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緑の髪の少女

 毛むくじゃらの巨漢は肩を震わせているように見えた。ゆるめた右手の上でぐったりしているのは、身長わずか三〇セードのフェアリー。

 つい今しがた、彼女を握り潰しかねないほどの力を込めていたというのに、苦しげな呻き声を漏らしているのはその巨漢である。

「ごくろう、ウォーガ。失礼、そのフェアリーからは名前で呼ばれていたね。確か、ギムレイくんだったかな」

 話しかける声は明らかに成人した男のものだが、奇抜ないでたちをしている。背は一四〇セードあるかないか。ドワーフのように見えなくもないが、彼らほどがっしりしておらず、薄い髭と細い顎を見る限り人間の大人に違いあるまい。

 彼は赤いズボンを履き、裾をぎざぎざに切り落とした白黒まだらの上着を羽織っている。靴の爪先は必要以上に長く、反り返っていた。この暑い中フードを被り、頬に落書きのような渦巻きが描かれているのは刺青によるものか。

 宮廷道化師の格好だ。もともとは王族のための娯楽として滑稽な言動で笑いを振りまく役目の者。最近、庶民向けに僅かな入場料でサーカスを披露する一座が大陸中で人気を高めているが、各国の宮廷道化師たちも興行に参加するようになったという。娯楽に飢える王たちは、道化師に無礼な言動を許す一方で、飽きれば即座に解雇してしまうのだ。

「たぶん気付いてると思うが、俺はもと宮廷道化師さ。今となってはサーカスのピエロだがな。そこそこ知名度の上がってきた一座だが、客を呼ぶには目玉がいるんだよ」

 自嘲気味に溜息を吐き、無駄話を続ける。

「他の一座が猛獣の数を増やしたり奇術師の実力を磨いたりして、サーカスの業界も競争が激化しててな。いろいろ試行錯誤してるのさ」

 ギムレイの呻き声が途切れがちになった。小男は「そろそろかな」と呟き、彼の正面へと近付いた。

「以前から、人間の町に飛んでくるフェアリーがたびたび目撃されていたのでな、そこの家のジジイに世間話を装って聞いてみたのさ。可愛いければ可愛いほど客寄せに効果的だからな」

 ろくに動けないギムレイに棒切れを押し当て、抵抗のそぶりを見せるかどうか慎重に確認する。

 暫く確認を繰り返した後、彼の手から奪うようにマミナをつまみ上げた。

「ジジイの言葉だから話半分に聞いていたんだが、想像以上の上玉だ。このルックスなら大陸中どこ行っても客が集まるってもんだぜ」

 第一声こそ貴族の真似でもするような話し方だったが、下品な地がどんどん透けてきている。

「かえ……せ」

 眼にするどい光を宿し、ギムレイが唸った。それを受け、道化師は大仰に手を広げてみせる。

「こいつは驚いた。仙麻草の煙を大量に嗅がせたというのに、まだ動けるのか」

 仙麻草は麻薬として出回ることもあるが、元はと言えば一部の医者が手術用の麻酔として使い出した薬草である。

「君とこのフェアリーが話をしているって噂も、少し前から聞いていたのでね。知能を持つ君なら、催眠術にもかかるだろうと思ったわけさ。しかし、用意した仙麻草を使い切るとは想像以上だったよ、ギムレイくん」

 道化師に詰め寄らんと膝を進めるギムレイだったが、すぐ地面に手をつくと四つん這いの姿勢で止まってしまう。

「凄い精神力だ、恐れ入る。でも、まだ催眠術の効果が残ってるだろ。いま君の手にフェアリーを渡したら、握り潰さずにいられないぜ。私が合図するまでは」

 悔しげな唸り声。しかし、力がこもっていない。

「まあ、安心したまえ。一座の団長は私と違って人がいいのだ。働きさえすれば、この子はきちんと餌を貰えるよ」

「ふざ……ける、な」

「おー、怖い怖い。そんじゃまあ、最後の命令な。三つ数えたら、俺のことは忘れて眠るんだ。三、二、一」

 道化師は一つ手を叩いた。

 ギムレイの世界が暗転した。


* * * * *


「う…………」

 青髪の少年が目を開けた。いま自分が置かれている状況が理解できない。そんな不安と疑問を瞳に宿し、身を起こすと同時に周囲を見回す。

 青々と茂る葉。少し揺れるのは、枝の上に乗っているからだと気付く。

「なんで木の上で寝てるんだ、俺は」

 まどろみつつ、小枝を一本かじる。

「凄い。なんだこの栄養は。頭がハッキリしてきたぞ」

 もう一本かじると、声が聞こえた。

「風の民の若者よ」

 老人の声だ。慌てて身体ごと捻り、前後に視線を巡らせる。

「だ、誰だ!」

「目が覚めたかな? どこにも怪我はしておらぬようだが」

 そう言われ、彼は自分の身体を確かめる。

「いた……くない? 俺は随分高いところで気を失ったはずなのに」

 目を閉じて記憶を辿るが、思い出せたのは遥かな高空で感じた圧倒的な気配のみ。そこで会話、ではなく一方的に声をかけられた気がするのだが、夢か現実かよくわからない。

 少なくとも、今声をかけてくれている老人とは異なる雰囲気だった。ひとまず気絶する直前のことは頭の隅に追いやり、彼は声の主を求めて再び訊ねる。

「どなたですか。俺を助けてくれたんですか」

「わしは何も。お主は風の民の中でも特に風に好かれておるようだな。お主をここまで運んでくれた風に感謝することだ」

「そう……ですか」

 彼は枝の上に立ち、両手を空に向ける。

「我らが守り神よ。我が血肉をなす風よ。今ここに感謝を捧げん」

 少年の全身が一瞬淡い青色に光り、次の瞬間光は風に運ばれ上空へと霧散する。

「うむ。いつ見ても美しい光だ」

「いつ見ても? あなたは一体——」

 少年は口を噤み、目を見開いた。

「もしや、森の民のご長老では」

 枝から飛び降り、根元に片膝を付いた姿勢で、彼は今まで乗っていた大木を確認する。

「も、もしかしてエルフ族のグリズ様では! 知らぬこととは言え、とんだ失礼を」

 ユグドール山脈の東部北寄りに位置するユージュ山。そこに住む森の民の長老グリズのことはグライド族の長老も知っていた。人間の倍ほどの平均寿命を誇るエルフ族の中でも最高に長命で、現在のグリズは人に似た容姿でなく、一本の大木となって暮らしている。日頃から余所の土地に興味を持っていたカールは、風の噂に御歳おんとし二五〇歳と聞いていた。

 ふと、直前の行動を思い返したカール。見る見る血の気が引いて行く。

「あああああ、なんてことだ。お体の一部をかじってしまいました。お、お許しを」

「ふぉっふぉっふぉ。いかにも、わしがグリズだ。小枝の一本や二本、痛くもかゆくもない。お主の栄養となって、わしとしても嬉しいぞ」

 聞く者に安心を与える、深みのある声だ。

「風がお主をここに運んだのも、恐らく何かの思し召し。よければしばらく滞在なさるが良かろう。お主の名は?」

 顔をあげ、グリズを見上げると胸に手を当て改めて一礼した。

「お心遣い感謝します。私はカール。カール・セイブ。ご明察の通り、グライド族です。……はぐれ者ですが」

「ふぉふぉ。お主、人間的な礼儀が板についておるな。サルーサ山での暮らしぶりが偲ばれるわ」

 その言葉に、カールは頭を掻いた。

「お恥ずかしい限り。しかし地図によると、サルーサ山からユージュ山まではおよそ五〇〇〇ディード。俺のスピードをもってしても二〇時間はかかる」

 後半の呟きは独り言であり、一人称も『俺』に戻っている。

「ほほう。お主、地図が読めるか。想像以上に人間と交流しておるようだな」

「はい。……グリズ様は、魔族と人間は交流すべきではないと?」

 返事のかわりに大声で笑われ、枝が揺れた。面食らったカールは怪訝な顔で見上げる。枝の揺れが落ち着くと、笑いを含む声で告げられた。

「いや、むしろ推奨しておる。大いに結構」

「はあ」

 笑われた理由がわからず、曖昧に頷いた。

「ところで、今の時間は——」

 言いながら、彼は太陽の位置を確認する。昼と夕方の中間だ。今から飛んでいくと、たとえ不眠不休でも到着は明日の昼近くになる。

「参ったな。マミナのやつ、口きいてくれないかも。そもそも、俺はどの位風に運ばれていたんだろう」

 ぶつぶつと呟く彼に、グリズは優しく諭すように声をかけた。

「お仲間には後で事情を説明するが良かろう。たとえ怪我がなくとも、とんでもない長距離を風に運ばれてきた直後だ。ろくにもてなしもできぬが、ゆっくり体を休めていかれるがよい」

 カールはほんの束の間、思案顔をして見せた。直後、笑顔で答える。

「ありがとうございます。そうですね、喜んでお言葉に甘えます」

「ふぉっふぉ。ところで——」

 間が空いた。カールが訝しげに顔を上げると、やや重々しい口調で告げられる。

「しばらくわしらの結界の外には出ない方が良い。アーカンドル王国の方々にも知らせねばならぬが、生憎われらの仲間エマーユはそちらにおる。他の者は結界の強化で手が空かぬ。いま手隙なのはパーミラだけだ」

「パーミラ……。誰です?」

「間もなく一七になる我らの仲間だよ」

 カールが持つ魔族としての感覚は、森の周囲を覆う魔力結界が強化されていく様子を捉えていた。臨戦態勢。そう呼ぶに足る魔力の流れに緊張が高まる。しかし、族長である大木が纏う雰囲気は穏やかなままだ。

「なにかあったんですか?」

 この緊張感は自分の誤解か——。そう思って気軽に訊くと、グリズも気軽に答えた。

「奴の鳴き声を耳にするのは、およそ一〇〇年ぶりか。ワイバーンが目覚めたようだ」

「————!」

 カールは目を見開いた。

 ワイバーン。

 それは知能の低い翼竜である。伝説のドラゴンよりも体長は短いとされているが、大きな個体だと、その全長は人間の成人男性の身長五人分にも達する。きわめて凶暴な性格で、敵味方を区別せずに襲いかかる。

 鋭利な爪と嘴は言うに及ばず、鋭く尖った尾も恐るべき武器だ。個体によっては尾に猛毒を持つものもいる。

 ワイバーンの体色は様々だが、赤い体のレッドワイバーンが最も凶暴であり、口から火炎息ファイヤーブレスを吐く。

 それはあの本——バレリーから貰った写本『白き竜の伝説』——にも書かれていた。

「悪しき竜の大群、人々を喰らう。人と魔物、手を取り合いてこれに抗う。白き竜の加護の下、大いなる力を得て」

 一節を暗誦すると、グリズは感心したように言う。

「ほう。吟遊詩人の歌を聴いたのかね」

「いえ、残念ながら吟遊詩人に会ったことはありません。本で読みました」

「これは驚いた。我ら以外にも人間の文字を学ぶ魔族がいたか」

 その声には嬉しそうな響きが含まれていた。

「お主も気付いたからこそ、その一節を思い出したのだろう。……左様、悪しき竜の大群とはワイバーンどものことだ。魔族も人間も集落ごと焼かれ、大勢喰われた。そこで魔族と人間の連合軍が結成されたが、ワイバーンには歯が立たず壊滅寸前まで追い込まれた 。全て史実だ」

 当時を偲ぶ言葉は、グリズ自身も戦士として連合軍に参加した証であろう。

「我らの危機に、白き竜が力を貸してくれてな。それでも全てのワイバーンを撃破するには魔力も武器も足りなかった。我らはなんとかワイバーンを気絶させ、卵の状態にして封印した。白き竜ご自身が戦いに参加することはできぬのでな」

 白き竜の正体は、おそらく五聖竜の一柱であろう。

 ——かつてこの世界に存在したという伝説の五聖竜。再びこの世で力を使うとき、壊滅的な天変地異を伴う。

 カールは暗誦するようにそう呟き、「別の本で読んだ覚えがあります」と締めくくった。

 それに対し、グリズは「勉強熱心な若者だ」と嬉しそうに返すが、続く言葉には苦い響きがこもった。

「強力な封印だ。魔力は残り僅かだったが、複数の魔族とマジックアイテムによって厳重に重ね掛けしたのだからな。それを、どこかの愚か者が破りおった。見当はついておるが」

 カールは勢い良く立ち上がった。

「正気の沙汰とは思えない!」

 今の今まで会話を続けてきたものの、族長があまりに穏やかなので『ワイバーン』というのは何かの比喩ではないのか、と疑い始めていたのだ。ところが、他ならぬ族長自身の言葉で、比喩ではないことがはっきりとわかった。

「こうしてはいられない。サルーサ山に戻ってみんなに伝えないと」

「ふむ、それもそうじゃの。ではカール。お主に天翔の鎧を授けよう。その代わり——」

 グリズは自分の根を一つ、土を割って露出させた。根と共に長細い箱も姿を見せる。

「少し寄り道をして、われらの仲間パーミラをアーカンドル王国の城まで連れて行って欲しい」

 カールは箱を開けた。そこには白銀に輝く兜と胸当ての他、籠手やブーツなどで構成された、いわゆる軽量防具一式が入っていた。

「これはかの白き竜が我らに与えたもうた鱗。それを素材に作った鎧だ。お主のように空を飛べる者にとって、心強い防具となるだろう。ずっと保管してきたが、ようやく日の目を見る時が来た」

「こ……こんな貴重な物、余所者の俺なんかが! しかも、戦士でもないのに、受け取ることはできません!」

 青髪の少年は頑なに断った。曰く、この格好ではまるで兵士にでもなったようで落ち着かない。自分は人間に興味があるが、戦いには全く興味がない、と。

 しかし、大木は穏やかに笑って応じた。

「ふぉっふぉっふぉ。若者が遠慮するものではない。お主だからこそ託すのだ。飛べぬ者が身につけてもそこらの革鎧と変わらぬ防具に過ぎんが、飛べる者にとっては速度増加効果が得られる。サルーサ山への帰路を短縮できるぞ」

 少し思案した後、カールは丁寧に礼を述べて鎧を受け取った。

「では、そのパーミラさんとやらをアーカンドル城にお連れして、そのまま一旦サルーサへ戻ります。鎧は後日返しに来ますので」

「それはもうお主のもの。返さんで良い。もっとも、お主とはゆっくりと話をしたい。鎧を返すという口実でもなければ二度と立ち寄らぬというのなら、返しに来るが良い」

 カールはようやく笑顔を浮かべた。

「はい、近いうちに必ず。それで、パーミラさんはどちらに」

「はい。私がパーミラです」

 彼の問いに答えたのは落ち着いた少女の声だった。太い幹の影から、身長一五〇セード台半ばのエルフが姿を現す。形良い卵形の輪郭を持つ顔に、控えめにはにかんだ笑顔を浮かべている。明るい黄緑の髪はショートに切りそろえている。気持ち垂れ目ぎみながら、緑の瞳は瑞々しく輝いていた。

 種族共通の特徴である尖った耳、スリムな体躯。もっとも、長身痩躯のカールと並ぶと、微かに丸みを帯びた印象だ。

 着衣はセパレートタイプだった。袖なしのトップスは丈が短く、臍を隠していない。股のすぐ下でカットされたボトムスからは脚がほとんど露出している。

「か、かわいい……。エルフ族ってみんなスレンダーだって聞いてたけど、微かな丸みがあると女の子の魅力がぐっと引き立つってもんだ」

「ふぉふぉふぉ。考えておることが全て言葉になってだだ漏れしておるぞ、少年」

「うわ、すみません。根が正直なものでっ」

 パーミラは顔を赤らめて俯いてしまった。

 つい視線を吸い寄せられてしまうカールではあったが、軽く頭を振るとグリズに告げた。

「ではグリズ様、後日必ずまた立ち寄ります。失礼を承知でご挨拶は省略して、一度サルーサ山に戻ります」

「うむ。気をつけてな」

 パーミラに向き直り、話しかける。

「早速行くけど、空を飛ぶのは怖くない?」

「はい、セイブさん。多分……、大丈夫です」

「カールでいい。敬語も必要ない。俺はグライド族のはぐれ者だよ」

 パーミラの真っ赤な頬を視界に入れた後、彼は軽く目を逸らして頬を掻いた。

「きゃ」

 お姫様抱っこされ、少女は小さく声を上げた。

「首に手を回してくれ。飛ぶぞ」

「カール、しばし待たれよ」

 パーミラを抱いたまま振り返る。

「今決めた。わしもグライド族の長を見倣うぞ。可愛い子には旅を、だ」

「え? あのあの、長、一体何を」

 慌てるパーミラに対し、グリズは厳かに告げた。

「パーミラよ。今からお主はカールと行動を共にし、南国の暮らしを見聞して来るのだ。そして彼と一緒にここへ戻って来い。……どうかな、カール。不服があれば遠慮なく申すが良い」

「むしろ大歓迎ですよ。お預かりする以上、全力でお守りします」

「うむ、お主らが戻るのを楽しみに待っておるぞ。道中気をつけてな」

 さらに赤くなったパーミラの顔から湯気が立ち昇ったかのように見えたのは、カールの錯覚だろうか。

「カール……、あたし重くない?」

「うう。重いなあ」

「ええっ!?」

 慌てるパーミラに、歯を見せて笑った。

「嘘。ぜーんぜん」

「もうっ」

「いい感じに緊張が抜けたね。そうしてくれてた方が運びやすいよ。君はたしかに軽いけど、全く重さを感じないんだ。多分、この鎧の効果だな。凄いよ、これ」

 彼女を抱いたまま、カールの身体が浮き上がる。

 正面から流れてくる風が左右に分かれる。穏やかな道ができたような感覚。

「これは……気持ちいいな。随分空を飛んできたが、こんな感覚は初めてだ」

 なんだかいくらでも早く飛べそうな感覚があった。しかし風の民とそれ以外の種族とでは、風圧への耐性が違う。スピードをセーブしてしばらく飛んでいると、彼女が告げた。

「風圧のことなら心配無用よ。あたし達エルフは結界魔法が使えるもの」

 遠慮なく加速していくと、それからものの数分でアーカンドル城に着いてしまった。

「ありがとう、カール。エマーユにも紹介したいけど、時間あるかしら?」

「その名前の響き、その人も女性か。今はやめておくよ。せっかく会ったところでゆっくり話してる時間はないからな」

 国王への謁見を済ませ、再び城外に出るまでの所要時間は三〇分だという。

「つまり、パーミラがここに来ることは予め知らせてあったってこと?」

「ええ。ただ、今のエルフ族で人間の文字を読み書きできるのは、長とエマーユだけなの。長の身体は今は大木だから、文字を書けないし。エマーユがいないと手紙を書けないので、『今から遣いを寄越す』という合図を送るだけ。細かい内容はこうして誰かが口頭で伝えることになるの」

 にこやかに手を振るパーミラと城門前で一旦別れ、彼は付近の散策を始めた。と言っても、誰かに話しかけるほどの時間はない。

 手持ち無沙汰の面持ちで振り向くと、アーカンドル城の衛兵がパーミラに敬礼し、城内へと案内していくところだった。

「すげえ、衛兵が頭下げるのかよ! パーミラって何者?」

 彼女が戻ってくるまでの間、アーカンドル王家とパーミラの関係を想像することで十分に時間潰しができた。

「サルーサ山までかっ飛ばすぜ。しっかり結界張っててくれよな」

 再び彼女を抱き上げたカールは、白銀の光と化して南を目指した。


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