人喰い
要塞都市内、少し暗くなり始める時間帯、人けの少ない場所に二人の男子学生が歩いていた。
この二人は先程まで図書館に居たのだが閉館時間となり帰路の途中。
そんな二人のうちの片方、丸刈りで豹の様な柄の金髪少年は相方の茶髪の少年に何かグチグチと文句を言っていた。
「なんで起こさね~の~? 早く帰んね~と寮長に怒られんじゃん。てか修吾聞いてんのかよっ」
修吾と呼ばれた少年は何か考えているのか何も言葉を発しない。丸刈りの少年は少し首を捻るが気にした様子も無く、
「ま~いいけどさ~」
っと、反応が無い事を何も言わずに頭の後ろを両手で支える。
「でっ? 結局こんな時間まで何調べてたんだよ」
横目でチラリと修吾と言う少年を見るが、またしても反応が無く、丸刈り少年は深い溜息を吐いた。
「おいおい親友を無視すんなよな~。俺のデリケートな心が傷付いちゃうだろ~」
などと修吾少年の肩を軽く叩きケラケラ笑う丸刈り少年。
肩を叩かれた修吾少年は全くの無反応。だったのだが、丸刈り少年にゆっくりと不思議そうな顔を向け、
「……親友? それは俺の事か?」
本当に不思議そうに言う修吾少年。
「はあ? 修吾~お前どっかで頭でも打ったか?」
「修吾? ……ああっ、思い出した。俺の元主様の事か。そしてお前は主様の親友の、名前はなんだったか~……」
親友のそんな言葉に呆然としたが、何かの冗談だろう思った時、
『ご主人あれ違うっ! あれご主人の親友違うっ! 危険逃げるっ!』
丸刈り少年のフェアリーが体から飛び出し、修吾と呼ばれた少年は主人の知る修吾では無いと、危険だと警告する。丸刈り少年は、自身の豹型のフェアリーの警告に反応出来ずにいた。
「ああっ思い出した思い出した。主様の友である谷・雄二だったなっ!」
丸刈り少年の肩を掴み、修吾と呼ばれていた少年が雄二と呼ぶ丸刈り少年を見つめて、ニタリと不気味に笑う。雄二少年はそんな親友の表情に得も言われぬ恐怖を感じたが、どこかその恐怖が信じられずに言葉を発した。
「お、おいおい何言ってんだよ。その言い方じゃあ今のお前は修吾じゃね~みたいじゃね~か……」
『ご主人早く逃げるっ! 僕を武装逃げるっ! そいつ修吾違うっ!』
フェアリーは必死に自身の主人を守ろうと叫ぶ様に言う。が、もうすでに遅過ぎた。
「違うな~。主様は体の中にはもう居ない。今は俺の体……猪の特徴を持つオルガニズム型のフェアリーだと偽って来たが、もう偽る必要も無い。俺は大昔、人間共に猪笹王と呼ばれ恐れられた化け物で、今の人間風に言えばアグレッサー型のフェアリーって言えば分かるか?」
丸刈り少年はその言葉を聞き固まってしまい動けない。まだ必死に豹のフェアリーが叫ぶが届かない。がっしりと雄二の肩を掴んだまま、徐々にその正体を現し、修吾と呼ばれた少年の体が変化して行く。それに伴い修吾少年と呼ばれていた怪物の手に嵌められたリミッターが軋み、バリッと電気が流れた瞬間、粉々に砕け散る。
リミッターが壊れた光景を目にした雄二は驚愕し、恐怖で震え、やっとの事逃げようとフェアリーを武装したが、掴まれた手を振り払う事が出来ない。
「なんでっ!? なんでっ!? 修吾っ!? 本当っ、マジで冗談はやめてくれよ~っ!!」
修吾少年の体を乗っ取った猪笹王、両手、両足がある人型であり、全身が茶色い体毛に覆われ、緑色の固そうな笹の様な鱗の様な物が背中全体に広がっていた。顔は猪の様ではあるが、通常の目の間に大きな目があり、異様さを醸し出していた。
猪笹王を見て恐怖に叫ぶ雄二少年を愉快そうに眺める怪物。
「ああっ堪らないっ! その表情っ! 恐怖に震える様っ! あっはっ! いひひひひひひひっ!」
笑いながら雄二少年の肩を掴んでいる手に力を入れる。雄二少年の体からミシミシと骨が軋む音が聞こえ、その痛みに悲鳴を上げた。
「ひぎぃぃあぁぁぁぁっ!! ひぃだひぃぃぃぃっっ!! やべでぇ死にだぐなああいぃぃっ!! いぃやっぎぃっだぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!!」
「ひひひひひっ、痛い? 痛いっ!? ……やめてほしい? ほしい? でもやめな~いっ! いひゃっひぁはっへっはっひっうふっひひひひひっ!!」
激痛に狂った様に叫ぶ少年を狂った様に少年の命乞いを笑う猪笹王だったが、突然笑いを止め、
「流石に治安部隊もリミッターが潰れた異常に気付いてるかな。じゃあとりあえず遊ぶのは後に取っといて、親友のリミッターも破壊しとこうかね~」
両肩の骨が粉々になって叫び狂う雄二少年の肩からリミッターが付いている方の手を、両手でリミッターより上の所を握り、雑巾でも絞る様にねじ切った。
ねじ切られた腕から大量の血が周りに飛び散り、そのまま雄二少年は倒れ絶望と痛みが彼の喉から潰れんばかりの悲鳴を上げ響き渡る。それを二タニタと見つめながらリミッターが付いたままの手を口にほおりこむ。
口の中からはリミッターが砕く音なのか、バキ、ガリッと言う音と骨が砕ける音、肉をねちゃねちゃ噛む音が聞こえていた。
「くくかっ! 人間は馬鹿だね~こんなにも簡単に壊れるリミッターを俺に付けるなんて。まっ、俺が力を抑えてたから気付かなかったんだろうけど……ひひっ、その程度で騙せるんだからちょろいな~人間は~」
癇に障る嫌な笑い声を上げ、転がり苦しむ少年の四肢をちぎったり、噛み切ったりして、胴体と顔だけを残した。通常では上げないであろう悲鳴を上げていたが、唐突にその声が途絶えた。その余りの痛みに耐え切れず気絶してしまっていた。
「じゃあ、そろそろ逃げようか? いひぃっ! ひひひひひっ!」
胴体と顔だけになった少年を口に咥え、猛スピードで暗闇に消えていった。
それから数分経った頃、ようやく異常に気付いた治安部隊が駆けつけた時には当然誰も居なく、大量の血が飛び散った跡だけであった。
その後、公園の真ん中に頭のてっぺんが砕かれ、脳と目、顎が無くなっている雄二少年の皮膚が残った状態の頭部が発見された。それはまるで見せ付ける様に置かれていたと言う。




