表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/36

九陽学園

 九陽学園の寮にはトレーニングルームや鏡張りの多目的に使える大きな部屋など、その近くにはシャワールーム、大浴場などもあり、修練・鍛練をする旭にとってはありがたい施設になっている。


 旭は朝7時に起き、鏡張りの多目的室で技能を高める為の修練や、身体能力向上の為の鍛練を毎朝おこなっていた。


 旭が使う流派は得物を選ばず、いついかなる時でも戦う事が出来る様にと生まれたものであり、太刀などの剣術や体術は勿論、短刀や小太刀、槍なども、旭も教え込まれており、今日もトレーニングルームにて、祖父の教えを反芻(はんすう)する様に修練、鍛練をこなす。それを2時間程した後に、ランニングを1時間程度行い、朝の修練は終了。それからシャワールームにて汗を流し、今日の日課は終わった。


 あのグールの事件があった次の日から、これを日課として毎日を過ごしていた。


「よしっ……」


(そろそろ走りに行こか)


 タオルを取り、汗を軽く拭いていると恵愛が部屋に入って来た。


「あっ、旭君おはよ~。本当に毎日欠かさず、やってるんだね。正直、私には無理そうだよ」


 タオルを肩にかけ、恵愛の方に顔を向る。


「うん。恵愛おはよう。てか、僕かて毎朝こんな事やりたないけど、今まで頑張ってきた事が、怠けたりして、鈍ったりなんかしたら今までの苦労が水の泡になるやろ? そやから続けてるだけやから。後、やっぱり強くなりたいし……。それより恵愛はどないしたんよ。もしかしてトレーニングルーム使う? なんやダイエットでもするん?」


 顔を引きつらせ「違うから……」と、笑顔で応える恵愛に、旭は何故か危険を感じ「ごめんなさい」っとすぐに謝った。それを見て恵愛は軽く笑いながら、


「旭に知らせに来たんだよ。リミッターが届いたって事をね」


「おっ、やっと届いたんや。始業式明日やからちょっと焦ってたけど、届いてほんま良かったわ。それで、何処にあるん? 恵愛は持ってへんみたいやし」


「先生が持ってるよ。それで旭君を呼んできてほしいって頼まれちゃって」


 それを聞き、あからさまに嫌な顔をする旭。その顔を見た恵愛は苦笑する。


「先生は自分の部屋に居るみたいだから、行ってあげてね。それじゃあ、旭君に伝えたし、私は行くね」


「そっか、了解。恵愛ありがとう。それじゃあ明日よろしくっ」


 うん、よろしく。と恵愛はトレーニングルームから出ていった。それを見送り、予定していたランニングをやめて、シャワールームで汗を流しに向かった。


 軽くシャワーで汗を流し、体を拭き、着替え終わった旭は、姉の美和が居る部屋に向かい、到着し、ドアを2回ノック……。


「ねーちゃん居るんやろ? 取りに来たで」


 すると直ぐにドアが開き、姉の美和に腕を掴まれ、部屋に引き入れられた。そしてドアが閉められ、鍵を掛ける音がした。


「っ……!? な~、ねーちゃんは普通にする事できひんの? 面倒いし、びっくりするんやけど」


「ふっふっふ~。遂に旭のリミッター完成! 早速つけてみよか!」


 旭の話など聞かず、話を進める美和。


(僕の話し聞いてへんし! ま~分かってたけどね……)


 いつも通り旭は、これ以上何を言っても無駄だと諦める。


「はい、両手出して」


(両手? あ、もう一つテーブルに置いてある。けど二つ?)


 恵愛達がつけているリミッターを見せてもらった事がある旭は不思議に思った。


 姉が旭に付けようとしているリミッターは、恵愛達がつけているリミッターと似た様な造りをしているが、人によっては付ける所が違う。しかし、旭が見た限り、皆は一つしか付けていなかった。


(やっぱりフェアリーが2体居るせいなんやろか?)


「どないかした?」


「ん? いや、何もあらへんよ」


 姉の指示に従い、両手を前に出す。


 右手首にガチャリっと、まるで手錠をかけられた時の音に少し似ているなと旭は感じた。それから次は左手首にも取り付ける。


「これでよしっと。じゃあとりあえず右につけた方の横に円状の(くぼ)みがあるやろ?そこにボタンがあるんやけど、それ押しながら、リミッター起動って言ってみっ」


 言われた通りにそのボタンを押しながら「リミッター起動」と言うと、機械的な女性の声で『音声認証確認しました。リミッター起動します』


 どうやら起動したようで、旭はホッとする。


「やっぱ、知らへん機械触るの、なんか怖いわ。でも、これで食堂も、1人で気楽に行ける様になんねんな」


「だがしかし! 私は何とか時間を合わせて、旭と一緒に飯食うからっ! 絶対に!」


 その言葉に、うんざりとする旭だったが、そう言えばと気になっていた事を旭は姉に聞いてみる。


「そや、ねーちゃん制服は? 明日やろ? 行くのんって。まだ貰ってへんねんけど」


 近くにあった椅子に座り、姉の美和もベッドに座った。ベッドは二段ベッドではなく、普通のベッドだった。


「リミッターに入ってるよ。起動した時と同じ様に押しながら、制服着用っていってみ」


 よく分からないが、言われた通りにボタンを長押しし、


「えっと……制服着用?」


 すると一瞬にして服装が変わった。


「おお! 何やこれ! これ、どないなってるん?」


「よう似合(にお)てるやん!」


「そりゃど~も……」


 照れくさそうに頭をかきながら下を向いた旭は、穿いている物に驚き、そして怒鳴った。


「って、これ何やねん!」


 旭の服装は制服に変わっていた。白い長袖シャツに赤いチェック柄のネクタイ、ベージュのニットベストに黒いブレザー、そこまでは旭にとっては何も感じず普通だった。だが、下に目線を向けると、穿いていたのは膝より下までの、深緑色のスカートの様な物であった。


 これは姉が関与していると確信し、姉を睨むが、美和はキョトンっとした顔をして、


「ん……? どないしたん? 制服気に入らへんかった?」


「いやいや、このスカートどお見ても、おかしいやろ!」


 いやいやっと手を振る美和は、


「それスカートやなくて、プリーツガウチョパンツやから。言うなれば半ズボンみたいなもんやな」


 旭は広げて見てみる。すると、女子が穿く折り目がついたスカートみたいだが、確かにスカートではなく、裾の部分が異様に広い半ズボンの様であった。


「いやいや、そうやなくて普通の男子用のズボンあるやろ!?」


「それな~私が学園にわざわざ許可とって作ってもらった特注の制服やねん。それで何故、女子用の制服に似せたって言うんは、女子寮から男子の制服着てる人間出てきて、周りの人等に見られたら色々とめんどくさい事になるかもしれへんやろ? お姉ちゃんは旭の為を思って、この制服を作ってもらったんよ。だからな、分かってくれるやんな?」


 慈愛(じあい)に満ちた笑顔で語る姉を、胡散臭く見つめる旭であったが、姉の美和が言ってた通り、面倒な事になるかもしれない事は理解できる。どうしようかと悩むが、どうしようも無いと諦め、ため息とともに肩を落とした。


「うわ、マジか。ほんま嫌や……最悪やん。はぁ~全然納得でけへんのに、納得せなあかんのやろうか……」


 うんうんと頷き、


「ほんま明日、楽しみやな!」


 と、満面の笑みの美和に、もう疲れたと言う感じに、


「じゃあ、僕部屋に戻るわ」


 と部屋を出ていく。


「旭っ! 明日起こしに行くからな!」


「いや、起こしに()んでええから……」


 じゃあね~っと手を振る姉を見ながらドアを閉めた。


 自分の部屋に帰ろうと思い、歩いていると椿が前から歩いて来るのが見え、挨拶をしようと旭は手を上げた。


 椿も旭に気づき手を上げるが、何故か旭を見て、軽く驚いた顔をする。しかし、直ぐにニヤニヤと笑いだした。


「相変わらず美少女してるね~旭。いやいや~良く似合ってるよ制服。本当、男にしとくには勿体無いよね~」


 その椿の言葉に怪訝な顔になるが、制服っという言葉で理解する。


(やばっ! 戻すの忘れてた!)


「ほうほう、リミッター届いたんだね~。それにしても女子用とも男子用とも違う感じ? なんか合体させたみたいな制服だね~。でもそのスカート長くない?」


「ちゃうちゃう、スカートちゃうよこれ。これは、え~っと……プ、プリーズガチャパンツ! そう、半ズボンの様なやつで、断じて女子用ではないから!」


 両端を掴み広げて、ズボンである事を主張する。その旭の姿を見て吹き出す椿。


「ぶふっ! くっふふっ! ふひひひひひっ……だ、ダメ、ダメだよ旭~。それプリーズじゃなくて、プリーツだよ。ひひ、後、ガウチョパンツだからっ! ふひひひ、プリーズガチャって、どんなガチャ!? いっひっひっひっひっ」


 座り込み腹を押さえ笑い続ける椿に「お、おい。笑い過ぎやろ」と、手で頭を軽く叩く。


「ひひひっ、ふふっ、はぁ~……。ごめんごめん。でもあれはダメだわ。我慢とか無理っ。てか腹痛いんだけど」


 何とか落ち着いた様で、立ち上がり、


「でも本当、似合ってるよ……。ま~カッコイイと言うより可愛いんだけどね」 


 また笑いながら、旭の肩を叩く。


「うっさい。ほんまマジやめてほしいねんけど……。でもこれしか無いみたいやから、しゃ~ないねんな~。とりあえずは我慢か……。あ、それよりや! これ、どうやったら元の服に戻るん? ねーちゃんに聞かんと出てもて」


「あ~それは簡単だよ。制服はリミッターに記録されてる物なんだけど、リミッターに入った私服は違うから、制服解除って言えば戻るはずだよ」


 そうなんやと旭は頷き、ボタンを長押しし、


「制服解除」


 すると元の服に戻っていた。


「お、戻った! 椿ありがとう、ほんま簡単で良かったわ~」


「どういたしまして。でもあたし的には制服のままがよかったけどね」


 私服に戻れた旭は、


「そりゃあ残念やったな」


 と笑い、それにつられて椿も笑っていた。


「それじゃあそろそろ自分の部屋に戻るわ。じゃあまた明日っ」


「うん、明日からよろしくね旭。じゃあまたね~」


 それから自分の部屋に旭は戻っていった。明日からの九陽学園に行く事を楽しみにしながら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ