二重契約者8
部屋に入った旭は軽く部屋を見渡した。
その部屋には勉強机に大きな二段ベッド・エアコン・台所・冷蔵庫・洗濯機・洗面台・お風呂とトイレは別々に有る。収納スペースには暖房器具や扇風機など、色々入っており、テレビ・パソコン・インターネット回線までも設置されている。
「いや、流石に豪華過ぎるやろ」
フル装備な部屋に驚きと呆れを感じながら、荷物を二段ベッドの近くに置く。
壁に掛けられた時計を見ると十時少し前。旭は少し疲れを感じていたので、シャワーを浴びて直ぐに寝ようと考え、風呂場に向かう。が、一つ気になる事があった。それを確認しようと立ち止まった。
「ジャンヌ、スサノヲ、ちょっと聞きたい事あるんやけど、ええかな?」
その声に両肩からスサノヲ、ジャンヌが姿を現す。
『主よ、何用か?』
『はいはーい、旭ちゃんなーにー?』
「フェアリーって姿みしてへん時って外の事見えるん?」
『見ようと思えば見れるが?』
『私もスサノヲと同じだよー』
ジャンヌとスサノヲの返答に、そっかっと頷く。
「ならトイレや風呂に入る時なんかは、見んようにしてな。やっぱ、ちょっと恥ずかしいし」
『ふむ、承知した。我にのぞきなどの趣味は無い。安心めされよ』
『えーっ! 私は旭ちゃんと一緒に入りたいー。ねえ、良いでしょ? 一緒にシャワー浴びようよー』
首に抱きつくジャンヌ。
「ジャンヌ、無理やから! あと流石はスサノヲ、助かるわ」
『ぶーーっ!』
不貞腐れるジャンヌをスサノヲが諭す。
『ジャンヌよ落ち着け。主とて見られたくない事の一つや二つあるのだ。しかし、我々は主と一生一緒なのだから、もしかしたら許してくれる時が来るやもしれんぞ? だからジャンヌよ、それまで我慢をするのだ』
『うーん……分かった。もう言わない。旭ちゃんと私達は一生一緒なんだもんね。いつかはそんな日が来るかもだし、それまで我慢する!』
ジャンヌのその言葉を聞き旭は苦笑いになる。
『ゆるりと入られい主よ。では我らは中に戻るか』
『りょーかーい。またね、旭ちゃん』
そして二体のフェアリーは旭の中に入っていった。
シャンプーやボディソープ、タオルなど用意し、風呂場に向かう。服を全て脱ぎさり洗濯カゴに入れ、そして入っていく。鏡に映る自分の姿に息を吐く。
(もっと男らしい顔や体やったら、女子に間違われる事とか無いんやろか)
お湯がでる方の蛇口をひねる。温かくなるまで待ち、温かくなったのを確認後、シャワーを軽く頭から浴びて体を暖める。
充分に暖まってから、洗いはじめ、まず髪を、次に顔、そして体と順番に洗い、泡をシャワーで流し、シャワーの蛇口を閉めた。
風呂場から出た旭は体を拭きながら、ベットに向かい、そこに置いてあるキャリーバックの中から下着とパジャマを出して着替えはじめる。
そんな時ドアを叩く音がした。
「旭君、少しいいですか?」
先程会った恵愛と言う少女の声がした。
「ちょっと待って。いま着替え終わらせるから」
「あ、ごめんなさい……」
そして着替えが終わり、旭は鍵を外しドアを開いた。
「夜に突然来てしまって、ごめんなさい」
頭を下げる恵愛に、
「別にええよ」
と返事を返し、中に入る様に促した。
「では、お邪魔しますね」
旭はとりあえずエアコンの暖房をつけ、勉強机の近くにある椅子に恵愛を座らせた。旭は二段ベッドの下の方に座る。
「それで、話って何なん?」
「実は先生に言われて来たんですが、明日は先生と出かける予定だったんですよね?」
「その予定やけど。なんで?」
「あ、はい。先生は明日用事で行けなくなったみたいなんですよ。それでなんですが、私達が要塞都市の案内を代わりにしようかと思いまして、誘いに来ました」
少し恥ずかしそうに両手を合わせもじもじしながら恵愛は旭を見た。
「なーる。ねーちゃん用事って治安部隊のなんかなんやろか? やっぱ、隊長みたいやし忙しいわな」
「治安部隊の用事かは分かりませんが、先生は多忙な方ですよ」
「そうやんな。まーそりゃあ、しゃーないわな。そっか、じゃあ、案内頼みますか」
と恵愛の誘いを受けた。
「で、私達って事は、恵愛さん以外にも来るん? 何人でいくん?」
「えっと、私と旭君を合わせて四人で行こうかと。その二人は明日紹介しますね」
「りょーかい。じゃあ明日はよろしくたのんます」
笑顔で旭。恵愛も、
「こちらこそ、よろしくです」
と、立ち上がり頭を下げた。
「では明日部屋まで迎えに来ますね」
「うん、ありがとう。じゃあまた明日……。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そしてもう一度ペコリっと頭を下げ、恵愛は部屋から出ていった。
「ふぅ、寝るか……」
周りの物を軽く片付け下のベットに入り布団をかぶって目を閉じ、眠りに入っていった。
□■□■□
旭は誰かに呼ばれている様な気がした。光を感じて朝だと理解する。その呼ぶ声の方に顔を向け目を開くと、
「旭君、おはようございます」
にっこりと微笑む恵愛の顔があった。
「……あ、おはよう……。ん? あれ?」
何故、恵愛が自分の部屋に居るのか分からない。確かに鍵はかけたはずなのにっと、ぼーっとした頭で考える旭。
「迎えに来ましたよ。今日は一緒に楽しみましょうね」
その言葉でやっと旭は思い出した。今日は恵愛と、あと二人が要塞都市を案内してくれる約束をした事を。
「あー案内のやつやね。でも何で部屋に? 鍵は?」
恵愛は目をそらした。
「あっ、うん、大丈夫。どうせねーちゃんやろ? 多分ねーちゃん、合鍵とか用意してたんやろうからね。で、ねーちゃんが鍵を開けて入ったわけやね」
「おお! 旭君、大正解! 流石姉弟!」
知らない人の大きな声に旭は起き上がった。そちらに目を向けると恵愛以外の女の子二人と目が合う。一人はショートヘアーで緑色の髪に目の色は茶色く、明るくて元気いっぱいな感じの女の子。もう一人は黒髪のストレートロングヘアーで、前髪が長く目が隠れていて、大人しそうな女の子。
「あ、あの……。お、お邪魔してます」
黒髪の女の子は、静かにペコリと頭を下げた。もう一人は「おっじゃまっしまーす!」っと、やはりでかい声で、よっ、と言う感じに手を前に出し、挨拶をする。テンションたけーなっと思いながら旭はベットから出て、自己紹介をしようかと立ち上がった。
すると前の三人が何故か目を下に向け、じーっと見ていたので、なんやろか? と思った旭は自分の格好を見る。そこには、白いロング丈のニットワンピースに、黒タイツといった格好をしていた。
固まる旭。緑髪のショートヘアーの女の子は腹を抱えて笑いだした。
「やっばっ! めちゃ可愛いし! てか、女の子にしか見えないんだけど!」
大笑いする緑髪の女の子に恵愛と黒髪の女の子は「失礼だよ! 笑い過ぎ!」っと注意するが、なかなかとめられない様で笑い続けていた。
「ご、ごめんなさい、旭君……。椿! ほら! もう笑わないの!」
「ほ、ほんとだよ~。失礼だよ旭さんに……可愛いのは確かだけど」
その椿という緑髪の女の子は、何とか笑いを抑える事が出来たが、笑い過ぎて涙目になっていた。
「あー笑い過ぎて腹が痛いー……。旭君、ごめんごめん。ほんっと笑ったりして勘弁してー。いやーでもこれで男とか信じられないよねー」
とりあえず旭は直ぐにこの女性用の服を着替えたい様で、少しの間、三人には部屋から出てもらおうと思った。
「ええよええよ。とりあえず犯人は分かってるし、聞き慣れてる言葉やしね。でもこの恰好で出かけたくないし、少し部屋から出といてもらっていい? 直ぐ着替えるから」
すると椿は不満顔で「えー! 似合ってるのにー」っと言うが、それを黒髪ロングの女の子と恵愛が部屋から出る様に椿を押し出してくれた。
「ごめん、すぐ着替えるから」
旭が寝ていたベットを見ると脱がされたボクサーパンツとパジャマが出てきた。とりあえずそのパジャマとパンツを洗濯かごに入れておく。そしてキャリーバッグの中からジーパン・靴下・長袖シャツにボクサーパンツを取り出し、今着ているニットワンピとタイツを脱いで気づく。下着までもが女性用でブラジャーも着けていた。その上からスリップも着ている。それを全部脱ぎ、女性用の全ての物を洗濯かごに入れておき、出した下着と長袖シャツ、ジーパンと靴下を着始める。
「はぁー……ねーちゃん何考えとんねん。勘弁してや、ほんま」
犯人は姉の美和だと旭の頭の中では確定済みだった。姉の美和しかこんな事しないと分かっていたからだ。
着替え終わった旭は三人を呼ぶ。
「入ってきてえーよ」
「はーい!」
大きな声で元気よく入ってくる椿が先頭、その後に二人がお邪魔しますと入ってきた。
「いやいやー、ほんと先程はしっけいしっけい」
右手を上げて謝る椿に「気にせんでもええから」っと旭は言葉を返す。
「もう知ってるみたいやけど、一応自己紹介させてもらうで。天乃風・美和の弟の、天乃風・旭です。よろしくたのんます」
それからひとりひとり自己紹介をし始める。
「そういえば私も自己紹介してなかったよね。冴木・恵愛です。よろしくです」
「じゃあ次はあたしかっ。北条・椿っていいます! 椿って呼び捨てでいいよ! よろしくねー!」
「あ、あの、初めまして、百鬼・静華ともうします。よろしくお願いします。私も呼び捨てで構いません。静華と呼んで下さい」
私も呼び捨てでっと恵愛が一言付け加える。
「じゃあ僕の事も旭って呼び捨てにしてや。あとみんな同級生やんね? なら今から敬語禁止って事で! 前の学校ではクラスの子らに壁作ってしもてたし……。だから次はそんな壁なんて作らん様にせんとな」
もう一度「これからよろしく」と笑顔で言い、恵愛・椿・静華は皆、笑顔で頷いた。
「うんうん! 敬語とか堅苦しいからあたしは大賛成! それじゃー旭、準備OKだよね! じゃー、しゅっぱーつ!」
「敬語禁止……わっ、分かりました。じゃなくて、分かった。 でも私は旭君って呼びます。あ、違う、呼ぶね」
椿はテンション高く、静華は少し緊張気味だけど二人ともタメ口で返してくれた事に旭は満足する。
「私も旭君かな。って、早いよ椿! 皆で旭君を案内するんでしょ?」
さっさと出て行ってしまう椿。直ぐに追いかけ部屋を出るが、もう下に行ってしまっているようだった。旭は急いで鍵をかけ、三人で椿を追いかけていった。




