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風使いは青い光を纏う

 先手はワイバーンだ。

 ファイヤーボールを連射しつつ距離を詰める。

 カールも退かない。最小限の動きでそれらを避ける。避けきれないものは金色の槍で弾くが、大振りせず前へ前へと飛び続ける。

 脛に被弾。顔をしかめるが、その視線はワイバーンを捉えて離さない。

 右肩に被弾。歯を食いしばり、咄嗟に両腕で槍を支える。

「槍よ、貫け。目の前の敵を!」

 ただ支えるだけのカールの腕から、金色の槍は離れていく。まるで槍自身に意志が宿っているかのように、加速して紅竜を襲う。

 火花が飛び散り、空気が焦げた。

 風を切る音は後から聞こえてきた。

 神速の鞭もかくや。目にも留まらぬ速さで振られた竜の尻尾——その先端が、金色の槍を弾き飛ばしたのだ。

 回転しながら離れていく槍は、六十アードも飛ばされると、そこで弾けて消えてしまった。

 ワイバーンが赤くぎらつかせる隻眼と同様、尻尾の先端も光を帯びて赤熱している。

 予備動作なく尻尾が伸びた。

 赤熱する先端がカールを襲う。

 だが彼は前進をやめない。それどころか加速した。

 何の小細工もなく、ただ真っ直ぐ目の前の敵めがけて。

 白銀の鎧が輝き、切り裂かれた空気が突風を巻き起こす。

 対するワイバーンも加速した。カールただ一人をめがけ、容赦なく巨体をぶつけるつもりだ。

 両者の距離は見る間に詰まる。

 衝突。

 破裂音が轟いた。

 カールの身体が数アードほど押し戻される。

 一方、なんと——

 ワイバーンの巨体は二十アードほども後方へ弾き飛ばされた。

 衝突ポイントには青く輝く巨大な三角形の魔法陣が浮かび上がっている。

 再び前方へ向けて加速したカールは、そのまま魔法陣をくぐり抜けた。

 抜けた途端、彼の全身が青く輝く。

 紅竜は嘴を大きく広げた。そのままファイヤーブレスを放射する。

 戦士の身体は炎の渦に呑み込まれてしまった。

 しかし、紅蓮の炎を押し退けて、一陣の風が紅竜に迫る。

 咆哮をあげ、ワイバーンは進路を変えた。大きく迂回し、カールの右側に回り込まんとしている。

 紅竜は左目を失っている。敵が己の死角に飛び込むことを嫌うのは当然だ。

 だが風を纏う戦士は、敵の死角に興味を示さない。むしろがら空きになった竜の背中へと一直線に迫る。

 これに対し、紅竜は巨体を無理に捻るとファイヤーボールをばら撒いた。

 十数発に及ぶ火球が戦士に命中。

 しかし、戦士は止まらない。

 全ての攻撃は反射するように弾かれ、十アードも離れてから炸裂した。

 いよいよ強く輝くカール。

 再び衝突。

 三十アードも後方へ弾き飛ばされるワイバーン。

 一方、今回カールは全く押し返されていない。

 紅竜の隻眼がぎらりと輝く。

 神速の鞭が風を切る。

 赤熱する先端が唸りを上げ、青髪の戦士へと襲いかかる。

 戦士は構わず前進した。

 紅竜が断続的な咆哮をあげる。しかしそれはこれまでと違い、困惑の鳴き声のようにさえ聞こえた。

 尻尾を大きく振り回すと、先端を戦士の背中に突き立てる。

 高い音が余韻を引く。

 あろうことか、赤熱する先端が尻尾から千切れて飛んだ。

 金色の槍さえ破壊してみせた竜の武器が、今のカールにはまるで通用しないのだ。

 紅竜は巨体を旋回させる。

 小刻みな雄叫びを繰り返すと、急降下し始めた。

 すぐには追わず、カールは目を閉じる。

 すぐにまた目を開く。すると、自身を中心として三角形の魔法陣が顕現した。一辺八アードはあろうか、ワイバーンの全長をも上回る大きさだ。

 三角形が回転すると、各々の頂点から黄色い光が弾け出す。

 一つ息を吐く。ようやく、紅竜を追って降下を開始。

 追う速度、稲妻のごとし。

 振り向きもせず逃げる紅竜。

 雄叫び一つ上げることもなく——

 背に追いついたカールは、そのまま敵の身体を突き抜けた。

 己の腹を突き破られたことに気付くことができたのかどうか。

 こちらを振り向いたカールと対面し、紅竜は隻眼と嘴を大きく開けた。

 轟音が鳴り響く。

 ワイバーンの全身が、粉々になって弾け飛んだ。


「…………」

 勝利の余韻になど浸る暇はない。

「なんだ、あの巨人どもはっ」

 地上の異様な光景に戸惑ったものの、それでもいったん頬が緩む。

「ギムレイ。——パーミラ! 陛下も。よかった」

 次いで、炎を纏う巨人たちを軽々と薙ぎ倒していく金髪少年に目を留めた。

「す、すげえ」

 そう呟くカールは、今しがた自身が成した戦果のことなどまるで頭になかった。

 サーマツ軍にあそこまで強い兵士がいたのだろうか。そう訝りつつも、カールは援護すべく降下しはじめる。

 肩で息をする戦士が見下ろす視界の中、地上へと降り注ぐ肉片が赤く染まった。日没まぎわの日射しである。

 そこで降下をやめ、王城へと目を向けた。

「ローラっ」

 まだ救出すべき人が残っている。タイムリミットが迫っていた。

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