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九陽学園5

 椿、恵愛、静華達は、旭を探しに行くと決めたのだが、一つ大きな問題がある事に気づいた。


「それで、どうやって式抜ける? 普通には出れないよね……」


 その椿の言葉に恵愛も頭を悩ませた。ドアを監視する様に教師が後ろに待機しているので、普通に会場を出る事は難しい。


 どうしようかと頭を悩ませる三人だったが、誰かが静華の肩をトントンっと叩き、それに驚き振り返ると旭の姉である美和がそこに居た。


「あっ! せっんむっ……!?」


 大きな声を出しそうになる静華の口を塞ぎ、人差し指を口の近くで立て、静かにする様にと、仕草で伝える美和。


 そして、もう大丈夫だろうと静華の口を塞いでいる手をどけた。


「いきなりごめんね静華ちゃん。それで、旭はあれから一度でもここに帰ってきた?」


 最初は驚いていた三人だったが、これはチャンスだと頷きあう。


「いえ、帰って来てないです。それで今から旭君を探しに行こうと考えていた所だったんですよ」


「そうそう。でも、見張りの先生が居て行けなくて……。美和先生、どうにか出来ないですか?」


 美和は、恵愛、椿の言葉を聞き、苦笑い気味に「そっか、みんなごめんね……」そう呟き、恵愛達は皆、いえっと首を横に振った。


 それから少し考える様に黙る美和。そして静華に顔を向けた。


「それじゃ~静華ちゃんが体調を崩したふりをして、椿ちゃんと恵愛ちゃんが、静華ちゃんを二人で支え、私の後ろに付いて行く。それで私が彼処あそこに居る先生に静華ちゃんの事を言うから、そのまま皆は外に出る。これでどう?」


 恵愛、椿は美和の言葉に同意する様に頷いたが、静華は少し戸惑った顔をしている。


「あ、あの~先生。体調悪いふりってどうすれば。それに私なんか、すぐに見破られそうで……」


 自信が無いと言う静華の肩をポンポンと叩き、


「大丈夫大丈夫。美和先生がこっちには居るし、とりあえずぐで~っとして眉を八の字、目を軽く閉じとけばOKだって」


 椿は親指を静華の前で立てる。それに対し自信が持てず困った顔をしている静華だったが、小さく頷いた。


「ううっ……うん。分かった」


「うん。じゃ~先に行って伝えとくから、その後、私の所に来てね」


 はいっと三人は返事を返し、美和は監視役の教師が居る場所に向かう。


 それから少ししてから美和が監視役の教師に静華の事を伝え終わったのだろう、恵愛達を呼ぶ様に手招きをしていたので、三人は美和の言っていた手筈通りに静華を真ん中に、そして恵愛、椿が静華を支え、美和の待つ場所まで歩いて行く。


 監視役の教師は静華の顔を見て、心配そうに近付く。


「ん~……かなり顔色が悪い。百鬼(なきり)さん、大丈夫?」


 声を掛けられ、ビクッとなる静華。


「はっ、はい……」


 その教師は静華の顔を覗き込む。それから一つ頷き、


「やはり相当しんどい様だね。うん、それじゃあ二人共、百鬼さんを頼むね」


 そう言われた恵愛、椿は、その教師に頭を下げてから、美和の方を向く。すると美和はウインクをして、よろしくねっと、ひとこと言い会場のドアを開けた。


「「はいっ!」」


 ドアが閉まり、静華はポツリと呟く。


「私って普段から、そんなに顔色悪いのかな~?」


 二人は何も言えず、苦笑いをしていた。






□■□■□





 恵愛、椿、静華が旭を探し始めた頃、旭はまだ屋上出るドアの前に座っていた。


 何かする訳でも無く、ただ体育座りをし、両足を眺めている。


「……」


 頭の中ではあの日の出来事が繰り返し繰り返し思い出され、動く気力が湧かないでいた。


 そんな中、二つの声が頭に響く。


『主よ、どうしたと言うのだ。先程、台の上から逃げ出してからというもの少しおかしく感じられるが、大丈夫であるか?』


『ねぇ旭ちゃん……大丈夫だよ? もう怖くないよ? だから元気だして?』


 スサノヲ、ジャンヌが声を掛けたが、反応は返ってこない。


『いったい主はどうしたというのだ。ジャンヌよ、何か知っているか?』


『うん。前に記憶の共有をした時、深く閉ざされた旭ちゃんの記憶も見ちゃったんだけど……』


 いつもと違い何か悲しそうな声で言うジャンヌ。これは聞かぬ方が良いかと、スサノヲは口を閉じた。


 そんなフェアリー達の話し声も届かず、ただ自分の世界に閉じこもっていた。






□■□■□






 旭を探す三人は別々に探そうと話し合い、見付けた際はリミッターの電話機能を使い、知らせる事になっていたが、校内の外や中を探しても見付からずにいた三人は、もう一度合流しようと集まった。


「何処にも居ない……旭君、何処に居るんだろ? これならリミッターの番号聞いとけばよかった……」


 そう言い落ち込む恵愛に、椿はそう言えばと、


「屋上って探しに行ったっけ?」


 その言葉に恵愛と静華は顔を椿に向けた。


「私は外の方を探してたから行ってないよ」


「私も下の階を探してたから屋上は探しに行って無いけど、えっ? 椿、屋上探してなかったの? てっきり私は上の階を探すって行ってたから、椿が屋上探したものだと……」


「うん、ごめん。屋上探してないや」


 無言で椿の頭を殴る恵愛。


「痛い痛い! ご、ごめん、ごめんなさい。確かにあたしが悪いから殴るのほんとやめて! 旭の冗談殴りとは違ってマジで痛いから!」


 椿を殴る手を止め、恵愛は溜め息を吐いた。


「もうっ! 早く屋上向かうわよっ!」


「う、うん」


「酷い。女の子なのにこんなに殴られて、もうお嫁に行けない……」


 少し恵愛に対し怯える静華に、嘘泣きをする椿。その椿をもう一度殴り、引っ張って屋上に向かって行った。







□■□■□







 目を閉じ、闇の中何も考えない様にしていた。


 ただただ恐怖と気持ちが悪いと感じる感情を抑えようとする。


 いつもならもっと早く立ち直れていた旭だったが、今日はなかなか立ち直れない。


 ふとそこで階段を上がって来る足音が聞こえ、その音が聞こえる方に目を向けると、そこには恵愛、椿、静華が立って旭を見つめていた。


「はぁ……旭、やっと見付けたっ」


 三人共、息を切らせ、旭が座っている場所の前に座った。


「椿、恵愛、静華……。なんで?」


 深い溜息を吐く椿は、旭の顔を両手で挟む様に叩く。


「はあ? なんでかって? そんなの友達だからに決まってんじゃんかっ! アホなの死ぬの!?」


 いつもとは違い怒鳴る椿に驚く旭。


 椿が発した言葉に、横で聞いていた恵愛は、


「アホなの死ぬのは言い過ぎ」


 とチョップを入れた。


「でも、本当に心配したんだからね。あんな旭君を見た事なんて無かったから……って、まだまだ知り合って間もないけど。でも、だからこそ旭君をもっと知りたいと思ってる。だから旭君、辛い気持ちになったら言って? 私達に何ができるか分からないけど、ちゃんと聞きたいの。ほら、私達は友達なんだからさ」


 静華も頷く。


「私も旭君ともっと仲良くなりたいし、力にもなりたい。こんな私なんかじゃあ力不足かもしれないけど、旭君は私達の大事な友達だから、もっと頑張るからっ!」


 怒鳴りつける言葉の中にある旭を思っての真剣な椿の思い。恵愛の優しい声と心配する心。静華の一生懸命な叫び……そんな三人の想いが、旭の心に響く。


 旭は今まで、本当の友達と言える者との出会いは無かった。もしかしたら、これが友達と言うものなのだろうか。心配し、心配され、怒ったり、怒られたり、時にはケンカや相談などし合ったり、そしてお互いが楽しく笑い合える、そんな、本当の友達に自分は会えたのだろうかと旭は思った。


 何か温かいものが頬を伝う、手でそれを拭うと、自分が涙を流している事を理解する。何故か涙を流す自分が恥ずかしくなり、隠そうとするが、どんどん、どんどんと熱いものがこみ上げてきて、隠す事さえ出来ぬ程に嗚咽を漏らし涙が、下へ下へと落ちて行く。旭の下の地面には、涙の跡が増えていった。


 三人は旭が泣いている事に気付き、静華はどうしたらいいか分からないと、あたふた忙しなく目線が泳ぎ、恵愛、椿は息を吐き出し、微笑みながら旭が泣き止むのを待つ二人。


 それから少しずつ落ち着きを取り戻した旭は涙を拭い、恵愛達三人に目を向ける。息を整える為に息を軽く吸い、そしてゆっくりと吐いた。


「……なんかごめんな。みっともない所見せてもーて」


「そんなん、気にしな気にしな~」


 下手な関西弁を椿は使い「にししっ」と笑う。


「辛い事があれば、泣いてもおかしくないよ」


 もらい泣きをしたのか、恵愛も手で目を拭う。


「うん。旭君の泣いてる姿、絵になるし」


 静華の的外れな言葉に恵愛、椿がツッコミを入れていた。そんな旭の目の前で繰り広げられている光景に、つい笑みがこぼれる。


「んっんんっ……。 なんやみっともないついでに、ちと耳汚す話しやけど聞いてくれへん?」


「耳汚すとか余計だよっ! 私は旭君の話を聞くっていったでしょ? みんなも同じだよ」


 恵愛は「ねっ?」っと静華と椿に顔を向け、二人共当然といった感じに大きく頷く。


 そっか、と笑みを浮かべ、旭はあの時の事を語り始めた。

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