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転校初日の初授業2

 大分遅れて教室のドアの前に着いた美和と旭。


「もう他のクラス授業始まってるけど、先生的に色々と不味いんとちゃうん?」


 ぐっと親指を立て美和は、


「いやいや~大丈夫大丈夫やよ~。うちのクラスの子等はええ子ばかりやからっ!」


 満面な笑顔。


「いやいや――うちのクラスの子等はええ子やって言ってるけど、このクラスの担任になったばっかりやん。前はSAのクラスやって火乃子さん言ってやん」


「大丈夫っ! ええ子やねん。だって私、女子寮の寮長やし皆の事知ってるからっ!」


「へぇ~寮長なんてやってたんや~知らんかったわ。でも男子は分からんって事やんね~なんて……ま~そんな事はどうでもええねんけど時間は大丈夫なん? 自分から話し振っといてなんやけど」


 笑顔のまま無言で旭の頭にチョップを入れ、旭が頭を押さえ痛がっている間に教室に入って行った。


「痛った~……別に殴らんでもええのに~」


 美和が教室に入ると一瞬騒がしくなる。一斉に自分の席に座る際の音だろうと旭は思った。少し中の様子が気になり、ドアの近くに寄り耳を澄ます。


「は~い、皆おはようっ! 今日からこのクラスの担任になる天乃風 美和です。これからよろしくね~」


 教室から拍手が聞こえる。


「それで昨日も紹介したから知ってると思うけど、このクラスに私の妹がっ!」


 姉の美和が放った“妹”という言葉を聞き、旭は直ぐに教室のドアを力強く開いた。


「ちょいと待たんかいっ!」


 勢いよくドアを開き、大きな音を響かせながら旭は美和に近付いていく。突然大きな音を立てて入ってくる旭に(どよめ)く生徒達。


「入学式ん時はツッコミ入れれんかったけど、今日から通う教室のクラスメイトに嘘つかんといてやっ!」


 美和は一度手を叩き、


「はいっ! この子が私の妹で転校生の天乃風 旭ちゃんです。皆~旭の事よろしくね~」


 何も無かったかの様に旭の紹介をし、生徒達も何事も無かった様に拍手をしていた。


「いやいやおかしいから……ここは、なんやなんやっ! 何がどないしたんやっ! って、もっと(どよめ)く所やろっ! それをスルーとか酷過ぎっ!」


 体全体を使って抗議していた旭だったが段々と恥ずかしくなってくる。


 美和は旭の言葉を無視して「旭ちゃんでした~ぱちぱちぱち~」っと手と口を使い生徒達に拍手を促し、生徒達も素直に従う。


「はいっ! 席は一番後ろの窓側ね~」


「お~いっ! 自分で自己紹介もさせてくれへんのん!? もうええわっ! 勝手にやらしてもらうからっ!」


 恥ずかしくはなってきていたが教壇に上がり教卓に両手を置いた。


「え~っと、皆さん。昨日や今日の姉が言った事は忘れてもらい、最初から自己紹介させてもらいますっ!」


 生徒達の視線が旭に集中し、足が震え出すのを旭は感じ目がすこし泳いでいた。そう目を泳がしていると恵愛や椿、静華と目が合った。


 三人は笑顔で頷いてくれた。たったそんな事ではあるが旭の足の震えが少し収まり落ち着きを取り戻す。


 自分の事を知り気遣ってくれる友達が、信用できる友達が僕には居るのだと想い感じる旭。そこで一つ大きく深呼吸をしてゆっくりと息を吐く。


「……すいません。少し緊張して間が空いてまいました。姉から聞いたと思いますが改めて自分の声で言わせてください。今日からこの学園に、そしてこのクラスに通う事になる天乃風 旭です。それから性別は男ですからそこ間違わんでくださいねっ!」


 旭は「それでは、よろしくお願いしますっ!」と頭を下げ、とりあえず言い終えたので顔を上げた。すると何故か教室全体がざわざわと(どよめ)き、色々な所から声が聞こえる。


「えっ! 嘘っ! 男っ?」「いやいや絶対嘘だから――だってスカート穿いてるし」「男の娘……ありだね」「うちのクラスの女子より可愛いじゃん!? えっ! マジで!?」「それより男子寮であんな子見かけた事ないけど……」「あっそれ確かに俺も見た事ね~や」「もうそんな事どうでもいいっ! あの子なら男でも女でもおっけー! てか萌えるんですけど!?」


 教室が騒がしくなる特に男子生徒の動揺が激しい。その中で頬を赤く染め、旭を見つめる男子も居た。


(なんか今、変な事言ってる奴居った様な……)


 そんな男子達を見て悪寒が走る。


 それから段々と教室が騒がしく(どよめ)いていると、


「はいっ! そこまでっ!」


 っと、教室に手を叩く音と美和の大きな声が響き渡り、直ぐ様教室内が静かになった。旭は驚き姉の美和をチラリと見ると口は笑っている様に口角(こうかく)を上げているが、目は少しも笑っていない。


「それじゃ~旭っ、席に着いてねっ?」


 笑顔のまま旭の方に顔を向けたが、その時の笑顔はいつものにんまりとした笑顔に戻っていた。


「あっ、はいっ」


 あの様な姉の顔など見た事が無かった旭は少しびびりながら美和の言葉に従い、一番後ろの窓側の席に向かう。その途中で先程目が合った中の一人、静華が自分の前の席である事に今更ながら気付き小さな声で「さっきはなんか助かったわ」と言葉を掛けると静華は軽く首を振って笑顔で返してくれる。


 旭は席に着き持っていた教科書を机の中に入れて、学園の鞄を机の横に付いているフックに掛けた。


 そして授業が始まったが、旭がフェアリーの事を余り知らない事と初授業と言う事を配慮し、フェアリーの種類に就いての授業となった。


 要塞都市の中を案内という形で恵愛達と遊んだあの日に出会ったアンデッド型フェアリーのグール。その時に旭は恵愛にフェアリー4種類までは教えてもらったが、後一種類は恵愛は授業で教えてもらえるからと、この時は教えてもらえなかった。だが今日その最後の一種類をこの授業で知る事が出来るのかと真剣に授業を受ける旭。


 最初はフェアリーと人間の同調率について語られ始める。


 同調率とはフェアリーと人間の融合度合いを示すものであり、高ければ高い程フェアリーの力を引き出せるが、急激に同調率が上がると身体が耐えられず死んでしまう者も居るらしい。この同調率はフェアリーと人間が信頼し合う程に上がりやすく、逆だと上がりにくい。後、感情や気持ち等にも影響し急激に上がる事もあり不安定な部分もあるとの事。


 次はフェアリーホルダーに現れる紋章に就いてである――名称はフェアリークレストと呼ばれ、主に上半身に現れる。その理由は定かではないが、心臓が近い事が関係しているのではないかと、フェアリーの生態に心臓が関係があるのではないかと今も研究が続いている。


 授業の時間も当然制限がある為に、短くそれでいて大体の事が分かる様に美和は授業を進めていき、遂に旭が知りたかったフェアリーの種類に就いての話しとなった。


 まずは基本的な三種のフェアリー。


 オルガニズム型――生物全体――存在する人間も含めた生物全体の特徴を持ったフェアリー。もともとはカタチが無い状態と言われており、生物に寄生してコピーしたと考えられている。


 キメラ型――混合生物――基本オルガ二ズム型と同じタイプとされているが、それを何度も繰り返した結果、色々な生物の特徴を持ったフェアリーとなったと考えられている。


 ミソロジー型――伝説、神話等――神話や伝説などの人物や動物、妖怪、神などの空想とされていた存在の特徴と名前をもつフェアリー。オルガ二ズムやキメラ型とは違い過去に寄生した人間を覚えている事が多い。


 この三種類は一般の人々にも知られているフェアリーである。しかし、後の二種類は関係者以外知られてはならない国家機密とされており、他の国も同じ様に極秘扱いである。


 その一つが旭が前に出会ったフェアリー、アンデッド型――不死者、死人――死んでいる人間に寄生、もしくは生きていた時にもう既に寄生しており、死亡すると覚醒し動き出すとされるフェアリー。基本的には知能が低い者が多いが、一部のフェアリーは知能が高く普通の人間と区別が付けにくい者も存在する。吸血鬼などもここに入る。


 そして旭が知りたかった最後の一種類。アグレッサー型――侵略者――ミソロジー型と一緒で伝説上の生物や人物等の特徴を持つ。その違いは生きた人間に寄生し身体と精神を支配する唯一のフェアリーだと言う事である。


 東京都で起こった大災害とも言われる程の大きな事件。巨大な蛇が暴れ狂い破壊尽くし、東京都に住む殆どの人々を殺したアグレッサー型とされるフェアリーが切っ掛けで要塞都市は生まれたのだと美和は言う。これはフェアリーの関係者以外には事故だったと、科学者の暴走によるテロだったと、地下に広がるガスが原因だったと、政府は色々な噂の情報を流し、この事は一般の人々には知られずに済んだのだと……。


 その東京都を破壊し尽くしたフェアリーは数十年と姿を表さずにいたが、また突然に大阪に現れ、応援部隊が到着した時には既にその大きな姿は消えていた。その時も東京都程では無かったにしろ、そのフェアリーが残した破壊の跡は酷く大勢の人々が死んでしまった。この日から今日まで、そのフェアリーは姿を消したまま現れていない。アグレッサー型はこの個体だけでなく日本の各地や、世界でも色々な個体が現れ問題となり、秘密裏に色々な国同士が情報を互いに出し合っているらしい。


 美和が語ったフェアリーに就いて知らなかった事や父親を殺したフェアリーの正体などを知り、旭はフェアリーホルダーになれた事を今まで以上に姉に感謝し、いつかそのフェアリーが……父を噛み殺した、その蛇のフェアリーが自分の近くに現れた時、自分の手で殺せる様に今ある力を更に磨こうと決意を新たに固めた旭。その表情は少し歪な笑顔になっていた。


 そんな旭の表情を少し顔を曇らせて美和じっと見ていた。そんな美和がこの話を終わらせた頃、休み時間を知らせるチャイムが鳴った。

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