は別々となるが生きている。


 とどめをさす様に剣を上に掲げ、ニッコリと笑う。


「ごめんやけど後々面倒やから、トドメささせてもらうで? まーアンタらが悪いんやから恨まんわな!!」


 その笑顔はどこか常軌(じょうき)(いっ)していたが、旭は自身の異常に気付いていない。そしてそのまま剣は片桐の頭を目掛けて放たれた。


「はい、そこまでよっ、と」


「ッッ!!??」


 片桐を真っ二つにする筈の剣は、杖の様な棒で止められていた。ただ止められているだけでは無く、赤く熱された剣が凍り付いていく。


 驚愕する旭は、その杖の主に顔を向け、更に驚いた。


「はっ!? ……ねっ、ねーちゃん!?」


「はい、お姉ちゃんですよー」


「いや……。えっと、あの背中、刺されて血がでてたやんね? え? (なん)なん? 大丈夫なん?」


 若干、言葉と笑顔にイラッとしながらも、心配の声をもらし、美和の様子を伺うが、血の跡は無かった。そもそも服装が変わっている。


「んもう、旭のエッチー。そんなにジロジロ見ないのー」


「あっ?」


 若干どころかキレそうな旭の表情に「あ、すいません」っと即座に謝る美和。


「旭、えっと……ね? 実はあの血は偽物でー、えっとー……。ごめん! 全部お芝居でした!」


 見事な土下座をする美和を見下ろし、大きくため息を吐く。


「はあー。また、ねーちゃんの思い付きの暴走って事か……。危うく、そこの人、トドメさすとこやったやんか」


 下半身と上半身が別々となっていた片桐は、いつの間にか再生し、黒スーツにサングラス姿に戻っていた。その片桐も申し訳なさそうに正座をしている。その隣には桐谷も正座で座っていた。


「まーよくよく考えれば、僕みたいな成り立てに負ける筈無いか。それとお二人共、悠長(ゆうちょう)過ぎやし、そもそも普通やったら警察来ててもおかしくないのに、そんな気配も無かったし」


「旭ちゃん? 怒ってる?」


 恐る恐るっといったていで、旭の顔を伺う美和を、ちらりと見る。


「んー……。呆れてはいる。けど、怒っては無い、かな? いつもめちゃくちゃな姉やし。どちらかと言うと、スーツのお二人には悪かったなーっとは思てるけど」


 そう言い、片桐と桐谷に顔を向け、頭を下げる。


「姉のせいで、ほんますいませんでした。それとこんな未熟者の為にすいません、ありがとうございました」


「いやっ! 我々はその、全然大丈夫でしたので、それよりもこちらこそ申し訳なかった」


「あ、旭君? ほんとごめんね」


 片桐は綺麗に土下座をきめ、桐谷はどこかチャラい感じに謝っていた。そんな二人にいえいえと会釈(えしゃく)し、未だに武装を解いてない事に気付き、解除して金髪、青い瞳に戻った。


 そんないつも通りの姿に戻った旭を見て、感激した様に口元を両手で押さえ、いきなり旭に抱きつく。


「ああー、良かったー。私の大好きな金髪碧眼美少女に戻ったー。茶髪になった時はショックやったけど、ほんま良かったー」


「どこを心配してんねん!!」


 後頭部を平手で叩き、乾いた音が道場に響いた。


「まー、ねーちゃん。僕に怒られんでも、じーちゃんにはものすっごく怒られると思うから安心しー」


「それ、全然安心出来ひんけど!? やばい、怖なってきたやんかー」


 その姉の表情に笑顔で返した旭は突然意識を失い、倒れそうになる所を美和が受け止める。


「あ、旭っ!?」


『大丈夫。主は疲れて眠ってしまっただけだ』


『凄く負担かけちゃったもんね』


 ふわっと旭の中から出てきたのは旭のフェアリー、スサノヲとジャンヌ。


 そんな二体のフェアリーを見つめ片桐は呟いた。


「……二重契約者」


「……うん。私も最初はびっくりした。まさか旭が二重契約者になるなんてね。しかもその負荷に耐えた時はほっとした」


 先程までの関西弁からうってかわって標準語で話す美和。


「貴方達が旭のフェアリーでいいのよね?」


『ああ。何故だか分からぬが、我等二体は主のフェアリーで間違いはない』


『不思議だよねー。一人の主様(あるじさま)に二体のフェアリーなんてねー』


 そこで何故か美和は、片桐と桐谷を見て、


「二人共、ちょっと出てってもらえる?」


 その言葉に「「了解っ」」っと道場から出ていく。


 二人が出て行った事を確認して、スサノヲとジャンヌに顔を向けた。


「ごめんなさいね。貴方達の名前を教えてもらっていいかな?」


『我はスサノヲである、主の姉君よ』


『私はジャンヌだよー』


 その名前に少し驚いた様子で「そう、よろしくね」っと言葉を返す美和。


『姉君よ、少し伺いたい。何故この様な芝居をしたのだ? どうにもやり過ぎだと感じるのだが』


「んー、そうね。確かにやり過ぎだと私でも思う。でもね、理由は言えないけど、旭の為には早く貴方達を覚醒させないといけない。じゃないと上が黙っていてくれなくなるから……」


『何かしらの理由がある、か……。では我はここまでしか言えんな』


 スサノヲはその言葉を最後に黙りこむが、もう一体のフェアリー、ジャンヌが手を上げる。


『はいはーい! 私も、あさひちゃんのお姉さんに聞きたい事があるんだけど、良い?』


「なに? ジャンヌちゃん」


 優しく微笑み、ジャンヌの顔を見る美和。


『私達、人型のフェアリーは女型と男型がある事は知ってる?』


 その言葉に美和は頷く。


『それでね? 女型のフェアリーは女の人に、男型のフェアリーは男の人に寄生するんだけど、何であさひちゃんは女型の私と、男型のスサノヲが寄生出来てるの? まだ、二体のフェアリーが一人に寄生するのはあるかも、とは思ったんだけど、これだけは何でかなーって』


 不思議そうに首を傾げるジャンヌに、人差し指で頭を撫でる。撫でられたジャンヌは不思議そうにしながらも美和に向け笑う。


「それも理由は分かる。けど、そうだねー貴方達には隠せないか。でも、旭や、他の人達には秘密にしてくれる?」


 そう二体のフェアリーに問いかけ、スサノヲ、ジャンヌは頷いた。


 美和は口に人差し指を当てて、ちょいちょいっとスサノヲとジャンヌを招き、話し始めた。











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