マントと魔女?
勇者、魔女を見つける。
この連載は大体勇者と少女視点半々になる予定。でも主人公は少女なのよ。
うぎゅーやらグキキと騒々しい鳴き声が聞こえてくる森の中、俺はひたすら東に向かって歩いていた。
鬱蒼とした森の中は太陽の光は通してはいないが、ほのかに発光する苔や植物のおかげで明かりには困らなかった。はたしてこの発光している存在は、なんという名前なのだろうか。それなりに多くの国を旅して来た俺でも、見た事はなかった。この森にのみ生息している種なのだろうか?少しだけ足を止めてじっと発光するそれらを見つめれば、植物と植物の間からひょっこりと、小さな体の見知った種族が現れた。…大地の精だ。
「なぁ、大地の精。この植物達の名前を知ってるか?」
俺が尋ねれば、アーモンド色の大地の精はその小さな黒い目に悪戯な光を走らせ、首を傾げた。どうやら教えてくれる気はないらしい。なら仕方ないかと足を動かそうとすれば、動ききる前にブワリと俺の髪と青のマントが風に煽られ舞った。ちらりと目の端に一瞬捉えたものは、薄水色の風の精。どうやら今日は悪戯をしたい日らしい。
襲ってくる魔物をあしらいつつも、しばらく歩いていれば、よく見える俺の目は遠い木々の向こうに建っている、一軒の木造建築を捉えた。そしてその光景に違和感を覚えながらも近づいていった。
段々と大きくなっていく魔女の家(仮)の周りにある花壇にはやはり、控えめな、しかし可愛らしい白や黄色といった淡い色の小さな花が植えられていた。今まで見て来た魔王側の支部のどの家よりも綺麗で深みのある素朴さを持って森に馴染んでいた。
ふと、扉の前に立ってみた。そっと扉を撫で付ければこの森の中にあるにしては滑らかな肌触りだった。魔術が掛けられているのだろうが、"視る"限りかなり昔に掛けた魔術のようだった。余程掛けた人物の腕が良かったのだろう。
扉には黒地に白で『息抜き中』と書かれた看板が吊るされている。
さて、どうしたものかと腕を組んで悩んだ。どこをどう見てもおどろおどろしさのない普通の建物だ。きっと町中に建ててあっても違和感を感じない。本当に魔女がいるのだろうかと悩み、ついでに息抜き中とはどういう意味なのか、魔女を息抜きしているのか、はたまた魔女にとっての「息抜き」と言う言葉は違う意味を持っているのだろうか、方言みたいに。などと少しズレたことを考えた。
まぁ、とりあえず扉を開けてから考えよう。分からない事は考えても仕方ない。こういうことは自分の役目ではないのだ。青年は考える事を放置した。脳裏にピロリン、という音と共に『称号「楽観主義者」 スキル「おきらく道中」』という文章が浮かんだのは、俺だけの秘密にしよう。意を決し、扉を開いた。そして中に居たのは。
「いらっしゃいませ」
普通の女の子でした。