プロローグ
フェアリーの二重契約者
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第二次世界大戦……。
五年以上の長い苦しい戦争は日本の敗北により、終わりを迎えた。
しかしまだ終わりではなく、傷付いた日本を立て直さなくてはならない。
最初は少しづつ。徐々に戦後復興が速さを増し、戦争でボロボロであった日本は、活気が戻ってくる。
それから高度成長期に入り、技術力も景気も上がってきたそんなある日、不可思議な生命体が日本で確認された。
その生命体は人に寄生し、寄生した人間に人知を超えた力をあたえる。
その不可思議な生命体は、日本だけでは無く世界各地で確認されはじめていた。世界の人々は得体の知れない生命体に、恐れを抱く。
だが、そんな生命体に興味を持つ者も存在する。生命体や寄生された人間に興味をもつ科学者、その人知を超えた力を利用しようと考える全世界の裏組織、政治家、軍等も関心を持った。
当然興味だけでは終わらない。
寄生生命体と寄生された人間を集めるべく、色々な組織が動き始める。
通常ならば寄生された人間達にも人権は当然あり、なかなか集めるのは難しいと思われていた。
しかし予想に反して、次々と寄生された者達が、その国の政府や軍等に保護をしてほしいと集まってくる。
寄生生命体に寄生された人間のほとんどが子供であり、捨てられ、もしくは町から追い出された者達。直接来て子供を置いていく親もいた。
一般の人々にとって寄生生命体と、その宿主は恐怖の対象でしかない。自身の子供、家族であっても同じ事。
寄生された宿主を暴行、酷い時には殺害される者もいた。
なかには寄生された子供をさらい、商売として組織に売る者も少なくない。
その為か、どんどんと集まっていく。
宿主を欲している者達にとっては保護の名目で集める事ができ、失費がおさえられて良い事ずくめであった。
日本の政府も研究のための特区を東京都内に設立し、研究対象である寄生生命体と宿主を特区の施設内に集め、研究が開始され進められる。
徐々にではあるが、研究が進むにつれて、寄生生命体の宿主が蔑まれ、殺される事も少なくなっていた。
とはいえ人の感情が、心がそんなに簡単に変わるわけもなく、恐れや悪感情は依然としてあり、研究施設内でも人として扱わず、モルモットやネズミの様な実験動物と同じ様に、研究者から扱われていたりもする。
そんな彼ら彼女らは一般の人々には物の怪付きと呼ばれ、恐れ怖がられている。
そんな寄生生命体を科学者達は正式名称として、神でもない人でもない中間の存在としてフェアリーと名付け、物の怪付きと呼ばれている宿主を、フェアリーホルダーと呼んだ。
それから数十年の時が過ぎていく中で、全世界で研究は進み、フェアリーについて色々と分かり始めたある日、日本の東京で大きな災厄が降りかかる。
たった一人のフェアリーホルダーの少年が暴走した事により、東京都全土に深々と大きな爪痕を残し、東京都民のほとんどの人々が死に絶えた。
生き残ったのは人口のたった一割。
建物も何もかもが原型をとどめてなく、都市機能は完全に止まってしまった。
そんな事があったにも関わらず、生き残った政治家や科学者達は止まる事はない。
政府を再建し、直ぐに政治家達は生き残りが少ない事をいい事に、この災厄を嘘の情報で固め、科学者達はそのまま生き残ったフェアリーホルダー達を集め、研究を再開する。
そして膨大な量の金を注ぎ込み、東京都の中心から海をも巻き込み、半径200㎞を特殊な壁で覆った大都市を建てる計画が進行して行く。
皇居・国会議事堂・研究機関、そして様々な組織や会社も入り込んだ大きな大都市。
一般市民は入る事も情報さえ知る事ができない。その余りにも大きな建物自体が全て国家機密の扱い。
その都市の名は要塞都市東京。
フェアリーの研究所やフェアリーホルダーの監視塔、保護施設、育成機関などの建物を、要塞都市の中に建てる予定であり、この大きく莫大なお金を注ぎ込み建てられる予定の大都市は、研究推進の為、政治家、研究者のお偉方を守る為など。その様な事の為に計画されたものであった。
この計画を、この大都市を建設するには何百兆円ものお金が必要なのだが、それは国家予算として国民の税金や借金などで賄われる。
安全の為に必要なのだと、あの膨大な被害を受けることの無いようにと説明され、都市一つが無くなった事をニュースで知る人々は、反対の声を上げる事が出来なかった。
国民の不安、不満をよそに、どんどんと計画が、工事が進んでいった。
大都市やフェアリー育成の計画の他にも、秘密裏に結成されていたフェアリーホルダーの部隊があるのだが、その部隊を国民に公表し、日本各地にその部隊を配置されていく。
色々な地域で起きるフェアリーによる事件や暴走者の鎮圧、新たに見つかったフェアリーホルダーの輸送などを主な任務とした部隊である。
この様に色々な事を想定して強化をしているものの、フェアリー、フェアリーホルダーの管理は難しい。
力を手に入れ舞い上がったフェアリーホルダーの暴走や、一部制御できないフェアリーホルダーなどが暴れ狂う事件などが多発しており、運悪く巻き込まれ死んでしまった人も少なくない……。
そしてまた日本に悲劇が、次は大阪に降りそそぐ。
東京都を破滅させたフェアリーホルダー。都市一つを破壊し尽くした怪物が大阪に現れた。
ニュースでは嘘の情報が流されている為に、一般人にその怪物を知る者はいない。
あっという間に潰され、破壊の限りをつくされ火の手が上がっていた。増援部隊が駆け付けた時には、その怪物は姿を消し、東京都程の事は無かったものの、それでも被害は大きかった。
大切な人を亡くし泣き崩れる人や、呆然と周りを見渡す子供など、人々の心にも大きな傷を残していった。
悲しみや絶望を感じる人々の中、金色の髪をもつ女性が膝をつき子供を抱き寄せ、ポタリポタリと涙を流していた。
その母親と思しき女性に抱きしめられながら、変わり果てた街並みをじっと眺め、
「と、ちゃ……」
何か、ポツリと呟く子供。
ただただ目の前の光景を眺め続ける。
その立ちつくす子供の中にはフェアリーが眠っていた。だが、まだ目覚めず眠りについたままであった。
そんな悲劇から十年の月日が流れ……。
□■□■□
目を閉じているのだろうか……暗く何も見えない。
まぶたを自分では開くことができないのだが、怖さは無く、温かいなにかに包まれているのだと感じた。
開けないでいたまぶたが、ゆっくりと開き、目の前の光景が見えてくる。
見えた先には母親の顔があった。
母は自分を抱き、涙を流しながらも目の前を見据え、赤く燃え上がる火の粉を避け、一心不乱に走っていた。
そこでなぜ母が泣いているのか、走っているのかを疑問に思い、ふと母の顔が若いことに気付き、ああ……これは夢なのだと、ようやく理解する。
少し前まで見続けた夢、最近は見なくなった夢、自分の心に刻み込まれた、けして忘れる事のできない過去の悪夢。
僕を抱きしめ、必死に何かから逃げる母の後ろ、赤く燃え上がる町並みの中、大きく長い蛇の様な何かがうごめいており、その周りを人らしき者達が飛び交っていた。
その飛び交っている人達の中には知っている人の顔がひとつ。
もう写真でしか見ることのできないその人は僕の父親。
この夢は、父があの大きな蛇から母や僕を逃がすために戦い、敗れ、そして殺された場面。
小さき頃の記憶が見せている夢。
記憶からの夢の結末は決して変わることは無く、決して自分の意志では変えることができないもの。
ただ過去の映像がそのまま流れ、強制的に見せられ、目を背ける事など不可能。夢をどうこうする事などできない。
夢がそうゆうものだとわかっていても、辛く苦しい。
何もできない、変える事のできない父の死のリプレイ映像が今、また繰り返される。
僕は後ろにいる父に向けて何かを叫んでいた。何を叫んでいたのかは思い出せないが、叫び続けていた。
そして父は、蛇の化け物に上半身を食いちぎられ、残った下半身が地面に崩れ落ちる。
いつもここで自分の無力さを知り、自分にあの化け物を殺す力があったのならと今も思う。
そんな時、何処からともなく声が聞こえてきた。
『『力が欲しいか?』』
男の声と女の声が重なって、何度も何度も問いかけてくる。
その声に僕は、力が欲しいっ! 力が欲しいっ! と夢の中だと知りつつも叫んでいた。
『『ならば』』
その叫びに応える様に、男女の声が何かを言おうとした瞬間、突如真っ暗になり、声も消えた。
どうやら夢が終わり、もう目が覚めるのだと僕は感じた……。