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かわたれの半鬼夜行  作者: 桐生 巧
第一章 半鬼生誕編
14/23

第十四話 偶像(アイドル) その3

「連れていけ、か。分かってるのか? 君はまだまだ半人前なんだぞ」

「そんなことは分かってる」


 自分も戦う。そう言った明に対する暁莉の返答は是でも否でもなく、ただ見極めるような問いだった。

 普段の飄々とした雰囲気は潜み、真剣な面差しで明を見つめる。


「……一つ聞きたい。君は鬼を殺したいのか? それともあかりさんを救いたいのか?」

「両方だ」


 考えるまでもなく言い切る。

 あんまりな即答に暁莉は少しだけ溜め息を吐く。


「贅沢だな君は。いいか、私に任せれば全てが安全に終わる。君が戦い、血を流す必要はない。それでも着いてくるのか?」

「暁莉、あんたの言うことは分からない訳じゃないんだ。ただ……」


 そこまで言うと、明は自分の手を見ながら、絞り出すように言葉を紡いだ。


「ここで何もしねーと、俺は何時までたっても前に進めねえ。人間にも鬼にも成りきれないハンパなバケモノでおわっちまう。……そんな気がしてならねーんだ……!」

「……」

「それにな……ばあちゃんに手ェ出されておいて、黙って指をくわえて見てるだけなんて……俺は堪えられねえ……!」


 何もせずに安穏を享受できるほど、明は単純ではない。

 その心根は非常に繊細で、情に篤い。

 無口でぶっきらぼうで短気だが、唯一無二の家族……あかりに対する想いは本物である。

 だからこそ、その大切な家族を巻き込む悪鬼を許せない。

 目をキツく瞑り、頭を下げて懇願する。

 

「頼む、暁莉……絶体に足手まといにはならねえ。だから……」

「20分だ」

「……え?」


 顔を上げた先には、仕方ないと言った表情をし、それでもなお嬉しそうな顔を見せる暁莉の顔があった。

 そのまま暁莉は言葉を続ける。


「君が全力を出せる限界値だ。半鬼としての力……鬼の本能に抗い、その力を使えるギリギリの時間……それが20分」


それを忘れずに戦え


「暁莉……」

「君の反骨心を信じてみるよ。……だが、もし君が鬼の本能に負ける事になったら」

「……ああ、分かってる」


そんときは、俺を殺してくれ……


「約束だぞ」

「ああ」


 視線が宙で交差する。

 互いに強靭な意思を秘めた、熱き炎の眼差し。

 日暮 明と未明 暁莉

 姉弟でも師弟でも友人でも恋人でもない奇妙な関係。


 ただ一つ、「鬼を狩る」と言う目的の為に集った者同士

 戦士の関係

 今、秋葉原の地にその鬼狩人が向かう……。



--



 そこは血と暴力で溢れかえっていた。

 東京最大の電気街、秋葉原

 昼時ともなれば喧騒に満ちた活気溢れる街が今、理性を食い潰された暴徒たちによって破壊されようとしていた。


「ま、待てよ、待てったら! どうしちまったんだよおまえ!?」

「ぐううううあああああ!!」


「やめ、殴らないで! 誰か……やめてぇええええ!」


「お、おまえ! ナイフなんか持ってどうすんだよ」

「ウウウウ……!」


 街の至る所で悲鳴と怒声が上がる。

瞳を真っ赤に染めた暴徒たちは手当たり次第に市民に襲いかかり、その破壊衝動の全てをぶつけていた。

 狂ったその姿は、牙も爪もないが紛れもなく悪鬼そのものである。


「うがぁあああああ!」

「た、助け、うわああああああ!」


 ナイフを持ち、血走った目で男を睨み付けていた肥満体の男が、雄叫びと共にその心臓目掛けて突進する。

 だが


「脂ぎってんじゃねーぞデブ!」

「ぶげっ!?」


 横合いから飛び出た明のドロップキックにより、盛大に吹き飛ばされた。


「へ、は?」


 突然の助けに思わず呆然となる男。そんな彼に対して遅れてやって来た暁莉が安否を確認する。


「大丈夫ですか?」

「あ、あんたたちは」

「うむ、大丈夫だな……『眠れ』」


 それだけ言うと男性は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「便利だな、それ」

「ふっ、よいこは真似しちゃダメだぞ?」


 ――――秋葉原に到着した二人は、とにかくこの暴動の「原因」たる悪鬼を探すため、最も人通りの多い歩行者天国に向かった。

 そこで見た光景はこの現代社会に……日本に似つかわしくない混沌とした光景。

 人が人を襲い、血を流す

 血の気の多い明ですら目前の異常事態に言葉を失う程のカオス。


「どうする? これじゃ原因を探す処じゃねーぞ」

「確かに、このままでは秋葉原だけじゃない……東京中に暴動が広まる恐れがあるな」

「警察は何やってんだよ、……よく考えたら今まで一人も見てねーが」

「そのワケは言わずもがな……っと!」


暁莉の言葉が終わらないうちに、背後から襲いかかってきた紺色の制服の警官の腕を取り、完璧に極める。


「……警察もイカれてるってか」

「わかったか? このままじゃ東京は全滅だ」


暗示で警官を眠らせ、これからの対処を考える。


「結界術を使えば、呪術系統の類は拡散を防げるが……間に合うかどうか」

「京都でやったって言うあれか。できねーのか?」


 かつて大禍によって起こされた惨劇を京都の一ヶ所に留めた結界術。

 あれを使えれば秋葉原全体を結界が包み、人の流出を止める事ができる。


「事前に大禍の情報があったからこそ間に合ったようなものだ。今回は流石に……」


――――あれ、暁莉ちゃんじゃない? やっぱり来てたんだ


 妙に気の抜けた軽薄な声が背後から聞こえた。


「……!」

「誰だ!?」


 まさか悪鬼か。直ぐ様構えて声のする方向に振り向く。

 そこには妙な杖……錫杖だろうか?を持った二十代前半程度の男性がいた。ボサボサの髪に眠たそうな顔、どうにも覇気がない。

 明たちが戦闘体勢に入ってたためかひどく慌てている。


「ちょちょちょ待って! ボク敵じゃないっすよ暁莉ちゃん!?」

「誰だ貴様は」

「ちょ! 忘れるなんて酷くない!? ボクっすよ! 天晴上人(テンセイショウニン)の孫の快晴(カイセイ)!」

「……あー、快晴さんか、お久しぶりです」


 どうやら暁莉本人はすっかり忘れていたらしい。漸く思い出したみたいだが。


「こいつ誰? 知り合い?」

「こいつ……!? し、失礼な子供だなー、ボクは暗間(クラマ) 快晴(カイセイ)、これでも明王衆の法力僧!」


 そう言ってフフンと胸を張る快晴。シャリンと錫杖が鳴る。

 法力僧? 暁莉と同じ明王衆?

 この見るからに普通の兄ちゃんが暁莉と同じ?


「見えねー……」

「ああ、やっぱり君もそう思うか?」

「ああ、どう見てもアキバうろついてるオタクじゃん」

「失礼だなキミタチ!?」

「で、何で快晴さんがここに? 貴方は確か今日は……非番だった筈では」

「うん、非番だったよ? だからアキバに遊びに来てたんだけどね……」


 やっぱりオタクじゃねーか


--


 快晴の話によると、秋葉原に遊びに来たまでは良かったが、一緒に来たオタク仲間が急に豹変して襲いかかってきたため、仕方なく本業である法力僧の技を使ったらしい。


「せっかくのオフが台無しだよ全く……」

「快晴さんは平気だったんですか?」

「うん、ボクもてっきり狂っちゃうのかなーって思ってたけど、今んところ何ともないかな」

「なあ、あんたもしかしてこれ飲んでないんじゃないか」


 手に持って見せたのは不夜城ネオンイチオシの商品。自分にとってはとても飲めない血の味のドリンク。


「……確かに、ボクのオタ友達もそれたくさん買ってたな」

「あんたは飲まなかったのか?」

「それ、ちょっと高いし、ボクはドルオタじゃないからね。あとあんた言うな」


 やっぱりこのドリンクが原因なのだろうか?

 

「快晴さん、今はそれより」

「ん? ああ、大丈夫だよ。既にあちこちにコレ刺したから」


 快晴が懐から取り出したのはバトン程の大きさの何か……

 両端に鋭い突起のある武器のようなものを持っていた。


「独鈷杵見るのは初めてかな? ……んじゃ、やりますかね」

「おい、なにするんだ」

「まあ見てな」


 錫杖を構え、目を瞑り、今までの軽薄な態度が嘘のように厳かな声で唱えた。

 先ほど暁莉が唱えたような真言(マントラ)


――――オン シュチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ


シャン!!


 錫杖を地面に突き刺すと、そこを起点に何かが勢いよく広がり、天さえも覆って余りある程に街を包んだ。


「すげえ……!」

「大結界術……流石ですね」

「ま、ボクってコレくらいしか能がないんだけどね」


 苦笑しながら言うが、明はそうは思わなかった。


「アキバ全体は結界で包んだよ、後はキミタチの出番さ」



 本格的な戦いは今から始まる

 快晴の言葉で明はそう確信した。


--


 快晴の結界術により、秋葉原の地は巨大なドーム状の結界に覆われた。これによりこの地は完全に外界と隔離され、術者以外は脱出が困難となる。


「後は犯人をぶっ殺すだけってわけだが……」

「あんまり物騒な言葉は使うなよ。まあ、何も手掛かりがないからな……さて、どうしたものか」


 全くの手掛かり無しの状況から、犯人である鬼を見つけなければならない。しかし、この広い秋葉原からどうやって見つければいいのだろうか?

 そうこうしているうちにゾロゾロと、理性が吹き飛んだ暴徒が集まってきた。


「おい、囲まれてんぞ」

「仕方ないな。はぁ……」


 溜め息を着いたと同時に、両の手を眼前で交差させ、一気に腰まで振り抜く。


「迦楼羅焔」


 暁莉の背中を起点に黄金の炎が巻き上がる。

嘗て明を殺しかけ、その左頬に傷を与えた剛拳に纏わせた烈火の一撃。


(出た……! いつ見てもすげえ迫力だ)


 あと一歩でこの世から消滅させられる所だった反動か、見るだけで背中に嫌な汗が出る。


「んー、流石は迦楼羅姫ってところかな。じゃ、後はお願いしようか」

「……そうだ、なんだよその迦楼羅ってのは」


 結界を張った以上やることは終わったとでも言うのか、快晴はすぐにでも撤退しそうだった。

 それを呼び止め、暁莉が言った「迦楼羅」の意味を問う。


「……まあ、普通の小学生じゃ知らないよな。迦楼羅ってのはね、簡単に言えば鳥の神様なんだよ」

「鳥の神様?」

「八部衆って言う仏様を守る集団の一柱が迦楼羅さ。インド神話じゃガルーダって言って、その翼は広げただけで世界を包み、口から吐く黄金の炎はあらゆる毒や魔を退治する」


 神話で一番強い神、帝釈天の百倍は強くなるという願いを込められた黄金の神鳥


 それが、迦楼羅


「暁莉ちゃんの家系……未明家は迦楼羅の血を引くと言われててね、古くからその聖なる炎を操ってきた退魔の一族なんだ。当然、鬼でもない操られただけの人間じゃ……」


 襲いかかる暴徒の一撃を軽くいなし、そのがら空きの胴体に拳を叩き込む。

 炎を纏っていないその拳打でさえ、問答無用で相手を昏倒させる。


「強い……何より速ぇえ!」

「あの炎の翼を爆発させ、速度を上昇させてるんだ。攻撃だけが手段って訳じゃない」


 天を舞う迦楼羅のように軽やかに飛び、瞬く間に毒蛇を啄む。

 その美しくも苛烈な姿から付いた異名こそが、


 ――――迦楼羅姫。


「明、快晴さん、解説の所悪いけど、そっちにも何人か行ったぞ」

「へ?」

「ちょ、待って!? ボク戦闘は苦手で」


「「「グルアアアアアアア!!!」」」


 言い訳など聞くはずもなく、数人の暴徒が襲いかかってきた。


「……上等だコラァアアアアアアア!!! かかってこいやぁあああっっっ!!!」

「な、なにこの子……あーもーしょーがないな!」


 元々血の気が多く、暁莉の戦いぶりを見たお陰でウズウズしていた。喧嘩上等な明にとっては売られた喧嘩を買わない選択など存在しない。

 快晴も覚悟を決めたのか、半ばやけになりながらも錫杖を振り回し、暴徒の群れに突っ走って行った。


「「うぉおおおおおおおお!!」」



--



「歩行者天国で誰か暴れてるみたいねー……大禍さんの言ってたみょーおーしゅーって人たちかな?」


 とあるスタジオの一室、ソファーに座ってネイルの手入れをしながら、不夜城ネオンは遥か遠くの光景をその場で見ているかのように言う。

 このスタジオ内で、彼女以外に理性を保っている存在は、いない。

 全ての関係者、スタッフは秋葉原をのさばる暴徒と同様、理性なき怪物に成り下がった。

 そして、理性と言う箍が外れた者達の一部は、己の欲望に非常に忠実になる。


「ネ、ネ、ネ、ネオン……!」


 血走った目、涎を垂らした醜悪な暴徒へと変異したスタッフの一人が、異常な視線をネオンに送っていた。

 その股座は傍目から見ても分かるほど隆起している。


「……サイアク。また失敗?」

「ネオンゥウウウウウウウウ!」


 情欲を隠そうともせず、可憐な少女に襲いかかる。そこに人としての理性の煌めきは無い。ただただ薄暗い本能と欲望のみである。

――――だが、相手の力を計れぬ時点で、男の命運は尽きた。


「邪魔」

「ぎゅぶ!?」


 ただ一言、無造作に『邪魔』と言っただけで、男の後頭部が破砕音と共に吹き飛んだ。

 ネオンは手も足も一切出してはいない。文字通りただ呟いただけ。

 そのまま男は大量の血を撒き散らしながら倒れた。


「私は神様。だから、神様に逆らう人は生きてる資格がない……だっけ? ホントなんだ」


 ピクピクと未だに痙攣を続ける男の近くに寄り、その血塗れの頭に囁く。

 やがて何でもないかのように立ち上がり、その細い脚を上げ……


「えい」


 ぐしゃりと、骨と肉が粉砕する音が聞こえた。

飛び散った脳漿混じりの血が顔に付く。ネオンはそれを指で掬い、舌に運んだ。

 僅かに顔をしかめる。


「……まずーい……やっぱり大人はダメ。……食べるならこどもじゃなきゃね」


 そういい放つネオンの瞳は赤く、額からは禍々しい二本の角が生えていた。



--



「コレで全員か。結構早く片付いたな」

「たりめーだ。俺だってやるときはやるぜ」

「はぁ、はぁ、き、キミタチ、疲れるとかそういうの無いの?」


 粗方暴徒を鎮圧し、明たち三人は悪鬼の捜索を続けていた。最も、快晴がダウンしてしまったので半ば小休止をとっているようなものだったが。


「アンタ、体力無いのな」

「こ、このガキ……まぁ、ボクは後方支援が本領だからね……戦闘なんてホント久し振りだよ」

「あの、結界術だっけ? 凄い技だよなあれ」

「別に凄いって言うか、さっきも言ったけどボクはそれしかできないの。って言うか結界術だけを頑張ったんだよなー」


 アハハと苦笑する快晴。

 結界術だけとは、どう言うことだろうか?


「ボクはつい二、三年位前までは普通の就活生でね、就職がうまくいかなくてぷらぷらしてる所をじいさんに面倒みてもらったんだ」


 快晴がじいさんと呼ぶ相手

――――天晴上人

 その人も明王衆に関係する人物なのだろうか?


「あまり才能の無いボクにじいさんはこう言った。『何でもいいから一つだけ極めろ』って」


 そして、戦闘訓練や法術を鍛える時間のほぼ全てを結界術の向上に費やし、技を磨いた。

 その結果、例えミサイルの直撃ですらも傷一つ付かない強固な結界を張るまでに至った。

 結界術のみを鍛え、結界術だけに特化した異形の法力僧。その名も


 「鉄壁の結界僧」


「この錫杖は免許皆伝祝いの品。伸縮式の最新型だよ、凄いでしょ?」

「いや、凄いって言われてもな」

「おい、二人とも」


 途中で暁莉が話しかけてきた。その声色には妙な緊張を感じた。


「仲良く喋ってる所悪いが……また来たぞ、しかも同じ連中だ」

「は……?」

「同じって……嘘でしょ!?」


 見れば先ほどのした暴徒たちだった。

 暁莉と明の容赦無しの一撃を喰らったにも関わらず、平然と立ち上がり、ふらふらと向かってくる。


「……くそっ、キリがねー! ゾンビかっつーの!」

「不味いな、殺すわけにもいかないし」

「……んー、じゃあここはボクが」


 その時、戦闘ではあたふたしていた快晴が妙な自信と共に二人の前に出た。

 渾身のどや顔が癪に触る。


「アンタ、なにする気だ?」

「あんた言うな。……まー、先の戦闘の際、ちょっとした保険をね」

「保険……そうか、その手があったか」


 錫杖を横に構え、左手で印を組む。

目を瞑り、精神力を集中させる快晴の周囲に法力の光が渦巻く。


――――オン


 真言の一つ、帰名の意を表す聖音を唱える。

 その瞬間、暴徒たち一人一人の周囲を青白い結界が包み、動きを完全に封じた。


「小結界……いつの間に」

「戦闘の最中に、ボクの作ったコレを蒔いたのさ」


 懐から大結界に用いた独鈷杵の、更に小さい物を取り出す。


「ミニ独鈷杵、これを相手に蒔けば小さくても大結界と同等の強度を持つ結界に相手を封じ込められる」


 この男、一見頼りなさげだが、その実かなり頭が切れる。

 思わず明は感心した。自分とも暁莉とも違った強さに素直に凄いと思った。

 未明暁莉に暗間快晴。その力の質は真逆だが非常に頼もしい。こんな奴等がたくさんいるのか、明王衆って所は。


「コレで一安心だが……」

「どうする? 片っ端から探す?」

「そんな時間掛けてたら逃げられちまうぞ……そうなったら終わりだ」


 現状は何も進展していない。このままでは悪鬼に逃げられてしまう。そうなったら秋葉原だけでなく、東京中に暴徒が蔓延してしまう。

 もうあまり時間がない


「……実は、探す方法が無い訳でもない」


 だが、最後の手段は、近くにあった。


「……なんだよ、その手段ってのは」

「明、もしかしたら君が鍵になるかもしれないぞ」

「俺が……?」


 そう言って暁莉はあるものを取り出した。それは……


「ジュース……? 暁莉ちゃん、喉乾いたの?」

「違うな、飲むのは私じゃない……明だ」

「へ?」


 この激不味ジュースを、いや、下手したら頭がイカれるジュースを俺が、飲む?


「おい、こんな時にふざけてんのか?」

「まあ聞け、恐らくだがこのドリンクにかけられた呪術によって人の感情を暴走させているのだとしたら、確かに人間が飲むのは危険だ。……だが」


 人間ではなく、鬼が飲んだらどうなる?


「……!!」

「誰もが甘く、旨いと言ったこのドリンクを君だけが不味いと言った。もしかしたら、あくまで作用するのは人間だけで、半鬼である君には……」

「効かないからこそ、本性を見破ったってか?」

「あくまで憶測だ。だが、もし本当なら、君の特性である『集中』を用いて呪いを感知し、同じ波長を持つ大元に辿り着けるかもしれない」

「分かった、俺、やるよ」


 即答である。

 もしかしたら、身体と精神に異常をきたす可能性もあると言うのに。一片の迷いもなく力強く答えた。


「……いいのか? 死ぬかもしれないぞ」

「俺しかいねーなら、やる」


 二人の目が合わさる。暁莉は明の瞳の中に燃え盛る覚悟の炎を見た。

 まるで命すら焼きつくさんばかりの黄金の炎


「……!」

「なんだよ」


一瞬、自分に似た炎の輝きが


「いや、何でもない。……君の覚悟を見させてもらうよ」

「へっ、腰抜かすんじゃねーぞ」


 プシッと音をたて、プルタブを開ける。

そのまま何の躊躇もなく一気に飲み干した。


 ――――その瞬間、目の前が真っ赤になった


「ぶ……!?」


熱い

熱い

熱い

熱い

これは、血、血の味

鉄のような錆びた味

人間でないモノが飲んだため、呪法が暴走し、体が拒絶反応を起こす。

思わず吐き戻しそうになるのを必死にこらえ、明は「集中」を行った。


呪術の本質を見極める

散りばめられた悪意を、呪いを探す

やがて、その本質である大元の呪法が――――


「ッッッッぶはぁっ!?」

「明っ!?」

「おいおい、大丈夫なの?」

「は……は……」


 ――――見えた。一瞬だが、力の大元ってやつが

 あれは……ほんの一瞬見えたあのイメージは……


「……分かったぜ、漸くな……」

「明?」


 不夜城ネオン、何がアイドルだ






 ――――もう逃がさねーぞクソッタレ









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