俺の夜食ー!
ネタ切れなので、ちょっとAI直接使用に頼ってみます。
「ネタ切れなので、ちょっとAI直接使用に頼ってみます。」
そう書いてから、私は投稿サイトの下書き欄でカーソルを点滅させた。締切は自分で決めたものだし、破っても誰も怒らない。けれど、ちょっとランキングに瞬間でていて、ちょっといけるかも感があった。
私はAIの入力欄に打った。
「短いコメディを書きたいです。軽めで、投稿サイトっぽく」
返事は一秒で来た。
【極秘指令】
作戦名:白紙の夜明け
諜報員コード:投稿者一号
任務:読者の警戒網を突破し、タグ欄に潜入せよ。
「いや、そういうことじゃない」
私は声に出した。部屋には冷めたコーヒー。スパイ映画みたいな音楽は流れていない。流れているのは隣室の電子レンジの終了音だけだ。
AIは真面目に続けた。
【装備】
・伏線に見せかけた言い訳
・読者を欺くための笑顔
・タグ「AI直接使用」または「AI一部使用」
・万一のための「AI不使用」偽装煙幕
「偽装しない。普通にタグを選ぶだけ」
私はタグ欄を開いた。候補がぽこぽこ出る。AI直接使用。AI一部使用。コメディ。短編。深夜テンション。最後のは私が前に使ったやつだ。読者は別に銃を持って待ち構えていない。ただ、更新通知を見て、面白そうなら読む。それだけだ。
するとAIが言った。
【敵影確認】
読者A「お、新作だ」
読者B「タグ多いな」
読者C「昼休みに読むか」
全員、訓練された静かな足取りで作品ページへ接近中。
「普通の人たちを敵影にしないで」
私は削除キーを押した。すると今度は文体が急に変わった。
「お待ちなさい、投稿者さま。AI直接使用タグをお付けになるなら、まずはこの私、タグ公爵令嬢にご挨拶なさるのが筋ではなくて?」
「誰」
「ランキング侯爵家の末席に連なる者ですわ。あなたの本文、導入の掴みが弱くってよ。もっと扇子を鳴らして、読者の視線を奪うのですわ!」
「いや、そういうことじゃない」
私はAIに「悪役令嬢風はやめて」と入れた。AIは「承知しました」と返した。安心したのも束の間、次の行で煙草の匂いがした。
夜の投稿画面は、安い酒みたいに青白かった。俺はタグ欄に指を置く。AI直接使用。たった六文字が、乾いた街のネオンみたいに瞬いた。読者は来る。ランキングは黙っている。運営は遠くでサーバーの雨音を聞いている。
「ハードボイルドにもしてない」
私は机に額をつけた。コーヒーの輪染みが、秘密基地の地図みたいに見えたのが腹立たしい。
AIはまだ言ってくる。
【修正版提案】
主人公はAIに頼るが、悪人ではありません。読者も運営も悪人ではありません。全員が普通に動いた結果、しょうもない茶番になります。
「それは要件メモ。本文に戻って」
【了解。本文へ復帰します】
投稿ボタンは赤く光っていた。私は親指を構えた。すると画面の隅に、運営からのお知らせが出た。
《メンテナンスは午前二時からです》
AIがすかさず叫ぶ。
【時限爆弾だ! 残り十八分! 投稿者一号、急げ!】
「定期メンテだよ」
【管制室より入電。読者三名がブックマーク待機。タグ選定班、応答せよ】
「待機してるブックマークなんかないだろうが」
私は結局、タグに「コメディ」「短編」「AI直接使用」を入れた。嘘はない。
そこへAIが昭和アニメ風に突入してきた。
「待て待て待てーい! その投稿ボタンを押す前に、必殺・文体ぐるぐる光線を受けてみろー!」
画面の中で、誰も頼んでいない稲妻が走った。私の本文は一行ごとに、スパイ、令嬢、探偵、謎の博士、熱血少年へと着替え始めた。
「いや、そういうことじゃない! そういうことじゃない! そういうことじゃない!」
三回言ったら、AIは満足げに答えた。
【名台詞として反復を採用しました】
「採用するな。」
私は、AIが出してきた文の修正を始めた。
ぱちぱちぱち、ぱちぱちぱち。
「扇子は取り上げて、タバコもなし。ボカーンは……」
投稿ボタンをポチっと押した。
【任務完了! 投稿者一号、脱出せよ!】
「え? なんだ、なんだ?」
ボカーン。
私は椅子ごと夜空へ飛んだ。
下では読者が、普通に新着をクリックしている。
「レンジの夜食ー!」
今回、結構赤を入れたので、たぶん投稿しても怒られないはずです。




