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(く+ノ+一+口+十+力=?)4

 誰もが何も言葉を発さず重い空気と静けさが、その場を支配している。


 祖父はそんな空気の中、気にした様子無く、ゆっくりと目を開いて皆の様子を眺め、今まで口を開かなかった祖父が口を開く。


「ワシは旭を立派な男子として稽古をつけるつもりやっ」


 驚いた様に祖父の顔を睨む美和。祖母と母は何も言わずに心配そうに二人を見つめていた。


 祖父の言葉は美和にとって、とても受け入れられない言葉だった。


 何故一つの性にこだわり決めるのかと美和は思う。


 旭の意思はどうするのかと、怒りがこみ上げてくるのを感じながら祖父を睨みつける。


「おじいちゃんそれって……。旭の意思はっ? あっ、旭の意思を無視するつもりなん!?」


 激昂し、祖父に詰め寄る。その美和の視線を真っ直ぐに見つめ返す祖父。


「これは旭の意思やっ! 旭自身が父親っ……ワシの息子である和明(かずあき)の様に強くなりたいんやと言いよったっ! ならワシは旭のその意思を尊重するっ! それで美和……そんな偉そうにワシに言うんやったらお前は旭の意志をちゃんと汲み取れるんかっ! 出来るんやったら言うてみいっ!!」


 その怒号に、その言葉に美和は怯む。そこに祖母と母が入り込み「ちょっとあんたっ、そんな怒鳴らんでもええやろ?」「お父さん、美和も旭の事を思っての事なんやから、それにそんな大声だしたら……」っと、(なだ)めるが、


「お前等は黙っとれっ! ワシは美和に聞いてるんやっ! それで美和っ……お前は旭に対してどう考え、どうするつもりなんや……」


 祖母と母の言葉を聞かず、美和に視線を戻し問いかける祖父。その問いかけに、


「私は……」


 言い(よど)むが、祖父の視線を真っ直ぐに受け止めながら言葉を続ける。


「今の旭の考え、おじいちゃんの気持ちは分かった。それが合ってるんか間違ってるんかなんて私には言えんし、分かる訳あらへん……でもっ」


 何も口を挟まず、ただ黙って祖父は美和の言葉を聞いていた。


「でも旭がこれからどんな風に成長するのか、どんな風に考えや気持ちが変わってしまうんかはおじいちゃんや今の旭には分からへんやんっ! そんな旭の未来を一つに絞る様な事を私はしたくあらへんっ! だから私は、これから旭を女の子として妹として接し続けるっ! 私の考えも間違ってるかもしれへんけど、私は未来の旭に選択肢を残したいからっ!」


 静かな部屋に美和の声だけが響いていた。祖母と母はまだ心配そうに様子を伺い、祖父は美和の気持ちを最後まで聞いてからゆっくりと口を開く。


「そうか……お前がそう思うんやったらそうしたらええっ。ばあさんや恵実(えみ)さんは旭を今はただ普通に育て、考えながら接していくと言っとる。でもワシのやり方は一つしかあらへん。お前を稽古してる時と同じや。ただ厳しく稽古をつける事しか出来ん。そやから美和……お前はお前の思う通りに旭を支えてやってくれ」


 いつもは眉間にシワがよっており、いつも怒っている様な印象がある祖父の顔であるが、今はしんみりとした表情で美和に語り掛けている。この様な祖父の表情を見るのは美和自身初めてであった。


 祖父のその言葉は美和に対して初めてのお願いの言葉。美和は頷き、


「うん。私は旭を、妹の旭をこれからずっと守れる様に頑張るからっ! おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん……旭がフェアリーホルダーになるまで、これからも旭を守ってやっ!」


 今の美和の言葉に三人は声を揃えて「「「当たり前やろっ!」」」っと、美和にツッコミを入れた。そんなツッコミを入れられた美和が笑いだすと、祖母と母、それに祖父も笑い出したのであった。


 そして話し合いは笑い声で幕を閉じ、その次の日には旭に対して早速妹として接し、変な顔を旭にされながらも、お姉ちゃんである美和は帰って来る度にしつこく嫌がられながらも笑いながら、旭を妹扱いをして毎日毎日過剰なスキンシップをするのであった。











「はいっ! 話はこれでおしまいっ! これで少しは旭の事、分かったかな~?」


 美和は話の終わりを告げる様に手を一つ叩き、笑顔で皆の顔を眺める。


 自分達の先生である美和、同級生で友達である旭の過去に父親の悲惨な死や、旭の体は医者によると真性半陰陽(しんせいはんいんよう)と言う病気なのだと聞かされた恵愛、静華、椿達はどの様な顔をしていいか分からずにいた。


 そんな三人の表情に美和は苦笑し小さく息を吐く。


「皆ほら、そんな顔せんといて? 確かに私等の家には色々とあったんやけども、今は私も旭も前を見てる。まだまだ心配事は尽きひんけど、けど、その為に今、あなた達に話をしたんやし、あなた達も旭の為に色々と知っとこうと思ったんやろ? ならそんな顔はせんといてほしいな~なんて思うんやけど?」


 困った笑顔のままで三人を見つめる美和に慌てふためきながらも恵愛達は口々に口を開いた。


「あのっ、いえ、そんなつもりじゃなくて……色々と驚く事が多かったのでついっ」


「う、うんっ、旭と先生のお父さんが亡くなってるなんて知らなかったし、旭の体が病気なんだって言われていたとか、その……」


「あ、うぅ……」


 最後の静華に(いた)っては何も言えず、しょんぼりとしてしまっている。


「ま~旭を見て病気なんて思えんよね? でも実際に病名がある。しかし、しかしな? 医者は病気なんて言ってるけど、私は今も旭の体の状態が病気やと思ってへんし、病気なんて言ったら、旭にも、旭と同じ様な人達にも失礼やろ? やから皆にも病気やなんて思わんと普通に接してあげてな?」


 その美和の言葉に恵愛達三人は戸惑った表情を改め、


「「「はいっ」」」


 ハッキリと返事を返した。


 満足そうに恵愛達を眺める美和はそれでと言葉を付け足し語り出す。


「それでやね、旭の事でもう一つ心配な事があるんよ」


「それは、もしかして旭の男子に対しての問題ですか?」


 美和は首を横に振り、


「それも心配ではあるんやけど、それは皆が居るから安心してる。私が心配してるんはもう一つのトラウマ……父親を食い殺したフェアリーへの憎悪(ぞうお)。まだ見つかっていないアグレッサー型、蛇のフェアリーホルダーを今も憎んでいる事なんよ」


「それって東京と大阪を襲ったフェアリーホルダーですよね?」


 椿の問に美和は頷いた。


「自分がフェアリーホルダーになった事で復讐心が膨れ上がってきたみたいなんよ。私も旭が暴走せえへん様に見守る。けど、私が居らん時は皆にお願いしたい。だから恵愛ちゃん、椿ちゃん、静華ちゃん、どうか旭をよろしくお願いします」


 頭を下げる美和。三人はお互いを見合い頷き、


「先生、私達はそのつもりです。どれだけ旭君を抑え助けられるか分かりません。でもどんな事が起きても私達は旭君の味方ですから守り抜いてみせますっ!」


「うんっ! 三人がかりなら大丈夫っしょ! だから先生、安心して旭の事をあたし達に任してよねっ!」


「う、うんっ、私も頑張るっ!」


 顔を上げた美和は皆にありがとうと、再度頭を下げるのであった。


 それからは重要な話など無く、先生と生徒四人で何気無い話をして時は過ぎて行った。そこでふと恵愛は美和の喋り方に、


「そう言えば先生、いつもは私達生徒の前では標準語ですが、今は関西弁なんですね」


「ん? あ~そう言えばそうやったね。でも腹割って話す時はやっぱりこっちの方が喋りやすいんよ。それに旭の事を思ってくれてる子等に標準語なんて失礼かもって思てやね。えっと~聞きにくかったやろか? それとも嫌?」


 三人共一斉に首を横に振り、


「いえっ、なんだか先生との距離が近くなったみたいで、凄く嬉しいですっ」


「だね、それに関西弁なら旭で慣れてるし~」


 恵愛、椿の言葉に同意する様に静華もコクコクと頷いている。それを見て、そっかっと嬉しそうに笑う美和に、恵愛達も笑顔で嬉しそうにしていた。

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