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二重契約者2

 昼ご飯を食べ終え、母親と祖父母が買い物に出かけるという事で、留守番を頼まれた旭と美和。


 旭は自室、ベットの上で何度も読み返した漫画を暇つぶしに読んでいた。


 休みの過ごし方について、ランキングがあるとしたら、上位に入るかもしれない過ごし方ではないだろうか。


 何もない昼過ぎの、春を感じるぽかぽかとした陽気により、眠気が襲いあくびを一つ。


 そんな時、下の階から大きな爆発音が響き渡った。


 何事かとベットから飛び起きる旭。


「ん? ……な、なんやねんな」


 すぐさま部屋を出て一階に通じる階段を下りていると、人の話し声が聞こえたので止まり、息をひそめる。


躊躇(ちゅうちょ)無く力を人にぶつけるとはびっくりしました。下手をしたら私達は死んでいましたよ?」


「うっさいっ! いきなりお前らが旭を引き取りに来た、なんて言うからやろ!!」


 どうやら姉の美和と誰かが揉めている様であり、その内容は旭の事であった。


 これは自分にとってやばい状態かもしれない。でも姉を置いて逃げるなんて論外だと、旭は息をひそめるのを止め、一階へと下りた。


「ね、ねーちゃん? その人ら何者(なにもん)なん?」


「!! ――旭っ!?」


 美和の前、玄関のドアは破壊され、その場所に知らない坊主でサングラスをかけた、黒い背広を着た男が立っていた。玄関のドアは美和が破壊した模様。


「旭! ええから二階に居とき! 何も無いから、早う!」


 聞いた事の無い、姉の余裕のない声。この状況は緊急事態なのだと理解する旭だったが、全身の血の気が引き、嫌な悪寒が走り、足が震える。


 すごく怖い、怖いけど。


「けど……けどっ! これって僕が関係してる事なんやろ? なんやよう分からへんのに、ねーちゃんだけ置いて行かれへんやろ!」


 頭が真っ白な中、恐怖に負けない様に踏ん張り、声を絞り出す。


 これが旭自身が知らない事で、なにかしら決まっている事であり、ただ姉の美和がごねているだけの事であれば問題はなく、怖がる事は無い。


 しかしこれはそんな事態では無いと感じた旭は、黒い背広の男を睨む。


 そして一歩前に足を踏み出した。


 美和は何か言いたそうな顔ではあったが、言葉を発せず、旭をじっと見つめていた。


 たが、突然驚いた表情になり、


「――つ! 旭ぃっ!!」


 旭の背後に目線を向けて叫ぶ。


 その目線の向きと叫びに、顔を後ろに向けるより早く、美和が体で旭を覆い隠した。


 驚いた声を上げる暇も無く、美和の呻く声。


 力強く抱きしめられていた旭、その力が徐々に抜けていき、膝が床につきそうになるのを旭は受け止める。


 抱きしめられた美和は、力が抜け、ぐったりとしている。今自分の置かれている状況が分からない旭。


 美和の背後、旭の前に人影を感じて顔を上げると、玄関に立っている坊主の男と同じ格好、同じサングラスで、青黒い髪を真ん中分けにしている、背の高い男が見下ろしていた。


 どこから侵入していたかは分からないが、どうやら道場の部屋に身を隠していたのだろう。


 その男の指一本一本が、鋭いナイフの様に尖っており、右の手から赤黒いものが、ぽたりぽたりとこぼれ落ちていた。


 混乱する頭の中……。美和の服の背中側が赤く染まっている。それが血である事を理解した瞬間、死を連想する旭。


 先程までの寒さとは違うものが全身に感じ、脳だけはふつふつと熱を帯びていく。


 怒り? 悲しみ? 恐れ? それとも全ての負の感情なのか、昔の悲劇が幻想の様に頭に揺らめく。


 今の現状が、過去の悲劇とリンクするかの様に、今どこに立っているのかも、もう旭には分からない。


 ただ聞こえる声があった。姉の声でも、あの二人組の声でも無い、夢で聞いたあの男女の声が脳に響き聞こえてきた。


『『力が欲しいか?』』


 その声に心で一言、


(力が、欲しいっ!)


『『ならば』』


『我が力を受け止め、耐えてみせよ!』

『私の力を受け止め、耐えてください!』


 その声が途切れた直後、右手、左手から電流が走り流れたような衝撃が全身に駆け巡る。


「ぐ、ぐぅぅ、あああああああ!!!!」


 熱と痛みに意識を持っていかれそうになる。その意識を振り絞るようにして、美和を静かに横に寝かせる。


 四肢をちぎられたと錯覚するほどの壮絶な痛みに、ついに自我がここで飛んでしまう。


「があああああああああああああああああああああああああああああぐうううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 まるで獣の様に叫び続け、右手側、体半分までが銀色に輝き、左手体半分側は金色に輝いて、真ん中でぶつかり、押し合っていたのだが、途中で混ざり合い、オレンジ色に変化していた。


 そして自我を無くした旭は、うなり声を上げながら、立ち上がる。


 美和を刺してからの数秒間、坊主の男は旭の異変に気付き、すぐさま声を張り上げた。


「対象者が暴走に移行! 桐谷(きりたに)! リミッター解除、武装展開! ここで食い止め鎮圧するぞ!」


「了解。リミッター解除、武装展開します!」


 黒スーツにサングラスの二人は、旭から少し距離を取る。この二人はフェアリーホルダーであった様で、自身の体を変化させていく。


 破壊された玄関のドアから、少し後ろに移動した坊主の男性は、ごつごつとした鉄の体になり、顔は狼と猿を合わせた様な顔で、青い宝石に似たキラキラとした目に変化。


 桐谷(きりたに)と呼ばれていた青黒い髪の、背の高い男性も人間離れした外見に、大きな黒い狼になり、瞳は赤く燃え上がって光輝き、青白い炎が、頭のてっぺんからしっぽの先まで、たてがみの様に燃えている。


 双方の攻撃態勢が同時に整った。先に動いたのは旭。


 美和の上を飛び越え、道場の中にいる、狼と化した桐谷に向かっていく。


「グヴゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァアアアア!!」


「えっ!? ちょちょ、こっち!? あっ、そっか、僕って(かたき)だからかっ!!」


 苦笑いになる桐谷は、自身のスピードと小回りを活かして、道場内を駆け抜けて、旭の突進を回避していく。


 その結果、旭の突進にて道場内が破壊されていた。


「おい桐谷! もう少し壊されない様に避けられないのかっ!!」


 道場の入り口に移動していた坊主の男は、何故か壊されていく道場内を見て顔を(くも)らせる。


片桐(かたぎり)先輩、そりゃないっすよー」


 坊主の男は片桐との事。その片桐は、桐谷の発言にため息一つ。


「わかった。とりあえず俺がその子の相手をするから、この部屋がこれ以上破壊されない様に、フィールドを張っておけ」


「りょ、了解っす!」


 先程から、どうにも悪い人間には見えない二人組。しかし美和が刺されて倒れている。


 いったいこの二人は、何が目的なのだろうか。


 それから桐谷は、鉄の怪物と化した片桐に突進して行く様に向って行き、すんでのところで回避。その後ろで追いかけていた旭が、片桐とぶつかり合った。


 まるで相撲の様に組み合っている二人をよそに、人間の姿に戻った桐谷は、首についている何かに触れて、ぶつぶつと呟き始めた。


 すると道場内の壁や床、天井に、ガラスの様な何かが張り巡らされていく。


「フィールド展開完了しました!」


「了解! あと近所迷惑になるかもしれないから、防音も頼む」


「もう遅い様な気がしますが、了解です」


 どうにもこうにもおかしい二人組。だが、そのおかしさに気付く者は、ここには居なかった。


「よし。それじゃあすまないが、全力で行かせてもらおうか、旭君!」


 ここからが本当の闘いだと言うように、ニヤリと笑う片桐。











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