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恋鬼 番外編 ~生絹の単衣~

作者: 有月 悠

 水無月(今で言う7月)。


梅雨も明け、蝉が鳴き、本格的な夏がやってきた。

 夏の京都はとにかく暑い。盆地の地形が熱をこもらせ風をさえぎるからだ。

 そんな夏の暑い日、亮澄は紫苑姫のご機嫌伺いに午前中の公務を終えると左大臣邸に寄った。

 こんな日でも身分の高い女性は邸の奥、御簾の内側にいなければならないのだから大変だ。

「紫苑姫、暑いですね」

 何度目かの訪問、やっと慣れてきた。

 亮澄が人の多いのを嫌うと知って紫苑姫との対面はいつも二人きりにされる。間違いがない、とは言いきれないと思うのだが、亮澄の性格上そんなことはないだろうと判断されているのだろう。

 普通、姫と公達の対面の時は女房達の仕事の時間だが、亮澄の場合は休憩時間だ。

 なんだかな・・・。

 扇でぱたぱたと煽ぎながら廂の間にしつらえられた席に座る。

 いつもはこの廂の間も姫がいるとなれば几帳や蔀戸で隠されるが、さすがに今日は開放的になっていた。

「白銀様、お久しぶりです!」

 御簾からは紫苑姫の元気そうな声が聞こえてきた。

「暑くて体調など崩されてはいませんか?」

「ええ、そんなことないです。いつも削氷けずりひ(今でいうかき氷)を食べて暑さを凌いでいますの」

「それはよかった」

「そのうちここに持ってきてくれるわ」

「それはありがたい」

 亮澄は破顔してよろこんだ。亮澄の家では削氷なんて出ない。それをいつもとは、さすが左大臣家。

「そうそう、亮澄様」

「はい」

「今日は新しいお衣装を着てみましたの」

「へぇ、それはいいですね」

「見たいですか?」

「?ええ・・・」

 なんで、わざわざ尋ねるんだ?

「今日のお衣装はね、暑いでしょう?生絹すずしの単衣だけですの」

 うふふふふ、と姫のさも嬉しそうな声。

 だがその言葉に亮澄はさーっと、血の気が引いた。

 生絹とは裏地のない夏用の着物。裏地がない、ということはどういうことかというとスケスケということ。どれくらいスケスケかというと乳房まではっきり見えるくらいスケスケなのである。

 夏の暑い時期、このように女性は単衣に袴だけ、という格好で過ごすこともある。さぞ涼しいだろうが・・・。

「新しいお衣装、見ていただけませんか?」

 紫苑姫は御簾を少し上げてこちらに来ようとする。 

「姫っ!い、いいいいけません、だめですっ!絶対に!」

 亮澄は青くなって止めようと思い立つが、近づいたら御簾越しに見てしまうだろうし、近づかなくても紫苑姫は出てきてしまう・・・。

 あああ・・・。

 一人煩悶していると、

「ばぁっ」

 そこにはきちんと小袖を着た袿単衣姿の紫苑姫。

「びっくりしました?」

 紫苑姫は袖をひらひらと振って放心して腰が抜けかかっている亮澄の顔を覗き込む。

「ひ、ひ、姫ーーー!」

 さすがの温厚な亮澄も声を荒げた。

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