第十六話 偶像(アイドル) その5
半鬼として“転身”を遂げた明がネオンを睨む。その烈火の如く燃え盛る瞳に恐怖は無く、溢れるばかりの闘争心に満ちていた。
真紅の双眸に突き刺されたネオンは思わず後退る。
「半鬼……!? まさか、大禍さんの言ってた……」
つい最近、新しく発見した“掘り出し物”
新しく自分たちの仲間になる可能性のある存在、一本角の小鬼。
そこまで思考を巡らせた所で、眼前の半鬼……日暮 明が「動いた」
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
スタジオ内を満たす咆哮。それと共に明の姿が霧散するように掻き消える。
「消え……!?」
「た」という言葉を紡ぐ前に、右頬に鋭い痛みが、そして、首を持って行かれるのではと心配になるほどの衝撃がネオンを襲った。
目の端でとらえたのは恐るべき速度で迫った明の憤怒の形相と、振り切った右拳。
渾身の右ストレートがネオンの右ッ面を打ち抜いたのだ。
「あがっ!?」
思わず悲鳴を上げながらふっ飛ばされ、スタジオの壁に激突する。背中に激しい痛みを感じながらも、ネオンの思考はある一点に支配されていた。
『殴られた』
いままで、アイドルとして輝きの最中に、周りから愛される存在として崇拝されてきた自分の顔を殴られたのだ。
それも、年端も行かないような小さいこどもに
「……っつ! ふざけんなこの……!」
「ふざけてんのはテメーだボケ!!!」
言い切る前に再度顔に――――それも顔面に拳が突き刺さった。
ゴキリと嫌な音が鳴る。壁を背にしたネオン目掛けて放った拳は壁に亀裂を生じさせながら、ネオンの整った鼻っ柱に叩きつける。
明は反動で後ろに飛び退き、油断なくネオンを見据えた。
「が……! こ、このガキ」
「ワリーがあんま時間がねえんだ。全力で行くぞコラ」
バキボキと拳を鳴らしながらネオンに近づく。最早容赦など欠片も無い。完全に戦闘態勢に移行した明が再度拳を構える。
「う、動くな!!」
たまらず言霊を使うが、尚も明は止まらない。ただ眼前の命を刈り取る為に歩みを止めない。
「なんで……!? なんで言霊が通じないの!?」
「簡単だぜ」
まるで当然とばかりに明が吐き捨てる。
「確かに“人間”相手なら効いたかもしれねーがな・・・今テメーの目の前にいるのは“半鬼”だ。・・・少なくとも人間じゃねぇ」
もしかしたら鬼には効かねーんじゃねえか
その言葉を聞いたと同時に、ネオンの目は大きく見開かれた。
予想外の自分の能力の弱点。しかし、同じ鬼の筈の者が敵に回るなど誰が想像できたであろうか。
通常ならばあり得ない状況である。
「俺と当たったのがテメーの運の尽きだ……」
そして、命の尽き。明の全力をもって不夜城ネオンを倒す。
二十分
それが明に与えられた時間。鬼の力に飲み込まれずに行使できる境界線。
その時間内にネオンを仕留められなかった場合、待ってるのは完全な悪鬼化。化け物に身を落とすはめになる。
その前に勝負を決める。
得意の喧嘩殺法に鬼の力、さらに暁莉との鍛錬で培った戦闘の勘を十全に発揮し、ネオンに対峙する。
「舐めんじゃないわよ! たかが半鬼風情が!」
「……!」
能力を看破され、打つ手なしかと思われたネオンが突如声を荒げた。
そして、激昂したネオンが妙な構えをとる。まるで声を掛ける時のような、両掌を口に近づける構え。その構えを見た瞬間明の全身に嫌な予感が走る。
(来る! なんだかわからねえがスゲェ嫌な感じだ)
その“勘”に従い一旦距離を取ろうとした瞬間、凄まじい“音”と衝撃が明を襲い、その小さな体を吹き飛ばした。
「う、おぉおおおおおおおお!?」
そして先程のネオン同様、壁に思い切り叩き付けられる。全身がばらばらになりそうな激痛に襲われ、そのままスタジオの床に倒れこむ。
何だ、一体なにをされた……!?
「使えるのが言霊だけだったら大間違いよ」
鼻から血を流しながらネオンが絶対零度の声色で明に話しかける。その表情の中には先程までの余裕の他に、獲物から思わぬ反撃を食らった猛獣のそれ――――
屈辱の怒りに燃えた顔をしていた。
「声の衝撃波……あんまり使いたくなかったんだけどね」
周りが簡単に壊れちゃうから
そう言うと同時に再度構えをとりながら、今度は正確に明目掛けて「叫ぶ」
それだけで周囲の構造物を粉砕しながら「衝撃波」が明に襲い掛かる。
「クソッタレ! 冗談じゃねーぞ!?」
あんなのまともに食らったらそれこそばらばらだ。先程は嫌な予感を感じたからこそなんとか直撃は避けられたが、もし直撃などでもしたら間違いなく死ぬだろう。
「……」
ひんやりとした死の恐怖が、強制的に明の思考を冷やす。その瞬間、明の能力である「集中」が発動する。
その本領は極限までに高めた集中力が産み出す体感時間の加速による視覚情報の遅延化。
解りやすく言えば「世界がスローモーションに見える」代物。
そうして無理やり作りあげた刹那の時間で、衝撃波を避ける算段を立てる。
「ヌ・・・ガァアアアア!!!」
雄叫びをあげ、全身の筋肉に力を込める。倒れた体を瞬時に動かし、真上に飛び上がる事でどうにか衝撃波を回避する。
次いで天井に両足を叩き付け、蹴り上げた反動で一気にネオンとの距離を縮める。
(とどめ……!)
爪を展開し、ネオンの頸動脈を叩き切らんと振りかぶり――――
「いい加減にしてよね」
二本の角を生やし、真紅の冷たい目となったネオンの掌底が明の腹部に叩き込まれた。
「ぶ……!?」
「調子に、乗んな」
今までのどこか抜けた感じは完全に吹き飛び、ただ獲物の命を磨り潰す悪鬼へと転じたネオンのカウンターが明を吹き飛ばした。
再び壁に激突する明。胃の中身を全てぶちまけたい衝動をなんとか耐えながらも、両手を着いてどうにか立ち上がる。
「へー、今のを食らって生きてるんだ。出来そこないでも鬼って訳? ちょっと感心しちゃった」
満身創痍の明を見ながら馬鹿にした様な口調でネオンが嘲笑する。
しかし、その目は一切笑っていなかった。確実に敵を粉砕するまで油断も隙も取り除いた捕食者の顔。
「この姿になるのはイヤだったのに、本気を出させたのはほめてあげる。でもね、あんたはもう絶対許さない。私の、アイドルの顔をキズモノにしたあんたをね……。泣いて謝っても許さない」
頭を吹き飛ばしてアゲル
その言葉と共にネオンは静かに深呼吸をし、瞳を閉じた。その時、明の「目」ははネオンの周囲におぞましい黒い何かが渦巻くのを理解した。
黒々とした「何か」はスタジオ内を侵食し、やがて部屋一杯に満たされる。
(なんだ……!?)
凄まじく嫌な予感がする。あの男、大禍と対峙した時と似ている。こちらの身が引き裂かれるような殺気。
ヤバい、何だかよくわからないが、あれをやられたら確実に――――!
「音響術・鏖の歌」
目を開いたネオンが声を発した。ただそれだけで、明は自身の脳内を鷲掴みにされたような激痛に襲われた。
思わず両手で頭を抱えるが、お構いなしに脳内に響く「音」が明を苦しめる。
「ぐ、うううううああああああああああ!?」
このままではマズイ、本当に頭が破裂する。
そう確信した明は元凶であるネオンを倒そうとするが、体がうまく動かない。
どうやら音そのものが凶器となっているらしい。耳を塞いでも完全に遮断することが出来ない。
「死の呪い」と化したネオンの悪魔の歌が明の脳を蹂躙する。
「ふふ、ほら、どうしたの? さっきまでの威勢は。このままだと頭がスイカみたいに割れちゃうよ?」
心底楽しそうな顔をしながらネオンが歌うように訊ねる。
途中で会話を挟んだにもかかわらず今だ死の歌は止まらない。恐らく話す言葉の一つ一つまでもが変容しているのだろう。
その言葉を聞いただけで明はさらに苦悶の声をあげる。
「ご、が、ああ、あ!」
とうとう目と鼻から血が噴き出てきた。普通の人間ならとうに死んでいる。それでも明は死なないのは人間を遥かに超えた鬼の身体能力のおかげだが、その為に「死んだ方が楽」なまでの激痛を味わうことになる。
頭を壁に打ち付け、痛みから逃れようともがくが、状況は変わらない。
「アハハハハハ! なにそれ、面白い! ほら、もっと苦しんでよ半鬼くん! もっと苦しみの踊りを見せてくれたら一思いに殺してあげるよ?」
「うあああああああ!」
嘘だ
不夜城ネオンは自分の苦しみ悶える姿が見たいのだ。もし自分が奴の言う通りにしたところで約束を実行するわけがない。
きっと嗤いながら更なる苦しみを自分に与えて殺すだろう。
激痛と苦しみの中で明はそう思う。
まだそう思える余裕がある
「――――!!」
――――まずは、落ち着きなさい
落ち着いて君の本質を引き出すんだ
脳裏に浮かんですぐに霧散したのは、鍛錬の際に聞いた暁莉の言葉。
落ち着け、そうだ、落ち着け。「集中」を使えばまだ勝機は残っている。
だがどうする、この音の呪いをどうにかしなければ「集中」などとてもできる筈がない。
どうする、どうする。
考える暇などない。……いや、そもそも「考える」など自分の性じゃないんじゃないか?
「日暮 明」ならどうする?
日暮 明という存在なら
――――俺なら――――
「あああああああああああ!!!」
明の叫びがスタジオに木霊する。血に濡れた顔を振り払い、牙を剥き出し、怒りの声を見えない空に向かって叫ぶ。
「何? とうとう壊れちゃった?」
怪訝な顔で疑問を口にしたネオンを無視し、明はその両手の爪を限界まで展開する。
――――そして、そのナイフのように鋭く変容した人差し指を、なんの躊躇いもなく己の両耳に叩き込んだ。
「……は?」
ネオンが間抜けな声を出すのも無理はない。苦しみに悶える獲物が何を考えたか、まさか眼前の光景のような異常な行動に出るとは思わなかったからだ。
しかし、結果として
「己の身の安全」のみを考えていたネオンと、「己が身の危険を」一切省みず、ただ鬼を殺すことを考えた明の行動が、両者の明暗を分けた。
「……あ」
聞こえない。音が、声が、呪いの歌が。
「完全な静寂」が明を支配する
音が、途絶えた
「……あー、痛ェ」
ゴキゴキと首を鳴らす。既に爆発寸前まで痛めつけられた脳は不思議なほど落ち着いている。その痛みすらも、敵に対する怒りの糧にすぎない。
両耳を完全に破壊した今の明に余計な雑音は聞こえない。ただ純粋に、殺意を、闘志を含んだその虚ろな目をネオンに向ける。
――――覚悟しろテメー
不夜城ネオンは目の前の状況を正しく呑み込めていなかった。
自分の切り札、「音響術・鏖の歌」はまさに切り札だ。たとえどんな相手だろうが、数を揃えた精鋭だろうが問答無用で血の海に沈める、文字通りの必殺。
それがこんな、まだ鬼になりたての
いや、鬼ですらない出来そこないの「半鬼」の苦し紛れの行動に破られるとは思ってもみなかった。
――――そもそも、こいつは何だ?
結果にとはいえ自分の居場所を突き止め、最上階まで辿りつき、言霊と衝撃波を捻じ伏せて本気を出させた。
よくよく考えればすべて「異常」だ。それをこんな少年が、出来そこないが……。
「あ、あんたは、何?」
震える唇が漸く言葉を紡ぐ。
しかし
「ああ? なんだって?」
完全な静寂を纏った明にはもう
「何言ってんのか聞こえねーぞボケェエエエエエエエエエ!!!」
闘志の炎を燃やす明が烈昂の雄叫びと共に突進した。
「く、来るな!」
鏖の歌を破られた以上、鬼の力と衝撃波を使うしかない。ネオンの選択は「近接戦闘」だった。衝撃波は今となっては隙が多く、明の敏捷性を相手に当てることは非常に難しい。
鬼としての能力はネオンの方が上、その確信と共に腕を振り上げ、明の頭部を粉砕しようと殴りかかる。
だが
「遅ェ!!」
その言葉と共に明の体が掻き消え……
否、寸前の所で体を下に屈めた明に避けられたのだ。
恐るべき早業。なにより、近接戦に慣れていないネオンと、日々を喧嘩に明け暮れていた明とでは文字通り潜ってきた修羅場の“年季が違う”
「なぁっ!?」
「クソアイドル! そんなに歌いたきゃ……!」
「地獄で好きなだけ歌いやがれぇええええええええええ!!!」
身を屈め、溜めに溜めた「力」を一気に解放する。
火山の噴火の如きアッパーカットがネオンの顎を砕き、その勢いのまま天井に叩きつけた。
頭部から見事に突き刺さり、天井の亀裂を深くする。
「ぎゃ、がっ!?」
「逃がすかぁあああああああ!!!」
自分からやっておいてそれはないだろう
そんなことを一瞬思ったのも束の間、今度は追撃のタックルがネオンの胴体に炸裂した。
飛び上がった明の猛突進が天井ごと粉砕しながらネオンごと推し進める。やがて屋上にまで達し、破砕音と共に両者は空中に舞い上がった。
屋上の床に落ちたネオンはせき込みながら膝を着く。
「く、う……! あ、あいつ、無茶苦茶……!」
いくらなんでも無茶苦茶
こんなのを相手にしていたら命が幾つあっても足りない。
幸い外に飛び出た。身体能力は自分が上。逃げ切れる自信はある。
あっさりと逃げの選択を選んだネオンは屋上から飛び出そうとするが――――
「な、なにこれ!? 通れない!」
見えない「何か」によって阻まれている。もしここに未明 暁莉がいれば、その見えない「何か」の正体を言い当てただろう。しかし、ネオンにその知識は無い。
その「何か」……「結界」を張った本人は少し離れた街路樹の上から双眼鏡で慌てふためくネオンを見ていた。
「ありゃー……ホントに不夜城ネオンだよ……。まさか悪鬼だったなんてなあ。あいつには言えないじゃんこれ」
“鉄壁の結界僧” 暗間 快晴による頑強な結界術。
それは如何に強いといえど、小娘の逃走を許さない。
元々戦闘向きではない快晴は早々に暁莉と明に場を任せ、こうして施設全体に強力な結界を張った。
あのアイドルには悪いが、こと結界に関しては誰にも負けない自分が本気で張った代物だ。破られるとは微塵も思わない。
「破りたかったらミサイルでも持ってこいってね。んじゃ、後は任せたよ半鬼くん」
日暮 明
不思議な存在だ。最初はただのクソ生意気なガキだと思っていたが、どうにも熱いモノをもったガッツのある子だ。
ああいうのを見てると、背中がむずかゆくなるようなくすぐったい感覚を覚える。
「熱血漢ってやつか。暑苦しいのはあんまり好きじゃないんだけど」
――――そういえば友人が言ってたな。世の中には二種類の「熱血」が存在すると。
一つはただ単に「暑苦しい」奴。何も考えていない、己の本能に従い行動する良くも悪くも馬鹿と呼ばれる熱血。
そしてもう一つは、己の心の内に静かに、しかし紅蓮の如く燃え盛る炎を宿す熱血。
他人には理解されづらい、だが確かに突き抜けた光の心を持つ者。
「あの子は後者かな……。ちょっと気難しいけど、ボクはそっちのほうがいいかな」
――――ま、後はよろしく。ボクはここで見守ってるよ、明君。
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逃げ道を完全に断たれたネオンはいよいよ追い詰められたのか、ヒステリックな声を出して結界に拳を叩き付ける。
「ふ、ふざけないで! 私は、こんなところで終わっていい存在じゃ……!」
そこまで言って気が付く。そうだ、あいつは、あの少年は一体どこに……!?
――――風を切り裂く音が聞こえた。
「!?」
影が宙を舞い、屋上の給水塔に着地する。
既に南天に差し掛かった太陽を浴びて、その存在はネオンに背を向けていた。
――――その少年は、明はボロボロだった。既に上半身は屋上を突き破ったせいで生傷に覆われ、痛々しく血を流している。
しかし、それでも尚失われない、背中から伝わる熱き闘志。
その闘志に圧倒され、ネオンは震えながら疑問を口にする。
「わ、私は……」
何を敵に回したの?
明が力強く振り向く。
逆光に立つ雄々しき姿。そしてその影の中に浮かぶ――――
炎の如き赤き双眸
――――殺される
「う、あ、あああああああああああ!!!?」
一瞬にして恐怖に塗りつぶされたネオンが駆けだす。逃走ではない、明に向かってだ。
逃げられない事などとっくに理解している。ならば戦うしかない。戦って、目の前の半鬼を打ち破り、何が何でも生き残るしかない。
恐怖に包まれる中で、ネオンは初めて心の底から「生き延びたい」と願った。
しかし
「ハアッ!!」
明もまた給水塔の上から全力で飛び出す。その左拳に、今までにない全開の力を込めて。
そして、明とネオンが交差する。
――――瞬間、肉と骨を突き破る音が響き渡る。次いで鮮血が撒き散らされる音が聞こえた頃……。
「……」
「あが、が……」
明の左拳は正確にネオンの胸を突き破り、その真っ赤な血に濡れた拳は心臓に突き刺さっていた。
ぎりぎりのカウンターを成したのは明の今までの積み重ねの賜物と、ネオンの不慣れ。両方の「今までの生き方」の差の現れである。
「い、嫌……死にたくない……お願い、助け」
「死ね」
突き刺さった左手を開き、心臓目掛け爪を展開する。
ブチブチと音を立て心臓を繋ぐ血管を引き千切り、明はネオンの心臓を「掴んだ」
「や、やめ……!」
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」
雄叫びを上げながら心臓を引きずり出す。ネオンはその光景を信じられないといった顔で、絶望の顔で見ていた。
「あ、あ、心臓、私の、心臓」
引きずり出された心臓に向かい手を伸ばす。明は左手に掴んだソレを暫く見た後、なんの感慨もなくその掌を……
――――ぐしゃり
握りつぶした。まるで泥玉のように
ネオンの顔が完全に絶望に染まる。かつて彼女がこどもたちを食らい、絶望を与えていた因果がいよいよ巡ってきたのだ。
日暮 明という名の因果が。
「鬼尖爪!!」
右手を手刀の形にした明が叫ぶ。
爪が展開され、手刀そのものが一つの刃と化す。
それは、如何なる悪鬼の存在も許さない魔断の爪撃――――!
「ウゥオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
一閃
それで全てが決した。
明の全力の一撃は、ネオンの右肩から胴までを一撃のもと叩き斬った。
「――――あ、わた、し……。私は」
ただ、幸せになりたかっ――――
最後まで言葉を紡ぐことなく、ネオンの胴体がスライドするように横にずれる。
そして、その上半身が完全に屋上の床に落ちた瞬間、残った下半身から大量の鮮血が噴き出し、明の顔を覆った。
「……終わりだ、クソが」
吐き捨てる明の顔に、勝利の余韻など微塵も無かった。