転校初日の初授業3
「はいっ、これで授業は終わりま~す。それじゃ~また後でね~」
チャイムが鳴り美和は教室から出る際にクラスメイト等に手を振りながら廊下に出て行った。
そして休み時間という事もあり教室内は騒がしくなる。
旭は両手を上に上げて軽く体を伸ばす。
「んっ……と、休み時間やる事も無いし寝るか……」
机の上で、うつ伏せをしながら前に居る静華に顔を向けた。
そんな旭に静華は、
「多分、直ぐに旭君の周りは騒がしくなると思うよ。だって旭君、転校生だしクラスの皆、旭君の所に集まりそうっ」
「んっ? あー漫画やアニメとか、転校生って最初ちやほやされてるシーンとかあるな~。でもあれって美少女や何や凄い奴が転校してきたらって感じやろ? 別に僕はねーちゃんの弟ってだけやしな~」
「それだよっ、先生の弟って事もあるし、それに旭君だしっ」
「いやいや、最後の意味分からへんしっ」
そんな会話をしながら笑っていると、席を立った女生徒達がこちらに向かって走って来るのが見えた。
旭はギョッとし、静華は巻き添えを恐れ、自分の席から離れる。
そこにどんどんと女生徒達が集まって旭は席から動けなくなり、静華は女の子達が集まっている後ろの方に避難し、様子を伺う。
(ひっ、酷い……静華逃げよった)
集まった女の子達は旭に興味津々のご様子。
戸惑い黙る旭だったが、女の子達は我先にと旭に対し質問攻めが始まった……。
「ねぇねぇ旭君。先生って旭君と居る時どんな感じなの?」「旭君は大阪出身なんだよね? たこ焼き週何回食べるの?」「旭君って本当に男子!? 私より女の子らしいってどうゆう事なの!?」「旭君って肌が白くて髪も綺麗……。抱きしめていいっ?」「旭君。寮では普段何してるの? 恵愛達と遊びにいったりしてるよね? 私も誘ってよ~」「あの……少し下半身を調べさせて?」「やばいっ! 旭君って超可愛いんだけどっ」「恵愛ちゃん、椿や静華ちゃんだけでなく、私とも友達になってよ~」「旭君の好きな女の子のタイプは? それとも既に好きな人いるとか?」
etc……一度に何人もの女子の言葉が飛び交っており、どうしようかと悩み汗を流す旭。
(女子からも変な事言ってる子が居んねんけど……)
何も言葉を発せずにいる旭を見るに見かねた恵愛と椿は、女生徒達の集まりを掻き分けて旭の元に向かい、
「ちょっとみんなっ! 旭君にそんな一度に色々と質問されても答えられないでしょ?」
「はいは~い。皆少し落ち着こうか」
「な、何か、ごめんな~。ほんま助かるわ」
二人の登場に旭はホッと胸を撫で下ろす。
「そっ、そうだよみんな~っ! 旭君だって困ってるよっ!」
避難していた静華も避難場所からクラスの女生徒達に言ったが女の子等に一斉に睨まれ、あはは~っと笑って誤魔化していた。
(うむ。逃げた事は許そう……)
などと旭が思っていると、女生徒達は「恵愛達だけずるいじゃん! 私達も旭君と友達になりたいのにっ!」「寮の時は声掛けられなかったから、だから今声掛けただけじゃんかっ!」「恵愛達は良いよね~先生に旭君の事頼まれたんだからっ」「旭君は恵愛達だけのものじゃないでしょ?」っと恵愛達に野次が飛び始めたので、旭は椅子から立ち上がり、
「あっ、えっとっ! みっ、皆が僕と仲良うしたいって事は凄く嬉しいんやけど……友達の恵愛や椿や静華に文句言うのだけは勘弁してくれへん?」
いや別に文句なんて……っと女生徒達からの野次は飛ばなくなった。
「僕も皆と直ぐに仲良くしたいけど、僕はそんなに器用やないから全員といきなり友達なんて少しきついんよ。あの、そやから~……これからゆっくりと仲良うして下さいっ!」
その様に頭を下げた旭に対し、集まった女の子達は何か申し訳なさそうな顔になり、女の子等は互いを見合い「あっ、旭君? いきなり皆で押し寄せてごめんなさい。私達も旭君と仲良くしたかったから何か焦っちゃったけど、これからまだまだ卒業まで長いもんね。だからこれからゆっくりと仲良くなっていこうねっ?」その女生徒達の一人である茶髪で外側から見て右側のサイドポニーをしている女の子の言葉に周りも笑顔で頷いた。その女生徒達の言葉に「うん。これからよろしくねっ」っと旭は優しく微笑んだ。その後「「「旭君、マジ可愛い過ぎ~っ!!」」」と女生徒達から声が飛んでいた。
その頃男子はと言うと、その女子達の輪に入れずに苦い顔をしており、誰一人近付こうとする勇者は現れないと、そう思われたその時一人の男子がその輪に近付こうとしていた。
その一人の男子に周りから、小声で声が掛けられ「おっ、おい。死ぬ気かっ!」「やめとけっ! 殺されるぞっ!」「残念無念アイツはイケメン……」などと大げさ過ぎる言葉を投げかけられながら、前へとまた一歩、女子達の集まる場所に近付く。
「そこの少女達よ、道を開けてもらおうか……」
後ろから声を掛けられた女子達が振り向くと、そこには腕組みをし、佇む1人の少年が居た。旭にもその声は聞こえ背伸びしながら覗き込むと、女子達の集まった場所から遠く廊下に続くドアの近く、白髪で真っ赤な目をした少年一人立っていた。
そんな少年に対して少女達は、
「おっ、ルックスのみ男じゃ~ん」
「うわっ! 本当だ~、てかマジうざいんだけどっ……」
「それよりさぁ~、誰に向かってどけっつってんの?」
女子のその変貌ぶりに旭は軽く引く。そして(女子怖っ! 何かめっちゃ怖いねんけどこの子等っ!)怯えていた。
「ふんっ……雑魚は下がれっ! さもなければ俺のフェアリー、フローズヴィトニルが牙を剥くぞっ!」
何故か右手で顔を隠し左手でその彼女達に指を突きつけた。この少年が気に入っているポーズなのだろうかと旭は笑い声を上げそうになるのを必死に堪えていた。
「はぁ? そんな事ばっか言ってるから、ルックスのみ男なんて馬鹿にされてるのに、本気で馬鹿なの?」
そう言った一人の女の子はその少年の前まで行って、彼女達に指を指していた方の腕を掴まれる。すると、少年の表情が一変し、怯えた顔になる。
その掴まれた腕を振り回し女の子の手を引き剥がしてバランスを崩した少年は後ろに倒れ尻餅をつき、それからその女の子から距離を取る為に足を使って後ろに下がるが、廊下に続くドアに当たって止まり、
「あっあぁっ!! やっ、やっ! 来ないでっ! ご、ごめんなさいっ! すいません! 許してっ! もう何も悪い事しないからっ! うぅっぐっぅぅ……」
先程までの態度と表情が一致しない。顔を両腕で覆い隠し震え涙を流し怯えた目を女の子に向けていた。
異様に怯える少年の姿に旭は自分と重ねて胸が苦しくなり、隣に居る恵愛に聞こうと目を向ける。
恵愛は少し困った表情をし、
「あの男の子の名前は志木 清光君。最初はほら、綺麗な顔で恰好いいから女子に人気だったんだけど……だけどあの言動――中二病って言うのかな? そんな上から目線な言葉や態度、行動が一部女子の反感を買ってしまって、その女の子達が集まって志木君に詰め寄って行ったの。すると今みたいに怯えて震えながら謝るから、その子達も調子に乗って、さっきみたいに言葉で罵ったり体に触れて怯えさせたりして笑ったり、酷い時は殴ったりする事もあったみたい。それが今でも続いてるって感じで、私達や、そこまで思っていない女子達も止めたりするんだけど、志木君自身もプライドなのか上から目線の言動を全然止めてくれないの……先生達に言っても放っといたらいいって言うだけだし、正直私、どうすればいいか分からないっ」
そっかっと呟き、旭は立ち上がる。
「それより先生達って事は、ねーちゃんも放っとけって言ったって事やんな?」
「いや、美和先生は一度止めて怒ってくれたんだけど、どうしても志木君が止めなくて……。その後からは美和先生も今は放っとくべきだって」
「志木 清光って男子が中二病的な発言や上から目線な態度を直さん限り無理やって、ねーちゃんは考えたんやな~……でも、あんなん見せられたら気分悪いやん? 何もせんとただ放っとくとか自分には無理やし、そや言うたかてあの中二病は直せん。だから直さんで済む違う解決方法を取ればええやんっ」
「えっ? それって……?」
「そんなん簡単やん。あの志木って男子は言えば誤解を受けやすいタイプなんやろ? だったらサポート役? いやいやツッコミ担当やなっ。そんな友達を作ったらこんな事、多分起きひんやろ? いやいや起きさせへんやろ?」
恵愛は「んんっ?」っと首を傾げていたが、気にせず清光の方に向かって歩いて行った。その恵愛の隣で椿は旭の言葉を聞き「何それっマジうけるんだけどっ!」っと一人で腹を抱えて笑っていた。
清光の周りにいた女子達はこちらに向かってくる旭に気付き、
「ん? 旭君どうかした? もしかして旭君もこいつを見ててムカついてきたの?」
笑顔で旭を見る彼女達。その余りにも違い過ぎる態度に旭はイラッとしたが「いや、別に何も腹立ってへんよ?」っと彼女達の間をすり抜け、清光が頭を抱えて怯えている場所に膝を突いた。
「なぁなぁ僕と友達になってくれへん?」
先程までいじめだと言われてもおかしくない行為をしていた後ろの彼女達は旭のその言葉に、
「えっ? いや、友達って旭君? そいつと友達になってもキモイし、ただ腹立つだけで楽しく無いと思うんだけど……」
そんな彼女達に視線を向け、
「ごめんやけど君等には聞いてないんよ……。だから少し黙ってくれへんかな~?」
静かに怒りを込めた旭の視線に晒された彼女達は怯み「あっいや、えっと、その……」っと言葉が詰まり、その中の一人が小声で「いっ、行こっ……何かやばいよっ」そう言い彼女達は教室の前の方に逃げていく。
彼女達がその場から去った後まだ震えて頭を抱えている清光に視線を戻し、そっと優しく肩に触れ……少しビクッと一瞬震える清光だったが、恐る恐るといった感じに首を動かし旭の方に顔を向けた。そしてもう一度旭は先程と同じ言葉を使い先程よりも優しく微笑みながら、
「なぁ……僕と友達なってくれへん?」
最初は旭にも少し怯えていて、何を言われているのか分からないという様な表情をしていた清光だったが、
「友達っ……?」
「うんっ、そう友達になろ?」
そこで旭は思い出した様に、
「あっ、そう言えば、さっきこっちに向かって来てたけど誰かに用事でもあったん?」
旭のその質問に、まだ震えが残りながらも清光は口を開いた。
「……あの、転校生。その、お前に用が……ある」
「んっ? なになに? 僕に用事あるんやろ? ほらっ言ってみ言ってみっ」
楽しそうに笑いながら近付き先を急かす旭に清光は若干ビビる。
「っ!……。今日、体育の時間、俺と勝負しろっ!」
「へっ? 体育の時間に勝負? 何なんそれっ? どゆこと? 何か二人でするスポーツかなんかするん?」
旭の頭の中がはてなマークで埋まっていく。そこに恵愛達三人が来て恵愛が旭の隣に膝をつき、
「そう言えば旭君って外の学校から来たから知らないよねっ」
「ひっ、ひぃぃっ!」
近付いてきた恵愛に反応し、また怯え始める清光。
「あっ、ごめんなさいっ。ほら、これ以上近づかないから落ち着いて……ねっ?」
後ろでは椿が口を押さえ笑い声を出さない様にしており、その横では静華が小さい声で「失礼だよ椿ちゃん……」っと椿に注意する。
「それで、どう言う事なん? 普通の体育とは違ったりするん?」
「えっと――これは要塞都市だけなんだけど、ここでの体育って言うのはフェアリーの力を使った模擬戦やチーム戦、フェアリーの同調率向上させる為のトレーニングをしたりするの。ま~たまにだけどドッチボールしたり、バスケットしたりするけど基本は模擬戦やチーム戦かなっ」
「うんうん、なるほどね~。清光は僕とフェアリーホルダーとして真剣勝負がしたいと……そう言う事やね?」
「いっ、いきなり下の名前で呼び捨て……とか」
少し旭から距離を取る清光に旭は四つん這いで更に近付き、
「ほら、僕は清光と友達になりたいからやねんけど……だめっ?」
その旭の問に顔を思いっ切り顔を背ける清光。
「だめっ、じゃないけど。おっ、お前は本当に男なんだな?」
「うん、男やで。よく間違われて嫌やけどね。それで結局僕と友達になってくれるん?」
旭は上目遣いで清光を見つめる。清光は旭に対し、こいつわざとやっているのではないかと思いながら、
「おっ、俺に友だと認めてもらいたければ俺と勝負し、俺に勝てれば友だと認めてやるっ!」
清光の今の言葉に女子達が「何よそれっ! 偉そうに上から目線でっ!」「そんなんだからルックスのみ男なんて言われるのよっ!」っと、清光に対して怒号が集中する。
「いやいや、ええからええから皆落ち着いてっ」
旭は女子達にまあまあっと言いながら女子達の怒りを鎮めた。
「それじゃあ勝負して勝てれば友達になってくれるんやね? うんっ、分かったっ! それで僕が勝てれば清光は僕の友達で、僕の事を旭って呼び捨てする事。それでおっけ~?」
戸惑う清光。
「あっ……ああ。それで構わない」
笑顔で旭は頷いて立ち上がり清光に手を差し伸べる。差し伸べられた清光は少しビクつかせながらも手を掴み、旭に起こしてもらった。
立ち上がった清光はそのまま背を向け「では、失礼する」っと自分の席に戻って行った。その後から、
「約束やからねっ!」
そう声を掛けると肩をビクッとさせる清光。その姿に恵愛達と共に声を出さずに笑い合う。
そして授業の開始を知らせるチャイムの音が鳴り響いた。




