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罪と詩   作者: 小富範図
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第1章-①出会い

『生まれた意味を考えることは無意味であるが、生まれた意味など無いと思うことも、また無意味である。』


児童養護施設『ひまわり』、人混み離れた田舎町にある、約数十人の暮らす木造住宅だ。


ここの子供達はただ親が居ないだけじゃ無い。


ほとんどは、親が何らかの犯罪を犯して刑務所にいる、もしくは、もう死刑の執行が決まっているような、つまり親戚中から避けられ続け、ゴミのように扱われた子供達だった。


ただ、みんな小さかったから、その事実を知らない子が多かった。


あの頃、知っていたのは小学5年生だった俺と……。


「ねぇ、いつまでそこにいるの? ご飯だよ?」


俺は小学2年生まで、裕福な家庭では無かったが、父と母と3人で、何だかんだ楽しく暮らしていた。しかし母の起こした事件により、その生活は一瞬にして崩壊し、ここに来ることになったのだ。


それから俺は一言も喋らなくなった。もともと無口だった俺だが、本当に誰とも。今思えば施設の先生達は苦労したと思う。


「聞こえてるよね? おいでよ!」


いつも鋭い目付きで他人を牽制して、小学校にも行かなかったから、友達なんているはずがなかった。それどころか、話しかける近い年代の子すらいなかった。


「慎ちゃん! どうせ後で来るんでしょ!」


最初の印象は本当にウザいやつ。いつものように河川敷で、黄昏ていた俺に、甲高い声と、向日葵のような笑顔で見つめながら、ずっと呼んでいる。何なんだこいつは……。


「お腹空いてるんでしょ? 今日こそ本当にご飯片付けちゃうって!」


懲りない奴だ。すぐに殺してやろうかと思うくらい、頭に血が上っている。周りはそんな俺たちを遠くで観戦している。それもまた俺の血を沸騰させた。


「そうだった! 誰か分からない人にいきなり話しかけられても困るよね! 今日からお世話になります!相楽由乃さがらよしの、小学4年生です! 柿花慎太郎かきはなしんたろうくんだよね! これからよろしくね!」


当時の俺は心が荒みきっていた。厳密に言うなら、この後も大きくは回復しないのだが……。


自己紹介をするだけの由乃に俺は、右手に収まりきらないくらいの大きな石を握り、振りかぶって投げてしまった。


その石は避け切れなかった由乃の足に当たり、血が出ていた。


俺はこの時、罪悪感を感じた。


「私のパパは、5人殺したよ……」


「やめろ!!!」


足の痛みに堪えながら、不幸話をしようとする由乃を止めるために叫んだ。年に数回しか喋らなかった俺が、あの日、母が振り回す包丁を止めるために叫んだように。


当時の俺にとって、誰かの悲劇を聞くこともまた、刃物のようなものだった。


「そう言う話をしても良いと思える、あなたとだから私は友達になりたい!」


すると、足を引きづりながら、興奮状態で何をしてしまうか分からない俺に、少しずつ近付いて由乃はそう言った。


そして手を差し伸べて微笑んだ。


「いつか君を殺してしまうかも知れないけど、それで良いのなら……」


差し出してきた手を軽く振り払い、由乃に発した2言目がこれだった。


それは本気で思っていたのか、その場しのぎの、誰かを避けるために言ったのか今でも分からないのだが、それくらい俺の心は限界だったのだろう。


「ありがとう、それでも信じてくれるなら」


それ以上に分からなかったのは由乃の言葉だ。何を考えているのか全く分からない。ただ、何となく、その空気に飲み込まれるように、俺はその時、下を向いて微笑んでしまった。


「あっ、ちょっと待って! 歩けない……」


俺は由乃の前に背中を向けて跪き、その上にそっと由乃を乗せた。人の温もりをこの時初めて知って、心臓が速く動いて、生きているって感触がした。


これが俺と由乃の衝撃的な出会いの1ページだ。


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