九陽学園6
今から話すことは皆も聞き苦しく嫌な気持ちになると思うけど……。
――そう前置きをして、旭は語り始めた――
あの時は中学一年生の初めで、クラスメイトの仲良しグループ分けが出来上がった頃くらいなんやけど、僕はどのグループにも入れず友達も出来ずに馴染めんかったんよ。その頃特に女子に間違われたりなんかしたら僕は怒鳴り散らしてたから、クラスの皆は近づかん様になり遠くから眺めて来るだけになってた。自分もそんな皆が嫌になり壁を作ってたと思う。けど、そんな中話しかけてくる男が居ったんよ。
最初は面倒くさいし、どうせこいつも自分を男やと思ってへんやろって思って無視する事にしたんやけど、なかなか諦めへんかってな、そいつ。
それで、そいつに聞いたんよ、どうせお前も僕が男やって思てへんやろって。そしたらあいつ、
「ん? 男なんやろ? いつも言ってるやん」
なんて言ってケタケタ笑ってた。
それからかな徐々に話す様になって仲良くなったんは……。
あいつと仲良くなってから、よく外に遊びに行ったり学校帰りに駄菓子屋寄って買い食いしたり近くのゲーセン行って、門限ギリギリまで遊んだ事もあったっけ。でも、いつからやろか、あいつの僕に対する態度や見る目が変わってきたんは……。
何か変わった様な気はしてたんやけど、そんなん普通気にせえへんやろ? 僕はこのまま仲良く馬鹿な話しをしたり馬鹿やったり、これからも友達でいれると思ってた。でも、突然あいつは体育館の裏に呼び出して僕に告白してきよった。
「旭は友達やし男やって事もわかってる。けど、旭の事が好きになった。好きになってもうた……もういつも旭の事ばかり考えて頭から離れへんねんっ! なぁ! 俺と付き合ってくれっ!」
そんな事を突然言われても付き合うなんて無理やし、その時、正直気持ち悪いって思ってもた。当然僕は、
「はっ?……いや、何言ってるん? 僕が男やと理解してくれてるんやろ? それやのに? 男でも好き? はあ? 僕にそっちのけはないし、そんなん付き合えるわけないやろ! てか、きもいねん!」
あの時の事、自分でも言い過ぎやったと思う。でもその時はなんか裏切られた様に思えたし、凄く気持ちが悪くて……そのままその場から僕は逃げた。
次の日から僕はあいつを無視する様になって、それでも何度も話しかけてきた。けど、僕は無視を続け、あいつも諦めて話しかけてこうへん様になっていった。
それから僕があの時は言い過ぎやったと思い始めた頃、僕の机の中に手紙が入ってて、そこには体育館裏に来てほしいってあいつからの手紙やった。
行かんとこうとも思ったけど、あいつと遊んだ日々がやっぱり楽しかったから仲直りできたらって、そう思って体育館裏に向かってん。当然あいつはそこに居た。けど何かおかしいんよ、ニタニタと笑いながら僕を見てたから。
でも僕はあいつの前まで行って手紙を見せた。
「これ何なん? 何か用なん?」
「あぁ……様ならあるで。おいっ! 皆出てきてくれっ!」
そうあいつが言うと、後ろや前の方からも隠れてた男六人が出てきて、そいつ等もニタニタと笑ってた。あいつがしている嫌な感じの笑い方。
僕は「こいつ等何やねん!? これどうゆう事やねんなっ!?」って怒鳴ったら、あいつ一人が僕に近付いてきて急に抱き付いてきおった。
「すっ~はぁ~……旭はええ匂いやな~」
その言葉に鳥肌が立って凄く気持ちが悪くて抱き付いてくるあいつから、逃げようとしたけど、しっかりと掴まれて逃げれんかった。
「なっ!? なんやねん!? きもいきもいきもいっ! 離せっ! 離せやっ!」
周りの奴もあいつも嫌な笑いのまま、全員僕に近付いてきた。
「おいおい。俺等も居んねんから、自分だけ先に楽しむとかすんなや」
「あっ? あ~分かってる、分かってるわ。でも、前々からこうしてみたかってん、それ位許してくれや。それとこいつは何か武術してるみたいやからな、抱き付いて動かれへん様にせなあかんやろ?」
あいつの言葉を聞き、何となくこいつ等が何しようとしてるか分かって、
「おっ、お前等っ! 何考えとんねん! 僕は男やぞっ! そんなんきもいだけやんけっ!」
「もう、そんなんどうでもええねん。俺もこいつ等もお前が男だろうと女だろうと関係あらへん。ただお前を犯したい。それだけやっ! な~そうやろっ? それと、剥いでみな男か女か分からへんしな……」
周りの奴等は悪寒が走る程に、にやけながら低い笑い声をあげて僕の両脚や両腕を掴んで、声を上げれん様にタオルで口を巻き、古くもう使われてない体育倉庫に僕を運んでいった。もちろん僕は暴れたけど、七人の人間に掴まれてるから外れへん。
「んぅんぅぅ!?」
体育倉庫の中は埃っぽかったけど、意外とそんなに汚れて無かった。多分、彼奴等が普段から使ってたんやと思う。それで、その倉庫に置かれていたマットに寝かされ、両手両足を押さえられた。
僕は口をタオルで巻かれて声がちゃんと出せんと、何かほんまに怖くなってきて凄くあいつ等の視線が気持ち悪く、頭ん中もうぐちゃぐちゃしてて、逃げな、早う逃げなって暴れる事しか出来んかった。
無理矢理に制服を破り脱がされ、下着だけになった僕にあいつは顔を近付けてきた。
「旭……お前が、お前が悪いんねん。お前が俺を振ったから。俺を無視して俺の事を否定するからっ!!」
そん時、あいつの顔泣きそうな感じやった。確かに僕自身もあいつに対しての態度は間違ってたと今では思う。けど、僕にやろうとした、あいつの行動を僕は今でも間違ってると思うし、これからも許さへん。怖くて何が何だか分からなくて僕を犯そうとするあいつ等の顔が凄く気持ち悪かった。今でも、いや、さっきもあいつ等の事を思い出して、怖くて気持ち悪くて、あの舞台からここまで逃げて来たんやけどね。
――語り始めてからずっと旭の体は震えていた。特に今の話をしている旭の顔は蒼白になっており、震えも大きくなっている。その震えを隠す様に右手の甲を左手で強く握っていた――
ごめん。話し戻すな……。
それからあいつは更に顔を僕の右側の耳に近付けてきて、頬や耳を舌を這わせる様に舐め、耳に息を吹きかけてきたり、舌を耳の奥にまで入れてきたり、そん時背筋がゾワゾワとして、どう言ったらええか分からへんけど、悪寒が走るって事なんやと思う。
「っっ?! ぅっふぅ!?」
それが凄く気持ち悪くて首を動かして暴れたり唸って威嚇したりしたけど、直ぐにあいつの仲間が僕の頭を押さえ動かされへん様にされて、あいつの顔を睨む事しか出来ひんかった。
あいつ等は動けん様になり唸る僕を見て段々と息遣いが荒く、口は笑ってるのに目が全然笑ってなかった。それから突然ベルトを外し、あいつと何人かはズボンを脱ぎ始めた。
――旭の話を聞いている三人は、それぞれ別々の表情を浮かべていた。恵愛は目を瞑り眉間にシワを寄せ、椿はただ地面を睨みつけ、静華は口に両手を当て涙を流していた――
あいつ等が僕に何をしようとしてるかは何となく分かったけど、男が男を襲うなんて考えたく無かった。
僕は必死に暴れ、悔しく気持ち悪い感情が溢れ、涙を流して、この時、僕は何かされる前に死ねたらなんて思ってた……。
でも死にたないし、こんな事されたくないから何とかしようと暴れ続けた。
「うぅうううっ!!」
「っ!! もうええ加減に暴れんなやっ! てか、別にええやろ? こんくらい……」
けど、あいつは僕が暴れる度に何度も殴り、僕は何度も殴られてるうちに怖くなって動けんくなった。
それから僕の足や手、顔や首筋をあいつ等は撫でる様に舐め回し、僕は早く終わる事を願うしか無かった。
手や足は彼奴等の唾液に濡れるのが伝わってくる。でも僕は目を瞑り、じっとしているしか出来なかった。そん時、急に両脚が広げられるの感じ目を開けて下を向いたら、股の近くに彼奴の頭が見え、太股の辺りを舐めている事が感覚的に分かった。
太股を摩ったり舐められる度に悪寒を感じ、また涙が滲み出てきて、それでも何も出来なかった。執拗に彼奴は股の近くを舐め、他の奴等は胸も無いのに胸の部分をさすったり揉んだりして、パンツを脱いでる奴なんかも居ったり……。
彼奴は舐めるのを止め、僕のシャツを真ん中からハサミで切って僕の素肌が見える様に開かれ、何故か男で胸も無いのに彼奴等は僕の胸の部分を見て興奮しだした。そして次はパンツに手をかけてきて、僕はもう動けず震え今からされるであろう事を想像し、怖くて目をギュって瞑るしかなかった。
そしてパンツが脱がされそうになったその時、体育倉庫の外側に何かがぶつかり大きな音が鳴って、あいつ等みんな慌て始め自分はその音のお陰で手を押さえてた奴の手が緩み、逃げれるっと思った僕は、そいつの手を弾き、パンツを脱がそうとしてたあいつを殴り、それを見て怯んだ足を押さえてる奴等も殴り飛ばして、何とか自由に動ける様になった。
それからは必死にあいつ等から逃げる為に殴り飛ばし直ぐに靴を履き、そして、まだ着れそうな服だけ持って体育倉庫から逃げ出せた。
ふと体育倉庫の何かがぶつかり音が聞こえた場所を見てみたら、サッカーボールだけあって人は誰も居らへんかった。これは後でわかった事やけど、同じクラスメイトの女子が体育倉庫にボールをぶつけてくれたみたい。結局知った時には休みに入ってて、そのまま要塞都市に来たから未だに、その女の子には礼を言えてないんよ。
――先程までの震えは無くなり、礼を言えなかった事が心残りだと苦笑していた――
それで何とか家には帰れたけど直ぐに母親に見つかって、
「えっ!? あっ……旭っ!? 何なんその格好はっ!? 制服ボロボロやないの! それより一体何があったん!?」
この時の僕は正直に言えへんかって、ま~誰もがそうかもしれへんけど。
「……いや、何もあらへんよ。それよりじいちゃん居る?」
「今は出かけてるから居れへんけど……」
じいちゃんが居らんって聞いてこの時は正直ほっとしたわ。もしじいちゃんが居れば、無理矢理にでも聞かれたと思うから。それは母も同じで僕のボロボロな格好が気になってる様で、僕に近付き腕を掴もうとしたけど、家の母にあいつ等に舐められた腕を触らせたくなかったから、その掴もうとした手を避けて、
「かーちゃん、ごめん。シャワー浴びてくるわ」
全然納得なんかしてない顔やったけど、何も言わずに母は風呂が沸いてる事を言ってくれた。
それから風呂に入って何べんも洗ったけど、全然あいつ等の唾液が落ちてない様な気がして長い事風呂に居った事を今でも思い出す。
僕はそのまま泣き寝入り、かな? そうしようと思ってたんやけど、あいつ等は僕に殴られ怪我をしたって自分の親に言い学校で話し合う事になった。それ聞いた時、本気であいつ等全員殺したくなったわ。
そして学校で話し合う日が決まり、あいつ等七人とその親、僕と母親、それから祖父と教師が三人くらいやったかな? そんな感じで話し合いが始まったんよ。
話し合いの内容はそんなに覚えてへんけど、結構ひどかったわ。相手側の親は僕等に怒鳴り散らして、それを僕等が聞くだけ……でも途中で教師がもう一人入ってきて、僕とあいつ等が何かしているのを見た生徒が居て、僕があいつ等に襲われていた事を教師に伝えてくれた事で僕等は相手側の親から何か言われなくなった。
そこで家のじいちゃんが急に立ち上がって無言のままあいつ等の方に向かって行った。
「家の孫に何さらしとんじゃ! この外道がっ!!」
教師が止める間もなく、じいちゃんはあいつ等全員を殴り飛ばしてくれた。この時僕はじいちゃんが怒って、あいつ等を殴ってくれた事が凄く嬉しかった。
――語ながらその時の事を思い出し、嬉しそうに旭は微笑んでいた。その表情を見た三人も先程の震えていた旭を心配しながら見ていたが、少しほっとした表情になる――
最終的に学校に居れん様になったあいつ等全員、この後直ぐに引っ越して行きおった。
まーこれであいつ等と会う事は無くなった訳なんやけど、僕があいつ等に犯されそうになった事が学校中に知れ渡って、僕に対して更に人が寄り付かん様になってた。
これは被害妄想かもしれへんけど、学校の生徒達が僕を見る時の目が凄く嫌やった。可哀想なものを見る目や珍しいものを見る様な目、中には笑いながらこちらを見てくる奴も居った。だから僕はその学校の生徒達全員に対して、近寄らず話し掛けず壁を作り遠ざけた。それとあいつ等の事があってから素肌を晒す事が怖くなって体育の時はいつも休んで見学をしてたっけな。
僕は学校では誰とも話さず壁を作り何も変わらないままにあの学校を転校し、今現在に至る。たった一つ心残りなのは助けてくれた子に礼が言えなかった事だけかな……。
――旭は話が終わった事を知らせる様に1つ手を叩いた――
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「はい。話はこれで終わりっ」
何か少し吹っ切れた様に恵愛達に向け笑う旭。
恵愛や静華は何を言ったらいいかと迷っていたが、椿は突然、
「とおぅ!」
と声を上げ旭に抱きついた。
「おいおい、一応女の子やねんから無闇に男子に抱きつきなや」
「いやいや完全無欠な女の子ですからっ! それより男子って誰の事?」
椿は抱き締めるのを止めて首を捻る。
「僕やっ! 僕の事に決まってるやろ! 話聞いてなかったんか!」
旭は椿の首を絞め始め、
「くっ、苦しいよ旭ちゃん」
まだ言うかと更に揺らす。
「だって旭はあたし達にとって、普通の男子じゃないし、友達っしょ?」
不意を突かれた様で首を絞め手が止まり、恵愛や静華もその言葉に便乗して、旭の手を掴み、
「そうだよ。私達は友達なんだから、いつでも頼ってね。流石に椿の友達だから抱き付くってのは頭がおかしいと思うけど……」
「私もっ! いつも頼りない私だけど友達の旭君の為に頑張るから、頼ってくださいっ!」
その皆の言葉を聞いた旭の目から涙が静かに流れ、皆の顔をもう1度見直し、
「うんっ!」
と、笑顔で頷く。その後、椿と恵愛が何か言い争いを始め静華はあわあわとしていたが、旭はその様子を見ながら声を出して笑っていた……。




