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二重契約者3

 ふと気が付くと暗闇に一人、上も下も分からないそんな場所で漂っていた。


 先程、何かとんでもない事があったような気がする。でも、頭がぼーっとしてまったく思い出せない。


 ここは夢の中なのだろうか? 意識がある様だが動かす手足を確認できない。


 そのままぼーっと暗闇を眺め続ける旭。


 するとどこからか、懐かしい匂いがした様な気がして、辺りを見回す。しかし何も見当たらない。


 今の匂いは何だったのだろうかと、ぼーっとする中で考えたのだが、懐かしいと感じただけで分からなかった。


 自分が今感じた匂いは、気のせいだったのだろうか。そう旭が思っていると、暗闇の世界が一変(いっぺん)する。


 広大な草原の景色が流れており、馬の頭部が見えた。どうやら馬に乗っているらしいが、旭には馬に乗った経験は無いし、こんなに広い草原も見た事が無い。


 後ろを振り向くと、西洋の鎧を着た人達が馬にまたがり、付いて来ている。


 これはどうやら自分の記憶では無く、他の人間の記憶の様だなっと旭は感じる。


 でも何故、旭はこの様な見た事も無い夢を見ているのだろうか? その風景と匂い、知らないはずなのに、何故懐かしいと感じているのか?


 その視界の人物も鎧を着ており、女性である事が分かる。その女性の肩には鎧を着た小さな人形の様な少女が楽しそうに、金色の長い髪をなびかせ笑っている。


 女性もその少女を見て微笑んでいた。見えないはずの女性の表情なのに旭にはそれがわかった。


 旗を前に向け、女性が何かを叫ぶと、後ろに付く兵隊全体が大きく拳を上に掲げ、声を張り上げる。


 物々しい装備、戦に行く途中なのだろう。だけど、その兵隊達には恐怖の色は無く、希望に満ちた表情であった。


 それからどんどんと景色は変わっていき、戦場で血を流しながらも剣を振る場面や、皆で勝利を祝い飲み明かしている姿、大きな化け物との死闘……。


 現実離れした場面の数々なのに、自身の記憶の様に感じる不思議な感覚。


 仲間の死の悲しみや、裏切りにあった悲しみ、色々な感情が旭に流れ込んでくる。


 懐かしさ、悲しさ、楽しさを旭は今も流れている場面に感じていた。この旭の感情の揺れは、全てこの女性のものなのだろう。何故かは分からないが、そう旭は思った。


 そしてこれが最後の場面なのであろう。立てられた大きな木に縛られ、周りには敵側と思われる兵士、一般の人々が大勢で囲んでいる。


 石を投げられ、兵士には串刺しにされて、最後には火を付けられていた。


 その女性の感情と思われるものが、旭に流れてくる。


 この時、普通は後悔や悲しみ、苦しみ、怒り等と思っていた旭だったが、違った。


 ただ彼女は平和だけを、神に祈っていた。そう、意識がなくなるその時まで……。











 彼女の意識が途切れたと思われる瞬間、また暗闇に戻っていた。


 だが直ぐに先程と同じ様に、風景ががらりと変わった。


 それに伴って旭に流れ込んでいた感情もがらりと変わる。


 雨降りしきる中、視界は男性のものだと旭は感じ取り、何か張り切っている様なハイテンションな感情と、それとは真逆の不安や焦りといった感情も流れてくる。


 おかしい、流石にこの二つの感情は相容れないはずだと、これは視界の人間だけの感情ではない様な気が旭はした。


 よく見てみると、その視界の人間の周りを何かが飛んでいて、何かを言っているのが見えた。


 そう言えばと、先程の女性の肩にも同じ様な大きさの女の子がいた事を思い出す。だが今回は男の子では無さそうな、キリッとした銀色の髪を後ろでまとめた、日本の鎧を着た男性であった。


(この小さな人間の様な生物って、もしかしてフェアリー? て事は、視界の人はフェアリーホルダー?) 


 今感じてる矛盾した感情は、フェアリーと宿主である人間の感情なのだと理解する。


 何故。そこで何故こんな夢を見ているのかを考え、ふと姉の美和の顔が浮かび、全てを思い出した。


(! ねーちゃん!! そやねーちゃんどうなって!? でも何で僕はこんな夢を? 僕、寝てる……?)


 美和が刺された事に自分は怒りを覚え、その瞬間、男女の声が聞こえた事までは思い出したが、その後は意識を手放した旭には、当然思い出せない。


 旭は焦りを感じた。どうやったら自分はこの夢から覚めるのか。そもそも何故自分は寝ているのか焦る旭。しかし、夢から自分の意思で目覚める事など出来ない。


 今もなお、映像が流れ記憶に刻まれていく。


(あのフェアリーの声ってどこかで……)


 そこではっと思い出す。あの男女の『『力が欲しいか?』』と言っていたあの声、先程の女性型フェアリーと、今視界に入っている男性型フェアリーの声が旭の中で一致する。


(そっか、僕の中にもフェアリー()ったんや)


 どこか嬉しそうに呟く。


 次々と頭に流れ込んでくる、この映像にも意味があるのかもしれない。最初の女性との光景とはまるで違い、馬鹿な事を繰り返し、迷惑をかけていく男性。それをハラハラと見つめ、時には止めるフェアリーの光景。


 その映像にも、やはり懐かしさを感じる。これはフェアリーの感情なのだろう。


 しかし、ここで長々と夢を見ている訳には行かない。どうにか夢から覚めないと、そう旭が思っていると、また光が無い空間に戻っていた。


 そんな暗い空間の中、見渡していると小さな光が二つ、旭の方に近付き目の前で止まる。金色と銀色に輝く丸い玉、旭は何となく触ろうとすると人型に変化。


(あるじ)よ! やっと、やっと会えた。無事で何より!』


『あさひちゃーん、ごめんねー。遅くなっちった』


 突然喋りだしたので、旭は少しビクッと体を揺らす。


(あっ、えっと、フェアリー?)


『ああ、今は我々の事をそう呼ぶらしいな』


『フェアリーフェアリー! 可愛い響きだねー。私気に入っちゃった!』


『おぬし、すまぬが今から主と大事な話があるゆえ、黙っていてはもらえぬか?』


『なにそれー、なんでー! 私の主様でもあるんだよー! 何で私以外のフェアリーが居るのか納得出来ないけど、貴方だけの主様じゃあ無いんだからねー! ぷんぷん!』


 口で怒りを表現する女性型フェアリーに、困惑する男性型フェアリー。


(まーまー。とりあえず二人? の名前教えてくれへん? さっき君らの記憶? 見せてもうたけど分からんかったから、とりあえず自己紹介しようや)


 不毛な口喧嘩をしていた二体は、旭の言葉で口論を中断。男性型フェアリーは、ほっとした様にため息を吐いていた。


(よしよし。じゃあ僕からって言っても何か知ってるみたいやけど一応ね。天ノ風・旭。よろしく!)


 少し照れた様で、声が少し大きくなる。


『我の名をスサノヲと言う。よろしく頼む、主よ』


『はいはーい、私はジャンヌ! よろしくねー、あさひちゃん!』


(うん、スサノヲとジャンヌか。よろしくな)


 自己紹介が終わり、ひと息ついてから旭は本題をスサノヲ、ジャンヌに投げかけた。


(それで教えて欲しい事あるんやけど、何で僕は夢の中? に居るん? 今どうゆう状況?)


 その問に困ったと言う様な表情をするフェアリー二体。


『主よ。姉君が刺された事は覚えておられるか?』


(あっ、うん。覚えてる。それで少し焦ってるんやけど)


『焦るよね、お姉さん刺されたら……。その焦りや怒りが、あさひちゃんの中で眠ってた私達を起こし、力をあさひちゃんの身体に流した。けど、問題が1つ。フェアリーが一体だけなら問題は無かったんだけど、私とスサノヲ、二体のフェアリーの力にあさひちゃんの体の負担が大きくて、今は自我が飛んじゃって暴走してるんだよ』


『あの二人組だけならいいのだが、早く暴走を止めなければ周りの関係ない人々が主に殺され、最悪、主の体も崩壊してしまう』


(えっ!?) 


 そのフェアリー達の言葉に焦りが更に増していく。 


(僕が周りに、家族に牙をむく……? そやったら、僕の体は後回しでもええっ! 止め方があるから僕の精神に話しかけてるんやろ? どうすれば暴走を止められるん?)


 スサノヲ、ジャンヌ双方が頷く。


『主が言う様に、暴走を止める為に我等は主の精神体まで来た。この精神体に近付く為に、主の了解無しにすまぬが、我等と主の記憶を共有の道を勝手ながら繋げた』


『それでね、あさひちゃん。正直に言うと暴走を内から止める方法はあるにはあるんだけど危険をともなうかもなの』


『うむ。外から止める方法もあるのだが、今の状況では不可能としか言い様が無いからな……。主よ……今の主の精神と肉体は我々の覚醒、暴走の負荷で弱っている』


『そんな状態で内から止める方法をしちゃうと、精神、肉体が崩壊しかねない。あさひちゃん……それでもする?』


 旭を見つめるスサノヲとジャンヌ。その二体は心配だと言う様な表情に、笑みがこぼれる旭。自身も死ぬかもしれないと言うのに、そんな表情をするフェアリー達を見ていると、肩の力が抜け、一息吐いた。


(それでもする。ごめんやけど協力、頼める?)


御意(ぎょい)!』

『りょうかーい!』


 そこではっと、


(って、結局何すんの?)


『あっ、うむ。そう言えば説明していなかったな』


『簡単に言うとねー、私達があさひちゃんの精神体に会う為に記憶を私達のあさひちゃんとの間に繋いだって説明したよね?』


『精神、肉体に影響が出ない範囲で今は繋いでいる。その記憶の共有を更に強く結び付ける事で、主の精神を外側に呼び戻す』


『さっきのとは桁外れの情報が、あさひちゃんに流れ込んで来るの。だから最後の試練耐えてね、あさひちゃん!』


(……うん、わかった! いっちょよろしくお願いします!)


 旭の言葉を合図に、ジャンヌとスサノヲが光に包まれ、大きくなっていき、旭もその暗闇さえも全て飲み込んでいった。


 膨大な記憶が旭に流れ、旭の精神が飛びそうになるが、歯を食いしばり、この記憶の共有が終わるまで耐えるてやると、姉を思い、家族を思い、ただ笑うのであった。











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